第13回全国高等学校情報教育研究会全国大会(オンライン大会)

基調講演「新しい情報科に向けて準備をしよう」

国立教育政策研究所 教育課程研究センター研究開発部研究開発課教育課程調査官

文部科学省 初等中等教育局情報教育・外国語教育課情報教育振興室 教科調査官

参事官(高等学校担当)付産業教育振興室 教科調査官

鹿野利春先生

 

基調講演「新しい情報科に向けて準備をしよう」

第12回全国高等学校情報教育研究会全国大会より 
第12回全国高等学校情報教育研究会全国大会より 

今回、このような形での全国大会の開催をご準備された方々、ありがとうございます。今年初めからの、新型コロナ禍の中、皆様には大変な思いで過ごされてきたと思います。新型コロナ禍については、今後も状況がどうなるか、まだわかりませんが、文部科学省からもいろいろな資料を出しておりますので、それもご覧いただいて、何よりも児童・生徒の安全を優先して、学びを止めない形で授業を進めていただくよう、お願いしたいと思います。

 

2022年度から「情報I」が始まるにあたって、来年2021年には教科書を選ばなければなりませんが、我々がこれを学んでいくのは何のためか。どのようなことに気を付けたらよいのか。授業の準備はどのようにするべきか。小学校・中学校の情報教育はどうなっているのか。そういったことも含めて、基調講演としてお話ししたいと思います。

 

今日の内容はこちらに挙げた通りですが、大学入試についても、公表できる部分のお話をしたいと思います。

 


こちらは日本経済団体連合会が出しているSociety5.0の説明図です。今、Society5.0に向けて世の中ではいろいろなことが言われていますが、そのとき必要なのは二つの「そうぞう力」、思い描く想像力と、それを作る創造力の両方が必要であると。情報科を学んで、何ができるようになるかというと、この二つの力が身に付くのであり、それは他の教科も含めてであると思います。デジタル革新と、この二つの「想像・創造力」で、課題を解決して、価値を創造していくことを目指す、ということになっています。

 

 

私としては、これからの子どもたちは、「ものを作る」ということを、リアルなものだけではなく、システムやプラットフォーム、ソフトウェアといったものも含めて、形のあるものも形のないものも、みんなで協力してやっていけるように、「1億総クリエーター」に向けて進んで行けたらよいのではないか、と思っております。

 

具体的な場面を考えてみましょう。例えば、事務仕事の多くは自動化されます。スーパーのレジは、もう自動化されているところが多いですね。車の運転も自動化されています。ロボットは、もうかなり多くの作業ができるようになって、例えば幕の内弁当のおかずを詰めるようなこともできます。

 

コンピュータやロボットがやるようになった仕事に、人間がチャレンジしても勝てません。そうなると、人間は人間にできること・人間しかできないことをやっていかなければなりません。中教審の答申でもこのことは出ていますし、学習指導要領の三つの柱、つまり「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力」、そして「学びに向かう力・人間性」は今お話ししたことを踏まえて作られています。


 

2021年の教科書採択のために、準備はすでに待ったなし

先ほどの経団連の資料の続きでは、Society5.0で求められる人材はこちらに挙げたようなものになっています。定型業務がAIやロボットに代替されるということは、自ら課題を見つけて、AI等を活用して、それを解決できる人材こそ必要であり、それは全ての教科、とりわけ情報科で育てていかなければいけないところだろうと思います。

 


そして、「多様性を持った集団において、リーダーシップを発揮できる人材を育てる」ためには、授業のやり方で、今までとはかなり異なるところを目指していかなければならない部分が出てくるのではないかと思います。

 

今、先生方は遠隔授業でいろいろなことにチャレンジされておられると思いますが、この「多様性を持った集団においてリーダーシップを発揮できること」を遠隔で実現するのは難しいかもしれません。しかし、できないと諦めたらそこで終わりです。何ができるか・何ができないか、そして、何を頑張ればよいのか。常に前進する気持ちで挑戦していただければと思っています。

 

当面は、2021年7月が一つのポイントになるかと思います。「情報I」が2022年4月から始まりますから、このくらいには教科書を採択する必要があります。そうすると、2021年度当初には1年間の授業イメージができていないと、教科書を選ぶことは難しいでしょう。

 

となれば、2020年度、つまり今年度中に「情報Ⅰ」の内容を理解しておくことが必要です。その際の課題を、ここに書かせていただきました。

 


当面の目標としては、教科書採択に向けて、しなければならないことをリストアップして、ここに書いてあるスケジュールで進めるのであれば、どんなことを・どのくらい・いつまでにしなければいけないか、という自己研修のプランを自分で作っていただくことが必要ではないかと思います。当然、都道府県等で研修が実施されると思いますが、ご自分で考えることが大事です。今日お話しすることが、それを進めていただくための材料や、助けになればと思っております。

 

■情報I

(1) 情報社会の問題解決 ~ 中学校までの学びを踏まえ、情報I全体の基盤を作る

 

情報Ⅰの内容についてお話ししてまいります。

 

最初の「(1)情報社会の問題解決」、従来も問題の発見・解決ということを行ってきましたが、このことに「統計を活用して客観的に判断して進める」と書かせていただきました。学年の当初に、中学校から上がってきた子どもたちが、何を・どのくらい学んでいるかを知っておかなければ、授業を始めることはできません。ですから、今年のうちにできることとして、中学校の授業は既に始まっており、技術家庭科の技術分野の教科書も出ていますので、ぜひそれを見ていただいて、何を・どのくらい学んでるのか、これを高校にどのようにつなげていくのかということを、考えていただくことが必要だろうと思います。

 

 

問題解決というのは、小さなことでも構いませんから、実際に何かしら自分でやってみないと、身に付かないと思います。例えば、平泳ぎの本をいくら読んでも、平泳ぎができるようにはなりません。ここでは何らかの形で、子どもたちに問題解決を実際に体験させることが必要だろうと思います。

 

法律、あるいは情報モラルについて。「これはやってはいけません」と教えたとして、子どもたちは本当にそれを守るでしょうか。やはり、この法律がなぜできたのか、どうしてこの法律がなければならないのか、あるいはないとどうなるのか。情報セキュリティを情報の科学的理解から見たらどのような意味があるのか。そういったことまで考えさせなければならないと思います。

 

そして、先ほどもお話ししたように、世の中が変わっていくとすれば、人に求められる仕事の内容や能力も当然変わっていくはずです。このようなことを考えさせることに、一番ふさわしい教科は情報科ではないかと思います。「統計を活用して」とありますが、実は今回の学習指導要領では、小・中学校段階の統計教育も強化されておりますので、かなりのことをやってきているはずです。

 

「情報Ⅰ」の教員研修用教材では、「問題の発見とはこういうことだよ」ということを子どもたちに示します。問題の発見にはかなり手間がかかり、手順も必要であること。そして、問題解決には一定の流れがあって、そのステップを踏んでやっていくことになることを示します。もちろん、実行するだけでなく、振り返りであったり、次の問題解決へということであったり、というのも問題解決の流れに入ります。

 

ただ、時間は限られているので、この部分の授業については、例えば、問題の解決法を考えたり、提案したりすることだけになるかもしれません。そこは学校の状況によりますが、基本的には問題発見・解決がこのような流れであること、そして、どうしても問題解決に焦点を当てる場合が多いですが、問題の発見、特に統計を用いた問題の発見を、ぜひやっていただきたいと思っています。

 

社会に出たときに、問題の発見と解決のどちらが重要か。どちらも重要です。しかし、問題の発見をやらなければ、解決にはつながりません。ですから、スタートは問題の発見です。そして、その根拠がなければいけませんので、そうしますと、やはり統計的なところになろうかと思います。

 

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情報セキュリティは、技術的に微に入り細に入ったことをやろうということではありませんが、大体こんなことだ、ということは、理解しておいてほしいと思います。具体的には、小学校5,6年生の子に、「ファイアウォールってどんなものか」と聞かれたら、絵を描いて説明するできるくらいの力が付いていればと思います。

 


そして、「社会が変化する」と言いましたが、そうすると、働き方の変化の下にはAIとかロボットがあり、生活の変化の下には家電とか電子決済があるわけです。そうすると、当然この要素技術を理解しておくことも当然必要ですし、それがわれわれの生活にどう影響を与えているのか、社会がどう変わっていくのか、ということを見ていくことも必要だろうと思います。

 


情報化が始まった頃に、今回のような形の全国大会の開催など、想像さえできなかったと思います。それが今はできている。これから先、5年10年経ったときにどうなっているのか、そのとき、どんなことができたらいいのかを考えることも必要だろうと思っています。

 

(2)コミュニケーションと情報デザイン ~ プログラミングやデータの扱いを学ぶための基礎として

 

「(2)コミュニケーションと情報デザイン」で扱う「情報デザイン」とは、端的に言って、このスライドの下にある「表現」「機能」「論理」の三つをしっかりやっていこうということです。

 

ポスターやWebページを作る時、そのバックグラウンドには必ず論理的な裏付けがあって、それが表現されています。そして、授業ではそういった表現活動だけでいいのかということになります。プログラミングとかWebと結びつくと、当然マン-マシンインターフェーのデザインも必要になり、それを踏まえた情報デザインをきちんと学んでおく必要があります。

 

 

ちなみに、インターフェースについては、ここでは機械と人のインターフェースが示してありますが、人から機械へ、あるいは機械と機械のインターフェースとははどんなものかを考えていくと、例えば、IoT(Internet of Things)といったことも理解できることになります。

 

そして、表現ということになると、アクセシビリティやユーザビリティ、ユニバーサルデザイン、色、造形といったことも必要になってきます。一方で、論理のデザインを究めていけば、それはアルゴリズム、つまりプログラミングやデータの扱いにもつながります。ですから、この「(2)のコミュニケーションと情報デザイン」というのは、その後のプログラミングやデータの扱いを学ぶために、ぜひとも必要なことになります。

 

また、この章では情報モラルも扱いますが、コミュニケーションとはそもそもどのように成り立っているのかを学ぶことによって、どのような形でコミュニケーションを行うのか、ということを考えることになります。

 

例えば、「情報I」の教員研修用教材では、コミュニケーションを学問的に図解した図が載っています。文脈を共有するところでコミュニケーションが成り立ちます。その過程で、送り手からの情報のエンコーディングと受け手のデコーディングが行われます。

 

ここで言っていることは、技術的なことだけではなくて、言語や慣習といった文化的なことも含んでいます。ですから、共通の記号体系ということで、ここに書いてあるようなものをベースとして、オンラインではこのうちの何が削られるのか、これが通信回線を通っていくときにはどういう形になるのか、通信速度が速くなると何ができるようになるのか、といったことも考えていけるとよいと思います。

 

 

情報の構造化については、小学校低学年での国語でも出てきます。ここに挙げた「究極の5つの帽子掛け」で示されるような5つの要素で表されます。

 

それらを「分岐」「因果」「階層」といった構造化をして、表現したり、インタフェースを考えたり、プログラミングをしたり、ということを行います。ですから、ここでいう情報の構造化というのは、この後学んでいく全てにつながるものであると思っていただければと思います。

 

 

情報1は標準単位が2単位ですから、週に2時間です。4つの単元を扱うとすれば、ここにあまり多くの時間を割くことは難しい。研修用教材には、こういった機能のデザインを考えるときに、ペーパープロトタイピングを入れてもよいと、書いてあります。この代わりにプロトタイピングツールを用いても可能ですので、ツールを使った事例を後ほど紹介したいと思います。

 

 

(3)コンピュータとプログラミング ~ 思い描く力と作り上げる力の両方を存分に発揮できるように

 

「(3)コンピュータとプログラミング」について。「情報1」のプログラミングは、例えばソートのような、いわゆるトラディショナルなアルゴリズムも当然扱いますが、小学校で体験して、中学校で基本的なプログラミングを学んで来るのであれば、高校では、それを使いこなすということになると思います。具体的には、図形を描くとか、あるいは投げ上げのシミュレーションをするとか、数式のシミュレーションをするとか、ロボットを動かすスマートフォンのアプリを作る、スマートスピーカー等と話をする、しりとりでもよいでしょう。要は、自分のやりたいことをプログラムで実現できるよう、思い描く力と作り上げる力の両方を存分に発揮できるような形になればと思います。そのとき、ここに書いてあるような、内部表現とか誤差といったことに気を付けなければならない部分が出てきます。

 

 

モデル化とシミュレーションについては、先ほどお話ししたとおりです。アルゴリズムも、フローチャートだけでなくさまざまな表現の方法がありますので、用途に応じて使っていく形がよいと思います。これはプログラミング言語も同じです。全てを一つの言語でやろうとすると大変ですし、言語によって得意な分野は違います。また、学校や地域、生徒などいろいろな事情や特性があるので、それに応じて選択していただければよい、ということで、プログラミング言語は規定しないということになっています。ただし、関数の使用による構造化や、プログラミングを進める上で一般的に必要な機能がありますので、そういったことは教員用研修教材を参考にされてください。

 

ネットワークにつきましては、中学校で既にネットワークのプログラミングも含めて経験してきていますので、ここに当然ネットワークが入ってきてもよいと思います。

 

以上のように、「プログラミングで学ぶ」「プログラミングを学ぶ」「プログラミングを活用する」など、いろいろなやり方を、状況に応じて組み合わせていただければと思います。

 

教員研修用教材では、外部装置ということで、micro:bitを例に出しております。学習指導要領には、中学校で学んだ「計測・制御」との接続に配慮と書かれていますが、教材はmicro:bitに限るわけではないので、学校に応じて、さまざまなものを使っていただければと思います。

 

教員研修用教材にmicro:bitを例にしているのは、非営利団体が作成したものであり、そして英国で100万個以上の配布があって、かなりコンテンツもあるので、例として出すのであればこれかな、というのが理由です。

 

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こちらはプログラミングの例で、Pythonで書かれたものですが、例えばプログラミングリストをこういう形で使って、試して、変更して、理解しようということで出しております。

 

ですから、教員研修用教材にはこのプログラミングリストも載せておりますし、情報処理学会が「情報I」の教員研修用教材に準拠して作成・公開した動画教材MOOC(※)にも、全てプログラミングリストが付いております。

 

写経のように打ち込んでいくことも必要という意見もありますが、なにぶん2単位で時間が限られていますので、何を優先するかを考えて準備を進めていただくことが必要であると思います。

※ IPSJ MOOC

 

 

例えば、円周率を求めるためのシミュレーションが、モンテカルロ法として、数学でも扱われていますが、これをプログラミングでやってみよう、というのがこちらです。このように、1画面に収まる程度のプログラミングでできます。このように、数学や物理で出てくるようなシミュレーションはたいていできます。

 

ですので、研修用教材にあることはベースと見ていただいて、実際授業で扱う時には、生徒の希望や状況に応じてさまざまなことを試みていただければ、と思います。そして、皆様も研修ではここに挙げてあることをちょっと変えて実行してみてください。例えばここでは2000回試してますが、これを2万回にしたらどうなるかとか、200回ならどうなるか、といったところから始めて、いろいろ変えてみながら最終的には自分で作れるようになっていただければ、と思っております。なお、教員研修用教材では、プログラミング環境がオンラインでもオフラインでもできる形を提示しています。

 

 

(4) 情報通信ネットワークとデータの活用 ~国民の持つべき平均的な能力として

 

「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」については、ここには「この程度のことをやってください」ということで書きました。「情報Ⅰ」はどのくらいのレベルなのか、とよく聞かれます。現在の日本の高校進学率と、「情報1」が必履修教科ということを考えたとき、これが国民の持つべき平均的な能力であり、あるいは、このくらいのことは、皆ができるようになろう、ということで出していると思っていただければと思います。

 

 

例えばネットワークの設計というのは、家庭内でLANを構築して、情報セキュリティを保って、いろいろなデバイスを使うということは、どこの家庭でもされると思いますので、この程度のことは、やはりできなければいけないでしょう。さらに、少し応用して、学校のコンピュータ室などで使うような、小規模なネットワークの構築程度をイメージしていただければと思います。もちろん、構成する機器やプロトコルに関する学習も必要です。

 

情報セキュリティについては、無線・有線の両方が必要ですね。さらに、データを蓄積、管理、提供する仕組みは、当然学んでおかなければいけません。この辺りは、皆さんも日常生活の中でやっておられると思います。また、皆さんのデータは、いろいろなサービスを利用することで、知らない間にも集められ、管理されて、新たなサービスとして提供されています。例えば、eコマースのお店でいろいろ見て回ると、次に入ったときには、自分の好みに合わせたものが推薦されている、という経験をされた方は多いと思います。こういうことが日常的に行われていますが、その仕組みはこんな感じであるということは、知っておかなければならないでしょう。

 

そのサービスの仕組みと活用について考えるとき、形式や尺度水準の異なるデータを扱う場合が出てきます。例えば、身長、体重などは、実数でなめらかに変移しますが、例えばアンケートの選択肢に1、2、3、4と番号を付けて選んでもらったとき、この1、2、3、4という数字と、身長や体重を同列に扱うことはできません。そういう扱いをどうするか、ということですね。さらに、量的なデータとテキストのような質的なデータをそれぞれどのように扱うか、ということもこの単元の重要なところです。

 

「統計的整理とそれに基づく解釈」については、「数学Ⅰ」で詳しく扱います。「情報Ⅰ」では「数学Ⅰ」で扱ったことを実際にやってみる、あるいは「数学Ⅰ」の内容をさらに深めることが目標です。

学校によっては、「情報Ⅰ」で学んだ後で、「数学Ⅰ」で、中身を詳しく学ぶ、というところが出てこようかと思います。

 

「情報I」の仮設検定では、「10回コインを投げたときに表2回裏8回というのはあり得ることなのか」という例が出ておりますが、これも「数学Ⅰ」で「仮設検定の考え方」を学べば、客観的に言えるとこであると分かります。

 

また、スライドの右下のグラフにあるように、身長(x)と靴のサイズ(y)の間には何となく関数関係ができそうだ、と。そうした時に、この予測関数y=ax+bの誤差が最小になるようにa,bを決めて線を引いてやる。予測値と実際の値の誤差の2乗の和が最小になるようにするので、最小二乗法といいます。単回帰直線です。このy=ax+bの線をさらに延長すれば、実測できないxに対する予測も可能です。こういったところを、数学Ⅰと連携してやっていきましょう、ということです。

 

教員研修用教材には、先ほどのネットワークの構築で、ご家庭ではだいたいこの程度の機器をWifiで接続するとして、これを構築するためにはどんな機材が必要でどのようにつなげばよいか、設定を考えてみよう、という活動になると思います。

 

実際に配線もやってみよう、というところまで踏み込むのであれば、今のうちに機材の準備も考えなければいけません。2022年から始まるとなれば、もう待ったなしという状況だろうと思います。

 


データの活用については、例えば下図の上段の左はAからFの6人の人のつながりを表すグラフです。これをつながっていれば1、つながってなければ0という形で表すと右側の隣接行列という図が書けます。これは生徒に直接教える内容には入っていませんが、こういう表し方もあるという背景として教員研修用教材に経済しています。このつながりが濃ければ1が多くなりますし、つながりがほとんどなければ0が増えます。人工知能の場合では、つながりのないものを扱うと、ほとんどのところが0になるといった形もあります。これも背景として必要なことということで、掲載しています。

 

下段は、中学校で子どもたちが学んでくる「箱ひげ図」です。情報科を教える先生方は、数学のご出身の方もそうでない方もいらっしゃいますが、子どもたちは、昔の教育課程では扱われなかったようなことも学んできますので、そういったことも説明してあります。

 

 

先ほどの最小二乗法を、数式で考えると大変ですが、このスライドの図のような形でわかりやすく説明しています。子どもたちにも、まずは図でイメージを理解させて、状況を見ながら、どこまで詳しく教えるかを判断していくことになるのかな、と思います。

 

 

情報II ~ 世の中で必要なことが詰まっている科目

 

こちらは「情報II」です。「情報I」は必履修ですが、これは選択です。(1)、(2)、(3)、(4)、(5)の5つの項目から成り、基本的には「情報Ⅰ」の発展です。

  

 

 

例えば「情報社会の進展と情報技術」では、人に求められる資質能力の変化まで踏み込みます。

 

「(2)コミュニケーションとコンテンツ」では、情報デザインを実際に行ったのであれば、やはりそれを活用して物を作ってみようということになります。

 

データの活用をやったのであれば、「(3)情報とデータサイエンス」では、それをさらに発展させよう。例えば、統計ではデータを収集・蓄積・処理・解析・可視化という手続きで扱いますが、情報技術を使って、データを分析してモデル化して予測をするところまでやってみましょう、と。「情報I」では単回帰を学んでいますが、それを応用していくと機械学習、人工知能につながっていくところまで見ていこう、ということになります。「情報II」は、「数学B」と連携して、よりこの部分を深めていこうということになっています。

 

「(4)情報システムとプログラミング」については、システムを構想したら分割して、皆で分担して作成して、それを統合して、という一連のシステム開発を、マネジメントも含めてやっていこう、ということを行います。「情報II」という科目は、「情報I」の発展ですが、内容的には、世の中で必要なことがここに詰まっていると、思っています。

 

「(5) 情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探求」では、問題発見・解決の探究の実践と、今まで学んだことを活用して、新たな価値に向けて頑張ってみようというものです。教科調査官の願いとしては、「情報I」は必履修と決まっていますが、選択科目の「情報II」も、できれば100%実施していただきたいと思っています。

 

1人1台端末、授業や評価へのクラウドの活用促進を進める

 

情報における1人1台端末の活用ということで、活用と評価の形としてどのようなものが考えられるか、ということをこちらに示しています。

  

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情報科の評価については、今まさに作成しており、来年度早々に公開ということになるかと思います。文部科学省としてもクラウド・バイ・デフォルトという形で、クラウドの授業や評価での利用・活用を進めていくことになっています。

 

さらに、文部科学省では、セキュリティについてもいろいろな資料を出しています。教育委員会では、今まさにいろいろと調整をされていることと思いますが、できるだけ参考にしていたたき、クラウドが取り入れられる形をご検討いただければありがたいと思います。

 

GIGAスクール構想では、現在小中学校で1人1台端末を進めております。その子たちが高校に来たら、自分の端末がない、ということはなかなか難しいと思います。そうしますと、やはり高校も1人1台端末を前提として、整備を進めていくことが必要と思います。

 

単なる問題発見・解決でなく、情報と情報技術を活用することが重要

 

情報Ⅰの構造を見ると、目標は「問題の発見・解決」であり、「情報デザイン」、「プログラミング」、「データの活用」、そしてもちろんネットワークも、これらは全てツールであると考えています。そうすると、ツールについていくら深く学んでも、問題の発見・解決が具体的にスムーズにできるというわけではありませんが、逆にこれらのツールを使いこなせなければ、問題の発見・解決ができないということにもなります。ですから、生徒たちには4つの単元がこのような関係であることを教えていただくとよいと思います。

 


授業の進め方を図にしたのがこちらです。「学習活動」として、情報と情報技術を活用して、問題を発見・解決する学習活動があります。そして「理解すること」は、その方法であったり、情報技術が人や社会に果たす役割や影響であったり、あるいは情報モラルですね。そして、「身に付ける力」が、情報と情報技術を効果かつ適切に活用して、問題を発見・解決する力、それから情報社会の構築に寄与する力、ということになります。

 

ここで、「適切に」という中には、情報モラルであったり、コミュニケーションのあり方であったり、SNSの利用のようなことも入っております。

 

皆さまに確認しておかなければいけないのは、情報科ですから、学習活動としては、情報と情報技術を活用することが必須です。単なる問題の発見・解決ではないとここで強調しておきます。

 

 

情報入試はどうなるか

大学入試につきまして、今現在、ここに書かれたことまでは発表されている、あるいは予測されますが、2021年度当初に入試大綱の予告があります。この予告を受けて、先生方はカリキュラムを作って、教育委員会等提出し、承認を得て学校で実施していく形になりますから、この予告は年度の早いうちに出るだろうと思われます。

 

 


どの科目の試験をどのように実施するか。そして2021年度前半に、皆さんがこれを受けて、カリキュラムを作成いただいて、2022年度から新学習指導要領が実施されます。

 

2024年度に入ると、各大学が募集要項を配布しますので、そこで詳しい話が出てきます。時期は大学によって異なります。年度の後半になると、新学習指導要領に対応した共通試験があります。ここを今、検討しているところですが、ここに「情報I」が入るのであれば実施されることになります。

 

同じく2024年度後半には、各大学の個別試験とありますが、ここにも「情報Ⅰ」あるいは「情報II」が入ってくることも考えられる。いずれにせよ、「情報Ⅰ」の入試の概要については、入試大綱の予告で公表ということですので、2021年度当初、大学入試センターから発表される形が予定されています。

 

小中学校の情報教育の内容も知っておきたい

小学校・中学校についても見ておきたいと思います。小学校では、学習指導要領で、基本的な文字入力が3年生国語と総合的な学習に位置付けられました。国語の教科書にも出てきます。

 


 

また、「情報活用能力」が全ての教科科目に入りましたので、基本的な情報機器の操作能力は全教科で行われます。プログラミングの体験は、5年生の算数で多角形、6年生の理科で電気の配線、全学年の総合的な学習などに入っています。それだけでなく、図画工作や音楽などでも行われています。

 

詳しいところは、小学校プログラミング教育ポータル(※)に書いてありますので、ぜひご覧ください。

 

「小学校プログラミング教育ポータル」 

 

中学校は主に技術・家庭科の技術分野における指導ということになっていますが、全部の教科科目での指導が推奨されています。

 


 

技術分野での「情報の科学的な理解」は、相当詳しく行われています。2進数や計測・制御のプログラミングは今までも行っていましたが、今回からネットワークを活用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングも行うことになりました。昨年度の授業として、実践事例集を作成しております(※)。こちらをご覧いただければ、実際にどのようなことをやってきたのか分かっていただけると思います。

 

「中学校技術・家庭科(技術分野)内容「D 情報の技術」におけるプログラミング教育実践事例集」

 

下図では、小学校から大学までの学びの流れがどうなるか、ということで、プログラミング・データサイエンス・情報デザインの流れの例を書きました。

 

例えば、プログラミングでは、小学校で体験して、中学校で簡単なものをして、「情報I」で自分のやりたいことがある程度できるようになる。そして、「情報II」でシステムを作る経験をして、大学は専門分野のためのものを作る、ということになりますね。

 

データサイエンスは、小学校で平均や統計的な考え方、中学校で簡単な統計を学びます。そして「情報I」でデータの扱い、「情報II」でデータサイエンスの基礎を学び、大学に行ったら、データサイエンスの応用ということになるのではないでしょうか。

 

情報デザインについては、小学校では、国語で論理的なこと、図画工作で表現など、各教科でやっていきます。そして、中学校では、技術家庭等の各教科でもやってきて、「情報I」で情報デザインの考え方・方法を学び、「情報II」では、それを生かしてコンテンツを作成します。そして大学等に行けば、デザイン思考などに発展していくと思います。小学校から大学を通して、どの段階で何をするか、ということを考え、そして、時代に応じてアップデートしていくことが必要と思います。

 

 

情報I・情報IIのための教材例

 

「情報I」「情報II」を教えるための教材の例を下に挙げました。情報科の教員研修用教材も、PDFで公開されています。

 

3つ目、デジタルツールを使ったデザインとして、Adobe社にお願いして、高校の先生方のために、情報デザインのお役立ち情報を集めて一度に見られるページを作っていただきました。ここを見ていただけば、授業案やツールの使い方、セミナーの情報などがわかります。

 

「ドリトル」については、大阪電気通信大学の兼宗進先生がデータ処理も扱えるように、機能を拡張してくださいました。それから、「Swift」はiPad等対応ですが、これについては電子ブックの形で教材ができています。

 

情報処理学会が、教員研修用教材に沿った動画教材を作ってくださいました。こちらは今一部が公開されているといますが、今後プログラミングとデータの活用について、どんどんコンテンツが充実してくることになっています。また、情報処理学会はPythonで作成していますが、株式会社アシアルの方では、同様のことをJavaで展開しています。ですから、用途や状況、必要に応じて、これらのサイトを活用いただければと思います。

 

◆「情報Ⅰ」「情報Ⅱ」のプログラミング環境の例

 

〇Micro:bit

オンライン環境(言語:Python,JavaScrit,Scratch)

オフライン環境(言語:Python) ※説明は英語

 

〇Python

オンライン環境(Googleアカウント必要)

オフライン環境 ※説明は英語

 

〇R(統計処理)

オンライン環境 ※説明は英語

オフライン環境 ※説明は英語

 

 

プログラミング環境については、オンラインでもオフラインでもできるように、どのような環境を使ったらできるかということで、Micro:bitとPython、Rについては、こちらにリンクを準備しました。

 

VisualBasicとSwiftについては、ハードウェアとソフトウェアの環境に依存しますので、先生方にお任せいたします。

 

[質疑応答]

 

Q1:問題解決の流れと、データの活用につきまして。「情報I」の「(1)情報社会の問題解決」では問題解決の流れを体験し、「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」で統計的手法の活用方法を体験的に学んでいくのではないか、と理解していたのですが、それでよいのでしょうか。要は、(1)ではあまり統計的な手法に深入りしないのではないかということです。

 

A1鹿野先生:データの活用については、既に中学校、あるいは小学校で統計の基本を学んでてきているので、(1)については、その範囲の中で問題の発見・解決を行っていただき、(4)ではさらに高度な形で進めると、考えていただければと思います。

 

Q2:スライドのp.7に「問題の発見・解決に統計を活用して客観的に判断して進める」とありますが、(1)においては、中学校と高校のブリッジ段階として、(4)を学ぶ前にどの程度、「統計を活用」することを想定しているのでしょうか。また、(4)において、数学Bを学ぶ前の段階で、どの程度「統計的推測」を扱うことを想定しているのでしょうか。

 

A2鹿野先生:基本的には、数学Ⅰと連携してできる程度のことを考えております。ただ、それについて もやはり幅があると思いますので、そこは学校、あるいは生徒の状況を見極めて、どのようなものを、どのような形で出せばよいのかというところが、先生の腕の見せどころかなと思います。

 

Q3:中学校までの習熟の差がかなり大きいことが高校情報の課題でもあります。中学校の技術科は、臨時免許などで指導されている割合が最も高い教科で、中学校によって学習内容が全く異なります。新学習指導要領においては、そこが改善されるのでしょうか。お考えをうかがいたいです。

 

A3鹿野先生:中学校の技術・家庭科の臨時免許、あるいは免許外教科担任が突出して多いということについては、我々も把握しています。これについては、こういった現状を改善しましょうという通知も当然出しておりますし、指導もしておりますので、毎年改善されていくであろうことは期待しておりますが、皆さまの地域において、望ましい状況に達しているかどうかについては、全国的にまだ差があります。

 

ですから、中学校で何をどのようにやっているとかを、入学してきたその生徒たち自身を見ることも当然必要ですが、実際に中学校で何をやっているかについて、ぜひ中学と高校の連携を深めていただきたいと思います。それによって中学校で何をどのくらいまでやっているのか、あるいは中学校の先生にこんなことをやってほしいということも、お互い情報交換していただければいいのかなと思います。

 

そうやって、毎年入ってくる生徒たち、高校には複数の中学校から入ってきますので、その中学校の子どもたちが、何ができて、何ができないのかということをレディネステストのような形で把握していただいて、「じゃあ、これくらいのことができるならここから始めよう」という目安を作っていただければと思います。

 

年度当初に、それをつかんでから全体のカリキュラムを作るのは難しいので、年度が始まる前に、ある程度のレベルを予測しつつ、そして始まったら、実際に確かめながら軌道修正をしつつ授業をしてゆくと。

 

大変かとは思いますが、生徒たちを理解することは、授業の基本ですので、そういう形で進めていくことが、当面必要になるだろうと思います。

 

Q4:情報Iは高校1年で履修することを薦めますか。現在、「情報の科学」を2年次に履修していますが、1年次に履修することには他教科の抵抗があります。

 

A4鹿野先生:スライドにも「1年次履修」と書こうと思ったのですが、書けませんでした。学習指導要領には、年次による履修という表現は、ほとんどないと思います。ただ、いつやればよいのかということ、これは「総合的な探究の時間」もございますので、皆さまの学校で、生徒のためにどれが一番良いかということで、判断していただければと思います。

 

今回の学習指導要領改訂で、履修時期が決まっているものは、家庭科における契約、公民における選挙等々に関わる選挙権のところは決まっておりますが、情報についてはそういう法律的にクリティカルな部分はございませんので、1年生で必ずやれ、ということにはなりません。

 

ただ、習ったことを他の教科でも生かす、あるいは「数学I」との連携、「総合的な探究の時間」で、情報Iで習ったことを活かしてくことを考えたときに、どこでやるのが最善であるかというところをご判断いただいて、進めていくことになろうかと思います。

 

Q5:大学入試における情報Ⅰの扱いについて、もう少しお話しをうかがいたいです。

 

A5鹿野先生:大学入試につきましては、先ほど申しましたことが、現在発表されている全てですが、大学入試のセンターが入試を実施したとして、大学がそれを採用するかどうかという問題はあるかと思います。

 

ただ、これにつきましては、いろいろなプロセスがあると思いますので、ここでそれがどうなるとか、こう予想できるということを、私から申し上げることはできません。

 

Q6:今回共有いただいている資料の一部を、教員研修などで使用したいのですが、いかがでしょうか。YouTubeなどでの公開も含めて、回答をお願いします。

 

A6鹿野先生:教員研修でテキストとして使うことを考えて作っておりますので、使っていただければと思います。タイトルも「教員研修用教材」ですから。

 

ただ、YouTubeなどでの公開ということになったときに、これの著作権につきましては、「教員研修用教材に掲載する」ということでの著作権許諾でございますので、YouTubeは公衆配信になりますので、この点についての許諾はいただいておりません。その点については十分ご留意いただけるようにお願いいたします。