第12回全国高等学校情報教育研究会全国大会

講評講演~大成功の和歌山大会から、来年へ、その先へ

講師:鹿野利春氏

国⽴教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官

⽂部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課情報教育振興室 ⽂部科学省初等中等教育局参事官(⾼等学校教育)付産業教育振興室・教科調査官 

 

昨年10月に、文部科学省の初等中等教育局に情報教育・外国語教育課ができ、共通教科の情報科を初等中等局で扱うことになりました。

 

2024年度(2025年入学)の大学入試で情報科の入試を実施する、と言われていますが、文部科学省の公式見解は『検討中』です。2021年の春頃に、大学入試センターから『予告』という形で出されるのが最終決定ということになります。この時に出ないと、高校が次の年この入試を受ける学年の教育課程が組めませんので、この時期になります。

 

今回は様々な発表をしていただきました。和歌山県の先生方には、昨日朝早くから大変な人数で準備をしていただきました。ここに至るまでも長かったと思いますが、今大会は人数的にも内容的にも大成功だと思います。私はこのことを講評として絶対言おうと思っていました。

 

情報の部活を作ることの可能性

皆さんにぜひ情報の部活動を作っていただきたいと思います。うちの学校には、今情報部がないから顧問になれない、ではなく、ないなら作ってください。

 

情報部を作ると、情報の先生が昼間に授業をしてから、放課後に部活動でさらに深めることができます。さらに、そこに外部の方を呼んで指導していただけば、子ども達は限りなく伸びますし、先生の力もどんどんついてきます。そこには大学の先生方に入ってもらってもいいし、企業の方に入ってきてもらってもいい。それをきっかけにして、さらに授業の方にも展開していただくことも可能になると思います。

 

ここにいらっしゃる先生方が今年一つずつ部活動を作っていただければ、来年は県レベルで何かやろうということになり、やがては高等学校文化連盟に20番目の専門部として情報部(仮称)を作っていただくことにつながるのではないでしょうか。そうなれば、他の部活と同じように『〇〇君、全国大会出場』と垂れ幕を掲げることになり、その生徒にとってだけでなく、学校の中の情報の認知度も上がるでしょう。

 

このように、皆さんがまず部活を作る。県の事務局を作る、全国の事務局で専門部に入れる、というパターンで進めていけば、授業はもちろん、部活もどんどんレベルを上げていくことができます。これは子ども達にとっても、日本全体にとっても素晴らしいことだと思っています。ちなみに、高文連でいちばん最近、19番目にできたのが自然科学専門部です。自然科学専門部ができているのだから、情報部もあってよいと思います。

 

全国大会は今まで12回やってきました。開催地は、関東が半分、関西が1/4、その他が秋田、宮崎、石川の3か所です。開催県の人口を見ると、和歌山県が一番少なくて95万人です。初めて100万人を切ったところで開催したので、準備は大変だっただろうと思いますが、大成功でよかったと思います。

 

この会は12回ですが、兵庫では情報教育合同研究会というのがありまして、これは今年で15回目です。ぜひこちらの方にも出かけていただいて、お互いに交流していただけたらと思います。

 

社会の進展とともに、必要な能力は変わる

先ほどの鈴木先生のお話でも『Society5.0』という話がありました。1が狩猟社会で2が農耕社会、3が工業社会、4が情報社会で、Society5.0はそれに続く社会です。それぞれ必要な資質・能力がありますが、ここにおられる方の、たぶん半分以上は狩猟社会では生き残れないと思います。

 

まず体力がない、勇気がない。中には勇気のある人もいるかもしれませんが、何かが向かってきたら私などは真っ先に逃げますから(笑)、そういう人は狩猟社会では生きていけません。

 

農耕社会は粘り強さが必要ですね。さらに、人とうまくやっていかなければいけない。この二つの社会を見ただけでも、必要とされる資質能力は全く違います。さらに、工業社会になるとまた違ってきます。ものを作らなければいけないので、技能が必要になり、学校というものもそこで初めて出てくるのです。

 

このように、時代が変われば必要なものが変わってくるわけで、それをしっかり身に付けていくということは重要になってきます。では情報社会で必要な能力は何かといえば、自動化、情報化に対応することが必要です。職員室でコンピュータを全く触れませんという先生はいないと思います。学校で「私はコンピュータを使いたくないから使わない」と言うのは、ちょっと困ります。

 

皆さんは今日、この会場まで何で来られたでしょうか。電車か車か飛行機か、何らかの移動のテクノロジーを使われたはずです。「俺はテクノロジーが嫌いだから、東京からここまで歩いて来た」という人は、まずいらっしゃらないと思います。技術というものは、発展すると、これを使いたいとか使いたくないとかいうレベルではなく、必ず使わなければならなくなります。どう使うかというところでは、できればうまく使いたいから、電車か飛行機かバスか車か、目的や状況に応じて使い分けをするわけです。そのためには、それがどのようなものかということがある程度わかっていて、経験があるから、目的対象に合わせて選べるわけです。そういうことを我々は今までやってきているし、現に今もやっているわけです。

 

先ほどの図の第4次産業革命のところに『デジタル革新』とあるように、AIとかIoTといったものが、今まさに進行しています。小学校で今問題になっているのは、子ども達が宿題をする時にAIスピーカーに聞くのですね。「3たす5は?」と聞くと「8」とか、「△△の首都は?」と聞いたらちゃんと正解を答えてくれるから、宿題がそれでほとんどできてしまう。そういうことがすでに起こっているので、子どもに対して、そういうことをしてはいけないとか、そんなことをすると自分のためにならないといった教育を、本当はもっと早い段階で始めなければいけないのです。使いこなせたらいいということだけではないのです。

 

IoTで言えば、今ブルドーザーの中にも内蔵されていて、常に自分のメンテナンス情報を本社に送っています。本社の方では、その情報をチェックして、「あなたのところのブルドーザーはそろそろメンテナンスの時期ですよ」と現場に連絡してくるわけです。それを世界中に展開していますから、GPSを頼りにアフリカのどんな奥地でもヘリコプターで修理に行けるのです。これは石川県に工場があるメーカーですが、ここに任せておけば、故障しないしメンテナンスも大丈夫と、世界に市場を広げています。このように、IoTの時代は様々なところに来ているわけです。

 

アメリカでは、ブロックチェーンという技術を使って、その人の学びの履歴をきちんとまとめ、それを会社にサービスとして提供するということが事業化に向けて進んでいます。日本でもこれをやろうとしている会社があります。 

 

次の時代はSociety5.0と言われていますが、技術が発展することで、これがさらに6,7,8と続いていくのではないでしょうか。我々はSociety5.0の次の、と思いますが、子ども達は発展の歴史を連続して経験していくのです。このスパンはどんどん短くなっていて、狩猟社会・農耕社会は数千年続きましたが、工業社会になると何百年の世界になり、情報社会は、例えばスマホが普及するのに10年というくらい短くなっていて、SNSは1年です。

 

今、自分の子供のことを考えてみてください。中学、高校のお子さんをお持ちのお父さん、お母さんは、子供が何をやっているかということを、わからなくなりつつあるのではないかと思います。子供がどんなSNSをやっていて、どんな交友関係を持っているか、どんな技術を使いこなしているかということが、見えなくなってきているのではないでしょうか。変化のスピードが早すぎて、親が子供についていけない状況になりつつあるのですね。これは加速することはあっても、減速することはない。だから、そういう時代に生きていける子供を作らなければいけないという話は、先ほど鈴木先生がおっしゃったところの中身かなと思っています。

 

先進事例に見る「『Society5.0』はこうなる!」

これは経団連が出している図版ですが、ここで必要な力として2つの「ソウゾウリョク」が挙げられています。一つはイマジネーション(imagination:想像力)でもう一つはクリエーション(creation:創造力)です。想像力も創造力も全ての教科で育まなければなりませんが、情報科は特に後者に寄与するところが大きいだろうと考えています。

 

課題を発見して解決し、価値を創造してうまくいっている例として、配車サービスを扱う会社や宿泊サービスを扱う会社があります。車に乗りたい人と乗せたい人がいるなら、これを結び付けたらいいだろうと考えて、ITの力で実現したり、泊まりたい人と泊まってほしい人をマッチングするということを、ITの力で実現したりするわけです。どちらも今では移動や宿泊に関してはトップクラスの規模になっています。このサービスを考えるとき、まずこのイマジネーションという力が必要だったはずです。そこにクリエーションという力が添えられて初めて、現実としてそれが可能になるということです。

 

我々が作りたいものを生み出す、あるいはこの国に、世界に貢献できる人というのは、こういうことができる人なのだという、一つの例であると思います。これからどんどん新しいものやサービスが出てくるでしょう。それを授業の中で考えていくのは、情報科だからこそできることかもしれないと思っています。

 

イマジネーションについて言えばアート(art)の中でも育てられているわけですが、今はアートと理科系の科目をくっつけたSTEAM(Science、Technology、Engineering、Art、Mathematics)を推進しようということになっていて、それもこのあたりに関係してきている可能性があります。

 

いずれにしても情報科の先生は、今後は今よりもっと、学校の中で活躍していただくことになろうかと思います。今はこんな形で進んでいるというところをご理解ください。

 

 

人工知能については、例として無人レジの動画を見ていただきましょう。

https://youtu.be/NrmMk1Myrxc

 

この人はどんどん商品を取っていますが、万引きしているわけではなくて、上の方でカメラが見ています。入店時にスマホで個人認証をしますから、誰が入ったかもチェックできますし、何を取ったかということもわかります。一度取ってから、やっぱりやめたと戻しても、それも全て見ています。これは全てAIやセンサー技術が発展したおかげで可能になりました。これならレジの人が要らなくなりますから、日本でも今後出てくる可能性があります。実際、あるスーパーでは夜間だけこの方式にしているそうです。また、新たなビジネスとして、都内の会社の中に普通のコンビニの1/5くらいのコンビニを置いています。店員はいませんが、顔認証で本人確認ができますので、買ったものは天引きで払うというものもあります。

 

自動運転は、日本でも実証実験が行われています。

https://youtu.be/YdXSnw819mY

 

運転手がいなくても車が走ることが、もうすぐ現実になります。都会だけでなく田舎でも走る。田舎では、バスの路線を廃止したところでこれを走らせて、皆の利便性を上げようということをバス会社が企画して、ビジネス化しようとしています。

 

また、協業するロボットも出てきています。今までのロボットというのは、大きくて早く動いて物をいっぱい作る重工業的なものでしたが、今は人ともっと近い距離で働いていて、人に危害を加えませんん。

https://www.denso-wave.com/ja/robot/product/collabo/cobotta.html

 

人が作業をしている時にロボットが何かを取ってくれています。圧力センサーが付いているので、取るときも柔らかいものでも潰さずに取って、人に渡してくれる。このように、パートナーとしていけますよという話です。

 

では、この動きをどうやってプログラミングするのか。動画の中では、ボタンを押して、文字通り手取り足取り、こうやるんだよと教えると、その通りにやってくれています。言葉を使わなくても、名刺を受け取る作法を教えると、ちゃんとその通りにできるようになっています。

 

時代への追随ではなく自らで変革する力が必要に

ここからは、新学習指導要領のお話です。

 

新学習指導要領には、このようなバックグランドがあって、5年前にこの前半のところが出されました。『学校で教えていることが時代の変化で通用しなくなるのではないか』、だからどんなことをやらなければいけないかを真剣に考えなければいけないと。『人工知能の急速な進化が人間の職業を奪うのではないか』。先ほどの鈴木先生のお話でも、人工知能やロボット等による代替可能性が低い職業の話が出ていました(※)。

 

小学校の先生は大丈夫、残ります。幼稚園、中学の先生も大丈夫そうですが、高校の先生は書いてなかった。教壇に立ってしゃべっているだけの先生だったら、わかりやすく教えてくれるビデオの方がいい、ということになるわけですね。皆さんはたぶんそうではないし、私もそういう先生を目指しているわけではないので、その辺は大丈夫だと思いますが。

 ※「人工知能やロボット等による代替可能性が低い 100 種の職業」野村総合研究所(2015)より

https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf

 

また、『予測できない変化を…』とありますが、変化のスパンがどんどん短くなって、10年が5年に、5年が1年に、1年がさらに短くなっていけば、もう誰も予測できません。そこで生きていくのであれば、必要な力というものを付けてあげなければいけない。だから子ども達は、常に何がどう変化していくのかということを見続けて、そこで必要な力を考え続け、それを自分の力として身に付けるということを繰り返していかなければなりません。

 

しかもスパンが短くなっているので、「こう来たからこう考える」というフィードバックではもう遅いのですね。「こういうふうになるだろうから、私はこうやって生きていく」というフィードフォーワード(feedforward)と言うべき方向性を持っていないと、スピードについていけない。私達は日々、新しい世界をそれぞれの場で作り出しているはずです。今回の発表でも、明らかにこれからの情報教育を変えていくという内容の発表がいくつもありました。

 

このように、先生方自身に、自分がこの国の教育をこの場で変えていっているのだという自覚が必要だろうと思います。それを聞いた人も、それを受けて自分はこのようにやっていこうと、自分の周りから変えていくということになるだろうと思います。私もそのような思いで5年間走ってきましたし、たぶん、この先も走っていくのかなと思います。

 

身に付けるべき資質・能力の考え方

身に付けるべき資質・能力については、「知識・技能」だけではなく、「思考力・判断力・表現力」も必要です。それから「学びに向かう力」は、「態度」だけではこの力は伸びません。これは評価のワーキンググループで結果が出ていまして、「態度+自己調勢力」、つまり、自分の学びを振り返ってそれを変えていく力も評価すべきとしています。文部科学省から出る資料はここに挙げた構造で作られて行きます。

 

こちらは能力の位置付けです。プログラミングというのは、情報活用能力の中にあるという位置付けで、これは前にも申し上げました。

 

問題を発見し、解決するということについて再度考えてみました。下図は単なる例で、文部科学省の見解というわけではありませんが、問題を発見するときに情報の整理や比較検討ということがあります。さらに、明確化のためには調査を行い、必要に応じてシンキングツールなどを使うこともあります。要はこのステップをもう一度考えなおして、それぞれの場所でどのような情報技術や情報の加工が要るのかということを考え直していただければ、授業の幅がもっと広がると思います。

 

これを考える際のベースは、高校では情報科になろうかと思いますが、いろいろな教科と連携するという可能性もあると思います。情報技術としてはここに書いたようなことですが、AIとかVRとか、そういう新しいものもどんどん入れていくことになります。

 

 

情報をデザインするということについても、考えてみました。人と人がコミュニケーションをするときには、何かしら思いがあって、それをストーリーに載せてコンテンツとして伝え、そしてそれを解釈します。そうすると、このコンテンツの技術が変われば、当然、伝え方も変わります。ですから、新しいものを取り入れれば、表現の幅もどんどん広がっていくことになるでしょう。

 

もう一つは感性です。感性というものは、論理だけで受け止められるのでしょうか。受け止めるためには、もしかすると論理に加えて、アートというところも必要になってくるのではないかということも考えたところです。

 

 

機械に対しては、求める動きをモデル化してアルゴリズムを作り、プログラミングをして、機機械がこれを解釈して動くというのが、一連の動きです。今は、プログラミングを人間が作ってあげるという流れですが、AIが発達して機械自身がプログラミングを自動でやってくれるようになれば、プログラミングではなくて、アルゴリズムの段階で機械が理解してくれるかもしれません。そのアルゴリズムも、モデルがしっかりしていればできるということになれば、モデルの段階で機械が理解してくれるかもしれない。このように進化すると考えた場合、子どもに身に付けさせるべき力は何かを考えながらやっていくことが必要です。そうすることで、子ども達は、時代が進んでも大切な部分はしっかりと学んでやっていけると思います。

 

こちらは小中高の発達段階に応じた情報教育の内容です。まずは、小中高全体で統計教育を強化しています。情報科に関しては、数学Ⅰや数学Bと連携することになるので、数学の先生ではない人は統計を少し勉強してください。ただ、数学の先生の中にも統計は苦手という方がいらっしゃるという話も伺いましたので、数学の先生も統計をもう一度見直すということになると思います。

 

小学校のプログラミングについては、2018年段階で半分以上が実際に実施しています。検討しているところも含めると、約90%になります。これは昨年のことですから、今年(2019年)は、9割近くが実施しているということになるでしょう。ただし、学校の規模による差や担当者の差もありますので、その辺で多少のばらつきはあります。

 

小学校のプログラミング教育は、こういったステップで進みます。仕組みを知って、活用して、可能性を広げるという基本的な方向は、中学・高校も変わらないと思います。

 

総合的な学習の時間はいろいろ考えて、人間らしさとは何かというところまで。探究を深める。小学校でここまで狙います。

 

 

小学校のプログラミングに関する学習活動の分類は、下図のA~Fのような形になります。Aは学習指導要領に書いてあること、Bは教科の中で行うこと、Cは教育課程内で各教科とは別に実施するものです。

 

この先のD(クラブ活動)、E(学校を会場とするが、教育課程以外)、F(学校外でのプログラミング教育)がある中で、E,Fは地域によってはとてつもなく進んでいます。

 

特にFには、かなりレベルが高い子がいます。小学校のクラスの中には、2~3人は先生よりもよくできる子がいる場合もありますから、その子にも手伝ってもらって、皆でしっかりやっていきましょうということです。高校でも、今後は特に都会で何か自分でいろいろやってきた子どもの中には、レベル的には先生よりも高い子がきっといるでしょう。そこは技術的な部分については協力して、子ども達を待たせるのでなく、できる子を味方にして、「どんどん手伝って教えてあげてね」という形ですね。ちゃんと味方にしてやっていく。子どもに習ってもいいと思います。それが悔しかったら、自分で学んで勉強すればいいのですから。いずれにせよ、子どもと協力してみんなでレベルの高いところに行きましょう、という考え方が必要と思います。

 

中学校 技術・家庭科の豊富な内容

去年もお願いしましたが、中学校の技術・家庭科の教科書をぜひ読んでください。特に今回のように、教科書が大きく変わるときは、しっかりと読んでおかないと、何をやっているのかわからなくなります。

 

今は移行期ですから、移行に関する資料がいろいろ出ていますので、それも是非読んでいただきたい。今高校の情報科でやっている科学的理解に関することは、実はほぼ中学の教科書に書いてあります。

 

 

ただし、技術の時間は3年間で87.5時間しかなくて、情報は4つある分野のうちの1つですから、87.5時間を4で割ると、20時間とちょっとということになります。時間的にそのくらいしかないので、深くはできないと思いますが、いろんなことはやっているはずです。

 

計測・制御のプログラミングは、かなり前から必須になっています。今回は、ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングもすることになっています。ネットワークのプログラミングは高校でも今まであまりやらなかったのですが、中学生はそれをやってくる。そうすると、我々はそれを受け止めて授業内容を考えることになります。情報の表現、記憶、計算、通信の特性、デジタル化、システム化、情報セキュリティなど、全て学習指導要領にきちんと書いてあります。当然、教科書にも書かれることになります。

 

ネットワーク、プログラミングの動作、確認、デバッグ等、これは当然ですね。情報通信ネットワークの構成もしっかり書いてあります。これを解説すると、先生方はさらにびっくりされると思いますが、ぜひ技術・家庭科の学習指導要領解説を読んでください。それから計測・制御は他の分野と連携して、例えば温室の戸を温度によって制御するとか、そういうところも中学では行われています。

 

4番目は技術の評価、管理、運用、改良、応用という内容です。中学ではこんなこともやっているのだということを、ぜひ頭に入れておいてください。

 

共通教科情報科の変遷

情報科の変遷がこちらです。「情報A」「情報B」「情報C」で始まって、現在は「情報の科学」と「社会と情報」、それが新しい学習指導要領では「情報Ⅰ」と「情報Ⅱ」ということになり、「情報Ⅰ」は大学入試を「検討している」という状況です。

 

 

専門教科の方は様々ありますが、「情報セキュリティ」という科目を作りました。プログラミングも基本的なものではなくて情報システムを作ります。コンテンツについては、作るだけではなくて、メディアとサービス、つまり配信と課金の仕方というところまで含めてやっていきます。

 

 

情報I 各分野の要点

高校の情報科についても見ておきましょう。統計については、あらゆる場面で使ってきます。単にPDCA(Plan・Do・Check・Action)のループを回すのでなく、いろいろなループを試してみましょう。D-OODA(Design・Observe・Orient・Decide・Act)というループもあります。問題解決の仕方は学校のレベル、あるいは対象の特性に合わせて当然変わります。PDCAはよく使いますが、これは一つの例と考えてください。そして、統計的なことを必ずベースに入れていただきたい。

 

 

コミュニケーションについては、「表現=情報デザイン」という考え方もあるかもしれませんが、インタフェースを考えたときは、その「機能」をデザインしているわけですし、コンピュータや情報システムを考えた場合には「論理的な組み立て」をデザインしているわけです。ですから、この三つをしっかりとやっていくようにしていただくと、特に機能や論理という部分が次につながることになります。表現も当然そうですね。これでだいたいやりたいことができるようになると思います。

 

 

コンピュータとプログラミングでは、並べ替えなどの基本的なアルゴリズムも学習しますが、物体の投げ上げなどのモデル化とシミュレーション、中学校の計測・制御を発展させたもの、スマホのアプリなどの作成も行うことが考えられます。中学校でネットワークのプログラミングもやっていますので、これに関係したプログラミングも対象になります。

 

 

情報通信ネットワークですとデータの活用については、ネットワークは中学でも学びますが、高校では情報セキュリティもしっかり入れて設計できる(できれば構築できる)程度まで学びます。

 

統計は、数値の具体的な分析を実際の問題解決に適用します。この方法や理論は、実際に数字に触らなければ理解はできないと思います。ですから高校の統計は数学と情報で扱っていくことになります。

 

 

その時、数学で理論を学んだら、情報は実際の場面で適応して活用するところを担います。もちろん、情報科が先にやる場合もありますが、そうすると数学の方で後追いで理論をやるということになります。ここについては、できればカリキュラム・マネジメントをしっかりやってほしいです。

 

情報IIは社会の進化に合わせてバージョンアップが必要

情報Ⅱがこちらです。「(1)情報社会の進展と情報技術」では、情報技術がどんどん進化しているので、それについて考えなければいけないですね。人に求められる資質能力も変わる、だから学び続けるということをしっかり身に付けます。

 

 

「(2)コミュニケーションとコンテンツ」では、情報Iでいろいろ情報デザインについて学んだので、ここでは実際に作っていきます。CLI→GUI→NUI→OUIといろいろ横文字が並んでいますが、CLI(Commuand Line Interface)はキャラクターベースのデザイン、GUI(Graphical User Interface)はグラフィックベースのデザインで、これが今までのインタフェースです。

 

今皆さんはスマホを使う時、指で触ったり、声で操作したりしていますが、これはNUI(Natural User Interface)です。OUIはOrganic User Interface、と言って、いかなる形にも変化可能な、出力装置であると同時に入力装置としても使えるディスプレイが特徴で、折りたたみのスマートフォンなどにも使われることになるでしょう。ここまで視野に入っていますが、そこから先はまだ誰にもわからない。でも、その先も当然あるという前提で、常にバージョンアップが必要です。

 

 

データサイエンスは、情報を分析して、モデル化して、予測して、という一連の手順を学びます。さらに機械学習ですから、例えばメールのフィルタリングは、ベイズ統計を応用しているとか、クラスタリングといったものも入ってきます。

 

人工知能については、仕組みを学ぼうとすると、偏微分と多次元ベクトルなどの数学的知識が必要となりますので、そこまでは踏み込めませんが、こんなことに使えてこんな応用ができるといった特性を知って使うとよいというレベルまでは、できると思います。そして情報システムを組むときにもそれが入ってくるという話になります。

 

 

情報Ⅱには「情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究」という単元も準備しています。 ここまで学んだことを使って、新たな価値を創り出すという活動です。これは絶対に必要であると思います。

 

 

情報教育はまさに国を挙げての取り組み

デジタル社会の「読み・書き・そろばん」である「数理・データサイエンス・AI」の定着に向けて、小学生から社会人までの各段階でのリテラシー教育の目標が下図です。

 

まず小中学校では理数の興味関心向上、高校ではリテラシー、大学ではそれをちゃんと確かめて入試に入れていきます。大学入試での『情報Ⅰ』の採用については、文部科学省的にはあくまで『検討』なのですが、総合科学技術・イノベーション会議では、『採用』を通り越して『採用の拡大』まで言及しています。

 

 

状況については、新聞やテレビでも報道されていますから、ご納得のいただける所だと思います。大学・高専では初級レベルでの数理、データサイエンス、AIを文理に関わらずやりましょう、ということになっています。これを実際にやるとすれば、情報Iの知識・技能は絶対に必要です。社会人はリカレント(学び直し)教育ですね。これについては、放送大学でもいろいろな講座を出してくるのだと思いますが、そういう形で子供から大人まで全てに対して長期的な取り組みの目標ができているという状況です。

 

新学習指導要領への準備は2021年春までに

下図は、学習指導要領改訂のスケジュールです。ここでは1点だけ申し上げると、2021年春には教科書の選定をしなければいけません。となれば、先生方は、それまでに『情報Ⅰ』の授業イメージを持っていないと、教科書の選定ができません。ですから、2021年春までにしっかりした授業のイメージが持てるくらいの勉強をしておかないといけない。2022年に始まるから2022年までにやればよいのではなく、2021年春に教科書を選ぶという一大イベントに向けて準備してください、ということです。

 

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高大接続システム改革のスケジュールが下図です。2022年度に高校に入学した生徒が3年生で受験する入試で大きく変わることになります。言い換えれば、今年度(2019年度)の小学生全員と中学1年生は新学習指導要領による入試になるのです。小学生、中学生のお子さんを持つ方は、まさに教育改革のまっただ中にいることに気づかれるでしょう。

 

※クリックすると拡大します

 

この図は少し前の数字です。情報科教員の来年度採用自治体は大きく増えました。今回のポスター発表でも報告がありましたが、情報科教員の採用がないのはあと7県だけです。この7県も、来年には採用を始めるのではないかと期待しています。さらに、現職教員等に対する免許講習で情報の免許を取った人は、順次定年を迎えます。今後5年から10年くらいは各都道府県で情報科教員の採用が大きく増えるでしょう。文部科学省の方からも、免許外の教科担任は止めましょう、安易に臨時免許を出すのも止めましょうという通知を出しています。このようないろいろな状況の中で、情報科を担当する教員の採用は、増えていくのではないでしょうか。

 

 

来年に向けて:部活動の推進と研究成果の拡散を

こちらは、学会等の協力の依頼先です。研修の講師としてお呼びしたり、授業研究でお手伝いいただいたり、といったことで相談していただければと思います。

 

また、情報処理学会では、中高生の情報研究のコンテスト等も実施しています。先ほど部活動という話をしましたが、基本的には子ども達に研究や発表の場、あるいは目標を与えたい。その場として、授業はもちろん大切ですが、より究めていくためには、部活動という場を用意することが必要ではないかと思います。

 

こちらが、今年度に入ってからの情報教育に対する政府や行政の動きです。6月末には、「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」も出ました。こういった形で、情報教育を促進する動きはどんどん加速しています。

 

こちらが、私が昨年の全国大会でお願いしたことです。これを受け止めて、宿題をこんなふうにやりました、とポスターで発表してくださった方もいらっしゃいましたが、皆さんもぜひ取り組んでください。

 

今年は、本筋は大きく変わりませんが、お願いしたいことが一つだけあります。このように全国大会を実施して、webページに発表の内容が掲載されますが、ここで発表された方は、この2ページだけではなく、他にもたくさんすばらしい実践をされているはずです。

 

ですから、皆さんそれぞれがwebページを持っていただきたい。これは簡単に持てます。それを全国大会の資料と同時にリンク先としてください。そうすると、先生方の研究が毎年毎年この大会をインデックスとして整い、全国大会のページで、発表者の内容をより深く見るとすればその方のWebサイトで見ることができる、という形になっていくと思います。

 

ここに参加していろいろな実践を聞かれるのはもちろん良いことですが、それはごく一部の人しかできません。それ以外の人に広げるために、皆さんが各学校、地元にお帰りになって「こういうところにあるからしっかり見てやっていこうね」ということを伝え、また発表された方も出し惜しみせずに、全部を公開していただいてみんなでシェアしていく、ということがいいのではないかと思います。

大成功の今年から来年へ、こういう形でどんどん進んでいくことを期待しております。

 

第12回全国高等学校情報教育研究会全国大会(和歌山大会) 講演より