New Education Expo2019

教科の学びにつなぐプログラミング教育 導入から授業実践

〜先進自治体、取り組み校の導入・実践・支援から学ぶ〜

札幌市立伏見小学校 朝倉一民先生

私からは、現在勤務しているしている札幌市立伏見小学校と、今年3月まで9年間勤務していた屯田北小学校の事例をご紹介します。

 

ICT環境は発展途上

平成21年度の文部科学省「スクール・ニューディール」構想(学校ICT環境整備事業)の発表から10年が経ちました。札幌市が現在どのような環境にあるのか、個人的見解を交えてご紹介します。

 

まず、全校で50インチのテレビが各教室に配備され、実物投影機、教室PCもコンピュータ室のリプレースで学年に1台、合計6台ずつが配備されました。今後はコンピュータ室には、40台のタブレットを配備していきます。

 

 

札幌市には201の小学校と99の中学校があり、先生方の校務支援機も取り換えるのに1万台必要なため、整備には労力がかかります。私の学校もそうですが、Windows7を使用している学校もあり、来年1月にはサポートが切れるため、対応も考えなくてはいけません。

 

デジタル教科書は、算数が全小学校に入っていますが、普通教室内のPCは全教室分ではないため、学校予算で中古などを仕入れています。無線LANは、数年前から使用可能になりましたが、アクセスポイントは学校で用意が必要で、教育系に通してプロキシで使うという形になっています。

 

このような状況ですので、授業の中でのICT化は進んでいるとは言えません。ただ、今年に入って様々な小学校からプログラミングの講師依頼が来るようになり、状況が変化していることを感じています。

 

屯田北小学校のICT教育環境の整備

この中で、前任の屯田北小学校のICT教育ではどのようなことを行っていたかをご紹介します。屯田北小学校は、開校15年と比較的に新しい学校ですが、PCはデスクトップが40台でした。2012年以降、パナソニック教育財団や日本教育公務員弘済会から助成金を集めて、少しずつ環境整備を進めてきました。

 

札幌市ではタブレットはWindowsを使っていますが、私たちの学校は使いやすさを重視してiPadを入れ、現在はアプリのダウンロードも可能になっています。

 

 

こういった整備を進めていくためには、カリキュラム・マネジメントが非常に重要になってきます。本校も、教科単体ではなく横断的な視点で授業研究を行ったり、地域素材や物的素材などのリソースを計画的かつ積極的に取り入れたりしながらPDCAサイクルを回し、環境整備と授業への導入を進めました。

 

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私たちが目指した情報活用能力とICTのあるべき姿がこちらです。図でオレンジ色で示した「視覚化・焦点化・共有化」といったユニバーサルデザインも意識してきました。

 

そして下図のような「総合的な学習の時間」のカリキュラムをしっかり作り、ICTを生かした調べ学習やまとめの発表ができることを目指して活動を進めてきました。

 

当初、先生方の中にはタブレット使用への抵抗感もありましたが、学習内容や評価観点を「見える化」し、主体的に課題を探求する活動にタブレットを位置付けて活用しました。

 

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プログラミングを「情報活用能力」の一環として位置付ける

さらにそこにプログラミングが入ってきました。私も当初は手探りでしたが、教育のICT化を進める上でプログラミングは避けては通れないため、先生方と話し合い、理解を得ながら進めました。

 

先生方に説得力があったのは、学習の基盤となる資質・能力として「言語活用力」に次いで挙げられている「情報活用能力」の指導に結び付け、カリキュラム整備の一環としてプログラミングを位置付けたことです。

 

時間数や活動内容も、具体的に細かく計算してカリキュラム化しました。

 

例えば1年生では、マウスの操作としてクリック、ダブルクリック、バックハンド、ドラッグ&ドロップなどの練習をします。そこでしっかり身に付けておかないと、3年生で次のステップに進むときにスムーズに活動に入ることが難しくなります。

 

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1年生「音楽」での取り組み

プログラミングの教材は業者さんにお貸りしたり、購入したりして使いました。1年生の音楽の授業では、ジャストシステムの『スマイルブロック』を使いました。

 

 

1年生の音楽では、『じゃんけんぽん』の歌を練習し、拍に乗りながらリズム感を養うという単元がありますが、ここに音遊びの要素として「音作りのプログラミング教材」を使いました。これは4拍分の「箱」の中に音を入れていくことで、自分が指定したリズムをコンピュータが再生してくれるというものです。

 

子どもたちが作ったものをその場で音にしてくれるので、一斉授業で先生が黒板に書くものと違って、子どもたちは夢中になって取り組みます。これはプログラミングならではの効果だと思います。

 

 

こちらは、2年生で使ったスズキ教育ソフトさんの『ぴたっと!プログラミング』です。このソフトは、コードの一つ一つのブロックが日本語の文章になっていて、それを並べて「ロボットにお風呂の掃除をさせる」といった、日常行動の工程をプログラムで作るというものです。

 

 

子どもたちはできないのが嫌なので、すぐに諦めたり答えを欲しがったりますが、それでも何回も試行錯誤し、途中から自ら導き出したヒントを通じて答えに近づいていくことができました。

 

 

この活動は、単に「ロボットが仕事をしたね、よかったね」で終わらせるのではなく、この手順を通して順次・分岐・反復を学び、子どもたちに合う言葉に直して日常化につなげていくようにしました。さらに、この図のように、教室の掃除の手順をフローチャートで書いてみる、というアンプラグドの活動にもつなぎました。

 

3年生「算数」での取り組み

3年生の算数では、スマイルブロックを授業後の復習や定着を確実にするために使いました。

 

 

「位置の表し方」という学習内容で、XとYの平面の中の座標を捉えるというものです。これは、スマイルブロックの社会科のコースに「東西南北にロボットを動かす」という教材があったので、それを活用しました。平面の場所を表すために、様々なコースの中から最短の道を作っていくと平面座標と一致するということに、子どもたちが気付くというものです。

 

 

授業後は先生同士で振り返りを行います。青い付箋は「効果的」、赤の付箋は「要改善」、黄色の付箋は「改善アイディア」です。中には、プログラミングは効果的と青い付箋を付けてくれる先生もいましたが、赤も当然たくさんあります。このように、先生方との研究の中にもプログラミングを位置付けていきました。

 

 

高学年は子ども同士が自然に対話しながら試行錯誤する

 

こちらは、新しい学習指導要領で5年生の算数の教科書にも掲載される予定の『プログラミングで正多角形を描く』というものです。ここでは、『Scratch』を使用しています。ダウンロードは無料で、申請すれば学校のコンピュータ室に入れられるので、5年生のいろいろな場面で活用しています。

 

 

ここでは、東京書籍や教育出版の教科書に掲載する予定の内容に沿って実行しています。図形の辺の数や角度等の要素を考えながら必要な数字を埋め込み、一つできたらと次の形に応用していきます。この活動では、子ども同士が自然に対話的になります。その中で、思いもよらなかった形を描いてくる子どもたちも現れ、発想の素晴らしさに感じ入ります。

 

 

こちらは6年生の総合的な学習の時間で行った、ロボットボールの『スフィロ SPARK+』を目的地まで動かすというものです。実体を動かすシンプルなプログラミングで使いやすいですが、子どもたちは対話的に試行錯誤しながら、1秒、2秒と微妙な速さの調整をしています。失敗するとまたやり直して、自分たちの好きなコースを作って進んでいきます。このように子どもたちが興奮する場面を授業の中でつくることは難しいのですが、今回は子どもたちが大きな達成感を持って授業を受けられました。これは算数の「速さ」や「角度」の学習にも使えると感じました。

 

 

6年生の理科では、センサーを指で隠して暗くすると電気がつくというプログラムを作る学習をしました。『Scratch』と連動して、内田洋行の製品を使用しています。

 

 

こちらも来年度から理科の教科書に掲載される予定です。これまでの実験器具と同じように、備品としてプログラミングと連動するセンサーやスイッチ、ロボットなどを購入することになるでしょう。

 

 

1年生の「アンプラグド」~コンピュータを使わずプログラミング的思考を身に付ける

最後に、1年生で『ルビィのぼうけん』という絵本を取り入れたアンプラグドの学習についてご紹介します。

 

 

これは、順序立てたフローチャートから間違いを見つけ、正しい順序に直すことで、正確な指示の必要性と順序・分岐・反復を身につけて行くものです。子どもたちは日常生活の行程を見ながら、「料理が出た後にテーブルクロスがかかるのはおかしい」など、手順の間違いを自分の言葉で説明します。

 

 

意見を出し合った後は、実践として自分の歯磨きの過程をプログラミングで表す作業をします。「歯ブラシを取る」「水で濡らす」「歯磨き粉を付け、口の中に歯ブラシを入れる」「歯を磨く」「口をゆすぐ」といった単純な手順ですが、これが意外に苦戦します。面白いのは、ここでなぜか「ご飯を食べる」「食器を片付ける」「ランドセルを背負って」「学校に行く」などが出てきて、歯磨きの行程からずいぶん離れてしまったことでした。子どもは本当に面白いと思いました。

 

■質疑応答

西田先生:札幌市は伝統的に教科研究がしっかりしているので、逆にICTが入りづらいという環境の中で、朝倉先生はICTの活用を情報活用能力のカリキュラムの一環として組み込み、周囲の理解を得て、プログラミング学習を実践して来られました。実際に取り組んだプログラミングは多岐にわたるものの、共通することは「教科の学習をより確実にする」ことを目的としたことです。

 

さて、現在学校で進めている様々な取り組みについて、先々市教育委員会からモデルプランが示された場合、どのような対応をされる予定でしょうか。また、現在の取り組みについて、市教委に期待することはありますか。

 

朝倉先生:市教委からどのようなプランが示されても、実際に動くのは学校なので、学校側は教育課程を工夫して何をしたいのかの考えをしっかり準備し、主体的であることが大切だと考えています。本校の場合は、情報活用能力の育成をベースにしてその中にプログラミングを位置付け、使える資源は使い、学校予算で購入可能なものは購入して、先生方に「見える化」しておきました。

 

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その準備がない状態でいきなりプログラミングを入れようとしても、先生方の不安は拭えないと思います。1年分であっても、カリキュラムの「見える化」をすることで、プログラミングの位置付けと意識が上がるので、そのことが大切だと考えます。