New Education Expo2019

となりの高校、ICT活用どうしてる?

eポートフォリオの導入と現状

日本大学鶴ヶ丘高校 近藤明宏先生

周到な準備のもとのICTの導入は短期間で大きな効果につながる

私は、理科の生物が担当ですが、校内のICT活用推進リーダーをしています。もともと新しいもの好きなので、ICT機器やらパソコンやらを授業にちょいちょいと導入していたので、私にとっては、ハードルはあまり高くなかったです。

 

ただ、これを学校全体に広げていくというのは、かなり苦労がありました。図の下の方にあるように、今力を入れているのは、ICT教育の基盤整理や授業をはじめとした学校教育活動全般の改善と見直し、そして、高大連携教育の改善と見直しです。

 

先ほど米田先生のお話にもあったように、学校教育活動自体を見直すのは、正直なかなか一筋縄ではいきません。また、日本大学鶴ケ丘高等学校は、大学の附属高校なので大学入試は簡単にいけるだろうと思う方もいらっしゃると思いますが、なぜ附属高校がポートフォリオに力を入れるのかということについても、お話しできればと思います。

 

教育関係者の方は、今ポートフォリオという言葉はさんざん聞いていらっしゃると思いますが、実際にはまだどうしたらよいかわからないという学校が多いかと思います。本校は進んでいると言われていますが、実際は紆余曲折を経て、今もいろいろ問題を抱えながらも、少しずつ前に進んでいるのかなと思います。今日はそういった失敗例も見ていただきながら、うちの学校にもできるかなということを、実感していただければと思います。

 

ICTは非常に便利です。本校の場合、すでに1人1台環境が実現していますが、導入前は、かなりネガティブワードが飛び交いました。それが今では、皆が当たり前のように使っています。一番びっくりするのは卒業生です。たまたま今週は教育実習期間ですが、本校を卒業した教育実習生が、タブレットを持ちながら授業をしています。生徒のほうはもう使いこなしていて、実習生の方があわあわしています。中にいる我々はそれほど感じていないですが、卒業生にとっては「僕たちの頃とは違う学校になっちゃった!」と言うくらい、それくらい短期間で変わったわけですね。

 

先ほどお話ししたように、本校は大学附属高校なので、7割くらいの生徒が系列の大学に進学します。eポートフォリオというと大学への出願書類というイメージが強いので、本校の先生方の中にはこんなものはいらないんじゃないか、他大学に行く生徒だけでいいじゃないか、と言われる方もいました。それでも本校が学校をあげてポートフォリオに取り組んでいるのは、単に大学受験のためだけでなく、生徒の可能性を高めるツールと認識しているからです。それがだんだん教員たちに広がってきて、今も反対が皆無というわけではありませんが、多くの先生が賛同してくださり、いろいろな場面で使っています。

 

生徒も、以前は生徒が本当に受動的だったので、こちらもついつい一方的な授業をしていましたが、ポートフォリオを使うことを通して、先回りしすぎないとか教えすぎないということの大切さも非常によくわかったので、まずその点についてご紹介します。

 

ICT導入の前に、自校の教育の目指すところをグランドデザインにまとめる

私は教務部に所属していた期間が長くて、高大接続改革が始まる前から研修会に参加したりして、本校の教育へのICT導入を啓蒙する立場でした。ただ、当時は先生方の間の意識と乖離していて、この時は、一度断念をしています。さすがに結構落ち込みました(笑 )。

 

世の中の流れでICT化が必要だということが少しずつわかってきてはいたのですが、当時は先生方の間で目的が全く共有できていなかったのですね。ここを共有しなければダメですねということで、校長と話し合って、まず本校の教育を再検討することにしました。

 

教員同士で会議をしたり、ワークショップ形式で研修したりしながら、本校の目指すところはどこにあるのかというグランドデザインをまず作りました。その中で、やっぱりICTがあったら便利だね、という話になってきました。

 

その後、2017年・18年は、図のように比較的順調に進んできています。後でご覧いただきますが、この中で数々の研修会を実施しています。

 

グランドデザインというのは、学校によって違うと思いますが。やはりすべての教育活動のベースになります。本校ではワークショップで全教員が参加して議論して、最後に集約しました。主体的・協働的に学ぶ、考える、道をひらくという三大重点目標というのはありましたが、ワークショップを通して、我々の教育には、「考える」機会が欠けていたということに気づきました。

 

ならば、考えることに必要な具体的な力は何かということを考えると、発信する力、読む力、聴く力、等などとなりました。当たり前と言えば当たり前のことですが、それが授業で展開できていなかったし、我々自身がその機会を喪失させてしまっていた。だからそれをもう一回見直しましょう、何とかしましょう、という先生たちの機運が高まってきました。このグランドデザインを考える作業は、本当にやってよかったと思います。

 

もちろん、最初は「何でこんなに集められて作業させられなきゃいけないんだ」とおっしゃる先生もいましたが、実際にワークを始めると、「もう時間ですよ」っても終わらなくなってしまうくらい、本当に盛り上がりました。最初は乗り気でなかった先生もどんどん巻き込まれていって、知らず知らずのうちに熱中してしまったという感じですね。ですから、そういう機会作りがとても大事だと思います。

 

無理のない導入、強制しない研修で先生方のハードルを下げる

2018年、昨年度からの活動がこちらです。やはり生徒たちはデジタルネイティブなので、本当に吸収が早くて、一気に普及していきました。生徒の方から「先生、こんな使い方もできるよ」と提案してくるので、我々が想定する以上に活動が広がっています。本当に生徒はすごいです。

 

先生方のほうが追いつかなくなってきているので、いろいろな研修も行っています。その際、やり方として、強制的に先生方を集めてやらせるのでなく、「この指とまれ方式」と言いますか、年間に何回か、テーマ別に「こういう研修やるから来ませんか」という形で声をかけると、時間がない、忙しいとおっしゃっている先生もけっこう参加してくれます。参加できない先生も「何やったの」という感じで気軽に聞いてきてくれるので、強制しない研修というのも大事かなと思います。

 

今日のテーマでもあるeポートフォリオの導入と活用についても、構えては行いませんでした。無理のない導入ということで(もちろん、多少無理はあるのかもしれませんが)、今までやってきた教育活動を振り返ってみると、「これって実はポートフォリオなんじゃないの」というものが結構ありました。それらをデジタル化していくというところから始めて、先生方に無理だと思わせず、自分でもできると感じてもらうこと、やはり負担軽減というのがポイントであると思いました。このように、無理のない導入、今行っている教育活動をもう一度考えてみようというところと、先生がたの理解をどのように進めていくかが大事だと思います。また、行事や課外活動、保護者との連携でもICTの活用が進んでいます。その意味で、ICTはあらゆる場面に浸透してきていると思います。

 

「楽しかった」へのプラスワンがポートフォリオの第一歩

eポートフォリオの具体的な使い方のお話に入ります。行事ごとに感想を書いたり、もう少し進んで振り返りを書いたりということは、紙ベースのものはどこの学校でも行っていると思います。

 

ですから、まずその分をデジタル化することから始めるのがよいと思います。本校には、進路指導部が作っている「進路ノート」という冊子があって、「オープンキャンパスに参加してみよう」とか「出張講義を受講してどう思いましたか」といったいろいろな項目があります。これは紙ベースで行っていましたが、内容がポートフォリオや振り返りシートに近かったので、まずこれをデジタル化するところから始めました。

 

その時のポイントが、「プラスワン」です。ただ「楽しかった」という感想だけでは面白くないので、それ以外の要素を何か一つ入れることで単なる感想から一歩前進させよう、ということを行いました。書くことによって振り返る力を身に付けることが目的なので、ここではコーディネーターとして、いくつかの要素を挟んで書かせることを提案しました。

 

ポートフォリオを初めて導入した2018年に、具体的にどのようなことをしたのかというのが、こちらです。この年は、皆が「そもそもポートフォリオって何?」という状態からスタートしています。本校は、学校で一括契約したiPadを1人1台配布していますが、設定などに時間がかかるので、入学してすぐに渡すことはできません。

 

 

実は、その間に新入生は2泊3日の宿泊研修に行きます。その後感想文を書かますが、これまでは、よく書けているものを広報に載せるくらいしか活用していませんでした。担任の先生も、まあこの程度だろうということで、あまり目的を考えずに作業をさせていた部分がありました。しかし、これは先生たちの講話や、宿泊研究の様々なアクティビティーに対する生徒の感想がそれぞれあるわけです。ですから、視点を細かく分解することによって、生徒に振り返る力を付けさせる絶好の機会だと考えました。

 

先ほど言ったように、この時期はまだiPadがないので紙に書かせますが、例えば○○先生のお話についてどう思ったのか、自分はどうしていきたいかという項目を加えただけで、生徒は面白いくらい一生懸命書いていました。高校に入学したばかりという緊張感はあると思いますが、それでも予想をはるかに超えるくらいしっかり書いてきました。その意味で、これなら大丈夫かなと思いました。

 

最初の配信は一斉で。慣れてきたらだんだん担任の先生に任せていく

そして、いよいよiPadが全員に渡ってeポートフォリオとなるわけですが、まずはスタディーサポートの課題配信から始めました。今までもスタディーサポートはやっていましたが、受けて総評がくるまで何もしないという状態でした。それを、テスト毎に振り返りをしたり、他にも4月には校内でいろいろな講演会があるので、それに対する振り返りをしたりしてみました。この段階では、ICT担当の先生が一斉配信で行っていました。こうすることで、先生方に配信する機能を見せて「こうすると楽ですよ」ということを示しましたのですね。

 

そして、そろそろ担任の先生方が慣れてきた頃に、ちょうど6月末に文化祭があるので、そのタイミングで先生方にクラスの生徒への配信をお願いしてみました。文化祭は、クラス毎に出し物が違うので、担当者が30クラス以上も出せません。そこで、各先生に、「ご自分のクラスの企画に応じた振り返りポイントを考えてみませんか」ということで、先生方自身が課題も考えさせて配信をしてもらいました。こういったステップを通して、先生もやり方を学び、生徒も自分達の活動を振り返るという仕掛けを作りました。

 

また、近くの小学校でボランティア活動をしていますが、そのボランティア担当の先生にお願いして、ここでも振り返りの仕掛けを作りました。生徒は結構まじめにやってくるので、1学期末にはかなり蓄積がたまってきました。そこで、夏休み前の学年集会で、夏休みは自分で課題を設定してみようということを伝えました。ポートフォリオの本来の目的はここだと思いますが、自分自身で活動を振り返って、蓄積して、内容を進化させるというのは、いきなりやっても難しいです。ですから、1学期は、ここに挙げた4段階で進めてきました。これによって、クラスのほとんどの生徒がポートフォリオを習慣化させることができました。

 

スモールステップで生徒も先生も書き方に慣れていく

生徒も、一朝一夕で振り返りが書けるようになるわけではありません。最初の頃は、コメントも1~2行がやっとで、担任の先生の方が長いくらいという生徒もいます。ただ、このように担任の先生がきちんとコメントを書いてくれると、生徒は意外に喜んで、次も頑張ってみようかなと思うようになります。

 

また、コメントも全て入力させているわけではありません。先ほどお話しした「進路ノート」は手書きですが、せっかく手書きで書いたものをわざわざまた入力させるのは、生徒にも負担なので、手書きのワークシートをiPadのカメラ機能で撮って添付するのもOKですよとしました。こうすることで、どんどん蓄積ができていきます。また、紙のままだとどうしても失くしてしまう生徒もいるので、こうすることでしっかり蓄積できます。

 

私なりのまとめですが、スキルの差はありますが、生徒達はデジタルネイティブ世代なので、ポートフォリオの作成(入力)はこちらの想像以上にできます。しかし、やはりハードルが高いとなかなかやってくれません。これは教員も生徒も同じです。担任の先生がよくわからないのに生徒に押し付けても、生徒は絶対やりません。

 

ですから段階的に、スモールステップを1段ずつ上がっていくのが大事だと思います。

 

これは私自身の発見ですが、普段何もしゃべってくれない生徒も、ポートフォリオだと意外と書いてくるのです。今まで面談しても、うんともすんとも言わない子で困ってしまっていた生徒が、ここでは意外に書いてくれましたと、おっしゃった先生もおられます。これは本来の趣旨とは少し違うかもしれませんが、そういった側面からも有効性を理解してくださっていると思います。

 

このように経験を積むことで、生徒達は1年で驚くほど成長します。最初は振り返りと言っても「頑張る」と言うだけで、何を頑張るの?という感じだった生徒が、学年の最後には各科目で「〇〇を伸ばす」ということについて、具体的に何をするかについて、勉強方法や重点的に勉強する単元名などを具体的に書けるようになったという例もあります。この生徒は、正直あまり書ける方ではなかったのですが、徐々に積み重ねたことと、担任が努力されてきめ細かいやりとりをすることによって、学びの振り返りが進化し、PDCAサイクルを回すという部分が増えてきたことが感じられます。

 

それ以前の学年と比べて、模試の成績などの客観的データがどうなっているかということは、これから検証していくことになりますが、振り返りを残すことによって、生徒自身が何をいしなければならないのか、これからどうするべきなのかということが、より具体的になったと思います。こういった点を重視すると、ほとんどの生徒が系列大学に進学するから、eポートフォリオなんて要らないよと言われていたところから、「やってよかったね」というとこまで持っていけたのは、よかったなと思っております。

 

学びのPDCAサイクルをさらに広げるために

まとめに入ります。先ほど申し上げたことの他に、デジタル化するメリットは大いにありました。振り返りを重ねることで自分の成長が実感できるので、記録の蓄積と進化が著しい生徒も徐々に増えてきています。

 

また、他校の事例であっても、使えるものはどんどんアレンジして導入しました。参考になる事例は、大いに活用するべきだと思います。

 

 

一方で、改善すべき点もあります。まず、新年度は「eポートフォリオの導入」を目標にしたため、年間の計画を立てることができませんでした。結構場当たり的になってしまって、生徒やら教員にも混乱が見られたこともありました。また、一定の成果は上げられましたが、目線合わせという点ではでまだ十分ではないところもありました。振り返りの質を上げるために、どういったポイントが必要かといった点について、ある意味評価という観点から研修等で補っていくことも必要かと思っています。

 

また、アプリの機能がどんどん進化するのはいいのですが、集団として即応できない、ということがありました。当初、途中保存できなくて、生徒が決められた時間で全部入れようと思っていたらデータが消えてしまった、ということもありました。先生方もそこに気づいていなくて指示ができないことが多いので、ここはじっくり構えてやることがポイントです。

 

最後にこれからの目標です。学びのPDCAサイクルを今の高校1・2年生でやってきましたが、これを学校全体に広げていく必要があります。振り返りを、行事やイベントだけでなく、授業でのリフレクションとして始めてくださった先生もいます。ただ、ある学年では機能しているけれど、別の学年はそうでもないというところはあり、これを学校全体に広げていくのは、コーディネーターの仕事であると思います。

 

 

さらに、教員の負担の部分についてはまだ反対意見もあります。働き方改革と言っても、ポートフォリオの導入は働き方改革に逆行するのではないか、とか言われることもありますが、その部分については、例えば,いろんなコメントの雛形のようなものも用意した方がよいかもしれません。働き方改革という意味では、業務改善のためによくわからない慣例や前例主義は、ちょっとずつでも断捨離していかなければならないですね(本来やるべき部分に注力できるように)。あとは、どうしても頑としてやってくれない生徒に対するアプローチというのも課題であると思っています。

 

また、外部への進学者はそんなに多くないとは言いましたが、それでも入試、高大接続改革の部分にどう対応していくかというのも、これからの課題であると思います。言葉ではうまく伝わらないかもしれませんが、学校自体が少しずつ変わり、活性化してきたことを感じています。これを糧に課題を乗り越えて、さらに前進していきたいと思っています。