情報処理学会第83回全国大会イベント企画(オンライン開催)

多くの大学で情報入試が実施されるために-初等・中等教育の視点から-

信州大学 村松浩幸先生

ご本人提供
ご本人提供

私からは、初等・中等教育の視点からお話しします。最初に簡単な自己紹介をいたしますと、私自身は、情報教育ど真ん中というよりは、技術教育が専門です。情報処理学会の会員でもあり、「情報関係基礎」の作問の委員も務めたことがあります。そして、技術教育関係の学会の取りまとめも行っていますが、一番皆さんにおなじみなのが、毎年年末国技館で開催されるNHKの高専ロボコン、こちらの審査委員長を務めております。

 

 

さて、今回「情報」を共通テストに入れるという問題を、情報教育の全体像から考えてみたいと思います。こちらの「情報教育の木」は、日本学術会議の情報学員会で作られたものですが、大学入試はこの図でいえば「高等学校」と「大学共通」の境界の部分にあたります。

 

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ここでテストを行うことによって、各高校がきちんと授業を行うようになり、多くの高校生が情報のいろいろな学習に取り組むようになる。そして、そこで身に付けた素養を持った学生たちが大学に入ってくるようになる、ということかと思います。

 

これが本当に進むのか、という話もありますが、先日の情報処理学会コンピュータと教育研究会(CE研)の電気通信大のセッション(※)で、大学入試センターの水野先生のお話を聞いて、「大学入試センターはかなり本気で取り組まれてるんだな。2025年の共通テスト導入は確実にいけるのではないか」と思いました。

 

そう考えると、これからの入試から先を広げていくためには、入試の前段階の小中高の辺り、いわば情報教育の木の幹、あるいは根っこの部分が大事になるのだろうな、ということで、お話をさせていただきます。

 

https://www.wakuwaku-catch.net/kouen210301/

 

 

中学校の技術科では10年前からプログラミングを実施

先ほどの筧先生のご講演にもありましたが、情報処理学会とともに、私どもの日本産業技術教育学会も、今回の共通テストに対して文科省に提言を出させていただきました。

 

また、大学入試センターに対しても、試作問題についての意見等を提出しました。その中で、先ほど福原先生から高校での状況のお話がありましたが、高校の情報科の教育の充実が必要であること。中学校では、技術・家庭科の技術分野でプログラミング等が行われてるので、その部分の教育活動の充実。それから、ご存じのように、今年度から小学校段階でのプログラミング教育が本格的に始まっていますので、当然そこについても充実が必要である、と小中高のそれぞれの段階での教育について提言を行いました。

 

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先ほど高校のお話がありましたので、私からは中学校の技術・家庭科技術分野、いわゆる技術科のお話をいたします。

 

技術科というと、年配の先生方は本立てを作ったりドライバーを作ったり、といったことを思い出されると思いますが、現在は「材料と加工の技術」「生物育成の技術」「エネルギー変換の技術」「情報の技術」の四つの内容で構成されています。この四つ目の「情報の技術」の中で情報関係の内容、プログラミングまで扱うのですが、昔に比べて非常に時間数が少なくて、1、2年生は各35コマですから週1時間、3年生に至ってはその半分しかない、というのが大きな課題になっています。

 

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スライドにあるのが、実際にその技術科で学んでいる資質・能力の系統表です。いろいろ書いてありますが、中心となるのが、一つが情報通信ネットワークを使ったプログラミング、もう一つが計測・制御のプログラミングです。これらは新しい学習指導要領では必修化されて、全ての中学生が学ぶことになっています。

 

実は、この計測・制御のプログラミングは10年前、現行の学習指導要領で必修化されています。日本の情報教育は遅れていると言いますが、義務教育段階の中学校でプログラミングを必修化していたというのは、世界に先駆けてるということは、あまり知られていないところです。

 

問題解決を軸に据えたプログラミング教育も

それでは中学校のプログラミング教育の実態はどうなってるか、ということで、私どもの日本産業技術教育学会で全国調査を行いました。その結果、いろいろな課題が出てきています。

 

今、小中学校で一番大きな動きがGIGAスクール、1人1台端末で、ネットワークを整備するというものです。昨日も近くの公立中学校の授業を見学しましたが、生徒が1人1台Chromebookを持って、ただ検索するだけでなく、グループでスライドを共有したり、共同で編集したりしながら意見を交わすということを普通に行っていました。こういったことが、これから全国の小中学校で展開されていくとなると、インフラの整備も進んでくることになるでしょう。一方でスライドに挙げたように、授業展開が難しいとか、授業時間数の少なさ、先生の配置や研修といった、先ほど高校で挙げられたような問題も同様にあります。

 

 

実際に中学校でどのような授業をしているか、ということで、私が集めた事例をいくつかご紹介します。

 

こちらは教育用の言語であるScratchを使った活動です。Scratchは、最近は機械学習などもできる拡張機能があって、AIを使ったプログラミングもできます。ここでは葉っぱの形を認識させています。プログラムをただ作るのでなく、外来種と固有種を見分けて、生態系の保全につなげていこう、というように、要は身の回りの問題から社会の問題といった問題解決を軸に据えているというのがポイントです。

 

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こちらはプログラミングと防災を絡めて、防災マップを作るという取り組みです。

この活動ではJavaScriptを使っていますが、もちろん中学生ですからJavaScriptでプログラムを一から書くことはできないので、部分的な修正が中心ですが、先端的なところでは、こういう取り組みもされています。

 

これも、ただマップを作るだけではなく、実際にお天気サイトはどんな工夫をしているか調べたり、地図コンテンツを活用して問題解決につないだり、と幅広く展開しています。

 

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こちらは計測・制御系のプログラミングです。ここに挙げたようなロボットカーやLEDのライトのといった教材が教材会社からいろいろ出てきて、授業の場面でよく使われています。プログラムは、ブロックタイプよりも、こういったフローチャートで書くようなタイプの方が多くなっており、これもこの10年でかなり様変わりしてきました。

 

 

こちらはLego社のマインドストームを使って、福祉・介護の製品のモデルを作ろうという取り組みです。実際の社会の問題を解決するためのモデルを作って検討していこうという取り組みも始まってきています。

 

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学校の枠組みを超えた連携がさらに必要に

こういった活動をこれから展開していくわけですが、冒頭の村井先生のご講演の中に、情報教育が小中高大とステップで広がっていく、というお話がありました。“Internet is for everyone”で、全ての人をこぼさずに、次の段階を支えていく、というお話は、私もなるほどと思いました。

 

多分、学校ごとにそれぞれやっていても、なかなか限界があるので、その枠組みを超えてお互いを支え合っていく。そして、その軸に情報処理学会はじめ、関係諸学会、そして筧先生のお話にもありましたが、産学官の連携というのが非常に大事であると感じています。

 

 

「情報教育の木」の幹を太く、そして木を大きく茂らせていくためには、ぜひとも皆さんの協力が必要だと思います。2025年の共通テストが既定路線として(もちろん大学でどれだけが採用するのかとかという、「ニワトリが先か、卵が先か」問題のようなことはありますが)、同時にこの導入を見据えると、入試はゴールではなくて、そこから先を充実させていくための方策であると思います。

 

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具体的には小中高の情報教育をつないでいく必要性がありますし、先ほど福原先生がお話しされた、教員のような人的なリソースの確保もあります。そして各段階を支援していく様々な体制や機会も必要でしょう。本日午後から行われる中高生情報学研究コンテストもその一つかもしれません。

 

そのためにも、ぜひ関係学会。団体等が連携をしながら、この動きを入試の導入だけではなく、情報教育全体の活性化につながるようなムーブメントにしていく必要があるのでないかと思います。

 

情報処理学会第83回全国大会企画セッションより