第14回全国高等学校情報教育研究会全国大会(大阪大会)

情報教育のこれまでとこれから

京都精華大学教授/大阪芸術大学客員教授

文部科学省初等中等教育局視学委員

鹿野利春先生

 

「モノ」から「コト」へ、そして「コトの価値」の追求へ

ご本人提供
ご本人提供

昨日、そして本日と皆さんの発表を聞かせていただいて、今までいろいろやってきたんだなということと、これから大変だなという、感想を持ちました。田﨑先生、これからどうぞよろしくお願いいたします。

 

今の気持ちを1枚のスライドにしたものがこちらです。小学生の作文のようですが、今の素直な気持ちはこんなところです。

 

 

「これまでとこれから」ということですが、高校に情報科がなかった時代は、割と変化がゆっくりしていました。それが「情報A・B・C」ができた頃には変化が激しい時代に突入して、現在の「情報の科学」「社会と情報」になってからは、さらに変化が激しくなっています。

 

 

情報科がなかった頃は、インターネットも普及しておらず、「モノ」がメインでした。情報科ができたあたりから、インターネットが一般に普及して、「モノ」から「コト」へと言われるようになりました。そして「情報Ⅰ」に向けて、いよいよ変化の予測がつかない時代に入っていきます。このことは中教審等でも言われています。

 

昔のコンピュータは計算機でした。現在はコミュニケーションツールで、これからはクリエイティブツールになります。そして、インターネットの普及で、全てがクラウドに載るという状況になります。今は「モノ」から「コト」へですが、「コトの価値」の追及はこれからだろうと思います。私が今、お話ししていること、そしてこれからお話しすることは、一私立大学の教授が思っていることで、文部科学省とは関係がないということをお断りさせていただきます。

 

これからの時代で求められる力と情報科の学び

これからの時代に必要な能力は、学習指導要領の資質・能力で整理されていますが、日本経済団体連合会などでは、二つのソウゾウ力(想像力・創造力)だと言われています。

 


 

問題の発見→課題の設定→課題の解決→問題の解決という流れの中で、問題を発見していくために全体を見渡して考えると、リベラルアーツという広範な知識や、社会的背景、文化的背景がなければ、問題は発見できません。見えてきません。3月までは情報科の教科調査官でしたから、「情報」の中で話をしなければなりませんでしたが、これは現在の立場だからお話しできることです。

 

 

そして抽象化・構造化・モデル化といった「論理のデザイン」がなければ、問題の発見もできなければ、発見した問題から課題を設定することもできません。さらに、課題を設定して解決するときには、「表現のデザイン」や「プログラミング」「データ活用」といったものが生きてきます。

 

文部科学省ではよく「情報モラル」と言いますが、世界全体を見渡すと、「デジタルシティズンシップ」という新しい考え方も入ってきておりますので、ぜひこの部分もご覧いただければと思います。

 

そして、問題の解決は人間中心の方向に向かうわけですが、ここには「機能のデザイン」が当然入って来ます。さらに,問題の発見・解決というのは、情報科の中にだけ収まるものではなく、学校全体の科目の総力を挙げてやっていくことが必要です。ですから「総合的な探究」の時間も関わってくるわけです。「総合的な探究」では,STEAM(Science,Technology,Engineering,Arts,Mathematics)も探究を進める大きな方向性になると思います。

 

「情報デザイン」「プログラミング」「統計に関連した学び」は、学習指導要領では、小学校・中学校・高校の「情報Ⅰ」・「情報Ⅱ」で、いつ・何を・どのようにということが示されています。

 

ですから、今後はこれまで懸念されてきたように、いろいろな校種や授業で同じようなことをやっているのではないか、というようなことはなくなり、それぞれの段階で目標とするところをしっかりやっていきましょう、ということになります。

 

 

大学入学共通テスト導入の影響は…

高大接続については、先日文部科学省から令和7年度の大学入学共通テストの実施大綱の予告が出て、情報科は「情報Ⅰ」で、客観式の試験を行うとされました。これで受験生50万人に一斉に実施することが可能になります。

 

国立大学協会は、現在共通テストを「情報I」を含めた6教科8科目にするかどうかを審議中で、その後は各大学の理事会も含めて、共通テストの扱いと個別入試の検討をすることになります。さらに今後は私立大学の対応や大学のカリキュラムの変更が、進んでいくことになるでしょう。

 

 

そして高校の教育課程の編成については、国立大学協会の審議の経過によっては、それに対応する形に修正する、ということになるかもしれません。

 

入試について、今は国立大学協会がクローズアップされていますが、今後は大学の理事会や経営陣の理解が必要になります。さらに、高校の情報科については、いろいろありますがやはり教師に関することがこれからの課題です。

 

共通テストが6教科8科目になった場合に予想される変化としては、例えば受験指導が必要になりますから、問題集、参考書、動画教材、Web教材などについて、受験産業が一斉に動き始めると思われます。そして、情報科の教員採用、教員研修、資質・能力の向上といったあたりが、さらに加速するでしょう。

 

また数学科との連携、総合的な探究の充実も図られ、年を経るにしたがって「情報Ⅱ」の採用拡大が進んでいくのではないかと思っています。

 

 

中学校では、技術・家庭科の技術分野で「D 情報」が重視され、小学校ではプログラミング、情報の科学的な理解がより重視されていくでしょう。この次の学習指導要領については、情報科を中心とした教科連携になるか、あるいは教科そのものを統合していくような形になることも考えられます。

 

教員の力を高めるために

また、教員研修については、次世代に向けて新しい形の研修が行われていくだろうと思います。まず、オンデマンドタイプの研修コンテンツの充実が必要ですが、これについては、私の方でも作っていこうと思っております。

 

 

また、遠隔双方向の活用も必要です。つい先日、ロボットを宅配便で送って遠隔で研修をするという試みをしてみましたが、非常にうまくいきました。さらに、新学習指導要領に対応した情報科の教育方法に関する書籍は、今まだありません。こちらについては、情報処理学会の所属しておられるような専門性の高い方を中心に作られるだろうと思います。私も情報処理学会とは別に、プロジェクトを進めております。

 

そして皆さんには、「情報Ⅰ」の全分野にわたる授業コンテンツをできるだけ公開してくださるようお願いします。これは今年度行ったものについても、来年度行うものについても結構です。そうすることで、お互いの知見を得ることができますし、アドバイスも得られるでしょう。

 

さらに、「情報Ⅰ」のコンテンツや教員研修を行っている皆様、応援しております。一緒に頑張っていきましょう。

 

 

こちらは産業界からのエールです。「データ駆動型社会における顧客価値創造と組織力向上」の講演動画です。参加すれば何万円もするようなセミナーですが、小中高を含めた教育界に限り、それを一部無料で公開する、という案内を昨日いただきましたので、ここに紹介させていただきます。

 

生徒用教材の新しい形としては、従来のような印刷媒体の問題集だけでなく、やはりウェブ教材のような実習を伴うものも必要になるでしょう。そうすると、例えば、出版社とWebメディアに長けた教材会社が組むといった連携が、今後考えられます。

 


 

部活動への期待

また、教科に紐づいた部活動は、生徒の能力を伸ばすとともに教科の内容を豊かにしています。プログラミングの習熟のために、授業の中だけでなく、個別に取り組む場がほしいところですが、部活動はそれを後押しするということもあります。

 

ただし、教員の負担を増やさない形で、これらの部活動を充実させることが必要です。というわけで、産業界と連携した情報関係部活動の活性化、コンクール等の充実に向けて、経済産業省で有識者会議を組織して議論していきます。ここには予定と書いてありますが、8月末、あるいは9月あたりにプレスリリースが出せると思っております。そして、同時に全ての部活動のDX(デジタルトランスフォーメーション)も必要になるのではないかと考えています。

 

 

例えば、全国高等学校文化連盟に情報専門部を作れば、毎年夏の全国高等学校総合文化祭に全国の生徒が競い、学び合う場ができます。参加した学校は、校舎に垂れ幕が掛かり、指導者は称賛されます。出場した生徒は、入試等でも有利になります。

 

現在、全国高等学校情報教育研究会に加盟しているのは、47都道府県中30都府県です。全国高等学校文化連盟では過半数の都道府県に事務局、すなわち活動実態があるということが伝えられれば、専門部の設立が可能です。経済産業省でも有識者会議を立ち上げて、いろいろなことを通して周知を図っていきますが、いざ実際に作るというときに、皆さんの力をお貸しいただければ、「できればいいな」ではなく、一緒に力合わせて作れるということになります。こちらにつきましては、ぜひ皆様のお力をいただきたいと思います。

 

 

「こうなったらいいな」を「こうなる」へ

これからに向けては、シンプルにあるべき姿の追及をしていきましょう。それは、「本当はこうなったらいいなあ」とか、「子ども達にこんな教材があった方がいいけどなあ」といった、「なあ」とか「難しい」ではなくて、どうやったらそれができるのかということを考え、現実性のある計画で着実に前進していくことです。時間がかかってもかまいません。

 


 

そのとき、世の中の方の理解を得て、産業界、あるいは学校や管理職、教育委員会といったところと協働して進めていくことで、「こうなったらいいな」を、「こうなる」という形に持っていけたとき、新たな社会の実現ということができると思います。

 

例えば、「情報がセンター試験に入ったらいいな」という、「あるべき姿」の実現には、6年、7年という時間がかかりましたが、それは世の中の理解がなければできないことでした。そして協働ということでもって、今ここまで来ました。さらに、ここに大学の方の理解が加われば、入試全体が変わり、社会が変わっていきます。

 

同じように進めることで、部活動については子ども達の活躍する新たな場ができていきます。教材についても、授業についても、「こうなったらいいな」を実現していく形を子ども達に見せることで、子ども達もそういった姿勢になっていくのではないかと思います。

 

我々はいくつになっても、常に青臭いことを言って、そしてモノを変えていくという気持ちを忘れてはいけないと思います。

 

教科調査官を3月に退官しましたので、今日はある私立大学の教授の独り言という形になりましたが、今やっていることは皆さまにもかなり影響することがあるでしょうし、これから一緒にやっていきたいとも思っております。これまでもありがとうございました、そしてこれからもよろしくお願いいたします。

 

最後になりますが、大会運営にあたられた方々、発表をしてくださった皆様、ありがとうございました。私自身も、いろいろ振り返ることができました。お礼申し上げます。

 

 

[質疑応答]

 

Q1.主催者からですが、ご退官された今だからこそ言える、というお話はありますでしょうか。

 

A1.鹿野先生

今だから言える話といいますと、これまでは、「こうなったらいいな」ということは言えませんでした。また、メーカー名も出せませんでした。情報端末については、いろいろ使ってみた結果として、全てがクラウドに向かったので、そういう形であればどれでもいいんじゃないかな、ということは思いました。

 

それから、退官したからできることとしては、今、出版社と一緒に受験用の問題集や情報科教育法に関する出版物を作っております。また、いろいろな企業さんのプログラミングの教材作成にも協力していますし、経済産業省の、いわゆる有識者会議に中心的に関わっていくことも行っています。

 

総務省ではSecHack365(※)という、いわゆるハッカソンのコンテストの実行委員長もさせていただいています。自分の大学では、教員養成課程を今まさに申請中で、それとともに新しい教育を進めています。

  ※https://sechack365.nict.go.jp/

 

このように、文部科学省の中にいると、企業さんとの協力や、他省庁との連携というのはなかなか難しかったのですが、外に出ますとそれが割に自由にできますし、私立大学では、そういったことが許されるというところもあるので、いろいろ取り組んでいます。これは皆さまのためにもなると思いますし、一緒に何かやっていけたら素晴らしいと感じています。「今だからできる」というのはそのような形のことになります。

 

 

Q2.現役の若い教員に、エールと期待することを聞かせてください。

 

A2.鹿野先生

子ども達が先生方を見たとき、頑張っていない先生や勉強してない先生を見て、勉強しようという気持ちにはならないと思います。また、子どもに「夢を持て」と言いますが、先生方ご自身に夢がない、あるいは何か打ち込んでいるものはない状況で、子ども達にだけ言うのは、やはり間違っていると思います。

 

だから、子ども達に「こうなれ」という姿を自分で示すことが大事だろうと。それを示すことによって、「一緒にこうしよう。新しい社会を創ろう」ということが言えるのではないかと思います。

 

私自身、そういう形で次に向けていろいろなことを今始めています。これは教師をしている間はずっと続けていこうと思っています。先ほど、「青臭い話」と言いましたが、青臭いままでいいと思います。我々は教員ですから、それで過ごしていけばよいのだと。

 

そのためには、やらなければならないことがたくさんあって。それをやっていくことが、教員としての資質・能力の向上にもつながるだろうと思います。次の世の中を良くしていこうと思う気持ちがなければいけませんが、物事は気持ちだけでは動きません。それをどうしたらできるのかということを考える。「仕方ない」とか「難しいね」といった言葉を心の中に持っては、物事は動きません。どうしたらできるのかということを考えていく。これは若い人だけではなく、私と同じくらいの年齢の人、あるいは失礼ながら私よりもっと年を重ねた方々にも共有していただきたい気持ちです。ぜひ、ご賛同いただいて、そういう気持ちで過ごしていただけたらと思っています。