New Education Expo2021

今、改めて情報入試導入の経緯と意味を考える

放送大学 辰己丈夫先生

New Education Expo2019シンポジウムより
New Education Expo2019シンポジウムより

私は放送大学に勤めておりますが、放送大学は学部入試がありません。ということは、入試に関していろいろお話しするのに、一番都合のいい大学教員なのではないかと思っております。

 

お話に入る前に、今日ご来場の皆さんの中で高校の先生、あるいは指導主事の方はどのくらいいらっしゃいますか。…半分くらいですね。ということは、残りの半分の方は高校の教育に直接関与していらっしゃらない、大学や、その他教育関係などの方々ですね。それでは、そういう前提でお話を進めていきたいと思います。

 

私は、もともと数学が専門です。大学の学部も修士も数学で、博士で情報学に行きました。今の専門は、情報教育や情報倫理、情報セキュリティといったものです。

 

高大接続を根底から変えるための新学習指導要領「情報I」「情報II」

まず、なぜ大学入試に「情報」が入ることになったのか、ということについて、私が見ている範囲でお話しします。

 

今日、このNew Education Expoの午前中のセミナーでもお話しされた安西祐一郎先生(日本学術振興会顧問、学術情報分析センター所長)が座長で、2015年に始まった「高大接続システム改革会議」というものがありました。

 


なぜ「高大接続改革」でなくて「高大接続システム」なのか、ということを、安西先生はいつも説明されていて、それは「高大接続に関連するシステムは全て変えるぞ、という会議だ」とおっしゃっています。

 

つまり、「高校と大学との間で、入学試験を含めたいろいろなものを全て変えないと、世の中は変わっていかない」ということで、場合によっては、今はまだ実現していませんが、いろいろな制度を取り入れるといったことも含めて全部を変えることを視野に入れた、ピンポイントの改革ではない、ということでした。

 

もちろん、個々に関しては、「急すぎる」「やり過ぎだ」「こことここがまだ調整できていない」といった問題はあると思いますが、大きな流れとして、高大接続はシステムで改革しなければならない、というのは、まさにそのとおりだと思います。その中に出てきたのが、きょうのメインのお話となる、「新しい情報科」です。

 

今日は高校の先生方が半分ほどいらっしゃるので、その方々には再度確認という話になるかもしれませんが、新しい学習指導要領の内容が2016年8月1日に公開されました。小学校ではプログラミングを通していろいろ学びます。中学校はここではスキップして、高校は必履修の「情報Ⅰ」と選択履修の「情報Ⅱ」ができました。高校での実施は2022年度、来年の4月からということで、先生方は今ご準備をされていますね。

 


こちらは「情報I」の学習指導要領の解説です。「情報I」は、「情報と情報技術を問題の発見と解決に活用するための科学的な考え方等を育成する共通必履修科目」とあります。この辺りは、皆さんもよくご存じですので、飛ばして、大事なところで時間をかけたいと思います。

 

 


「情報I」の大きな項目は、「情報社会の問題解決」、「コミュニケーションと情報デザイン」、「コンピュータとプログラミング」、「情報通信ネットワークとデータの活用」ですが、今までの「情報」と大きく違うのが、「プログラミング」が大きく出てきたこと、「データの利用」が入ってきたことです。

 


 

この2つが大きく出てきたことで、従来からの「問題解決」は入っていますが、全体の半分がプログラミングとデータの活用、ということになったというのが極めて大きいです。しかもこれは共通必履修の科目ですから、全ての高校生がこれを学ばなければいけない、ということになるわけです。

 

一方、選択履修の「情報Ⅱ」がこちらです。こちらは発展的な内容で、「情報Ⅰ」で培った基礎の上に、問題の発見・解決に向けて情報システムや多様なデータを活用してコンテンツを創造する、ということになっていますが、これについては、我々大学教員の中での共通認識は、「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」の違いはそんなに大きくはないだろうということです。

 


 

言い換えれば、「情報Ⅰ」でやったことを深めているのが「情報Ⅱ」である、ということで、領域的に大きくはみ出しているというよりはより深いところを扱っているという感じかな、ということです。もちろん、細かく見れば違いはあるかもしれませんが、ざっくり言えばこう言えると思います。

 

現状の情報入試はどうなっているか

今後、この「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」を入試でどう扱っていくか、ということをお話する前に、現状の教科「情報」がどうなっているか、ということをおさらいしておきましょう。

 

こちらは2021年度の情報入試、今年の1月から3月に行われた大学入試で「情報」出題した大学です。

 


 

国立大学で出題したのは高知大学のみです。これも、全員が必ず受験しなければならないのではなく、高知大学のある特定の学部・学科を受験する人が、情報または何か他の教科・科目で選択できる中の一つです。従って、実際に情報を選択した受験生が何人いたのかということは全く分かりませんが、そんなに多くはないのではないかと思います。

 

私立大学の一般入試で「情報」を実施しているは、ここに挙げた10大学です。皆さんから見て、これは大きい大学だと思われるのは慶応義塾大学だと思いますが、慶応義塾大学も全学ではなくて、湘南藤沢キャンパス(SFC)にある2つの学部のみで、しかも「情報」は選択教科の1つです。

 

実は、情報入試の実施大学には大きな変化がありました。最初の情報入試は2006年で、その時は当時私が所属していた東京農工大学も情報入試を行っていましたが、受験者数は本当に少なかったです。そうやって、情報入試はどんどん消えては少し増えて、という状況です。

 

これ以外で「情報」入試の受験機会というと、大学入試センター試験の「情報関係基礎」です。ただし、これを受験するためには、クリアしなければいけない条件があります。

まず、大学によりけりですが、全ての受験生に「情報関係基礎」の受験を認めている大学はほんの少しです。その場合は、「数学Ⅱ・数学B」の代わりに「情報関係基礎」を受験することになります。 


 

多くの大学は、工業、商業、農業のような、専門高校を卒業した人のみ「情報関係基礎」の受験を認める、という指定になっています。なかなかハードルが高いですよね。はじめから「情報関係基礎」はダメ、としている大学もあります。数学は「数学Ⅱ・数学B」のみ、としている大学には出願でもできません。あとは「数学Ⅱ・数学B」は見ないよ、という芸術系の大学があるので、そこであれば「情報関係基礎」でも構わない、ということになります。

 

「情報関係基礎」のプログラミングは、「DNCL(大学入試センター言語)」という、日本語を使った疑似コードで書かれています。受験生は大体毎年400人弱で、全体50万人から見て、いかに少数の(少数精鋭と言うとかっこいいですが)科目か、ということが分かると思います。

 

「情報関係基礎」は、現行の共通教科「情報」(「情報の科学」「社会と情報」)とは違いますが、新しい共通必履修科目の「情報Ⅰ」に何となく似ているな、と思っていました。「ました」というのは過去形です。これが、実はそうではない、ということはこの後お話しします。河合塾のサイト(※)でも情報入試問題を分析していますので、こちらを見ると、いろいろな解説が出てくると思います。

 ※「キミのミライ発見」

  https://www.wakuwaku-catch.net/

      http://www.wakuwaku-catch-mondai.net/

 

教科「情報」の変遷~情報入試は常にマイノリティ

ここからは、教科「情報」の変遷です。1994年から1998年は、高校の学習指導要領は改訂された内容が実施され、そこでは「数学B」で「数と式」「数列」「平面幾何」「計算とコンピュータ」という4領域から2領域を選択履修する、ということになりました。その中に、「計算とコンピュータ」が入っていたのです。

 


一方、センター試験では工業高校、商業高校、専門高校など、「数学Ⅱ・数学B」を受講していない人が大学入学を目指すために、「簿記」「工業数理」と並んで「情報関係基礎」が設置されました。

 


その後、多くの大学がこのスライドにあるように、実質的に「情報関係基礎」を選択しにくいように入試科目を指定し、受験者数は2020年に至るまで非常に少数だった、ということは、先ほど説明した通りです。

 

 


1999年に公表された高等学校の学習指導要領で「情報」が必履修になることが決まり、2003年から施行されました。ここで「情報A」「情報B」「情報C」の3科目の選択必履修になりました。しかし、多くの学校が選択したのは操作スキルが中心の「情報A」で、プログラミングを学ぶ「情報B」は少数派でした。この改訂に伴って、先ほどお話ししたように、2006年に最初の情報入試がありましたが、その時は、国立大学では、東京農工大学と愛知教育大学の2校のみでした。

 


当時、2007年6月に、私が所属する情報処理学会の初等中等教育委員会で、「大学入試と情報フォーラム」を開催しました。韓国からも講演してくださる先生をお招きして、韓国の情報入試についてお話ししていただきました。

 

当時、情報処理学会の有志が中心になって、「情報」の模擬試験問題を作っていました。この時は、「数学B」に「統計とコンピュータ」「数値計算とコンピュータ」が入っていて、SFCが「数学B」の入試問題でプログラミングを選択問題として出題していました。

 


2009年に現行の学習指導要領が告知されました。「情報」は、「情報の科学」「社会と情報」の2科目の選択必履修だったので、大学入試における前提は変化がありませんでした。

 


ところが、ここで大事件が起きました。これまで「数学B」に入っていたプログラミングが、完全に消えたのです。つまり、2013年度からは、数学ではプログラミングを扱わないことになりました。

 

そこで、先ほどのSFCが登場します。SFCは「数学B」でプログラミングを出題していたのに、できなくなりました。だったら、「情報」で出そう、ということで、情報入試が始まったわけです。

 


その時、当時環境情報学部長だった村井純先生が、情報処理学会で情報入試の研究をしていた私たちに声をかけられて、有志による任意団体「情報入試研究会」を立ち上げました。これが、後に情報処理学会の情報入試委員会の母体になります。ここでは、模擬試験をたくさん作って、実際に高校の先生などに受験していただきました。内容については、この後お話しします。

 


2013年に現行の学習指導要領が施行され、数学からプログラミングが消えた一方で、統計学の内容が本格的に導入されました。

 


その後2015年に、先ほどお話しした高大接続システム改革会議が始まりました。座長の安西先生は、実は情報処理学会の元会長でした。私は安西先生に情報処理学会の会誌の記事のためにインタビューをしたのですが、その時に先生がおっしゃったのは、入試の改革については「情報」が重要で、それについて情報処理学会はもっとちゃんと関われよ、ということでした。

 


その後2016年には、SFCで情報入試も始まりましたし、高大接続システム改革会議の最終報告の中に、「教科『情報』に関して最適な(入試の)出題科目を設定」が盛り込まれました。

 


 

「大学入学者選抜改革推進委託事業」での「情報」の導入が一つの転機に

その後、2016年に文部科学省の「大学入学者選抜改革推進委託事業」を大阪大、東京大と情報処理学会の三者で受託しました。普通、このような事業に学会は入らないのですが、このときは情報処理学会も入りました。

 


2018年3月までの3年間で、いろいろな問題を作って、模擬試験も実施しました。こちらの情報入試研究会のサイト(※)で、問題の内容や、模擬試験の結果の分析データなども含めて、全て見ていただくことができます。

https://jnsg.jp/

 


この事業では、CBTを利用した模擬試験を2セット作成し、大学生と高校生を対象に試行テスト実施しました。この試行テストの結果、プログラミングは出来・不出来の散らばりが大きいことや、CBTの使い勝手を調べるなど、いろいろなことを行いました。

 


その後、2018年3月に2022年から施行される学習指導要領が告知されました。これに合わせて大学入試センターでは、情報処理学会や日本産業技術教育学会、各自治体の教育センター、高校教員などに「情報」の問題を作ってください、という公募をしました。情報処理学会でも、試験問題を作成して提出しました。

 


学習指導要領が発表されたことで、必履修の「情報Ⅰ」と選択履修の「情報Ⅱ」という科目になることが正式に決定しました。これで、大学入試で「情報」を課すことが現実的に可能になり、これからはこの路線を皆さんで研究しよう、ということを大々的に呼びかけることができるようになりました。

 


2018年の5月には、内閣の未来投資会議で、当時の林文部科学大臣や安倍首相が「情報入試をするぞ」という発言をしています。こういう発言があるということは、「情報が入試に出るかもしれない」ということが、ここ1、2年で急に起きてきた話ではなく、5年、10年前からその可能性を何度も検討してきて、その中で政治家の方や産業界の方、教育関係の方の意見を聞き、調整しながら動いてきていたのだということをご理解いただきたいと思います。


 

大学入学共通テストはどうなる?

こちらは2019年の5月30日の日経新聞電子版のスクリーンショットですが、記事としては2015年7月13日付という、不思議な記事です。「大学入試でパソコン解答を2024年度以後導入するという改革を巡る素案」ということで、こんなことを検討しますよという話が2015年に出ていたよ、という内容です。

 


こちらは2018年6月5日の教育新聞の記事で、「未来投資戦略に『情報Ⅰ』を出題するということを掲げる」という報道です。さらに、2019年5月15日の読売新聞には、「情報I、PCで解答」という見出しの記事が載りました。このニュースを見た時はびっくりしました。この時点では、まだPCで解答なんか無理だろうと思っていたのです。

 


そして2019年には、文部科学省から「高等学校情報科『情報I』教員研修用教材」が公表されました。ここでは、プログラミング言語としてまずPythonを取り上げています。その美、他の言語バージョンも公開されました。2020年3月には、「情報Ⅱ」も公開されました。

 


2019年3月には、AI戦略実行会議が、「大学入学共通テストに『情報Ⅰ』を入れなさい、CBTも含めて検討しなさい」という提言を出しました。またCBTが出てきたのか、とびっくりしました。

 


さらに、2019年7月には、閣議決定で「『情報Ⅰ』を入試に採用するために、私学助成金の重点化を」ということになりました。つまり、『情報Ⅰ』を入試に採用した大学には、私学助成金を増やすよ、ということです。ただし、これは「私学助成金の重点化をやる」ではなく、「(文部科学省で)やれ」と言っているのです。「やる」と「やれ」は大きな違いで、あとは文部科学省が「やる」と言うかどうかに完全にかかっているという状況です。

 


2020年11月には、大学入試センターから大学入学共通テストの「情報」の「試作問題」が公表されました。

 


さらに、今年3月には「サンプル問題」が公表されました。3月の「サンプル問題」は、「情報」だけでなく、他の科目も出されていますが、昨年11月の「試作問題」は「情報」だけでした。

 

このように、いろいろなタイミングで共通テストに関する情報が提供されている、ということはわかっていただけたと思います。

 


情報処理学会の情報入試委員会では、そういった発表や報道を常に調査していますが、その中でも2021年5月の「国立大学協会が大学入学共通テストの情報を積極的に評価するように認める方向で検討中」という報道には驚きました。この直前まで、「共通テストに『情報』が入ったとしても、各大学が採用しなかったら意味がないだろう。どうせ採用しないよ」と言っていた人が多かったのですから。

 


それが、国大協が国立大学に「これからは文系理系問わず、全員『情報』を受けてくることとした方がいいよ」と言ったわけです。国大協がこう言ったということは、多分ほとんどの大学が従うことになる。ということは、本当に情報入試をやるんだ、ということになったわけです。

 

今一度、情報入試導入の意味を考える

自分なりの思いを最後にしたいと思います。

 

「情報」が入試で取り上げられると、高校の先生は熱心に勉強させることが必要となって、教員の採用や、授業法の研究が進みます。一方で、安直な出題が続くと、本質とかけ離れた技巧で正解を得る受験テクニックが発生すると思います。


 

この「受験テクニックが発生する」ということで、良かれ悪かれ生徒の学習は進みますが、安直な出題が続くのは良いことではありません。大学の先生方は、もし「情報」の入試問題を作ろうと思われるのであれば、「安直な出題」とは何だろう、ということをぜひ考えてください。高校の先生方も、期末試験の問題を作るとき、受験テクニックだけで解けるようなものを出していませんか、ということを考えていただきたいと思います。

 

Society5.0、DX(デジタルトランスフォーメーション)、GIGAスクール、デジタル庁の発足、さらにCOVID-19の影響のオンライン授業の増加と、世の中は急速に変わってきています。

 

こういった中で、「情報」が大学入試に入ってくるとどうなるか。今まで授業をしっかりやって来られた先生にとっては、実は迷惑なことと思います。情報入試なんて関係なく、自由に情報の授業をさせてくれよ、というご意見があると思います。

 


 

私自身も、今まできちんと教えてこられた先生方については、全くその通りだと思います。入試の評価枠を気にしないといけなくなるということは、言い換えれば、ただでさえ少ない「情報」の授業の時間が、入試対策のせいで、自由なことができる時間がさらに減ってしまう。下手をすると、「自由なことなんかするな」と言われてしまうかもしれないわけですから。

 

ところが、今まで力を入れてなかった先生にも迷惑な制度です。今まで面倒くさい、淡々と教えてりゃいいよね、と思っていたのが、入試に出るとなったら、そういうわけにはいかなくなるのですから。

つまり、情報入試は情報科の先生の誰にとっても迷惑な制度なのです。それでもなお、なぜやらなければならないか、ということを考えていただきたいと思います。

 

つまり、これまでは一生懸命やってきた先生も力を入れてなかった先生もいらっしゃったのですが、「情報」が入試に出ないということが、格差を広げてきたのだと思います。情報入試を入れることで、その格差の増大を止めるのが必要なのです。

 

言い換えれば、今、一部の生徒や教員がデジタル化の価値を享受するというのが顕著になっていますが、これが全ての人がデジタル化の価値を享受できるように変わっていくために、情報入試が一つのキーワードになっているのです。

 

ですから、迷惑だと思う人が多くいらっしゃるのは分かりますが、それでもやろうというのは、こういった背景があるのだと思います。

 


情報処理学会では、情報科の先生方のためのサイトをいろいろ作っています。情報入試委員会では、今、センター試験「情報関係基礎」の過去問をアーカイブにして公開しています。こちらは、1997年から2020年まで、過去23年分の問題、正答、作問委員会の見解が全て掲載されています。こちらは、全て大学入試センターから公文書公開手続きを取って掲載しているものです。

https://sites.google.com/a.ipsj.or.jp/ipsjjn/resources/JHK

 

また、「情報Ⅰ」を担当する先生方のための登録不要のオンライン研修用教材「IPSJ MOOC」というものを作りました。これは、私がチーフを務めています。

https://sites.google.com/view/ipsjmooc/

 

また、情報科教員の免許更新講習を行っています。こちらでは、情報入試に関わるお話も含めています。

https://www.ipsj.or.jp/annai/committee/education/KOSHU2021.html

 


 

情報入試に対して様々な意見はあるけれど…

最後に、情報入試についてよくあるQ&Aをご紹介します。たくさんあるので、代表的なものを挙げていきます。

 

Q1. 高校で教えていない教科を、いきなり共通テストにしていいのか。ここにいらっしゃる方は、誰もこのような疑問は持たれないと思いますが、世の中の多くの人は、高校で情報を教えていることをご存知ないので、こういうことをすごく疑問に思っている、ということで挙げました。

 

A1. 高等学校情報科は、2003年度(平成15年度)から施行された高等学校学習指導要領で、必履修として取り入れられており、現時点で、すでに17年の歴史があります。

 

 

Q2.「情報I」の内容を教えることができる教員が高等学校に配置されていないのに、実施していいのか。

 

A2.「情報I」は必履修科目であり、すべての高等学校で教員が教えることができるよう手当てされるこ

とになっています。2022年度から新カリキュラムに移行することを見越して、ここ数年、情報科教員

の採用数が増加しています。

 

こちらは割と筋の通った質問で、「情報Ⅰ」を教えられる教員が少ないのに、情報入試をやっていいのか、という話です。これは「情報Ⅰ」の教員をもっと採用しなければならないので、全くおっしゃるとおりです。もっと採用すべきですよね、ということですね。

 

「試験問題を作り続けることができるのか」という問いに対しては、情報処理学会では2012年から情報入試の問題を多数作ってきており、十分作り続けられることを実証しています。

 

 

Q3「パソコンの使い方なんて薄っぺらいことを入試にしていいのか」「ワードの使い方がわかれば、大学に入学できる世の中になったのか」

 

A3.私たち情報入試委員会が、今回の試作問題を全体的に見たところ、パソコンの使い方やワードの使

い方の試験ではないと判断しております。

 

twitterを調べると、情報入試のニュースが出るたびに、こういうことを言っている人は本当に多いですから、皆さんもぜひ、そういう方には「違うよ」とおっしゃっていただきたいです。まず実際の問題を見てください、と。

 

 

Q4.『情報』は実技科目だから、筆記試験になじまないのではないか。

 

A4. 2013年度(平成25年度)から実施されている現在の高等学校の情報科では、実習時間の下限が撤廃

され、実技科目とは言えなくなりました。今回の試作問題を全体的に見たところ、実技科目ではなく、

他の入試科目と同様、知識、思考力等を見る問題となっています。

 

「パソコンのプロになる人だけに任せておけばいい、共通テストに入れるのはおかしいのではないか」という方もいます。しかし、今後は1学年100万人の学生がいたら、100万人がパソコンのプロになってもらわないと困る世の中です、そういう意味では「全員」なので、共通テストでやったほうがいい、ということになります。

 

他にも、「(入試には)数学や理科のほうがいい」とか、「哲学をやったほうがいい」とか、いろいろなことをおっしゃる人がいますが、今、情報というのは基本的な素養であり、そういう科目だけが通用する時代ではない、ということですね。「データサイエンスは数学の統計でやったほうがいい」という人もいますが、データサイエンスについては、数学の「統計」ではできないところを、情報でやろうとしている、ということです。

 

今度は大学側です。この中に大学の先生もいらっしゃると思いますが、「情報を出題すると受験生が減るのではないか」と言われる方は多いですが、皆が一斉に情報入試を始めればそういった心配もありませんし、一斉にやらなければならない時代になっているのだ、という認識を持ってほしいと思います。

「本学で情報を出題する教員を確保できない」とか、「本学で作題する負担が大きい」というご意見をいただくこともありますが、そうであれば、共通テストの「情報」を使う、と言えばよいだけです。あとは、配点の計算式を作ればよいわけで、それだけで済むことだと思います。ですから、普通の大学は、必ずしも自前で入試問題を作らなくてもいい。一方で、情報学部とか情報学科と名のついているところは、自分たちで作った方がよいと思います。

 

 

Q5.公平性のために疑似言語を試験に用いるというのは、社会で役に立たないことを子供に覚えさせる

ことになり、無駄で害悪だ。

 

A5.試験問題で特定の言語を使うことは、公平性の観点から適当ではなく、1997年から大学入試センター試験で出題されている「情報関係基礎」では、ブログラミング言語ではなく、プログラミングを問

うためにDNCLという記法(疑似コード)が使われてきました。

 

センター試験(共通テスト)の問題に使われる大学入試センター言語(DNCL)は、実際のプログラミング言語ではないから、無駄なことをさせている、というご意見です。これは大学入試センターの言語のページにも書かれていますが、どのプログラミング言語を勉強した人でもできるようにしているという趣旨ですね。

 

あと、「CBTはどうなるんだ」ということもよく言われますが、いろいろな観点か羅考えても、CBTは時期尚早です。理由としては、電池が持たないとか、ネットワークが使えないとか、機械が高価であることですが、この3つについては、今後10年から15年で解消できると思うので、2035年頃にはCBTになるのではないか、思っているのですが、これは何とも言えませんね。

 

 

Q6.「情報教育を必須にすることは、パソコンの売り上げを増やそうとする電機メーカーの陰謀ではな

いか」「試験制度を変更することは、試験で儲けている企業を、さらに儲けさせることになるのでは

ないか」

 

A6.陰謀ではなく、日本の将来全般を考えて、国民全体に対して情報教育を充実させ、格差を縮めることが必要です。

 

世界の中でも日本は遅れていますし、全員が一定レベルに達するために、情報は入試にしたほうがよいと思います、というのが、学会としての意見です。

 

この質疑応答は、学会の運営サイトに載っているものを紹介しましたが、このように私も含めて情報処理学会が考えているということを紹介しました。

 

[つづく]

高校の現場から

東京都立立川高校 佐藤義弘先生