神奈川県高等学校教科研究会情報部会 情報科実践事例報告会2020オンライン 実践事例報告 講演・指導講評

「オンラインだからこそできること」を示したこの報告会の成果を次へつなごう

国立教育政策研究所 教育課程研究センター 研究開発部 研究開発課 教育課程調査官 

文部科学省初等中等教育局 情報教育・外国語教育課 情報教育振興室 教科調査官 

          参事官(高等学校担当)付 産業教育振興室 教科調査官 

鹿野利春先生

 

神奈川県高等学校教科研究会情報部会実践事例報告会2019 より
神奈川県高等学校教科研究会情報部会実践事例報告会2019 より

皆様、本日はお疲れ様でした。神奈川県情報部会の皆様には、この準備は大変だったと思います。楽しみながら準備されたということをお聞きしましたが、Webページのインタフェースも非常によかったと思います。おかげで、いろいろなところを見ることができました。ありがとうございました。

 

講評・講演ということで、一つずつの事業についてコメントということはいたしませんが、全体としての感想を最初に述べさせていただいて、その後、教科「情報」を取り巻く最近の状況と、「情報I」に向けてどのように準備していくか、ということについてお話ししたいと思います。

 

私のことをご存知ない方もいらっしゃると思いますので、簡単に自己紹介いたします。現在情校科の教科調査官として、学習指導要領や教員研修用教材、そして現在は「指導と評価の一体化」のための学習評価に関する参考資料を作っています。この資料は、来年公表の予定です。

 

もともとは,石川県の公立高等学校の教員で、情報と理科(化学)を担当していました。そして、石川県教育委員会を経て、現在に至ります。

 


その他として挙げてみると、県の文教会館という財団の文化事業とか、石川県高等学校文化連盟の事務局長、部活は化学部と吹奏楽の顧問と、本当に様々なことをしてきました。教育基本法に関する特別委員会に公述人として参加したこともありますし、コンピュータについては、設計・製作の一般向け開放講座の講師をしたこともあります。

 

オンラインの長所が活かされたオンデマンド発表、交流タイム、模擬授業

まず今回の実践事例報告会の講評です。オンデマンドの実践報告は、先生方のアイディアが伝わって、非常に良かったと思います。先生方の思いも伝わってきました。また、YouTubeが先生方の名刺代わりになっているとも思いました。

 

発表者と視聴者の交流タイムはZoomで行われました。オンラインでこういった話をする際のファシリテートや、聞いたり話したりすることには結構スキルが必要ですが、さすがに皆様は身に付けていらっしゃることを感じました。これは、コロナ禍で授業をされてきたこともありますし、また公式・非公式ともに、オンラインでいろいろな試みをされてきた賜物だろうなと思いました。

 


 

模擬授業は、インタラクティブで、内容も良かったと思います。私もゆったり視聴させていただきました。教室で模擬授業を行うと、後ろに10人も並べばいっぱいになりますが、オンラインであれば、今日のようにたとえ100人入っても大丈夫というのが良いところですね。実際の公開授業の場合でも、オンラインとリアルをハイブリッドで使うという可能性もあるなと思いました。

 

今回のオンデマンド発表をすべて見せていただきました。見終わったら、さすがに目がチカチカしましたが(笑)。

 

こちらの数字のうち、「14」というのは、要綱に書いてあった10分以内に納まっていた本数です。全体の3分の1くらいですね。

 

「46」は動画の最長の時間数(分)で、3部作の合計が46分という大作でした。伝えたいことが詰まっていて、とても見ごたえがありました。逆に一番短いのは約5分でした。そのくらいで納めるというのも一つのやり方かなと思いました。

 


今回の実践事例報告会では、プログラム上でオンラインの授業と、オンデマンドの発表について、内容を示す記号をつけていただいていたので、内訳をグラフにしてみました。

 

「情報科全般・ICT活用・問題の発見・解決」が全体の半分ほどで、後の半分に「情報デザイン」「プログラミング」「データの活用」がバランスよくありました。

 


「情報I」の4つの分野で分類してみたのがこちらです。「問題の発見・解決」が若干少ないですが、他の分野にもこの要素は入っているので、全体として非常にバランスのよい内容だったと思います。

 


オンデマンド発表の内容は、まず「やってみた」ということで、遠隔授業とか、学術的な発表とか、評価、ネタ、テレビ番組風など様々でしたが、今回目立ったのは、失敗事例を出していただいたことです。これを出すのはとても勇気が要ると思いますが、授業を進める上で、とても皆さんの役に立つと思いました。

 


オンラインでこのような事例報告会をするときに、オンデマンドで良かった点としては、発表数に制限がないこと、そして移動の制約がないので、沖縄から秋田まで全国の先生が発表することができたことでしょう。

 

発表形態も、普通の発表会のようにスライドを見せながら話す人もいれば、テレビのナレーションのように画面を中心に見せながら話す人もいて、スタイルも自由でした。

 

そして、交流タイムでは、アイディアや現在の状況、課題・悩み、提案などが共有できたと思います。

 

模擬授業については、先ほどもお話ししたように、参加者数、特に視聴する人数に制限がないというのがよかったですね。また、授業形態についても、オンデマンドとの違いとして、質問する「間」や教材の出し方といった、授業の方法の中でも言葉にできないこういったインタラクティブな部分が共有できたと思います。

  

 

今回、準備は大変だったと思いますが、オンデマンド、模擬授業ともに非常に素晴らしいものでした。また、今回の動画は、1年後まではオンライン上で見られるようにするとのことですので、継続的に活用できるようになるのはすばらしいことです。本日の参加者が300人近くとうかがいましたが、多分今後1年間で、この5倍、10倍の人が見ることになるでしょう。私の方でも、積極的にこのアドレスをお知らせしていきたと思っています。

 

この実践事例発表会ができたのはどんな要因があるのか、考えてみました。SNSで広報したということは当然ありますが、実行委員の皆さんを中心にZoomできめ細かく会議スキルやマインドを共有したり、リハーサルを通して授業力向上を図ったりしたという、この二つの要素が大きかったと思います。

 


 

オンラインの発表を分散型の教材データベースにつなげる

 

情報の教材を集積したり、提供したりするためにどうしたらよいかということですが、どこかにまとめてインデックスを付けて、という試みは、今まであちこちで行われてきましたが、残念ながら多くが失敗しています。

 

今後この仕組みづくりに時間をかけることは難しいので、ここに挙げたように、「分散型の教材データベース」という考え方がよいのかなと思います。例えば、今回の神奈川県の実践事例報告会で、皆さんの授業がオンデマンドで、あるいは、模擬授業の記録として残ります。東京都にもこういった材料があります。全国高等学校情報教育研究会のサイトにも、発表された方のスライドや内容が載っています。他にも、例えば情報処理学会のサイトのプログラミングやデータ分析の授業法のMOOC教材など、いろいろな情報があります。今後他の県でも、いろいろ作られていくでしょう。これらがお互いにゆるく結合をして、例えば、1回大会を開いたら、1年間はそれを公開するというような申し合わせをしておいて、それをどなたかがキュレーションサイトのような形でデータの関連付けをして拡大を図っていただく。将来的には、これらを縦断する検索機能を、大学の先生が作ってくれたらいいな、と思っております。

 

 

我々はこれまでもいろんなことをやってきましたが、今回のように、オンラインだからこそ記録に残せるということが示されたのは、他でもたいへん参考になると思います。こういった分散型のデータベースで教材が集積され、それを活用していくということが、これからの在り方になるのではないかと思いました。

 

2022年度の「情報I」スタートに向けたタイムテーブル

 

ここからは、教科「情報」を取り巻く最近の話題についてお話ししたいと思います。

 

まず、準備のタイムテーブルがこちらです。「情報I」の授業が始まるのが2022年、それまでに、いつまでに何をすればよいのかをまとめました。

 

来年、2021年には教科書を採択します。そうすると、それまでには、1年間の授業イメージができていないといけません。今後いろいろな研修が行われると思いますが、一つのマイルストーンとしては、2021年の夏までには、1年間の授業がイメージできるようにしていただいて、2022年から授業を開始することになります。

 

 

もちろん、授業で必要な教材・教具を準備する、あるいは消耗品や備品として購入の申請をするということも、同時に進めていくことになります。「情報II」についても同様ですが、こちらは1年遅れになりますね。ただ、備品や消耗品の予算を申請するのは、やはり2021年でしょう。ですから、2021年夏頃には、必要なものは申請できるように検討しておく必要があります。

 

そして、2022年に「情報Ⅰ」の授業が始まって3年目の、2025年の1月には、大学入学共通テストが検討されています。実施ということになれば、授業は当然として、入試のためには2023年・2024年あたりには、生徒はそれなりの勉強をしておくことが必要になると思います。もちろん先生方には、そういった指導も必要になってくるという可能性は、十分意識しておいていただきたいと思います。

 

文部科学省では、2019年に「情報Ⅰ」、2020年に「情報II」の研修資料を出しました。そして来年には情報科の実践事例集を出していきます。教科書採択や、今後の授業展開に向けて、都道府県の教育委員会とともに準備を進めているという状況です。

 

学会や企業としては、今年度は、情報処理学会と株式会社アシアルから教員研修用のコンテンツが出ています。来年度以降は、さらに多くの学会や企業が参入してくることになるでしょう。

 

「情報I」の準備で何をしておくことが必要か

 

さて、「情報Ⅰ」で何が変わったか。今日の発表でもいろいろな事例をご紹介いただきましたが、現在は基本的には「社会と情報」「情報の科学」のいずれかを行っているわけですね。

 

「情報Ⅰ」では、それが全て変わるわけではありません。

 

現行の科目との関係で言うと、「情報I」の「(2)コミュニケーションと情報デザイン」は、「社会と情報」では「情報の表現」「コミュニケーション」を強化したものになります。また、「情報の科学」の「コンピュータの活用」「情報の管理」をしっかりやっていただければ、「情報I」の「(3)コンピュータとプログラミング」につながります。

 

「社会と情報」「情報の科学」の共通部分のである「情報社会、情報技術」「問題解決」「情報モラル」「情報セキュリティ」は「(1)情報社会の問題解決」で、「情報ネットワーク」は「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」で引き続いて扱いますので、今の授業でこのあたりをしっかりやっていただくことが、「情報Ⅰ」の一番の準備になります。

 

さらに赤字で書いた「情報デザイン」「プログラミング」「データの活用」は、新しい内容を多く含むので、この部分については特に準備を進めていく必要があるということです。

 

 

「情報I」の構造です。教科の目標は「問題の発見・解決」としています。そのために、「情報デザイン」「プログラミング」「データの活用」をツールとするわけですが、「情報Ⅰ」の内容を見ると、相当いろいろなことが書かれていて、果たして本当にできるのか、という心配を持つ方もおられるでしょう。

 

 

新学習指導要領には、小学校からの学習の積み上げが示されています。例えば「情報デザイン」は、小学校の図画工作で表現としてのデザイン、国語で論理的なデザインを学びます。

 

中学校の技術・家庭科では、機能としてのデザインを学んでくるので、「情報Ⅰ」では情報デザインの方法と考え方を体系的に学び、「情報II」では、それをどんどん使っていく、ということになります。

 

1人1台情報端末の話も出ておりますが、情報デザインを学ぶ際には、それでできることにはやはり限界がありますので、学校のコンピュータ室は、より高機能なものを配置する、いう役割分担も必要になるかと思います。

 

 

プログラミングについては、小学校で教科の中でプログラミングを体験し、中学校で計測・制御やネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングで簡単な問題解決をやってみます。そして「情報Ⅰ」では、問題解決のためのプログラミングを学び、「情報II」では情報システムのプログラミング、と体系的に学んでいくようにすることで、現在のように、小学校でも中学校・高等学校でも同じようなことをやっているという状態は解消したいと思います。さらにこれが大学につながっていくことになれば、そこでどのくらいのことができるのかということは、チェックしていく必要があるかと思います。

 

新学習指導要領では、統計についても強化されています。小学校で統計的な考え方、中学校で簡単な統計を学び、「情報Ⅰ」では「数学Ⅰ」と連携してデータの活用、「情報II」では、数学Bと連携してデータサイエンスというように、小・中学校の積み上げがあって「情報Ⅰ」があり、「情報Ⅰ」の発展として、「情報II」があるということです。そして、我々が準備すべきは、これらを問題の発見・解決に活かしていく場面を作ることになります。

 

■(1)情報社会の問題解決~「理解する」だけでなく、「必要な力をつける」

 

一つひとつの単元について、具体的な内容を見ていきましょう。

 

「(1)情報社会の問題解決」では、「問題の発見・解決で必要な力をつけましょう。理解するだけでは足りません」ということです。理解するだけでなく、意義を知り、仕組みを知って対応する力をつけることが必要です。

 

それから、調査やその発表を通して情報技術が果たす役割と影響との対応を考察し、提案する力をつけましょう。「情報I」を通して、Society5.0を生きるための力を高校生全員が持つことで、これからの社会が変わっていくと思っています。

 

 

■(2)情報デザイン~「表現」「機能」「論理」の情報デザインをバランスよく学ぶ

 

「(2)情報デザイン」は、今までは情報の表現や伝達が中心でしたが、新学習指導要領では「問題を発見・解決する方法」ということで、「情報の科学的理解」を重視します。単なる整理ではなく、「抽象化」「可視化」「構造化」まで考え、コンテンツ以外のウェブサイト、インタフェース、モデル化といったものも情報デザインの対象とします。

 

つまり、この後の「(3)コンピュータとプログラミング」「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」でやるようなことは、全部この辺りに入っています。つまり、「表現の情報デザイン」「機能の情報デザイン」「論理の情報デザイン」の3つをバランスよくやりましょう、という形で打ち出しています。

 

 

■(3)プログラミング~関数の使用によるプログラムの構造化も

 

「(3)プログラミング」については、こちらのスライドにある通りです。アルゴリズムの表現も、フローチャートだけではありません。また、問題の発見・解決には、関数の使用によるプログラムの構造化といったことも入ってきます。1人1台端末ということになれば、普通の教室でも必要な時に端末を出して、手元で確認することも可能になるでしょう。

 

 

■(4)ネットワーク~小規模な情報通信ネットワークを設計できる程度の力を身に付ける

 

「(4)ネットワーク」については、いろいろ挙げていますが、ご覧いただいてわかるように、外部機器の接続や、それに伴ったプロトコルの暗号化に対する理解も必要ですね。

 

ネットワークの情報セキュリティは、今の世の中では当然必要ですし、クラウドや分散型データベースも皆が使っています。それらの仕組みは知っておくべきですし、こういうことを前提として、小規模な情報通信ネットワークを設計できる程度の力は身に付けておくべきでしょう。家庭内でインターネットにつなぐとなれば、これも国民として必要な素養であるということで、「情報Ⅰ」に入っています。

 

 

■(4)データの扱い~数学Ⅰとの連携・すみ分け

 

同じく「(4)データの扱い」はご覧のような形です。このあたりを全て「情報I」でやるということではなくて、例えば、仕組みについては「数学Ⅰ」で学び、「情報Ⅰ」では、それを積極的に活用するという連携ができます。クロス集計や仮説検定の考え方、単回帰、あるいは質的データ、量的データ、外れ値なども「数学Ⅰ」に出てきています。

 

「情報Ⅰ」では、それらを活用するということと、より実践的な扱い方、例えば表形式で整理されていない数値データや、外れ値・欠損値、アンケート設計なども扱っていくことになります。

 

尺度水準という基準を用いると、名義尺度や感覚尺度といった数値に置き換えられないデータや、順序や感覚など、平均しても意味のないデータも扱うことができます。こういったデータの扱いをしっかりと学んでいくことも「情報I」に入っています。

 

データベースは、いわゆるSQL(Structured Query Language)などの扱い方だけではなくて、情報を収集・蓄積・提供する方法として、Webであるとか、情報システムを支えるものとしての、より広い意味でのデータベースを全員が学んでいくことになります。

 

 

「情報I」と「情報II」の扱い方の違い

■データの活用~「情報I」を始める時点で「情報II」の内容を意識しておく必要

 

ここからは、「情報I」と「情報II」でのデータの扱い方の違いについて説明していきましょう。

 

「情報II」では、情報の活用がより高度になります。「情報II」には、(1)~(4)の4つの分野と総合演習の(5)がありますが、特に、準備しておかなければならないのは、「(3)データの活用」でしょう。ここでは、今までほとんど扱って来なかった、統計的な推測、仮説検定の方法、機械学習の基礎になるような分析の方法についても扱います。さらに、ビッグデータやデータの信頼性に関わることも学びます。

 

最近は、公的データをはじめ、授業で使える様々なデータがかなり整備されてきているので、そういったものの活用も可能ですし、それを扱うプログラミング言語や環境なども、有償・無償ともいろいろ整備されています。

 

データの活用については、「情報I」と「情報II」ではスライドの赤字で書いたようなところが違ってきますので、「情報II」を行う場合は、この部分について、「情報I」を始める時点で準備をしておくことが必要になります。もちろん、「情報II」をやらない場合でも、「情報I」を教える際にこういったところを知っておけば、より深い授業につながるでしょう。

 

 

■プログラミング~「情報I」は「アプリ・ツール」、「情報II」は「情報システム」

 

プログラミングでは、「情報Ⅰ」で作るのがアプリやツールなどとすれば、「情報II」は情報システムということになります。ですので、「情報II」では、情報システムを作っていくための方法や、協力してシステムを作るための力といったものも必要になってきます。

 

 

■AI~「情報I」は「理解」、「情報II」は「どう使うか」

 

AIについても、授業の中で扱うために様々な背景的な知識が必要になりますが、「情報Ⅰ」ではAIというものの理解、「情報II」は、それをどう使うか、という考察までが必要となります。

 

機械学習については、「情報Ⅰ」は、そこにつながる内容として様々なことを学びます。「情報II」では、機械学習で行うデータ処理を実際にやってみるところもあります。

 

「人工知能」「機械学習」「ディープラーニング」の関係性としては、ここに挙げた図のようなものであると思います。ルールベースの人工知能もありますから、機械学習イコール人工知能ではありません。

 

ディープラーニングは機械学習の中に含まれるもの、という解釈もできるでしょう。実際にやってみるときには、AI関連のAPIを使ってプログラミングすることは比較的簡単にできますので、これはぜひ授業で試していただきたいと思います。

 

 

本格的に理解するためのキーワードを挙げてみましたら、随分たくさんになってしまいました。これを1個ずつやっていくと大変なので、これは大学の先生にぜひお願いしたいところですが、高等学校の先生をターゲットにして、人工知能や機械学習のための数学をコンパクトにまとめたものを作っていただくとありがたいと思います。

 

専門教科情報科にも目を通しておこう

 

こちらは、専門教科情報科です。総合学科や情報の専門学科などの高等学校では、これを授業に取り入れる学校も当然出てくると思います。

 

奈良県では、来年度情報科学科のある高等学校が新設されますし、茨城県では、令和5年度に情報の専門学科だけの高等学校ができるというように、各都道府県に様々な取り組みがあります。現在、普通科の改革も議論されていますので、そこでこういった専門教科情報科が入ってくることもあるかもしれません。

 

皆さんに知っておいていただきたいのは、こういった専門教科があり、専門の高等学校もできていること、そしてご自身の都道府県でこのような学校が新設される可能性もある、ということです。ですから、専門教科の内容がどんなものか、学習指導要領解説だけでも読んでおかれた方がよい、というのが私からのメッセージです。

 

 

高校にも1人1台情報端末の動き。高速ネットワークの整備も進む

 

こちらはGIGAスクール構想の概要です。令和2年度第3次補正予算のもので、ごく最近のものです。

 

ここで大きいのは、「児童生徒の情報端末整備支援」のところです。国公私立の、高等学校段階の低所得世帯等の生徒が使用するPC端末整備を支援するために、定額4万5000円出すということで、161億円が計上されています。

 

低所得世帯以外については、今回は補助金は出ないので、1人1台情報端末となった時に、都道府県でそれぞれ対応する、ということになります。

 

※クリックすると拡大します。

 

具体的には、広島県はBYOD、徳島県は地方創生のお金で対応すると聞いています。他の都道府県についても、半分くらいは既に1人1台端末に向かって準備を進めているようです。

 

また、障害者等に対しては、障害に応じた入出力支援装置に対する予算が講じられています。

 

もう一つ、注意していただきたいのは、学習系ネットワークを学校から直接インターネットへ接続する方式に改めるための整備を支援する、というところです。要は、教育センターなどでまとめて接続する方式ではなくて、学校から直接インターネットに接続する方式にしましょう、という予算です。これを出しているということは、学校のインターネット接続に関する国の一つのメッセージであると思っていただきたいと思います。

 

また、今回のコロナ禍のような緊急時における家庭でのオンライン学習支援については、家庭学習のためのモバイルルータの整備支援や、1人1台情報端末、高速大容量で機密性の高い安価なネットワーク、クラウドの整備など、全力で動いているという状況です。

 

今回の報告会の成果をもとに、課題を一つずつつぶしていく

ここからは、今後の課題です。

 

私が思うところの一番の課題は、研修です。日常的に先生方がオンラインで結ばれていれば、各学校に情報科の先生が1人であっても、孤独感はないでしょう。こういったことを何とか実現できないか、と思っています。それは、研究会レベルでということも、県レベルということもあるでしょう。教材の共有化も含めて、何とか形ができればと思います。

 


それから、教員の養成です。大学を卒業したら、すぐに「情報I・II」の授業がしっかりできるでしょうか。もちろん、できるとは思いますが、確実に準備を進める必要があります。

 

教員採用につきましては、「情報の先生が必要」という世論が欲しいです。情報入試の採用が検討されているということで、保護者からも一般の方々からも「きちんと教えられる先生が必要だ」という声は上がっていますが、教育委員会の方もこれを受けて、採用を拡大していくのかな、と思っております。情報科の教員採用のない県はあと数県です。

 

発展としては、全員がプログラミングを学ぶのですから、当然「もっとやりたい」という生徒が出てくるはずです。そういう生徒をどうやって伸ばすのかというときに、情報関係の部活動をぜひ振興してほしいです。企業とも連携して、優秀な生徒をどんどん伸ばす機会や場を作ってほしいですね。

 

そして、教材の共有化です。先ほどもお話ししましたが、「大会を開く時には、ぜひ、Web公開を前提として開いてください」とお願いしたところ、今回神奈川県の皆さんが素晴らしいコンテンツを作成してくださいました。他の都道府県でもこれができて、それらがお互いに結合すれば、分散型の教材データベースになると思います。

 

これからの授業、これからの大会は、リアルとオンラインのハイブリッドになるでしょう。状況に応じて、リアルを使うか、オンラインを使うか、あるいはその両方を使うかという使い分けで、適切な効果をどのように設計するかということが、大切になるだろうと思います。以上、私からの課題としまして、これらを出させていただきました。

 

今回、神奈川県の皆様が頑張ってやってくださったことを、この後、他のところとどのように連携していくか。そしてこれを授業としてどう取り入れてくか。ここにいない人たちも含めて日常的にオンラインで結ばれている環境をどうやって作っていくか。一部の先生だけではなくて、全部の先生にこれを届けるときどういうやり方があるのか。このあたりのところが、これからの課題になっていくと思います。

 

課題を挙げさせていただきましたが、今回につきましては、相当準備や工夫をされて、模擬授業についても、オンデマンドのコンテンツについても、発表者の皆様が相当の時間をかけ、ブラッシュアップして作ってこられたということを私は知っています。そういう形で活動を継続していただければということと、そして、より多くの人にこれを伝えるためにはどうしたらいいのか。1人で悩んでいる先生をどのようにサポートしたらよいのか。さらに、もっとやりたいと思った生徒たちには、どう答えていけばいいのか、などが、今後の課題となると思います。ぜひ、今後ともよろしくお願いいたします。

 

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