New Education Expo2019

教科の学びにつなぐプログラミング教育 導入から授業実践

〜先進自治体、取り組み校の導入・実践・支援から学ぶ〜

大田区立矢口西小学校 和田直己先生

教育研究推進校としてプログラミング教育に着手

本校は平成29年度から東京都のプログラミング教育推進校に指定されています。その前年まで、平成27・28年度は、大田区教育委員会の国語教育の研究推進校でしたので、情報教育やプログラミング、ICTとは正直無縁な学校でした。

 

ただ、国語の研究をする中で常に考えていたことは、子どもの主体性や思考力を伸ばすことの大切さです。当時、大田区の学校には平成29年度2学期からタブレットや機器が導入されることが決まっていました。そこで28年度の終わり頃に、ICTも活用しなくてはいけないし、新学習指導要領も2年後に始まるので、何か手を打たなくてはいけないと考えたとき、プログラミング教育がひらめきました。プログラミングを導入することで、主体性・思考力・ICT・新学習指導要領の4つが全て解決に向かうのではないかと考えたのです。

 

平成29年度にプログラミング教育を始めた当初は、これまでの国語研究とのギャップが大きく、先生方からも「なぜプロミングなのか」「パソコンは苦手」といった疑問や反発の声もあがりました。しかし、校内の研究主任から「大切なのは論理的思考力を育むことで、その中にプログラミング的思考というものがある」と位置付けを話してもらい、私からはプログラミング担当としての発信をしていきました。具体的には、2学期からICT活用が始まるのでどんどん活用しましょう、例示されているものを実践してみましょう、プログラミングの授業をとにかくやってみましょう、というものです。

 

失敗も含めた様々な実践を通して、自校のプログラミング教育観を見出す

その結果、平成29年度に全学年で、多教科、領域で授業を行うことができました。西田先生に校内研究の指導をお願いしていましたが、ご指導いただいたものが11件、他のものも含めると年間で28件の実践を行うことができました。

 

当時私は教務主任も務めていたため、授業観察や年次研修などを計画する機会を得ていましたので、その際には必ずプログラミング教育の視点を持って授業を行うよう、全員の先生にお伝えしていました。

 

 

内容としては、プログラミング教育につながるのではないかと思われるものの中から、理科の実験、家庭科の調理実習、国語の「書く」活動、外国語での道案内、掃除の仕方など、何かしらの手順があり、フローチャートにつながりそうなものを取り上げました。

 

指導要領に載っている5年生の算数については、当時の6年生は5年生時にプログラミングによる作図を行っていなかったため、6年生で習う「拡大図と縮図」の単元でScratchを使って作図した図形を拡大・縮小させることも試しました。

 

中には失敗したものもいろいろありました。子どもにプログラミング的思考を働かせることが目的なのに、大人の方が子どもの活動を区切り、一人ひとりに細かく指示を出して作業させてしてしまい、まるで子どもがロボットになったのではないかと思う場面もありました。無理にプログラミングを使わずに普通に授業をした方が良かったのではないかと思われる事例もありました。

 

もちろん、良かった実践もありました。

 

例えば3年生の体育では、跳び箱の開脚跳びは全員が、台上前転も9割の子どもができるようになりました。跳び箱には、助走→踏み切り→着手→台上姿勢→着地という一連の動きがあります。動きを分解し、その一つ一つのポイントを、自分の跳んだときとお手本の画像で見比べて、できているところや改善点を話し合い、一つずつを修正し組み合わせることで達成したものです。

 

 

5年生の算数では、台形や平行四辺形の面積を、図形を長方形に変形して求めます。そこで、どのようにして図形を変形させればよいのかを考えたり、それを説明したりする中で、頂点、辺を二等分といった算数の言葉を使って自分の考えを整理し、指示書にまとめることで、面積の公式を見つけるといった活動もしました。

 

このように失敗も含めて様々な経験を重ねることで、矢口西小学校として至った一つの考えがあります。それは、「プログラミング教育とは、『自分のしたいことを分けて、つなげて、考える』ということ」ではないかということでした。

 

平成30年度は「教科のねらいを達成する手立て」として

平成30年度には、プログラミング活動を手だてとして、教科のねらいをさらに効果的に達成していくことや、コンピュータを活用するということをより意識した授業を行いました。

 

1年生と2年生の音楽では、自分のイメージする音を形にする際に、楽器ではなくタブレット上のプログラムで音を出しながら試行錯誤するということを行いました。ICTを使うことのメリットは、やってみて、今のはいいね、となった際に保存したり再現したりすることもできることです。どのように音を音楽にしていくかについて自分の思いを持つという、音楽の教科のねらいに迫るような授業ができました。

 

 

4年生の図工でも同様に、自分のイメージをどのように表現すればよいかということで、Scratchを活用した授業を行いました。また、同じく4年生の社会では、授業のまとめや発表の際に今まで行ってきた新聞形式でまとめるのに替えてScratchを使用するという活動を行いました。

 

 

5年生・6年生の理科では、「てこ」を利用した道具の仕組みの理解や、コイルの巻き数と磁石の関係の考察など、何かを考える場面の補助として、プログラミングを取り入れました。

 

 

課題は「教師と生徒それぞれのスキル」の向上

この研究は、今年度も継続しています。いずれも、プログラミング活動を「授業のねらいを達成するための手立て」として、表現や発表、考えを深めるなどの場面で活用しています。

 

しかし、本校としての取組は3年目になりますが、教員は毎年異動があるため、毎年異動してこられた教員もプログラミング教育ができるようにしていく必要があります。

 

 

教員は毎年異動があるため、毎年異動してこられた教員もプログラミング教育ができるようにしていく必要があります。

 

さらに、大人だけでなく子どもにもICT活用のスキルがある程度備わっていないと授業の中で使えないため、そのスキルをどのようにして育てていけばいいのかという点については、今後もまとめていきたいと考えています。

 

■質疑応答

西田先生:指定校として授業の改善という視点からプログラミングに取り組んだのと同時期に、初めて入ってきたICTにも対応を迫られました。

 

この二つの「初めて」にどのように対応してきたのでしょうか。特に、最初のころは区のICT整備もなかなか追い付かず、先生方の経験も乏しい中で、どのような取組をされましたか。

 

和田先生:平成29年の7月までは、本校もパソコン教室にパソコンが40台あるだけという環境でした。

それが、新しくタブレットPCが80台、無線LANの環境、電子黒板とともに導入されました。児童数が685人なので、8.5人に1台となり、まだ決して多くはありません。

 

 

そんな中、先生たちも新しいことに取り組みたいという意欲を強く持ってくださり、子どもに与えるメリットや、黒板ではできなかったことの実現、パソコンの画面に映すことのわかりやすさなどに着目しながら使うことができました。平成30年度には、全教員が週1回以上ICT機器を活用して授業をしています。

 

そもそもの発想が「いい授業をしたい」「教科のねらいを達成するための授業改善をしたい」というところから始まってICTを使っています。

 

やってみることで、ICTを使うことのメリットや、ICTを活用しないとできないことへの気付きなどがありました。

 

例えば子どもの思考の可視化できることや、情報再構成、質の向上、再現、思考の深まりなどです。さらに、先ほどの表現や発表、思考の場面でも、どんな手段として、何を考えさせるためにプログラミング活動を使うのかいうことを考えることで、教科のねらいをよりよく達成する授業を行うことができました。