情報処理学会第83回全国大会イベント企画(オンライン開催)

大学情報入試動向と情報処理学会の活動履歴

東京通信大学 筧捷彦先生

あらゆる機会をとらえて情報入試の重要性を発信してきた

ご本人提供
ご本人提供

情報処理学会の情報処理教育委員会の下には、分科会のような形の委員会がいくつかあります。私はその一つである、情報入試委員会の委員長を務めています。

 

今回、情報処理学会としてこれまで情報入試に取り組んできたことについて、少しお話したいと思います。

 

情報処理学会は、2011年頃から大学入試センター試験に対して、教科としての「情報」を入試科目に入れてもらうために、いろいろな機会で働きかけをしてきました。

 

また、同時に高大接続改革政策などに合わせて、新しい共通テストでは達成度を評価に盛り込む話が出ていましたので、そこにも「情報」を入れて欲しい、という要望も出してきました。

 

さらに、政府の未来投資会議で大学入試共通テストに「情報」を入れるという議論が始まった際にも、情報処理学会として賛成の意思表明をしています。

 

 

私たちは、2003年に高校に「情報」という教科ができて以来、高校教科「情報」のシンポジウム(ジョーシン)を毎年秋に開いてきました。

 

特に2022年から実施予定の新学習指導要領で、「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」という2階建てで授業を行い、「情報Ⅰ」は高校生全員の必履修となることが確定した時点からは、学習内容の達成度評価という意味からも、大学入試での導入が必要であると考え、そのために何をすればよいかを検討しました。

 

2019年には、文部科学省から「情報Ⅰ」の教員研修教材が提示されたので、それも踏まえて2019年10月のシンポジウムでは、入試問題の試案をいくつか作って紹介しました。PartⅠからPartⅣまで、新学習指導要領の4部門に相応した形で試験問題についての議論をしています。

 

 

2016年から2018年にかけては、大学入学者選抜で、それぞれの教科において思考力・判断力・表現力をどのように評価するか、ということについて、文部科学省からの委託研究が行われました。その中の「情報」ユニットは、大阪大学が受託元となり、東京大学と情報処理学会がサポートとして入りました。

 

この事業のために、それまで有志によるグループだった情報入試研究会が、情報入試委員会となり、現在に至ります。

 

 

共通テスト新教科「情報」の「検討イメージ」公開の波紋

今回、この全国大会で情報入試に関するセッションを開催するために準備してきましたが、昨年10月に突然NHKや朝日新聞で、2024年度の共通テストから新教科「情報」を導入し、現在の30教科を再編し21教科にするという報道がありました。

 

この件では、大学および高校の関連機関に対し、大学入試センターから事前に質問状のようなものが送られたようです。続いて、11月には大学共通テストの情報の試作問題「検討用イメージ」が、関連機関に配布されました。おそらく、質問状の回答で「具体的にどのような試験をするのか」という反響が大きく、それに対応したのではないかと思います。

 

 

この「検討イメージ」は、高校・大学のほかに、情報処理学会をはじめとする情報関連学会送られましたので、情報入試委員会でも早速検討を行いました。

 

回答した内容は、「試験問題として出すためにはまだ練らなければならない点はあるものの、試案は情報4分野を満遍なくカバーをした適切なものだと考える」ということです。

 

情報処理学会以外に、日本教育工学会、教育システム情報学会、人工知能学会、日本産業技術教育学会もそれぞれの意見を出しています。

 

 

 

大学としては、8大学(北海道大・東北大・東京大・東京工業大・名古屋大・京都大・大阪大・九州大)の情報系研究科長会議から前向きな提言が出されました。これに先行する動きとして、2020年7月に、全国の国公私大にまたがる組織である情報学科・専攻協議会にから「大学入試共通テストに情報を入れましょう」という提言がありました。

 

 

我々も、この問題は情報処理学会だけで済ませられる話ではないと捉え、電子情報通信学会や日本ロボット学会などの情報関連学会に、適切な入試が行われるための協力を持ちかけています。

 

それを受け、情報処理学会の「コンピューターと教育研究会(CE研)」の158回特別企画セッションを一般公開で行いました。そこでは、東京大学の萩谷昌己先生が、初中等教育から大学の専門基礎教育を通した情報教育課程の仕組みのあり方として、日本学術会議から出ている「情報教育課程の設計指針」の説明をしました。また、大学入試センターの水野修治先生から、大学入試共通テスト新科目案の中の「情報」の位置づけと作問意図についてお話ししていただきました。

 

情報処理学会としては、今年の8月に開かれるFIT(情報科学技術フォーラム)の中で、同様の公開セッションを設けようということで、電子情報通信学会と検討を進めているところです。

 

 

また、情報入試委員会が情報入試をどう捉えているかについてのコラムを、新聞やネットに掲載しています。

 

あわせて、情報処理学会で用意されているノートの中でも、先ほど紹介した情報の入試例題を取り上げながら解説を始めているところなので、ご覧いただければと思います。

 

 

関係省庁では、文部科学省の大学入試ご担当の方々や、経済産業省とは中学校・高等学校のデジタル関連部活の支援、全国高等学校総合文化祭など全国規模の発表機会の展開についても意見交換をしています。

 

 

確実に動き始めた情報入試への流れ

このような現状から、今後どうなるかを考えてみましょう。

 

過去に、文部科学省が大学入試センターの試験を変更した際の動きを振り返ると、今年度中に大学入試センターから具体的な案が示され、それを受け文部科学省から今年の6月〜8月頃に共通テストの実施大綱が明確に提示されます。

 

高校では2022年4月からの学習指導要領変更に伴い2022年から「情報Ⅰ」、2023年から「情報Ⅱ」を実施し、全生徒が「情報Ⅰ」を学ぶことになります。それを受けて、それぞれの大学が高校から上ってくる生徒たちのレベルや能力を測るために、どのような入試を行うかを検討する準備に入ります。

 

共通テストは、2025年1月の実施に向けて、今年度末までには大学入試センターから具体案が示され、どのような試験配置で共通テストを行うかという案が示されるものと思います。

 

 

このように、現在まさに国を上げてデジタル化を進める、その一つの大きな動きとして、情報の教育を大学も高校もしっかり行おうとしています。

 

また、大学ではどの学部に進んでも、情報技術で社会を支えられる学生を輩出できるようにしていくことが求められることになります。関連する産官学で協力して、この流れを進めていきたいと思います。