高校教科「情報」シンポジウム2019秋

情報入試動向

情報処理学会情報入試委員長(元電気通信大学) 角田博保先生

2020年の入試で大学入試センター試験が終わって、次期学習指導要領が2022年度から始まり、それに応じて大学入試も変わります。まずは、情報入試に限らず、入試の改革の流れを確認したいと思います。

※文中の「2025年入試」は、2025年1月に実施される入試を指します。

 

大学入試センター試験から「共通テスト」へ

2014年の中央教育審議会の答申で高大接続改革が唱えられ、2016年には高大接続システム改革会議が検討した最終報告が出されました。

 

その後大学・高校関係者の間で審議され、2017年に「高大接続改革の実施方針等の策定について」が、文部科学省から公表されました。以下の三つが強調されています。

 


一つ目は「高校生のための学びの基礎診断」の実施。これは高校段階における生徒の基礎学力の定着度合いを測定するもので、高校の中での話なので、ここでは触れないことにします。

 

二つ目が「大学入学共通テストの実施方針」、そして、三つ目が「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに係る予告」。これらが大事なところです。

 

大学入学者選抜改革というのは、要するに単なるペーパーテストで知識だけを問うような問題はやめようということで、学力の3要素、つまり「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」をしっかり身に付けていることをチェックしようということです。

 

 

「知識・技能」についてはもともとの入試問題で測っていますし、「主体性」などについては、調査書の記述内容を改良して、そこに書いてもらうということになります。残る「思考力・判断力・表現力」については、入試問題でこれを問う問題を作るということです。

 

そこで、従来のセンター試験に代えて「共通テスト」という新たな試験を行うことになりました。共通テストは、2021年、つまり再来年の1月の試験から始まります。

 

そのときの試験は、思考力・判断力・表現力を問うような問題になるわけです。2021年入試では新しい教科の追加はありませんが、マークシートだけではなく、国語・数学I・数学II・数学Aというところにも記述式の問題が入る予定です。それから、民間試験を利用して、「英語4技能」の評価も行うことになっています。(注:2019.10.26時点でのこと。)

 

この時点では、まだ「情報」は入りません。情報は、新学習指導要領で新しく必履修科目として出て来る科目なので、この時点では早すぎるという判断です。

 

(注2019-11-1:萩生田光一文部科学相は1日の閣議後記者会見で、大学入学共通テストへの英語民間検定試験の導入について「自信を持って受験生に薦められるシステムになっていない」と述べ、2020年度は見送ると発表した。)

 

本格的に大学入試が変わるのは、2025年3月に高校を卒業する、新学習指導要領を経験した生徒の代からになります。そして、2025年から始まる新しい入試(2014年度入試)のために、次期学習指導要領に対応した大学入学共通テスト実施方針を2021年度に公表しなければなりません。そこでは、教科・科目の簡素化を含めた見直しをしようということになっています。「簡素化」とありますので、大幅な変更が行われると思われます。

 

ただ、共通テストに情報を入れようとしていることは確かと思われます。それから、複数回受験を考えるとCBT(Computer Based Testing)をやりたいところですが、こちらもまだ検討中です。

 

文部科学省の、「平成33年度大学入学者選抜実施要項の見直しに関わる予告」には、学力の3要素を多面的・総合的に評価するものに改善しようと、書かれています。さらに、調査書や提出書類も見直して、「主体性」についてもしっかり見ていこうとなっています。

 

 

さらに、「III.その他」には次期学習指導要領に沿った高校での多様な学習や活動の状況を、的確に評価するために、大学は内容を十分把握して理解に努めるようにということが、書かれています。詳しい情報は、2021年度の初頭に出します、という予告です。

 

 

「2021年度大学入学者選抜に関する日程」を見てみると、2017年7月にその共通テストの実施方針が出て、この段階で出題教科・科目の決定がなされ、2018年度、記述式を入れるか、英語の民間テストを利用するかなど、各大学でそれぞれに考え、2019年に実施大綱が出ると書かれています。

 

現実にも、予定通りことは行われています。この実施大綱には、ほぼこういう形で入試をします、ということが書かれています。時間割などの詳細は、2020年6月頃に出される実施要項に載る予定です。そして、2021年1月16日・17日に新しい共通テストが実施されるという計画になっています。

 


 

この日程から類推すると、2025年の大学入学共通テストについては、2021年度の初頭に「大学入学共通テスト実施方針」が出て、出題教科や科目が決定されることになるはずです。そこに「教科情報をやります」と、書いてあればOKで、われわれは、そう書かれることを願っています。

 

その前の2020年の暮れには、教科書の検定があります。2021年3月に教科書見本が出て、各高校で教科書を選んで学習を進め、2021年度の初頭、共通テストの中に入るかどうかが決まるというタイミングです。受験科目に入るとなったら、高校もそれなりの準備をした授業を考えなければなりません。

 


 

一方、共通テストへの認識ですが、10月5日・6日の朝日新聞に、朝日新聞と河合塾による全国の高校・大学を対象とした共同調査が載っていました。

 

大学で英語に民間テストを使うということはかなり浸透していて64%、国語の記述を使うのは50%程度といった数字が上がっています。

 

国語の記述式問題については、高校・大学双方から自己採点と実際の採点に差が出るのではないか、公平性に疑問があるのではないかなど、いろいろな意見が出ています。英語試験についても、民間の活用はやめるべき、とか、大学入試センターが試験を作るべき、などの意見が見られます。さらに、高校に対する「入試改革は望ましい方向に進んでいるか 」という質問には、全く進んでいない・あまり進んでいないという感想が半数に近く、これが現状であることを、われわれも認識する必要はあるでしょう。(注:その後、11月1日に民間テストの中止が発表され、記述テストの再考も検討中)

 

 

情報入試はどうなるか?

教科「情報」は、2003年度の「情報A」「情報B」「情報C」から始まり、2013年度に現行の「情報の科学」「社会と情報」になって、2022年度からは「情報I」「情報II」になります。

 

一番大きな変化は、情報Iが共通必履修科目になること、つまり、高校生全員が学ぶことになることです。現行ではプログラミングを内容として含まない「社会と情報」の履修率が8割で、プログラミングを学ぶ「情報の科学」の履修率は2割でした。しかし、2022年度からは、全員、プログラミングが必修になります。

 


 

現在、一般入試に「情報」を入れているのは、全国で13大学です。国立大学では高知大学だけしか行っていません。推薦入試やAO入試で「情報」を使っているところはたくさんありますが、やはり一般入試に入らないと、迫力がないというか、認知度がなかなか上がらないという面はあるのでしょう。

 

 

情報処理学会では、2016年度から2018年度までの3年間、文部科学省の委託事業の「大学入学者選抜改革推進事業」に取り組みました。「思考力・判断力・表現力」をどのように計るのか、ということを検討するのが、この事業の目的です。大阪大学が主体となり、東京大学と情報処理学会が協力という形で検討を進めました。

 

※クリックすると拡大します

 

 

詳しいことは報告書(※)を見ていただければと思いますが、ざっくり申しますと、思考力・判断力・表現力とはどういうものかということを定義して、それを表現する過去問題を研究し、この問題を解けば思考力・判断力・表現力を測ることができるという試験問題を作るという流れで、やってきました。

そうやって作った問題を、CBT(Computer Based Testing)を使って、実際に模擬試験を行うという取り組みもしました。CBTには、2バージョンあって、V1、V2とありますが、V2の方では、実際にプログラミングを組むという形式も取り入れています。

 

(※)http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/13/1413650_005_1.pdf

 

共通テストに「情報」が入る可能性は

さて、そもそも情報は、本当に共通テストに入るのかというところですが、先ほどの「高大接続システム改革会議の最終報告」には、次のように書いてあります。「共通テストの導入」というところで、「教科情報に関する中央教育審議会の検討と連動しながら、適切な出題科目を設定し、情報と情報技術を問題の発見と解決に活用する諸能力を評価する」とあります。「設定し」となっていますから、確実に導入されるのか、やや曖昧です。

 


そこで情報処理学会としては、「大学入試センターが実施する試験における情報出題の提言」として、絶対に情報入試を行ってほしいという旨、強く希望を伝えました。

 

 

また、内閣府の「未来投資会議」で2018年5月に出した「Society5.0を担う専門人材育成」には、「高大接続高等学校の進学指導要領で必修化される『情報』を大学入学共通テストの科目として各大学の判断に活用できるように検討しよう」と、書かれています。ここでも「検討」であって、「入る」とは書いてないのです。

 

 

そのときの文部科学大臣は、「情報I」について「英語や数学と同様、これは各大学の判断になるが、大学入学共通テストの科目として活用できるように、検討を進めたいと思っている」と話しています。少し弱い表現なのですが、それに対して総理大臣が、「大学入試においても、国語・数学・英語のような基礎的な科目として、情報科目を追加してほしい」という、こちらの追い風になるような返答をしています。 


 

それに対して情報処理学会も情報Iの試験を入れることに賛成しますと手を挙げます。ちょうどこのタイミングで、大学入試センターから「教科『情報』におけるCBTを活用した試験の開発に向けた問題素案の募集依頼」が出されました。要は、CBTが使える情報Iの問題を作ってほしいという依頼があったわけです。

 


 

そこで出てきた問題を使って、2019年2月にモデル校でチェックしたということです。これについては、詳細は明らかになっていませんが、2019年度も問題素案を募集し、十校程度で検証すると書かれています。これらのことから、大学入試センターでは、CBTの導入を真剣に考えているということがわかりました。

 

情報処理学会以外からは、共通テストに情報IIも入れてほしい、という提言が出されています。


 

また、「総合科学技術イノベーション会議」では、小学校・中学校・高校で情報リテラシー教育を推進することについて検討しています。そして、大学では文理を問わずAIの基礎を学ぶための環境整備や、AIを応用して課題解決ができる人材育成をしてほしいとしています。さらに、リテラシー教育に積極的に取り組む大学には助成金を出すとも言っています。そのためにも、入試では情報Iを出題してほしいと望まれているようです。これは、情報入試の実現に向けて、プラスの材料と言えるでしょう。

 

情報処理学会では、情報入試委員会が、2013年から4年間模擬試験を行いました。その後大学入学者選抜会議推進事業を委託され、思考力・表現力・判断力を評価するCBTの試行試験を2回行っています。つまり、過去に6回情報入試についての問題作成を経験しました。

 

今回、「高等学校「情報I」教員研修教材」が出たので、それに応じた問題を作って皆さんと検討したいというのが、本シンポジウムの大きな目標です。

 


では、実際、情報入試を実現するためには、具体的にどうすればいいのでしょうか。

 

何と言っても、共通テストの出題科目に、情報Iを入れることでしょう。そして、入れるためには、世論に訴えかけることが重要です。

 


大学の先生方は、共通テストに「情報I」が入ったら、ぜひ、「本学でも採用しましょう」と声を上げていただきたい。入試科目に入っていれば、高校でもしっかり試験対策をやろうということになり、生徒の情報に関する知識・技能や思考力・判断力・表現力も身に付いてくることでしょう。さらに、情報に詳しい先生の採用や、問題集や参考書の発行にもつながっていくでしょう。そういった動きが世の中全体に広がっていけばと期待しています。

 

高校「情報」シンポジウム2019秋 講演より