情報処理学会第83回全国大会イベント企画(オンライン開催)

大学情報入試の舞台裏

駒澤大学 グローバル・メディア・スタディーズ学部

■吉田尚史先生

本学は私立大学であるため、共通テストとは異なり、いわゆる私立大学の2次試験の中で情報入試を進めることをこの十余年模索してまいりました。そのお話をしたいと思います。自己紹介はこちらの通りです。

 

 

グローバル言語としての「情報」を学部名に冠して

 

まずは大学と学部をご紹介します。

 

駒澤大学は仏教の大学で、曹洞宗と呼ばれる禅宗の一つです。グローバル・メディア・スタディーズ学部は、2006年にできました。おそらく日本一長い学部名であると同時に、学部名に「グローバル」と付いた最初の学部です。最近では、グローバル○○学部、メディア△△学部といったものが増えてきました。

 

今であれば恐らくご賛同いただける内容だとは思いますが、当時私たちが考えたのは、どんな分野にあっても英語と情報は必ず重要になるということです。今後グローバル化が進み、さまざまな分野を融合した学際の教育研究をするというコンセプトの下に、このグローバル・メディア・スタディーズ学部を作りました。

 

下図に示すように、社会、経済、政治、法律といった社会学、そして文化、コミュニケーション、情報も必要です。グローバルを考えるならば、英語ももちろん大切ですが、グローバル言語としての情報も欠かせないものだというメッセージを発信したいと考え、情報入試について考えることになりました。

 

 

数学の1分野として情報を出題する

 

グローバル・メディア・スタディーズ学部では2006年から2014年まで入試として主に2科目受験の方法を取っており、英語が必修、選択科目は国語、世界史、数学などから選ぶという方式でした。

 

そこで、数学の中に情報入試が入れられるのではないかと考えました。

 

当時は今と異なって、数学Ⅰ・Ⅱ、数学A・Bとある中で、数学Bに「プログラミング」の単元がありました。

 

 

当時の通常の数学を課す多くの入試の出題範囲を見ると、数学Ⅰ・Ⅱ、数学A・Bとして、「(プログラミングを除く)」と書かれていたところに目を付けました。そこで、私たちのグローバル・メディア・スタディーズ学部の数学の出題範囲は数学Ⅰ・Ⅱ、数学A・Bとして、「(プログラミングを除く)」とは書かずに出題をしました。

 

 

最初はさまざまなご意見が届き、受験した学生からプログラミングが入っていることへのクレームが入ったこともありましたが、めげずに続けたことで徐々に浸透したように思います。

 

下図が2007年当時の問題です。

 

いわゆる数学の小問として、計算問題や「確率・統計」のほか、「モデル化とシミュレーション」の問題などが並んだ後に、当時は教科書にBASICが載っていたため、それを出題しています。

 

ここでは、プログラムの穴埋め問題や、プログラムの実行時の状況を問う問題を、あくまでも数学の中の一つとして出しました。やがて、教科としての「情報」ができたため、2015年に数学の受験科目を「情報」に替えましたが、実際は情報を選択してくる学生は少なかったです。

 

 

今後社会で活躍するためには、英語と「情報」が必要であるというるメッセージとして

 

これと同時に、私たちが考えたのは「10年計画」です。これは、当時は教科としての「情報」を教える高校の教員も少なかったため、グローバル・メディア・スタディーズ学部の中に教育課程をつくり、高校教員も育て、その教員がどんどん高校に戻っていき、その生徒たちがまた受験してくれる、という計画です。

 

「今後社会で活躍するためには英語と『情報』は必須なので、必ず勉強してきてください」というメッセージの発信を行ったということです。その上で、さらに社会学や経済学や経営学などを勉強すれば、もっとグローバルに活躍できる人材になりますよ、ということを伝え続けてきました。

 

■平井辰典先生

今年度から全学部の一般入試で「情報」の選択が可能に

ここからは、現在、駒澤大学で実際に行っている情報入試の具体例をご紹介します。

 

まず、「情報」を選択できる試験日程や学部、学科ですが、昨年度2020年度入学者選抜までは、グローバル・メディア・スタディーズ学部の単一学部でのみ選択可能としていました。

 

今年度2021年度入学選抜より、全学統一選抜において「情報」を選択可能にしました。つまり、駒澤大学に入学を希望する受験生は、誰でも「情報」を選べるようになるという、大きな進歩を遂げました。また、この改革と同じタイミングで、グローバル・メディア・スタディーズ学部の入試も、2科目選択から3科目選択となりました。

 

 

情報入試の問題にどのような特徴を持たせているかについてご紹介します。

 

2015年度から「情報」の選択を可能としていますが、基本的に大問を3題という構成で作っています。大問1が小問群、大問2がプログラミング、大問3がシミュレーションの問題です。

 

大問1の小問群には『情報の科学』の教科書に載っているような、各種単元の知識を問う出題をしています。

 

大問2のプログラミングでは、日本語による疑似言語を使ったプログラムを例示し、変数や四則演算、分岐、反復処理などの基本的なプログラミングの要素を駆使することでプログラムを完成させるという、アルゴリズムとプログラミングに関する思考力・表現力を問う問題を出題しています。

 

大問3はシミュレーションに関する問題です。現実の各種問題をシミュレートし、問題を解くためのモデルを元に計算させ解答に導くような出題をしています。問題解決力や計算力に加え、かなり文章量が多いため、読解力も問う出題になっています。

 

 

小問群では「教科書をきちんと勉強しよう」をメッセージとして発信

 

具体的な設問をみていきます。

 

まず大問1の小問群です。

 

これまでの出題傾向としては、教科書に載っているさまざまな項目として2進数、16進数、ビットやバイトなどといった基本的なところから始まって、デジタル情報の表現、情報量の計算、コンピューターの仕組み、5大装置やネットワークプロトコル、インターネットに関する項目、情報と社会(セキュリティーや著作権などの法関連)、最後にデータベースという構成になっています。

 

基本的なスタンスとして、各社から出版されている教科書に掲載されている内容のみを出題します。つまり「教科書に載っていないことは出さない」というのが、われわれの出題ポリシーの一つとなっています。

 

 

具体的な設問例が下図です。

 

2進数で書かれた数を10進数や16進数に変換する問題や、コンピューターの装置に関する選択問題、音のデジタル化の過程における処理の名称などを出題しています。

 

この辺りの設問を通じて、受験生に対して「教科書をきちんと勉強してください」というメッセージを発信しています。

 

 

プログラミングは、基本的な命令のさまざまな組み合わせから応用へ

 

続いて、プログラミングの問題です。

 

センター試験や共通テストで、日本語による疑似言語がプログラミング問題として出題されていますが、本学でもそういったものを参考にして、日本語による疑似的なプログラム言語を導入しています。問題冒頭にサンプルプログラムを提示して、どのような処理の流れになっているか、どのような処理が可能か、についての穴埋めをするという出題を行っています。

 

内容は、変数や四則演算、算術演算、分岐、反復処理のほか、年によっては特定の関数を使ってプログラムを完成させることもあります。

 

教科書には配列を扱っているものもありますが、冒頭のサンプルプログラムに配列の説明を書き切るのが難しいということもあり、本学の問題ではあまり出題されていません。

 

とはいえ、過去には出題されていたこともありました。プログラミングの問題、3題から5題ぐらいの問題数で、1問目で簡単なプログラムを完成させ、どんどん複雑な発展系のプログラムを完成させていくような形式でした。

 

 

これまでの題材例では、このように簡単な要素の組み合わせによるプログラムがあります。

 

例えばオリンピックの開催年を判定するプログラムは、西暦の年を入力した際にオリンピックの開催年か否かを出力します。

 

このようなプログラムを書くためには、分岐や反復などを組み合わせられないといけません。また、例えば楽譜をもとに演奏するような音楽演奏のプログラムを出題したこともあります。

 

他には、小学校の教科書にも掲載されるような正多角形の描画に関するプログラムを大学入試で出題してみるというように、基本的な命令のさまざまな組み合わせによって実現可能なプログラムを出題しています。

 

 

こちらは2017年度のS方式での出題例です。

 

問題の冒頭にサンプルプログラムを提示し、日本語による処理として、nに整数値を、mに整数値を入力し、aにn+mを矢印で代入して出力するという例を見せます。

 

その後、単価、数量、単価に消費税が含まれているかどうかを入力することで小計を出力するというプログラム穴埋め問題の構成となっています。

 

さらに少しずつ複雑にしていって、複数の商品を扱って総計を計算できるようにするためにどうするかを問う流れになります。

 

 

現実問題に即したモデルをシミュレーションし、結論を出す

 

大問3はシミュレーションの問題で、非常に個性的な内容を扱っています。

 

例えば2列のエスカレーターのシミュレーションで、左側は止まっていて、右側は歩けるようにした際、どれくらいの人がエスカレーターに乗ったり移動したりできるか。また、両方とも止まっていたらどうなるかというような比較をします。現実問題に即したモデルをシミュレーションし、結論を出すという問題です。

 

他にも、買い物の際のレジの並び方で、このようにレジに並んだら何人がレジを済ませられるかをシミュレーションします。実際に問題を解いてみることで、どのようにレジに並ぶと効率的なのだということもわかり、計算を通じて現実に役立つような出題をしています。

 

 

もう一つ、具体的な出題例です。

 

「Aさんがタイ焼き屋を開業するのに、M駅周辺かN駅周辺、どちらの駅に出店するとどれくらい儲かるかのシミュレーション」を行います。さまざまなシナリオを用意し、こういうシナリオだとこういった結論が導き出せるといったことを1問ずつ解き進めていき、利益計算をしてより利益が高くなる駅の可能性や組み合わせを考え、結論を出すという問題です。

 

 

このように、駒澤大学の情報入試問題の特徴は、情報入試を始めた時から守り続けてきた、大問3題による構成という点であると言えます。

 

 

情報入試の舞台裏で…

 

最後に舞台裏的な話を少しだけご紹介いたします。

 

現状では「情報」の受験者数が極端に少ない中、現在私たちが期待しているのは、大学入学共通テストに情報が導入されることによる、本学の「情報」の選択者数の増加です。

 

また、現状では大学入試で「情報」を選択できる大学はかなり限られています。実は本学で「情報」を選択科目としていることによって、一般的にはあまり見られない併願パターンが見られることがあります。これは本大学にとってもメリットと言えると思います。

 

次に高校の先生方に申し上げたいのは、高校の「情報」の授業では、現在でもMicrosoftのOfficeソフトの使い方を指導する授業が多いと言われていますが、もっと教科書の内容に沿った授業を扱っていただけると、情報入試の問題にも難なく取り組めると思います。

 

また、近年いろいろな会社から様々なレベルの教科書が出版され、バリエーションが増えることによって、どの教科書にも載っている共通項がどんどん狭まっている傾向が見られます。教科書同士の共通項をもう少し増やすことで、むしろ出題のパターンも増やせるのではないかと考えています。

 

 

最後に、今後の学習指導要領改訂への対応予定につきまして。

 

現状、駒澤大学で出題している問題は「情報Ⅰ」の範囲内でカバーされています。よって今後も「情報Ⅰ」を出題範囲としていくことが考えられますが、ここで明言はできないため、今後の公式発表にてお知らせすると思います。

 

私たちから申し上げたいメッセージは、学習指導要領改訂に伴い、小問の扱う範囲が多少変化するようなことはあるかも知れませんが、「あくまでも教科書の内容を勉強していれば解けるような出題にする」という方針です。

 

 

以上、駒澤大学における情報入試の舞台裏も含めて、お話ししました。

 

情報処理学会第83回全国大会企画セッションより