New Education Expo2019 

【講演】教育の情報化の最新動向〜各省の施策から見える教育の情報化の展望〜

Society5.0・働き方改革・一億総活躍社会と「未来の教室」

経済産業省 サービス政策課長・教育産業室長 浅野大介氏

私ども経済産業省が教育政策について何を話すのかと、思われるかもしれませんが、表題にありますように、Society5.0は大して遠くない未来の話ですし、働き方改革は今まさに進行中です。一億総活躍という社会自体は、まさに今そこに向かっていて、もう一刻でも早くこの状態を実現しようと、社会変革を今まさに行っているところです。

 

そのベースにあるのが第4次産業革命であり、それによる産業構造の変化と技術の進化が社会像そのものを変えていきます。それを何とか推進していこうじゃないかという中で、同時に教育というものがどのように変化していくことができるのか。そこが大きく問われています。

 

経済産業省では、もともと学習塾やスイミングクラブ、音楽教室といった、学校以外の民間の教育産業をサービス業の一つとして、サービス政策課という部門で所管しておりました。ちょうど2年前の7月に、こういった民間か学校かといった分類を超えて、教育全体的の未来を描こうではないかと、新しく立ち上がったプロジェクトチームが我々ということになります。

 

「すぐそこにある未来」を良い方向に向けるために

我々は、下図に書いてあるように「すぐそこにある未来」の姿を描いています。未来の教育というと、とても先の未来、数十年先の話をしているのかと、思われるかもしれませんが、そうではなく、まさに来年からできることを確実にやろうというスタンスです。

 

またこの1年は、全国の公立・私立を問わず幼稚園・保育園から、小学校・中学校・高校まで、いろいろな教育現場で実証実験を行い、こんな学び方があるだろうとか、先生たちにはこんな働き方もあるよね、といった事例を出してきました。

 

そして、その中で出てくる様々な課題、つまり、制度的にこういうところは工夫しなればならないのではないか、逆に制度を変える前に、現在の制度の中でやれることがあるのではないかという、解決方法を模索してきました。

 

制度というと、現場の先生方も含めて文部科学省の規制の厳しさや融通の利かなさを問題にされる方が多いのですが、その点については、我々は徹底的に文科省を守ります。今の制度の中でやれることはたくさんありますから、その点については現場がちゃんと工夫しましょうよと。法律というものは、自分で読みたいように読んで、読みたいように解釈して、それによって新しいことを可能にしていくものです。この姿勢が、今の学校現場ではあまりにも足りない。ですから、そこを一緒に頑張っていこうとしています。その際に、解釈を明確化したり、弾力化させたりということについては、文科省も一緒に頑張っていきましょうよということを、日々申し上げながら、政府の中で議論をする。そんな感じで仕事を進めています。

 

「すぐそこにある未来」のポイントが、上図の二つの点だと思っています。一つが「Society5.0」と言われる世界です。人工知能はこれから技術としてどんどん進化をしていき、恐らく止まることはないと思います。後はビッグデータをいかに使って新しいサービスをデザインしていけるか。そしてその前提として、社会全体が徹底的にデジタル化されていくということです。

 

デジタル化というのは、つまり、全てのデータ・全ての記録をデジタルで残していくことです。それが膨大な量のデータとして塊となり、その塊と塊が、個人や企業など一つひとつの主体に関する情報がしっかり紐付けされる形です。そして、様々なプラットフォーム間の情報の互換性が非常に高い状態になっていくことによって、データが様々な形で生かせることになります。それによって、人間の知恵を超えた新たなサービスの創出が可能になる、つまり人間を助けてくれるという状態がどんどん進んでいく、というより、進めなければならないのです。

 

人知だけでは為すことのできないイノベーションを、デジタルの力を借りながら作るとき、AIというものが非常に大きな威力を発揮します。ですから、これからはデータの活用とAIの開発・活用、そしてその後にますます焦点が当たっていくでしょう。それがベースになって、社会は私たちの想像を超えて作り変えられることになると思います。

 

そのときに求められる人間の力は何か、という議論があります。AIが今ある人の仕事ほとんどを奪うということをおっしゃる方もいます。確かに、一部の仕事は確実にAIに奪われます。ただそうなれば、人間はもっと面白くて、もっと人間らしい力を発揮する仕事に集中ができるようになると、ポジティブに解釈するべきだろうというのが、我々のスタンスです。つまり、工業化のプロセスでも起こったように、単純労働から解放されるということが、再び起こるのです。ただその中で、人間はもっと自由に、もっと創造的に、本来持っている力を発揮することができるようになっていくことが必要です。ですから、課題の設定や、一つひとつの解決策を作ってくためのデザイン、要するに一見関係なさそうな要素を編集し直して、ソリューションできる力、そしてその過程のコミュニケーション力も必要です。

 

コミュニケーションと言うと、学校の皆さんは対面のコミュニケーションを重視されますが、これからの時代のコミュニケーションは、オンラインとオフラインが絡み合った形で、一体化・融合化した形のコミュニケーションにどんどん変わっていくはずです。対面型のコミュニケーションでなければダメだとよく言いますが、そもそも対面自体の意味が変わっていくのではないでしょうか。

 

我々の職場でも、Face to Faceというのはフィジカルに同じ場にいて一緒に仕事をするという意味ではありません。海外の人や、日本の山奥の学校の先生と、日々テレビ会議で現場と現場をつないで、中身の濃い議論を繰り返しています。皆さんの中にも、そうされている方はたくさんいらっしゃるのではないかと思いますが、このようにオンライン・オフラインを問わず、新しい対面型のコミュニケーションが日常のものとなっているのです。

 

さらにその中で、会話だけでなく文字も介在させて、様々なコミュニケーションツールを自在に使って、コミュニケーションをさらに深めていく、ということになるのでしょう。その基礎としての「言語・数理」の力は、時代が変わっても絶対に必要で、この辺りをしっかり身に付けなければならない。そして、Science、Technology、Engineering、Art、Mathematicsの全てを総合させたSTEAMという言葉が重要だと思います。ここには「アート(Art)」と書いてありますが、我々は「アーツ(Arts)」、つまりリベラルアーツではないかと思っています。

 

STEMという言葉自体はすでによく使われる言葉ですが、これにアーツというヒューマニティ(人文・社会)の要素が加わることで、より幸せな人間社会や、目の前にいる人を喜ばせてみたいという、人間らしい感情や感性に基づくものが全部組み合わさることになります。そして、それがベースにある教育こそが、今後非常に重要であると思っています。

 

ここには「創る」と「知る」という二つのキーワードがあると思います。創ることと知るとことがバランスの取れた形で循環していく学び方、STEAM教育というものが、おそらくこれからの教育の主流になっていくのだろう、しなければならないだろうと思っています。

 

もう一つが「働き方改革・一億総活躍」の社会です。先ほども申し上げましたが。時間の有効活用が基本になる社会となり、テレワークがどんどん入ってきます。ですから、これからは出産して育児をしながら仕事を続ける人が、男女を問わず増えていくでしょうし、そういった方々をもっと大事にしなければなりません。子育てのために仕事から離れることを避けるためにも、テレワークを何とか活用しようということです。

 

また、地理的な条件が不利な地域に住んでいる人と都会に住んでいる人が、中身の濃いコミュニケーションをいつでも自由に取るためにもテレワークが必要です。さらに、1人の人間が副業や兼業をするのも当たり前、という社会がやってきます。そして、そういったものが可能になる社会を構築しようとしているわけです。

 

そして、これはやや矛盾するかもしれませんが、時間を有効活用することとともに、あらゆる評価を時間ベースではしない社会にしようという動きもあります。特に学校には、標準授業時数とか、授業1コマが〇〇分といった時間ベースで管理する場面が多く、なかなか頭の痛いところです。その一方で、社会は何らかの成果を時間数で測ることから、何とか脱却しようという方向に向かっています。短い時間でいい成果を上げて、もっと楽しいことができる社会シフトさせようとしているのです。

 

さらに、居場所があまり問われないような社会になるでしょう。これまた繰り返しになりますが、どこにいても、誰とでも深いコミュニケーションをして、一緒にものを作ることができ、どんな不便な土地に住んでいたとしても、世界最先端の教育も世界最先端の人たちとのコミュニケーションも全部可能になる、そんな社会にしようということです。

 

そして、多様性の包摂力というものが問われる社会にもなります。先日の入管法の改正で、今後外国人の特定技能を持った方々がたくさん入ってきます。その中で外国人の方々とどれだけワークができるのか。そして、人生100年時代で、高齢者がずっと働き続けることになります。そういった方の知恵を、どのように生かし続けることができるのか。我々の配慮のなさのために、力のある人を社会のお荷物のような存在に追い込んでしまわないためにはどうしたらよいかが問われることになります。

 

そして最後にある「ギフテッド」は、IQが130を越えた、統計的に2sdから外れた高い知能指数を持つ方のことです。そしてこの2Eというのは、発達障害とギフテッドの2つの特性を併せ持つ方々になります。こういった方々を始め、様々な障害を持つ方々にも、最大限に力を発揮していただこうというのが、一億総活躍社会ということになります。こういう社会にできるかどうかが、わが国の力として問われていると思います。

 

「ポスト働き方改革」の社会はどうなるのか

本日お話ししたいのは、これらの解決策に不可欠なのが、結局ICTでしょうということです。その一つとして、「ポスト働き方改革」というお話しします。

 

これからの子どもたちは、「ポスト働き方改革」の社会に出ていくことになります。その子たちが、働き方改革以前の、工業化社会的な社会の常識にとらわれた教育を受けて、ポスト働き方改革の社会に出ていくというのは、相当つらいと思います。先ほど言いましたように、社会の前提が全く違うものになってしまいますから、来るべき社会をイメージして、子どもの頃から自在に自分の知恵と体を動かして学ぶ機会をできるだけ与えてあげるべきであると思います。

 

それでは、ポスト働き方改革の社会に出ていく子どもたちには、何が必要になるのでしょうか。

 

まず自分に最適な教育、子ども目線から言えば自分に適した学び方をわかっているということです。先生に言われたことを言われた通りにやるのではなく、子ども自自身が「自分にはこういうやり方が合っている」ということがわかっていて、それを選ぶことができる。1回で正解にたどり着けなくても、それを模索することができるということが重要です。

 

また、自分の時間割を自分で作ることができること。勉強が得意な人は、大体自分の学び方や時間割を作ることができますが、これを皆ができるようになること、そしてその修正を続けられることも必要です。

 

三つ目は、学校というのは、朝8時から午後の3時まで決まった教室で自分の席に座っていればよいという場ではなくなるということです。ポスト働き方改革の社会の会社では、「自分のスケジュールは自分で作れ。集まる必要があれば会社に来い。集まる必要のないときは、自分の持ち場で価値を生め」と言われることになります。つまり、集まる必要があるときに集まるべき人を集めることができる、できれば集まりたい人たちに呼んでもらえる存在になろう、ということであると思います。

 

そして多様性の中で何かを創造し続けるというのは、先ほどの包摂力のところに通じます。根本的に重要なのは、自分の中にわくわくするテーマを持っていて、それを突き詰めることができること。こういったことが、ポスト働き方改革の社会が求めている人材像そのものではないかと思います。

 

そのとき、いろいろな意味で重要になってくるのがICTです。それを使いこなすためにも、子どもの頃から大人と同じICT環境に慣れておくのがよいのではないかと思います。具体的に挙げていくと、まず1人1台パソコンとスマートフォンを持っていること。子どもはスマートフォンは使いこなしていますが、スマートフォンで全てができるわけではないので、あえて1人1台パソコンと書いています。

 

タブレットと書いていないのには、重要な意味があります。精度の高い仕事をしたり、集中して作業したりするためには、タブレットでは間に合いませんから、どうしてもパソコンが必要になります。

 

そして高速インターネット。これからLTEから5Gに移行します。クラウドにつながり、オンラインで会話もどんどんできる。動画コンテンツで自分に合った動画を見つけて、自分のペースで勉強できるという環境が、必ず必要になってきますので、高速インターネットは不可欠です。

 

新しい社会を生き抜くための教育のあり方の試み

ここからは、我々の事業のご説明をしたいと思います。

 

我々が目指したいのはこの二つ、学びの「STEAM化・プロジェクト化」と、学びの「自立化・個別最適化」です。

 

この「未来の教室」プラットフォームは、昨年の7月に立ち上げました。昨年度はここで子ども向けの23の実証プロジェクトを行いました。実は、その前にリカレント教育のプログラムを開発して。今の大人の課題を見つめようというところから議論を始めています。

 

こちらは、川崎にある特別養護老人ホームです。この中で私たちが、メーカーさんと介護の現場のスタッフの皆さんとの共同で「リビング・ラボ」という、介護にイノベーションを起こすための事業を進めています。

 

目下日本の最大の社会課題である介護の場で、なぜイノベーションが起こらないのか。その原因を突き止めて、イノベーションが起こっていくサイクルを作ろう、その中で課題を見つけていこうという実験を、この1年半進めてきました。

 

 

今この現場でいろんな企業やメーカー、ITベンダー、そして現場の介護士の皆さんが、日夜製品の改良や開発、プロトタイプの実証など、いろいろなことに一緒に取り組んでいます。

 

下図の右の列に書いてあるのが施設の生産性や自立支援に向けた課題で、これは1階から4階までの全フロアの課題を列挙しています。それらを施設の中で議論をして、こういうことを解決したい、という意見を出します。それに対していろいろな企業が、自社の製品やソリューションを持って来て、それを施設のメンバーが話し合って選んで組み合わせます。それによって現場の課題がどれだけ改善するのかを検証しながら、プロトタイプの絵を作って壊して、ということを繰り返して話を進めるという作業です。これはいわばSTEAM教育の実践の場です。

 

 

こんなことは、普通にやられていることだと思われるかもしれませんが、ともすればライバル企業も入ってくるので、実際にはほとんどないのです。これを経済産業省が間に入って、企業に「こういう約束事でこういう場を作っていきましょう。会社の壁を越えて、課題も共有して、知恵出して進めていきましょう」と声をかけるわけです。放っておいては、何もできないのです。

 

結論を先に行ってしまうと、「放っておいては何もできない」というのは、教育の課題でもあります。こちらのレーダーチャートは、このリビング・ラボで一番熱心に活動したエンジニアの方の自己評価の推移です。青がプロジェクト前、オレンジがプロジェクト後のグラフです。青からオレンジに落ちているのは、「観察」のところです。事象や相手の動きの観察、要するに客の動きを見ていなかったという自己評価になっています。

 

もう一つが、「課題解決発想」です。どうしてこの評価になったのかは確認の必要がありますが、「課題を見つけられていなかった」というのは、このプロジェクトに参加した方々の中では、結構わかりやすい傾向でした。事象をつぶさに観察をして、事象を観察して、問題を特定化して、そしていろんな知恵を合わせてソリューションをデザインしていくという。極めて基本的な動きというのが、課題であることが明らかになりました。

 

さらに、現場の介護士さんとメーカーのエンジニアの皆さんでは、バックグラウンドも学歴も全く違います。そういう人たちが同じ社会課題を目の前にしても、なかなか会話が通じません。この会話が通じない形同士で会話を成り立たせて、新しいものを生むという作業、つまり多様性の中で何かを生み出す力というのがとにかく必要で。そうなると、コミュニケーションはどうするかということになります。

 

この施設では、そういったとき、どういう考えで何をしたら話がうまく行くかということを、ある程度パターンランゲージ化しています。これを今後全国の現場で取り入れてもらおうとしています。

  

 

実は、これらは大人に対する教育プログラムでもあります。こういったことをなぜ大人になってからやらなければならないのか、子どものときからやっておこうよという結論になるわけです。

 

ここで使われているのは、結構基本的な所作です。要は、業種やバックグラウンドの違いを越えて、何を解決したいかという課題設定を行い、ちょっと違ったと思ったら臨機応変に修正していくという手順を経験しておくことが、必要だろうと思うわけです。 

 

「創る」と「知る」を循環させる教育の場を作る

こちらが、今のリビング・ラボでの取り組みの延長線上で、子どものときからこういった場を設けてSTEAM教育で実践しようというものです。

 

今回、小学校でプログラミング教育が始まります。それは最大のチャンスで、画期的な第一歩でありますが、同時にその一歩にすぎません。

 

プログラミングはこれからSTEAM教育の重要な核になりますが、それを核にしながら、どれだけ「創る」と「知る」を循環させる教育環境を作ることができるか、というのが真の第一歩だと思っています。

 

下図は、農業高校の皆さんと一緒に作っているプロジェクトで、未来の農業、スマート農業をテーマにして、ロボットを作って動かしてみようとか、センサーでデータを取って解析をして、ソリューションを考えようということを行っています。

 

 

口で言うと簡単ですが、内容はかなり高度で、農業高校のこれまでのカリキュラムやプログラムを深さも広さも結構超えていますが、ベンチャー企業と農業高校校長会、そして、それぞれ参画している農業高校の校長先生や現場の先生たちの熱意で何とか成立しています。

 

このプロジェクトのためには、知識を横断的に使わなければならないし、横断していろんな知恵を集めて、試行錯誤していかなければなりません。さらに、そこで必要になっていく数学や理科などの知識も含めて、「なぜこれを学ばなければいけないのか」ということを納得しながら勉強していくことにつながっていきます。

 

もう一つの例が、商業高校の皆さんが、カンボジアの社会課題である交通渋滞と生活衛生の問題に取り組んだものです。 

 

ここで面白かったのは、テーマが交通渋滞なので、生徒たちがプノンペンの町中に出て、交通量調査のカウンターで数えたのですが、そのときに交通渋滞を引き起こしているのが、ラウンドアバウト(3本以上の道路を円形のスペースを介して接続した交差点の一種)であることに気づき、なぜそれが渋滞を引き起こすのかということを、まず数理的に理解しようとしました。背景に数学が潜んでいるのかを理解したのですが、彼らはそれにとどまりませんでした。

 

調査しているうちに、彼らはカンボジアの人たちがまだ交通ルールを守るという習慣が身に付いていないと、言い出したのです。これは倫理観の問題で、交通ルールの教育が必要じゃないかとか、そもそもそんなルールが必要だろうとか、といった議論になりました。つまり、彼らは何のインストラクションも与えられなかったにもかかわらず、数理をベースにして技術的に解決しようというところと、ルールや倫理をベースにした解決という両面からのアプローチを行い、たいへん興味深い実証実験になりました。

 

子どもたちに、こういうプロジェクトをたくさん経験させてあげたいけれど、学校は今、とにかく忙しい。さらに、一斉式の授業にはついて来られない子たちもいます。

 

こちらは、中学校や小学校の算数の授業を抜本的に変えようという試みで、千代田区立麹町中学校で行ったものです。

 

下図の左の写真は、QubenaというAIを使った数学のドリル教材を使ってそれぞれが勉強しているところです。それぞれが勉強するので、写真ではすごく孤立した静かな空間のように見えますが、実はとてもにぎやかです。生徒が隣同士で教え合い、学び合っています。一人ひとりの進度に合わせて、わかるまで勉強する。隣同士で教え合い、それでもわからなかったら先生に聞きます。

 

さらに先生は、ついて来られない生徒たちのカバリングに回ることで、いい感じの空間が生まれ、単元を消化する時間が従来比の2分の1で終わってしまいます。また、成績も上位クラスと下位クラスの差がどんどん縮まっているという結果も出ています。

 

 

そうやって捻出した時間で、右側にあるように、数学を活用してロボットを動かすプログラミングをすることもできます。先ほどの農業高校のプロジェクトは、この図で言えば右のプログラミングから入って左の教科の学びに行きましたが、これは教科学習からプログラミングに行くということができています。

 

こちらは、静岡県の袋井市立三川小学校の5年生で、Keyという教材を使ってアダプティブラーニングの授業を行ったものです。一斉授業は最初と最後の5分ずつで、後は全てタブレットを使って自分の理解度に合わせて行いました。

 

理解度が早い子も、遅い自分の理解に合わせて進めていくことができます。理解の遅い子も、自分のペースでゆっくりやって、わからなければ自分で戻ったり、回りに助けを求めたりできる。そして、授業が終わると、児童はふーっと一息つく。相当エクササイズした感じなのですね。このように、児童の手が止まらず、会話のあふれるにぎやかな教室になります。

 

ICTによって、このような個別・自立・自学自習と学び合いの空間が実現でするので、時間的余裕ができ、残った時間を協働学習にあてていくこともできるわけです。

  

キーワードは学びの「STEAM化・プロジェクト化」と「自立化・個別最適化」

この学びの「STEAM化・プロジェクト化」と、学びの「自立化・個別最適化」の二つの方向を伸ばしていく。そして一番重要なのは、そのSTEAM化することで、「作る」と「知る」が循環する学びを作ることです。また、自立化と個別最適化も重要な柱ですが、いずれにしてもテクノロジーの力をどれだけ活用できるのか、ということにかかっていると思います。

 

そして最後に時間割問題です。月曜日から金曜日まで、1限から6限までで29時間というのが、大体上限として定められていますが、その中でのその時間の使い方は、テクノロジーの活用によって、いかようにでも再編集が可能です。

 

カリキュラムマネジメントという言葉も、今後推進されるべきものとして方針は出されていますが、このイメージをどれだけ明確に現場の皆さんにおわかりいただけるか。そして、その上で我々経産省は、先ほどの「知る」と「作る」とが循環した学びを可能にするために、産業界の前線で活躍している方や研究機関で世界の最先端を担っている方々。この人たちが子どもたちに対して情報発信する機会をどうやって作っていくのか。参画を増やすのかということについて、文科省や総務省と一体になって、学べる環境整備をしていきたいと思っています。