New Education Expo2019

【講演】教育の情報化の最新動向〜各省の施策から見える教育の情報化の展望〜

教育の情報科の現状について

文部科学省 初等中等教育局 情報教育・外国語教育課長 高谷浩樹氏

予測できない社会の変化の対応し得る力を育てるための、教育の情報化

本日のお話に先立って、皆さんに質問をします。この「Society5.0」という言葉を今日初めて聞いたという方は、どのくらいいらっしゃるでしょうか。…お一人、二人くらいですね。Society5.0というのは、一言で言うと、AIやICTによるサイバー空間といったものが身近なところにあり、こういったものから得られるデータを活用して、全く新しい社会を作ろうということです。図の一番上にあるとおり、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会に続く5番目の社会ですからSociety5.0と呼んでいます。

 

私がいろいろなところに招かれて、校長先生や教頭先生が集まっている場でお話しする際に、まず先ほどの質問をします。すると、「Society5.0というのを初めて聞いた」という方が、全体の3分の1から2分の1いらっしゃいます。ということは、まだこのSociety5.0というものがなかなか実感できていないということになります。

 

 

Society5.0で言われている「サイバー空間とフィジカル空間の高度な融合」というのは何かというと、将来社会生活の中にAIが入ってくる中で社会全体が変わっていくということです。狩猟社会が農耕社会になっていって、それまで狩りをしていた人たちが農作業をするようになり、工業社会になると、農作業をしていた人たちが工場で働くようになったというように、これから我々の社会構造が変わっていくことになります。先生方には、この実感がまだなかなか伝わっていないということなのです。

 

下図にあるように、将来どのような社会になっていくか、なかなかわかりません。そうすると、「今、学校で教えていることは通用しなくなるんじゃないか」とか「AIが人間の職業を奪うんじゃないか」という不安は当然出てきます。まさにこういう社会の到来に備えて、予測できない変化を前向きに受け止めて、主体的に向き合い、関わり合い、自らの可能性を発揮し、より良い社会と幸福な人生の作り手となるための力を、子どもたちに育むということ。今お話ししたことは、教育関係の皆さんはぴんとくる方がたくさんいらっしゃると思いますが、まさに新しい学習指導要領改定の方向性です。

 

ただ、先生方には情報、教育の情報化ということについて、まだまだ、なぜそれをやらなければいけないのかということが、残念ながらまだ浸透していなません。これは非常に大きな問題であると思います。

 

 

学習指導要領改訂のポイントは、情報活用能力の育成とICTの積極的な活用

このように、AIやICTが入ってくる、ビッグデータの活用が始まる新しい社会に向けて、新しい学習指導要領が来年から小学校、その1年後に中学校、さらにその1年後に高校で始まります。この情報教育に関して、大きな二つのポイントがあります。

 

 

既にご存じの方も多いかと思いますが、情報教育に関しては、まず「情報活用能力を学習の基盤となる資質・能力と位置付ける」ということ。そして学校のICT。環境整備と、ICTを活用した学習活動の充実ということが明記されています。

 

すなわち一番の柱は、子どもたちにしっかりと情報活用能力を育成しよういうこと。二番目が、学校現場でもいろいろな場面でICTを使うことで、情報活用能力を高めていこうということ。そして、情報活用能力の具体的な育成の方法については、図の下にあるように、小学校でのプログラミング教育の必修化をはじめ、小中高を通した情報教育の充実を図っていくことになります。

 

今日は、新しいSociety5.0の社会を迎えるにあたって、今やるべきこととして、この情報活用能力と、学校のICT環境整備についてお話しします。

 

情報活用能力の育成~小・中・高を通してプログラミングが必修に

まずは、情報活用能力の育成です。情報活用能力というのは、「情報および情報手段を主体的に選択し活用していくための個人の基礎的な力」ということで、ただプログラミング言語を使えればいいというものではありません。

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情報活用能力には三つの力があり、まず「情報活用の実践力」。これは具体的には、しっかりとそのICTを使いこなす能力にあたります。それから「情報の科学的な理解」で、プログラミングやコンピュータの仕組みの理解などがこれにあたります。いちばん右側は「情報社会に参画する態度」で、情報モラルはここですね。今、SNSが子どもたちの中に急速に広がっていますが、子どもたちはいわゆるネット社会の道徳もわからないまま、どんどんのめり込んで行っています。こういったところもしっかりと教育しなければならないと思います。

 

情報活用能力というのはこれら全てを指し、これらを一体的に教えなければいけないというところです。

 

小学校のプログラミング教育が、いよいよ来年4月から始まります。小学校ではプログラミング科とか、情報科という教科ではなく、算数や理科の教育課程の中に、「具体的にこういうところで、子どもたちにICTやプログラミングを体験させよう」という形で入っています。

 

 

それを具体的にどうしていったらいいかというものを、私たちの方でまとめて、「小学校プログラミング教育の手引き」(※1)として先生方向けに公表しています。それから、文科省・経産省・総務省の3省と、民間とが協力して「未来の学びコンソーシアム」(※2)というプログラミング教育のコンソーシアムを作っています。そしてこのコンソーシアムのイベントの一つとして、この9月から、小学校のプログラミング教育に向けて「プログラミング教育推進月間(みらプロ)」(※3)も実施します。

 

※1:小学校プログラミング教育の手引き

※2:未来の学びコンソーシアム

※3:プログラミング教育推進月間(みらプロ)

 

 

先ほど紹介したように、さらに小学校の1年後に中学、さらにその1年後高校と、順々に新しい学習指導要領の中で情報教育が始まります。中学は技術家庭科の中で、プログラミングに関する内容が充実されます。小学校からぐっと内容が上がるので、それに合わせて中学校もアップし、さらにその1年後、高校はもっと上がります。

 

高校では、これまでは「社会と情報」「情報の科学」という二つの科目から選択できました。これまでは、約8割の学校は「社会と情報」を選んでいました。「社会と情報」で学ぶ、情報が社会の中でどう生かされているかというのも重要なポイントですが、実はプログラミングはこの中にはありません。ですから、プログラミングを学ばずに卒業してしまう子どもたちが非常に多いというのが問題です。

 

 

新しい学習指導要領では、必履修の「情報I」という全ての高校生がプログラミングを学ぶという教科が、さらにその上に発展的な「情報II」という教科ができます。このように新しい学習指導要領になると、児童・生徒にプログラミングを教えるという中身がぐっと充実することになります。

 

民間団体の協力等を得て、小学校でのプログラミング教育の準備かなり浸透してきていますが、中学校、高校はこれからですので、ぜひ間に合うように力を入れていただきたい。中学・高校は、今まである程度情報教育をやってきているから何とかなるだろうと思っていると大間違いです。

 

高校は、先ほど申し上げたとおり、情報1にプログラミングが入ってきて、内容のレベルがぐっと上がります。さらに、後で出てきますが、大学入試に入ってくるかもしれない。それだけ大きな変革があります。中学、高校の教育に少しでも携わってらっしゃる方は、ぜひそちらの準備を進めていっていただきたいと思います。

 

情報モラル教育については、私たちも動画教材を提供していますので、ぜひ活用ください。

 

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ICT環境の整備は喫緊の課題

一方ICT環境の整備の方は、現状ではなかなか進んでいません。教育の情報化を進めるために、文部科学省では、2018年度以降の学校におけるICT環境の整備方針をまとめました。これは今、各自治体や学校に、「ICT環境の整備はこのように進めてください」という内容を提示するものです。

 

ここでは学習者用コンピュータを3クラスについて1クラス分準備してください、無線LANも全ての学校種で全教室に整備してください、という具体的な数値を出しています。

 

 

そして、ただ「やってください」というだけでなく、地方財政措置も行っています。これは、先ほど申し上げたICT環境整備に必要な基本的に必要なお金が足りていない自治体や私立学校には、政府が地方交付税として交付をしますよ、ということです。

 

例えば小学校で1学年3クラス、全校で18クラスの規模であれば年間622万円、日本全体で1805億円措置されています。下図の右下にあるとおり、中学、高校など標準的な学校で大体1年で400万~600万の予算措置が講じられています。これは、大体ICT以外の学校運営そのものとほぼ同額に当たります。

 

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ところが、このICT環境の整備状況の格差がひどい状況です。例えば教育用コンピュータ1台当たりの授業生徒数は5.6人で、これも大きな問題ですが、このグラフのように、都道府県別に見ると極端に差があります。こうなると、同じことを学ぶにも、住んでいるところによって子どもたちの学習環境が大きく変わってしまうことになります。

 

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ただ、一つだけ自治体側の立場からいうと、この整備状況が低いところというのは、実は大都市近郊が多いのです。そういうところは、学校の規模も大きく、子どもの数も多いため、一度でまとめて整備するというのは難しく、計画的に徐々に進めていかなければならないということはあるでしょう。しかし、これだけの教育格差を日本国内に生んでいるということは、非常に問題です。文部科学省は、この点に非常に危機意識を持っています。何と言っても、子どもたちがかわいそうです。

 

先生の働き方改革のためにも必要なICTの活用

ここからは、ICT機器を使った実際の活用の取り組みについてお話ししたいと思います。取り立てて先進的なものだけでなく、ごく一般的な授業活動の場面でもICTが活用されています。

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例えば図の左上は、一斉授業で子どもたちの前に電子黒板を設置して、大きく見せています。これはもう普通の光景です。昔は先生が皆の前で高く掲げて見せていたのが、今は教科書や資料、実物や子どもの作品などを映して、クラス後ろの方席の子どもも皆が大きく見られます。

 

真ん中は個別学習での使用例です。子どもたちが一人ひとりに対応して多様な学びが可能になります。右側は協働学習の例です。昔は子どもたちの意見を聞く時に先生が指名していましたが、手を挙げづらい、恥ずかしい子どももいます。それが、一人ひとりの意見を一斉に提示することで、皆で共有することができます。思いがけない意見があったり、他の人に賛同してもらったりし合うことで、主体的・対話的で深い学びというものがおのずと実現されるという状況です。

 

デジタル教科書については、学校教育法を改正して、教科書として使えるようになりました。来年度から小学校の教科書にはQRコードを載せて、例えばコンパスの使い方を紹介する動画を見られるようにしました。

 

教科書も紙だけの教科書の時代というのはもう終わり、新しい教科書では9割以上でこのような参考URLを載せたり動画を使ったりするようになっています。言い換えれば、今の学習において動画やICTの活用が不可欠になってきているということです。

 

 

先生の働き方改革についても、ICTは有効です。ICTを導入して効率化し、それによって生産性を上げていきたいところですが、特に公立の学校ではそれがなかなかできていません。先生が子どもたちのために一生懸命頑張るということはもちろん良いことですが、生徒に配るプリントを印刷するために、休み時間中ずっとコピー機に貼りつきになるのは、果たして先生がやるべきことでしょうか。こういったところで、もっとICTを使うべきだと思います。

 

 

PISAの学力調査結果にもICT機器利用の経験不足が影響?

こちらは、文科省が毎年調査をしている教育ICT活用指導力の推移で、「先生がICTを使えるか」「ICT使って教えられるか」「子どもたちのICTを使う力を指導できるか」といったことを聞いています。

 

「授業中にICTを活用して指導する能力」、先生方がICTを使う力は確実に上がっています。こちらについては、文科省でも各道府県の教育委員会でもいろいろな研修をしてきましたし、先生方もこの点については本当に努力されていて、約8割の先生が「できる」と答えています。

 

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一方、いろいろな機器がトラブルになったとき、機器の新しい使い方を知りたいという時、先生方だけではとても足りません。ぜひICT支援員を学校に配置してほしいということで、先ほどの地方交付税交付金1805億円の中にこの配置を含めています。

 

本当は1校に1人程度いるべきですが、まずは4校に1人程度で巡回してもらったほうがいいだろうということにしました。しかし、今まだ2800人です。4校に1人であれば8000人必要ですが、まだ10校に1人程度です。

 

 

下図は2015年のOECDのPISA学力調査です。結果が公表されている中では、最新のものです。昨年、2018年にも実施されていますが、まだその結果は出ていません。

 

日本はこの調査でずっとトップ層と言われてきました。しかし、グラフの赤い線、読解力が下がってきています。この理由として、コンピュータ使用型調査への移行の影響が考えられています。グラフの2012年と2015年の間が不連続になっているのは、テストの実施方法が変わって、コンピュータを使うようになったからです。コンピュータを使うと、日本がこの後も下がり続けるかどうかはわかりませんが、せっかく答えがわかっているのに、タイプを打ったり、画面を遷移させたりというコンピュータを使いこなすことができないから答えられないのではないかということも考えられます。こんな調査結果です。

 

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次の調査は今お話ししたことを立証しているかもしれません。PISA調査はテストだけではなく、教育の現状を調査するために、子どもたちにいろいろな質問をします。その中のICT活用状況に関するものです。

 

「あなたは学校で他の生徒と共同作業をするためにコンピュータを使いますか」という質問に対して、「毎日使う」が赤、「ほぼ毎日使う」がオレンジ、「たまに使う」が青です。日本は、圧倒的に最下位です。赤いところも低いですが、ブルーの「たまに使う」というところも桁違いに低い。全くICTを使えてないのです。

 

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実は、この4月に全国学力調査で初めて中学校英語で「話すこと」調査を行いました。皆さんも報道でご存知かもしれませんが、機材トラブルで502校実施できませんでした。これは、調査に必要な機器の数やスペックが学校に十分整備されていなかったからです。これについては、私どももさらに精査していますが、機器のために受けられなかったのです。

 

一斉に「話すこと」調査をするのであれば、ICTの専門家の方だとオンライン調査を想定されると思います。しかし今回は全国でUSBによる調査でした。なぜこんなやり方をせざるを得なかったかというと、あまりも学校のICT環境が貧相だからです。一番遅れている学校でも受験できるように制度設計すると、今度はICT環境が進んでいる学校からすれば、前近代的な、手間ばかり掛かることだけさせられることになってしまう。あまりにひどい状況です。

 

これではあまりにもまずいということで、文部科学大臣を筆頭に、「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策」を出しました(※)。下記からご覧ください。

※新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(6月25日公開)

 http://www.mext.go.jp/a_menu/other/1411332.htm

 

ここでは3月に出した中間まとめをご紹介します。内容は、「学校でICT先端技術をしっかり使えるようにしよう」ということで、大きく三つ。「遠隔教育を進めましょう」「先生や学習者を支援する先端技術の効果的な活用しましょう」「先端技術活用のための環境を整備しましょう」ということです。

環境整備はどうしたら進むのか。現在予算としている1805億円を3倍、4倍と増額することは、日本の経済状況からとてもできません。それなら使いやすい端末、使いやすい環境に持っていくということしかないと思います。現状のままでは、日本のICT環境の加速度的な推進というものはありません。そこについては、今後私たちもしっかりとメッセージを今後出していきたいと思っています。

 

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教育の情報化は政府全体の最重要課題として力を入れていく

最後にこれからの方向性です。今国会が始まった1月の安倍総理の所信表明演説で、情報教育について言及しています。太字になっているところをご覧ください。

 

 

その中で、例えばAI戦略実行会議。これは現在の総合イノベーション戦略会議のもとですが、安西祐一郎先生やソニーの北野宏明先生らが中心になって、AIリテラシー、ICTリテラシーを高めていこうという「AI戦略」をまとめます。今回のお話に関係する部分を切り取ったのが下図です。

 

STEAM教育や高校における情報教育の充実、教育環境の整備、多様なICT人材の登用などが明記されています。さらに、「大学入試」と書いてあるところには、「情報Iを入試に採用する大学の抜本的拡大」とあります。パソコンも1人1台にします。もはや3人1台なんて言っている場合ではありません。

 

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最後にお願いです。Society5.0に向けた学校の情報化は、今や文科省だけでなく、政府全体の重要課題です。今日も経済産業省、総務省と一緒にこのセミナーを持ちましたが、もっと大きく総合イノベーション戦略会議、内閣府など政府全体として、今、教育にもっと力を入れなければいけないということで動いています。

 

 

したがって先生がたは、情報教育を進めるための万全の準備。さらにはICTの環境整備。そしてその環境のもとでの、関係者全員によるICTの活用ということを進めながら、学びを支える先端技術のフル活用に向け、全ての関係者の力を結集して、学校のICT環境を進めなければいけないと思います。私どももしっかり頑張ってまいりますので、ぜひ皆様にもご支援賜ればと思っております。