令和2年度神奈川県高等学校教科研究会情報部会 研究大会

「情報I」を教えるための準備

鹿野利春先生

国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官

(併)文部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課情報教育振興室教科調査官

文部科学省初等中等教育局参事官(高等学校教育)付産業教育振興室教科調査官

 

単なるコロナ対策でなく、「オンラインも含めた学びの再設計」を見据えて

2019年神奈川県高等学校教科研究会情報部会
2019年神奈川県高等学校教科研究会情報部会

今日は、この情報部会研究大会の発表を最初からずっと見ていました。神奈川県は、GIGAスクール構想を1年前倒した形でやっていただいたので、今回の事態にも見事に対応することができました。ありがとうございます。

 

今日もお話に出ていたオンラインを含めた授業ですが、単に「オンラインの授業をする」ということではなく、今回は学年の最初から休校になってしまっているので、まずはオンラインという形で生徒と先生、生徒同士の関係を成立させなければいけません。もしそれをまだあまりやってないという場合は、そこから始めるべきであると思います。

 

そして、学びを補強する部分とともに、先ほどの先生方の発表の中にも出てきたように、生徒の意欲、あるいは深い学びとのバランスをどう取っていくかというところも大切です。一言で言えば、今先生方がされていることは、オンラインを含めた「学びの再設計」であるわけです。従来の授業と、このコロナの事態に対応するためのオンラインで行う授業、そして今後に向けてどういった形で学びを進めていくか、という設計をし直さなければならないのではないか。

 

さらに、今後を考えたときに、このオンライン授業を、普通の授業であれば、どこで・どうやって使っていくのかといった辺りも、きちんと考えていかなければならないと思います。

 

日本の情報教育が根本から変わる

 

今日の私のお話は、「『情報Ⅰ』を教えるための準備」といたしました。教えるために何が必要か。今日はこの位置付けと、この時代に必要なもの、それから発達段階に応じた情報教育ということでお話ししたいと思います。

 

まず、これまでの情報科の改革を振り返ると、高校情報科の改革だけではなかった。小学校からプログラミングを始めますから、初等中等教育の改革かなと思いましたが、これもやはり△で、結局は日本の情報教育の改革なのです。これが入ることによって、これからの社会が変わっていく。そのとき社会人もリカレント教育をしなければいけなくなっていきますから。当然、小学校・中学校・高校の先生方も、新しいことにチャレンジしていかなければならない、ということになります。

 


下図は、皆さんご存じの共通教科情報科の変遷です。「情報A」「情報B」「情報C」で始まって、情報活用の実践力重視ということは大体できたので、「情報B」が現行の「情報の科学」へ、「情報C」が「社会と情報」へつながりました。ただ、割合的には「情報の科学」が約20%、「社会と情報」が約80%です。新学習指導要領は、これを一本化して「情報Ⅰ」、さらに新しい発展的選択科目の「情報Ⅱ」を設置、というのが大きな変更です。

 

今回の改訂は、神奈川県の先生方や、教育委員会の指導主事の方にたいへんお世話になりました。新学習指導要領の何割かは神奈川県ゆかりのものということになります。改めて御礼申し上げます。

 

 

下図は、小中高の新学習指導要領における情報教育に関する記述をまとめたものです。赤いところは、大きく変わるところです。

 

まず、統計教育が強化されます。そして、情報教育は小中高で体系的に全員に対して行い、情報活用能力は、すべての教科・科目等で重視する。プログラミングは、小中高で全員が学ぶ。小学校ではプログラミングの体験が中心、中学校では技術・家庭科が中心になりますが、高校では「情報Ⅰ」で行います。

 

さらに、高校では情報科と数学科が連携します。例えば「数学Ⅰ」と「情報Ⅰ」、それから「数学B」と「情報Ⅱ」の連携を考えております。もちろん「数学B」を取らなくても「情報Ⅱ」はできますが、連携して学ぶと、さらに効果が上がるということになります。

 

 

「情報の科学的な理解」を発達段階に沿ってまとめたのが、下図です。小学校では「情報手段の特性の理解」が目標なので、プログラミングは「体験」です。小学校では情報機器の基本的な操作も学ぶことになります。中学校では、「基本的な情報処理の仕組みを学ぶ」ということになるので、そうするとプログラミングも計測・制御や、ネットワークを用いた双方向性のあるものになります。

 

高校は「問題を発見、解決する方法」ですから、プログラミングはあくまでツールであって、プログラミング自体を学ぶことが目的ということではありません。情報デザインやプログラミング、データの扱いといったことを学び、合わせて使っていく。これらを通して仕組みを知り、適切に活用できるようになる。情報活用能力の基礎には、こういうものが必要だろうということです。

 

 

先ほど「日本の情報教育全体」という話をしましたが、内閣府の統合科学技術イノベーション会議では、小中学校から社会人までを通した情報リテラシー教育をこのように見ている、というのが下図です。

 

高校では、すべての高校生が「基礎的リテラシー」を学ぶことになっていますが、この基礎的リテラシーが「情報Ⅰ」に相当すると思います。ですから、大学入試でこの科目の採用拡大をしていくというように記載されています。そして大学、高専では数理・データサイエンスやAIをやりましょう、と。「情報Ⅰ」でもデータは当然扱っていますし、「情報Ⅱ」となれば、「データサイエンス」が単元に入っており、「情報Ⅰ」→「情報Ⅱ」と学べば、大学にしっかりつながっていくという流れになります。

 

そして、社会人はこの方向性を受けてリカレント教育を受ける。このような流れが国全体にあって、その中で我々はこの高校の部分を受け持っていきます。このスライドによれば、我々のやったことは、大学入試を経て、大学へとつながっていく、ということになります。

 

 

これからの時代に必要になる力とは

では、これからの時代にどのような力が必要になるのでしょうか。

 

例えば、横浜から霞ヶ関の文部科学省までは歩いて行きませんよね。電車で行きます。交通機関というテクノロジーを知っていて、どのくらい時間がかかるか、万一途中で止まってしまった場合はどこで乗り換えるか、などいろいろなことを考えます。これが交通機関を使いこなす、ということです。

 


 

テクノロジーについても、同じことがすべての人に必要になります。それを体験して、身に付けて、実際に問題解決に使っていくことで身に付けることができる。そして、そういうやり方を皆で共有していきます。

 

交通機関で言えば、電車だけでなく自動車もあればバス、飛行機もあります。同様にコンピュータで言えばデータも扱えば、プログラミングでいろいろなものを動かしますし、ロボットを制御することもあるでしょう。これからはAIも当然入ってきます。それが、用途に応じた交通機関を使い分けるのと同じことになるわけですから、「私はコンピュータは嫌いだから使わない」ということは、現代社会においては多分許されない。当然身に付けておくべきリテラシーとなるのです。

 

具体的に言えば、例えば事務系の仕事はどんどん自動化されます。そういった仕事をいくら人間が頑張ったところでコンピュータには勝てません。では何をすればよいのか、ということをしっかり把握しておかないといけない。車の運転やスーパーのレジも自動化が進んでいます。ロボットもどんどん増えています。特にロボットが自動化、自律化することで、人間がする仕事がどんどん少なくなり、社会構造の変化が起きるでしょう。ただし、残る仕事はあります。普通のタクシーは、もしかしたらなくなるかもしれませんが、ハイヤーのような高い付加価値のあるサービスは残っていくでしょう。

 

Society5.0はどんな社会になるか

 

では、具体的にどのような社会になるのか。

 

「価値を生み出す」社会ということは、価値を生み出すことができる人が重要視されることになります。「多様性」という点で言えば、いろいろな才能が求められる。学校の勉強でもいろいろな才能が発揮できるような授業、あるいは学習にしなければならないわけです。

 

「分散」ということについては、このコロナで言われ続けていますが、おそらくbeforeコロナとafterコロナで社会は大きく変わると思います。地方に移住する人もどんどん増えるでしょう。今日、私は自分の役所の会議室からこの総会に参加していますが、そう言っているだけで、本当は自宅から参加しているのかもしれない。東京か、地方かなどということは、もう問われない社会になっているのです。

 

また「強靭」とありますが、ここは皆で作っていかなければならないところです。最後に「持続可能性・自然共生」、いわゆるSDGsのことがありますが、最適化されることによって、いろいろなことがうまく回っていくようになるだろうという希望はあります。

 

 

下図は、経団連が作ったSocietyt5.0の図です。「想像力(imaginability)」と「創造力(creativity)」の二つを持っている人がほしい、だからこういう力を育ててほしい、ということが書かれています。

 

こういうことは教えてできるものではないので、子どもがそれを体験できるような授業設計をしなければならない。「情報」は、特にこれができるのではないか、という期待を持っています。

 

 

下図は文部科学省の出したもので、今度の学習指導要領の一番もとになるところです。知識・技能だけではダメですが、ベースになることだからしっかりやりましょう。オンライン授業の中でも、ここをしっかりやりましょうね、ということで、いろいろな方が頑張っておられます。

 

同時に思考力・判断力・表現力を育てることが必要ですが、これをどう評価するか、いうことが大切です。これについては今年手引きを作成して、来年公開する予定になっています。

 

さらに、学びに向かう力・人間性については、態度と自己調整力の二つを見ますよ、ということになっています。

 

 

「情報I」を教えるために知っておくべきこと

 

高校の先生が「情報I」を教えるための準備をするために、生徒たちが何を学んできたかを知っていただく必要があります。小中高を通した情報教育で何をしてくるか、ということを見てみましょう。

 

ただし、2022年に高校に入学する生徒は、全員が一様に学んでいるかどうかということについては、やや混乱が出るかもしれません。

 

さらに、全国的にはいわゆる臨時免許や、免許外教科外担任であるという先生もいらっしゃいます。中学校の技術科も、人数的には高校の情報科以上にそういった状況です。また、本日発表があったような、高校に入学した生徒に対して授業の前に導入テストを行って、中学までに学んできたことを確認しておかないと、学んできたはずなのにやっていない、あるいは逆に中学までにやったのと同じことの繰り返しになってしまう、ということになりかねず、注意が必要です。

 

これについては、教科書を見ただけではわかりません。学習指導要領が変わるときには、移行措置でいろいろな資料が出ているので、こういったものも取り寄せて見ていただかないと、本当に何をやってきたのかはつかめません。これはけっこう大変ですが、こういったことも事前準備として必要です。

 

小学校については、とりあえず下図のようなところです。

 

文字入力は、3年生で教科書に出てきますから、今までのようにキーボード入力が全くできないということはないでしょう。ただ、どれくらいできるかは不明です。現在、情報活用力調査を小中高で行う準備を進めています。これについては、再来年頃には結果を報告できると思います。

 

また、基本的な情報機器の操作能力についても、各教科の活動の中でやってくださいね、ということになっています。

 

 

プログラミングの体験は算数、理科、総合的な学習の時間でこんなことをやってくださいね、ということが具体的に教科書に書いてあります。

 

教科書に書いてあるということは、日本全国の小学校の子どもたちが、このスライドにあるようなことは学んできている、ということです。理科では、人が近づいたら人感センサーでスイッチが入るとか、総合的な学習の時間でロボットを動かしたりする所もあります。

 

 

授業の中では今申し上げたようなことを行いますが、皆さんに知っておいていただきたいのは、下図のF、学校外でのプログラミングの学習の機会です。

 

今、習い事として学校外でプログラミングをやっている子どもが少なからずおり、首都圏はその割合が結構高いです。先日、習い事のランキングでプログラミングがトップになっている、というニュースを見ましたが、おそらく先生方よりよくできる子がクラスに1人や2人はいるでしょう。ですから、先生が全部教えてあげなければ、ということでなく、そういった子どもを味方に入れて進めていくようにしていただきたい。そうしないと、その子も伸びませんし、先生方も大変です。その点は、ぜひよろしくお願いします。

 

 

中学校の技術・家庭科技術分野では、今高校でやっている「情報の科学的な理解」について、2進数も含めて、かなりのことを学んでしまいます。計測・制御のプログラミングは今までどおりで、さらにネットワークを活用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングも学んでくる、ということになります。

 

これは小学校・中学校・高校でプログラミングを含む情報活用能力それぞれどこまでやるかということを決めたときに、高校段階ではプログラムをツールとして活用し、社会参画を考えるところまで、というような上限を決め、小学校では体験としてやっておくのであれば、中学校は増強しなければならないね、という話で、全体のバランスを取って決まったことです。

 

 

具体的には下図のような内容です。マイコンボードを使っているところもありますが、ここは様々です。

 

皆さんに知っておいていただきたいのは、これからは何かしらこういうことを学んだ生徒が入学してくるので、「情報Ⅰ」は、それをベースにさらに伸ばすということです。

 

ですから、プログラミングの勉強をするだけでなく、ご自分の学校では教材として何を使っていくのかを早めに決めていただき、どんなものが必要かを管理職とお話しつつ、委員会にも購入の手続きを進めておいていただきたい。そうしないと、実際に授業が始まったときに何も材料がないということになってしまいかねません。中学校ではいろいろなものを使って動かしてきたのに、高校になったら画面の中だけということになります。実際にこのような具体物を使う・使わないでかなり違いが出てくるのではないか、と思います。

 

 下図はネットわっくを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングのイメージです。このように、中学校でネットワークも学んできます。情報Iの教員研修用教材では、4章でネットワークが出てきますが、3章のプログラミングのところでネットワークを使っていただいても、もちろん結構です。

 

 

情報I(1)情報社会の問題解決~「情報I」の基礎だからこそ、ゆるがせにできない

 

ここから先は、「情報I」の内容をご紹介していきます。まず第1章の「問題の発見・解決」では、例えば「問題とは何か」「具体的にそれをどう落とし込んでいくか」といったことを、こういった図解で例を挙げて出していくという形で提示しております。

 

第1章は、場合によっては集合研修で扱う時間があまり取れないかもしれません。しかし、ここが「情報Ⅰ」の根本です。この問題解決のために、プログラミングやデータの活用、情報デザインといったものが出て来るのであり、社会参画につながるのはこういうところです。ですから、この部分はぜひしっかり押さえていただきたい、ということで、研修用教材にもスペースを取って載せています。

 

 

これを生徒たちにどのように体験させるかということは、授業設計の上でぜひ考えていただきたい。例えばセキュリティであれば、教員研修用教材では、このような図を提示して、イメージで伝わるようにしています。

 

これは私がラフを描いて、イラストレーターが仕上げてくれたものですが、先生方が実際に授業をする時には、生徒に合わせていろいろ料理していただければと思います。

 


 

こちらは、AIや電子決済などいろいろなものが入ってくることによって、働き方や生活が変化し、やがてそれが社会を変えていくよ、という形です。これについては、実際に生徒たちに議論させるということが必要でしょう。その後発表することもした方がよいかもしれません。ここも、授業をどう設計していくか、ということが課題になります。

 


 

(2)コミュニケーションと情報デザイン~プログラミングやデータの扱いもココが基盤になる

 

下図は第2章「コミュニケーションと情報デザイン」のコミュニケーションの図です。

 

コミュニケーションは、大学ではこのような形で学問として科学的・学問的に教えていますが、これをこのまま生徒たちに見せてもぴんと来ないかもしれません。しかし、先生方はバックグラウンドとして知っておく必要があるでしょう。

 

そのときの共通の記号体系として、言語には、自然言語と人工言語があり、視覚言語には色や形、シンボル、手話などがあり、非言語としては身振りや表情といったものも「伝える」ための体系を担う。この時、お互いのバックグラウンドが違うと誤解が生じてしまうよ、という話も当然出てくるわけです。

 

 

こちらは情報の構造化です。情報科の要素にはここに挙げたようなものがあり、「分岐」「因果」「階層」を図解にするとこうなる、ということも行います。プログラミングするにしても、データを扱うにしても、この辺りの内容を理解できていることが必要です。ですから、まず第1章で問題の発見・解決があり、続いて第2章で情報デザインが出て来るわけです。

 

 

同じく第2章では、情報デザインの三つの要素として「論理」、「表現」、「機能」を挙げています。「論理」については既に述べました。「表現」は、ポスターであったりウェブページであったり。「機能」では、例えばアプリやWebページを作る時には、画面遷移がわかるようなプロトタイプを作ることは必要でしょう。ただ、2章での段階でこれを作るのはかなり負担が大きいので、仮に紙に書いていくということでも結構ですし、プロトタイピングツールを使って電子的に作る方法もありますよ、ということも紹介します。電子的に作ることについては、また後ほど紹介します。

 

 

(3)コンピュータとプログラミング~中学校の計測・制御と関連づけて

 

3章では、外部装置の例としてmicro:bitをあげています。micro:bitは、非営利団体が作っている教材であり、海外を含めて学校現場に広く普及して、教育コンテンツがたくさんあるものなのでここで使っています。価格は1枚2000円ほどで、いろいろなことができますので、手始めに使うには面白いと思います。ここでは、順次のプログラミングに繰り返しを入れるという形を考えています。

 

 

プログラミングの実行環境をどのように作るか、ということについて言えば、例えば端末として CromeBookを使う場合は、オンラインのプログラミング環境で実施可能です。逆にネットワーク環境が安定してないところでは、端末にオフラインの環境を作っていただいても構いません。

 

 

(4)情報通信ネットワークとデータの活用~数学と関連付けたカリキュラムマネジメントが必要 

第4章のネットワークについては、家庭内LANを例にして、身近なことから始めよう、という例を示しています。


 

第4章のもう一つの柱、データの活用については、まず人同士のつながりを離散グラフに書いたものを行列で表すとこうなるよ、ということを見せています。生徒は1年生では行列を習わないので、授業でやることはできませんが、先生方はバックグラウンドとして知っておかれた方がよいだろう、ということで載せました。

 

箱ひげ図については、新学習指導要領では中学では習ってくることになっています。数学科の免許を持っていない方は、箱ひげ図はご存じないと思いますので、詳しく説明してあります。

 

 

データの活用については、回帰直線や残差といったことも学びます。数式で説明すると難しく感じることもあるかもしれませんが、生徒たちにまず「こんな感じだよ」というイメージで理解させて、生徒の理解度を見極めて、数式を使ってもついて来られそうであれば数式を使う。そうでないなら、例えば表計算ソフトを使って実際に試してみる、などいろいろなやり方があります。あくまで、地域や学校、生徒の状況に応じてやっていくべきと思います。

 

この単元は数Ⅰと連携していくと効果がありますので、その部分のカリキュラムマネジメントをしなければなりません。これは、年間の指導計画に関わる大きな連携です。2022年度から始まるのであれば、2021年度中には数学科と連携のありかたを相談して、進度なども調整し決めておかないと効果的な授業はできません。

 

授業の中でどのようにうまく教えるかも大切ですが、カリキュラムマネジメントなど授業をするための準備は,前の年から始まっています。もちろん、そのために何か購入するものがあれば、その準備もしておかなければなりません。

 

 

「情報II」・専門教科「情報」にも目を通してみよう

 

先日「情報Ⅱ」の教員研修用教材が公開されました。「情報Ⅱ」でやることを知っておいていただくと、「情報Ⅰ」でどの部分をどのように教えたらよいかということがわかりますので、こちらもぜひ見ていただければと思います。

 

これは専門教科情報科の内容です。こちらも大きく変更されました。今まで「情報セキュリティ」という科目はありませんでしたが、今回作りました。システム分野の科目も高度化しました。コンテンツ分野の科目も、「コンテンツの制作と発信」「メディアとサービス」という、配信も含めたものを作りました。これらは、今まで専門学校や大学で扱っていたと思われる分野です。

 

赤で囲んだ科目は、教科書会社が新しい学習指導要領の教科書は作らないということを決定しました。そういうわけで、昨年、「情報システムのプログラミング」の教科書を文部科学省で作りました。このような教科書は「文部科学省著作教科書」といいます。今まさに「ネットワークシステム」「データベース」を作り始めており、来年「メディアとサービス」を作ります。

 

そして、今年は情報科実践事例集を作ります。秋口から作り始められると思っております。新学習指導要領の共通教科「情報I」「情報II」については、学習指導要領解説、「情報Ⅰ」「情報」Ⅱ」の教員研修用教材、そして今回の実践事例集が、文部科学省から出すものになると思います。

 


 

神奈川県では、毎年末に実践事例の発表会を行っています。これは本当にすばらしいので、ぜひ全国的に知らせなければ、ということもあり、全国の良い事例を集めて作成する新しい情報科についての実践事例集を企画したところ、それはよい、ということになり、予算もついて制作できることになりました。

 

皆さんはこれから「情報Ⅰ」の内容に関連した授業をされると思いますが、ぜひ公開を前提に、この事例集に掲載できるように、著作権などに配慮して教材等を作っていただきたいと思います。授業風景の写真も2、3枚撮っておいていただくと、さらに深みが増すと思います。

 

 

「情報I」用教材も続々登場!

 

文部科学省以外の教材として、Adobe社にお願いして、先ほどの機能のデザインのためのプロトタイプ作成の電子ツールとして、AdobeXDというツールを用いた授業案やチュートリアルを作っていただき、無料で使えるようにしました。

 

今までは、Adobe社のウェブページのあちこちにあって探すのが大変だったものを、先生方が授業で使えるものをワンストップで見られるようなページを作っていただいた、ということです。ここを見ていただければ、電子的なツールを使った活動とはどのようなものかをわかっていただけると思います。

 

これにつきましては、特定のメーカーのものなので、研修用教材に載せることはできませんでしたが、実際にツールを使って行うなら、ということでぜひ参考にしていただきたいと思います。


また、情報処理学会には、特に「プログラミング」と「データの扱い」のMOOC教材を作っていただいています。こちらは、7月末に公開予定です(7/29公開)。

 

ここでは、情報の教員研修用教材に載っているプログラミングのリスト、それからデータを扱うためのデータのリストなど、要はここを見れば、特に入力することなくプログラミングの体験学習ができるようになります。各自治体で行われる研修と合わせて、これを使っていただければより力をつけていただけると考えています。

 


プログラミング環境はどうすればよいのか、という質問をよくいただきます。

 

例えばmicro:bitであれば、スライドにあるようにオンライン環境でもオフライン環境でも作れます。Pythonも同様です。ぜひお試しください。

 

 

授業のイメージを作って具体的な準備に入ろう

 

「情報I」の授業準備として何をするか。まずは、「情報Ⅰ」の教員研修用教材を準備してください。そして、情報処理学会作成の動画はもう7月に公開されますから、それを見て学んでいくとよいと思います。

 

学校でオフライン環境がインストールできない場合もあるかと思いますが、自宅ではオフライン環境もインストールできますから、先ほどのものも見ながら試していただきたい。こればかりは触ってみないとわかりません。

 

情報Ⅰの教員研修用教材では紹介していないものもあります。micro:bitは、意外に奥が深いです。温度センサーなども付いていますし、オプションでさらにいろいろ付けることができますので、ぜひこれは体験してみてください。

 

絶対やっていただかなければならないのは、授業をイメージするということです。いつまでか、というと、ずばり2021年の6月、7月。この頃、2022年の授業で使う教科書を採択しなければなりません。1年間の授業がイメージできないのに教科書の採択ができるか、というとなかなか難しいものがありますし、イメージできないまま教科書を決めてしまうと、次の年は結構大変なことになると思います。ですから、来年の6月、7月くらいまでには自分の授業をきちんとイメージできるようにしておかなければなりません。

 

必要なものを書き出そう、とありますが、授業をイメージすれば必要なものはけっこう出てきます。例えば、オンライン環境でいくとすれば、学校のコンピュータにショートカットを作っておかなければならないとか、オフライン環境ならインストールしておかないといけないな、といったことです。2022年になって一度にやるというのでなく、今から少ずつ進めておいた方がよいでしょう。そうすると、子どもたちにこんなことを身に付けさせておいた方がいいな、などといろいろなことが出てくると思います。さらに、中学校の教科書を見て、これを高校で発展させるためにはどんなものが必要かというのを書き出して、カタログを集めたり、これから我々が作る実践事例集を見ながらイメージしたり、購入の要求をしたりして、準備しなければならないと思います。

 

公立の先生には、必ず異動というものがあります。異動した先の高校の環境が全く異なるものだった、ということは当然あるでしょう。それに対応はできるかもしれませんが、自治体の単位である程度共通のものがあれば、スムーズに運ぶかもしれません。この辺りをどこが調整するか、という問題はありますが、今申し上げたことを含めた準備も忘れずにやっていただきたいと思います。

 

Rも勉強しておくとよい、とありますが、Rは統計処理に強いプログラミング環境です。「情報Ⅰ」ではちらっと出てきますが、「情報Ⅱ」ではデータサイエンスということでかなり深く扱っています。ですから「情報Ⅱ」も見ておくと「情報Ⅰ」が深まる、ということになるので、ぜひRにも触れておいていただきたいと思います。

 

ちなみに、教科書はまだ出ておりませんが、教科書の最終調整の折に、「情報Ⅰ」の研修用教材がある程度影響を与える可能性があるのではないか、見ております。「情報Ⅱ」についても同様のことがあるかと思っております。

 

 

最後に、できることから実践してみよう、ということですが、まずは先生が手元でいろいろやってみる、ということです。ご自身でやってみながら、今皆さんの持っているクラスで授業として取り組んでみる、ということがあってよいかと思います。

 

そうすることによって、先生方の準備も進みますし、実際やったというところで自信もつきます。その上で新しいところに向かっていく、というのがよいかと思います。ただ、学習指導要領の範囲内の話になりますので、「社会と情報」であれば、発展や応用といった位置付けでやっていく、ということになろうかと思います。

 

[質疑応答(ZOOMチャットを使用)]

 

「micro:bit以外にお勧めのマイコンボードはありますか」

 

鹿野先生:私が具体的な商品名を出して「お勧めです」と言った瞬間、教育産業が大変なことになりますので、私の口から申し上げることはできませんが、小学校・中学校ではロボットのようなものがいろいろ使われていますし、ロボット系の大会もいろいろあります。

 

ただ、「問題の発見と解決」ということを考えたときに、「こうやればこう動く」という形のがっちりしたものだけ使っていく活動は、トラブルが少なくて、やるほうは楽ですが、実際はトラブルがそこそこ出たほうが、教育として身に付くものは多いかもしれません。

 

例えば「まっすぐ進む」という命令をしたときに、モーターの具合によってはちょっと左に曲がってしまうこともあります。そうすると、プログラムだけでなくモーターの様子も見なければならなくなり、実際の場面ではこういうアナログ的調整が必要であることにも気が付きます。ですから、何を使うかというのは、身に付けさせようとする能力によっていろいろ考えてもらえばよいと思います。

 

 

「情報Ⅱを実施する学校はどのくらいの割合を見込まれているのでしょうか」

 

鹿野先生:調査官としては、100パーセントやっていただきたいと心の底から思っております。ただし、実際にどうなるかについては学校の判断ということになります。先ほど申しましたように、大学のその先まで見据えている学校では、導入する動きと聞いていますが、実際にどうするか、ということにつきましては、学校側の方針となりますので、国が直接指導することはできません。

 

ただ、先ほどお見せました生涯学習のような形で、大学から社会人と見たときに、AIやデータサイエンスということを国全体としてやっていきましょう、という話はありますので、子どもたちにとっては実施していただく方がよいと思っておりますし、情報Ⅱもそのつもりで作っています。

 

 

「2022年から「情報I」を始めるにあたっては、2021年に準備が必要かと思います。国から各教育委員会に整備のための協力等はありますでしょうか」

 

鹿野先生:校内ネットワークにつきましては「補助」ということで、今GIGAスクール構想で出ております。端末につきましては、残念ながら高校には国の補助ということは出ておりません。地方交付税交付金という形で、3分の1程度の台数の配置という分の予算は出ています。

 

 

「教科としてのものの見方、考え方を踏まえたときに、フローチャートなどアルゴリズム表現と、プログラミング、実際の挙動との関連付けが学習過程で結構大切になるのではないでしょうか」

 

鹿野先生:これは、そのとおりです。ただし、フローチャートとアルゴリズムを関連付けたり、プログラミングをそれに従って作たりすることだけでは不十分です。これはその前の段階、つまり問題の発見・解決に至る過程で、それをしっかりデザインして、チャートのような形に表して、プログラムを書くためのアルゴリズムに持っていくという一連の流れこそ必要なのです。そしてプログラミングを通じて実際に動かしたときにどうなるのかを確認し、改善していくという形になります。

 

このように、情報Ⅰというのは、すべての項目が一連の流れの中に位置付けられていると考えていただきたいと思います。これは情報Ⅱについても同じです。

 

 

「家庭でコンテンツを作成できる端末を、国として支援していく支度は模索されていないでしょうか」

 

鹿野先生:例えば小学校・中学校については、情報教育振興室からは、情報端末については必ず物理キーボードを付ける、というお願いをしています。もちろん、それをするだけでクリエイティブになるというわけにはいきませんが、情報端末を使って自分で作るということも想定した形で整備を進めています。

 

高校につきましては、国からは地方交付税交付金として出ており、情報端末についての方向性は、小学校・中学校と変わりません。ただ、高校ですから、「情報Ⅰ」・「情報Ⅱ」、さらに他の教科での活用を考えると、どのようなものが必要かを個々の学校で考えて、行政ではそこを支援していくということもあると思います。

 

それには、先ほど柴田先生がおっしゃったBYODによる整備という形も考えられますし、他の自治体ではまた異なる形で動いているところもあります。繰り返しになりますが、高校では、小中のような1人1台という形の国の補助金んということは、今のところなく、地方交付税として整備する台数は生徒数の3分の1程度という形です。ですから、具体的に今後どうするか、ということを考えたときに、BYODという形も一つの方法だろうと思います。

 

学校によっては、機種を決めて各家庭で購入してもらう、という形を取っているところもありますが、これは校長の判断によるかと思います。

 

 

鹿野先生:ここで私から、ぜひ学校でやったほうがいいということについてお話しします。

 

情報実施に向けて、きれば情報部のようなものを作っていただきたい。オンラインゲーム(e-Sports)のような形のものでも、データ解析のようなものでも、プログラミングでも、あるいはすべて合わせたようなものでもよいので、要は部活動として作っていただきたいのです。

 

それがあれば、部活ですから、先生が顧問になれば、朝学校に来られて授業をして、そして放課後は子どもたちとともに深めていくことが可能になります。そういった活動を各学校で持っていただいて、例えばコンテストのようなものを県でもどんどん実施していただくことになれば、その県のレベルはどんどん上がっていくだろうと思います。こういったことを進めていただければ、今までやってきたことの、さらに次の一手という形が出せていくのではないかと思います。

 

 

「現状、ChromebookやウインドウズiOSなどのすべての機種依存がなくなり、統合されることは今後あり得るでしょうか」

 

鹿野先生:これについては、あるかもしれません、ないかもしれません。統合する必要がどうなのかということにもございますが、例えば紙を切るには、はさみを使います。木を切るにはのこぎりを使い ます。太いのを切ろうと思えばチェーンソーを使いますし、金属を切ろうとすれば金切りばさみです。つまり、しょせんはツールなので、その辺りにこだわる必要はないのかなというふうに思っております。では、現状はどうかということについて言えば、例えば三つのOSがあったとして、ブラウザが走れば、同じことが皆できるという状況にはなっているので、それほど気にする必要はないかと思います。ただ、それでできないことが必要だとすれば、学校として特定の端末、あるいは特定のOSということを考慮することが出てくるかもしれません。この辺り、現状について言えば、学校でもしBYODで何か機種を決めるというときに、わが校は何をしたいのかということを考えて、そのプラスアルファのものがOSに依存するのであれば、その形のものを考慮するということになると思います。

 

 

■追加情報

情報処理学会の動画教材に近い形で,「情報Ⅰ」のプログラミング(JavaScript)についてのコンテンツを株式会社アシアルが作成して無料で公開しています。内容について以下のURLからご覧ください。

https://edu.monaca.io/sd/model

 

学習コースについては下記をご覧ください(登録が必要になります。)

https://edu.monaca.io/material/joho1