New Education Expo2019

【パネルディスカッション】

これからの「探究」をデザインする学校へ~変革の時代に創造する生徒を育てるために~

※福井県立若狭高校 渡邉久暢先生のお話は、編集部からのレポートとさせていただきます。

「探究」は外部の圧力で行うものではない

近年、「探究」を始め、「ポートフォリオ」「ルーブリック」「SDGs」……など、いろいろなキーワードが登場しています。先生方の中には、次々登場する新しい課題にどう対処していいのか、とまどいを感じている方も多いのではないでしょうか。

 

そんな状況を、渡邉先生は「外部から煽られて、『探究』をやらなければならないというのは、少しおかしいような気がします。」と、お話しされます。

 

「まず、生徒たちの状況をよく見てほしい。その状況にもし問題があり、『探究』の授業がその状況の改善に効果があると考えるならば、カリキュラムの開発に取り組めば良いでしょう。一番大事なのは目の前の生徒たちをよく見て、どんな大人に導きたいかということを重視した上で、どんな力を、どんな学習活動を通して、育てるかを考えることです」。

 

問題状況から解決までのサイクルを繰り返す力をつける

そして、「探究」学習を展開するにあたり、最も重要なのは何か。渡邉先生はそれを、探究のサイクルを回転させることだと述べます。

 

「探求のサイクルというのは、問題状況を探索する→解決すべき明確な問いを立てる→問いへの答えを仮説として持つ→計画・実行→振り返り、また、問題状況を探索する…というサイクルを繰り返すものです」(渡邉先生)。

 

 

「とにかく問題解決をさせて、『いい成果』を目標にする学校もあるようですが、本校では、成果を求めることよりも、前述のように頭の中でぐるぐるとサイクルをまわし、より良い問いを練り上げていくこと、つまり『課題設定能力』を育むことを重視します」と、渡邉先生。

 

渡邉先生は「生徒の状況に基づいて、探究の授業で培いたい力を目標として仮に置き、それを実現するという目的で、カリキュラムを作っていくといいでしょう」と、提案します。

 

「もちろん、総合や探究の授業時間数は、教科学習に比べて圧倒的に少ないのが現実です。しかし、授業だけでなく、部活動や学校行事などで育つ力もあるはずです。

 

それらの中で、われわれは学校全体として、『こんな力を培いたい』といったものを、いったん措定します。そして、目の前の生徒の状況をふまえて、目標を絞り込むようにしています」と、渡邉先生。

 


「ただ、これは、たった一人ではできないことです。若狭高校では、まずはチームで協力していく体制を構築しています。同志という意味で、『コミュニティー』と言ってもいいでしょう」。

 

では、より良い探究学習を組織するために、教員をチームにまとめるには、どのような手立てが必要なのでしょうか。

 

若狭高校の探究とは~楽しくぼちぼち、巻き込んで聴き合う

まずは、渡邉先生が掲げる5つの重要ポイントです。

 

一つ目は、生徒も教師も気負わず、気楽に、楽しくいられるようにするということです。「探究させねばならぬ」というのは、教師も生徒も苦しいだけ。

 

渡邉先生曰く「わが校のモットーは、『楽しくなければ探究ではない』。無理してやるような探究なら、やめた方がいいでしょう。」成果を気にせず、無理せず、ぼちぼちと……これが一番大事ということです。実際、若狭高校の組織作りには、5年もの年月がかかっているそうです。

 

 

二つ目として、渡邉先生が重視するのは、教師同士が聞き合う関係を涵養するということです。

 

「よく『話し合おう』と言いますが、むしろ、『聞き合おう』の方が、大事なのではないかと私は思います。質問をしてそれに答え、双方の理解が深まるという関係がミーティングのときにできれば、それらしいチームになっていくのではないでしょうか」(渡邉先生) 。

 

三つ目として、探究に関する打ち合わせ等の機会を捉えてチームを作っていくということです。渡邉先生は「『探究』の授業は一人の教員だけで実施することは不可能です。必然的にチームで行わざるを得ません。教科を超え、自分の専門も超え、校務分掌も超えた形で一緒にやらない限り、学年全体の探究はできません」。この探究でのチームづくりが、学校全体をまとめることへの起爆剤にもなっていきます。

 

四つ目は、「外の人」をできるだけ巻き込んでいくということ。「地域の行政の方、研究者の方、同窓生の方など、どのようにチームの一員として本校に巻き込んでいくか、ということを考え、工夫をこらしています。」

 

そして、五つ目。今度は逆に、外に生徒を連れ出していくこと。学校の外ではいろいろなイベントが行われていますし、プロジェクトもたくさんあります。そういったものに、若狭高校の生徒たちを参加させ、経験を積ませるのだそうです。

 

例えば、地域の大きなイベントから「高校生も一緒にやってほしい」と声がかかれば、すぐに生徒たちを赴かせ、そのままイベントやプロジェクトに参加させるのだといいます。こういった流れができることによって、若狭高校は、渡邉先生の考える自由でフラットな雰囲気の「組織」になっていったのです。

 

もちろん、ここに至るまでは、全てがうまくいっていたわけではないようです。「まだまだ、課題だらけ」と、話す渡邉先生は、若狭高校での「探究」について、さらに具体的に説明してくださいました。

 

地域資源の中で進む 若狭高校の探究

若狭高校の教育目標は、「『異質のものに対する理解と寛容の精神』を養い、教養豊かな社会人の育成を目指す」となっています。この目標を踏まえて、若狭高校では学校設定科目として、「探究」という教科を作りました。

 


若狭には「豊かな自然」や「原発」といった、特有の地域資源に基づいた、研究課題があります。

学校内外のいろいろな人たちを巻き込みながら、「課題を粘り強く解決する能力」を学習目標に設定して、2015年から探究に取り組んでいきました。

 

学年によって内容は異なっていきますが、学科ごとにいろいろな工夫をこらしていると言います。

 

 

下図は、平成30年のカリキュラム研究開発の組織図です。渡邉先生が所属しているのは「SSH・研究部」というところで、このカリキュラムデザインの、開発の主担当の部署になります。進路や教務、また、各学年会とも関わりを持つ、重要な部署です。

 

 

下図は、科目をどう運営するかを表した図です。まず、若狭高校の研究部内に、「探究」の教科主任がいます。その主任が各科目の「探究I」「探究科学I」などのリーダーを束ねて、進捗状況を確認する、ということになっているそうです。

 

 

「リーダー会議では、お互いに進度や課題を確認し合い、その時点で打ち合わせをします。そして、相談しながらワークシート等の教材を作っていきました」と、話す渡邉先生。

 

さらに、「ワークシートは、ワードなどのデータで渡すようにしています。なぜかというと、担当の先生に、自分なりの加工をしてほしいからです。それぞれの個性を発揮しながら、授業をしてもらいたいのです。

 

それが、やがてチームやコミュニティーの共同体を形作る、一つの要素となるでしょう。そして、一人一人が自立した教師として、教師と生徒が向き合うような機会を持つことにつながるのではないかと思うのです」。渡邉先生は、このように話しました。

 

また、「放課後の会議はしない」ということも、重視しているそうです。その解決策として、なるべく時間割内に、担当者会議を入れ込み、担当者個人に頼るのではなく、学年主体・学科主体で考えていくような、工夫がなされています。

 


もう一つ大事なのは、経験の少ない「若手」や、なんでも引き受けてしまう「良い人」に、探究科目を押し付けないということです。

 

「本校では、学校の中で一番困難だとされているクラスの探究を、あえてベテランの先生にお願いしています。こうすることで、わが校全ての教職員が、探究に関わるという意識がぐっと上がります」と、渡邉先生。

 

また、「本校の専門学科については、わりと意識の高い子が入ってくるので、比較的うまく回るのですが、普通科の子たちというのは、なかなかうまく進みません。ここは、一番難しいところなので、教頭、生徒指導主任、教務主任、新規採用の先生を集め、担任・副担任に、プラスアルファのような形で入れ込むようにしています。役職の高い人が、こういった難しいクラスを担当してくれることにより、学校全体がチームとして機能していきます」(渡邉先生)。

 

このように、探究のカリキュラムデザインの過程で教職員全体がチームになれるよう意識しながら「探究」の授業を組織的に行っているのが、若狭高校の大きな特徴なのです。