情報処理学会第81回全国大会

「情報学的アプローチによる『情報科』大学入学者選抜における評価手法の研究開発」(3)

総合討論 2025年の大学入学者選抜に向けて

 

パネル司会:放送大学 辰己丈夫先生

パネリスト:

 大阪大学 萩原兼一先生

 電気通信大学 久野靖先生

 専修大学 松永賢次先生

 大阪学院大学 西田知博先生

CBTによって複数回受験の可能性が開かれた

辰己先生(司会):これまで3年間、実質2年半ですが、大学入学選抜改革推進委託事業に大阪大学、東京大学、そして情報処理学会で取り組んできました。実は、この前段階がありました。その部分についてお話しします。

 

2003年に高校で教科情報の授業が始まりましたが、最初の入学生が入学する2006年に向けて、情報の入試を考えようということで、私を含めて何人かの先生方が作題を行い、当時の情報処理学会の初等中等教育委員会主催のシンポジウムなどで発表していました。また、当時は韓国の大学入試との比較も行っていました。これがいわゆる情報入試の第一次ブームです。

 

ところが、2006年、2007年と試験を行いましたが、その後は全然ダメでした。その原因は、各大学で受験者が1人とか2人とか、ゼロということもあり、まったく人気がなかったのですね。そのために多くの大学が撤退して、「情報入試」の話は、冷え込んでしまいました。

 

その後、2011年に慶應の村井純先生が「SFCで試験をやるからみんなも一緒に研究しよう」と情報処理学会に情報入試委員会を作られました。当時は、正確には「情報入試研究会」という任意団体でしたが、その後「情報入試委員会」となりました。

 

そして、ちょうどその時期に文部科学省からこの情報入試の委託事業の話が出てきたので、この3年間継続して進めてきて、今回が最後のイベントということになります。

 

今日のシンポジウムでは、萩原先生が事業の全体像、久野先生はTJE(思考力・判断力・表現力)のお話、松永先生はTJEを使った作題とルーブリックのお話、西田先生からはCBT(Computer Based Testing)の、特に今年度行ったV2での試行試験の得点分布について詳しく説明していただきました。このパネルディスカッションでは、フロアの皆さんから質問をたくさんいただきたいと思っています。

 

大学教員Q1:とても面白い試みだと思ったのですが、アクセシビリティ(accessibility)に関して配慮する予定や余地はあるのでしょうか。大学としては、視覚や聴覚の障碍者への入試の公平性を確保しなければならないので。

 

西田先生:プロジェクトの話し合いの中で全く議論をしなかったわけではありません。しかし、今回のシステムはそれ以前の話で、とりあえずできるところを探ろうというところでした。ただ、実際の話としては、それにどう対応するかというのを我々が続けてやるのか、どこか専門性を持つところとジョインしてやるのかわかりませんが、考えなければいけない問題であることは間違いないと思います。

 

辰己先生:そもそもCBTのシステムをどうやって作っているのか、また今後どうやっていくのかということについて、西田先生から追加でご説明いただけますか。

 

西田先生:システム自体は、最終的な確認が取れているわけではありませんが、今動いているものは、可能であれば何らかの形で公開したいと考えています。ただし、これをどのように使うかをサポートする余裕はないので、とりあえず動くものは置いてあるので、自分で工夫して使っていただくか、もしくは、これを作った業者の方と協力してやっていただくか、という形になると思います。

 

システムはPHP(Personal Home Page Tools)とデータベースとミドルウエアを使ってという構成で、特別なものを使っているわけではないので、これが広く使われるよう発展していければと思っています。

 

久野先生:「高大接続システム改革」では、今までの一発勝負によるセンター試験はもう限界なので、年に何回も受験して、それの中でよいものを提出する、ということが含まれていたわけですね。私たちは、これは非常に重要で、ぜひそうなってほしいと思っていました。

 

私たちの3年間の事業で、ごく普通のツールを使ってちゃんとCBTができるということ、そして今言ったように何回も受験できることが示されたと思います。もしCBTを行うとすれば、情報科が一番適していると思います。

 

辰己先生:実は、この委託事業で作成した主なものが三つあります。一つは先ほど西田先生が説明されたCBTの仕組みと、実際に出題した事例です。二つ目が、久野先生と松永先生にお話しいただいたTJE、ルーブリックといった作題方法です。そして三つ目が情報入試という括りになり、情報学とか情報科学、情報技術、そういったものの入学試験に相当するようなものの評価というのはどのような内容であるべきか、どのような目的で作られるべきか、いったい何を評価すると情報の実力が図れるのか、というものです。

 

これは大きく二つありまして、一つが一般的な大学生全員に欲しい能力、もう一つが情報技術や情報学を専門的に勉強したい人に欲しい能力です。この二つについても、そろそろ考えなければならないと思います。

 

萩原先生:文部科学省が複数受験機会ということを言っているので、それを実施するという方向を目指すべきだろうとは思います。ただし、その時は問題作りがかなり難しい。テスト分野の理論で項目反応理論、IRT(Item Response Theoryの略)というものがありますが、それに即した出題になると思います。そのための作問方法をどうするかということを、考える必要があります。

 

さらに、そこで思考力・判断力・表現力を評価したいということになると、かなり力を入れないとできません。今のような単純な4択問題ではなかなか難しいでしょう。

 

それと、新学習指導要領の内容に関しては我々の事業の守備範囲ではないのですが、思考力等を情報科の教育で学習させるとすれば、これは全く私の個人的な意見ですが、今現在の『情報Ⅰ』と『情報Ⅱ』の内容をもっとスリムにして、そこで思考力等を学ばせるという方向に行けばと思っています。

 

久野先生:今回の事業で、思考力を測る試験方法は可能な限り挙げました。今までは、思考力を見るためには、文章を記述させてそれを先生が採点するというものでしたが、そのような大学の負担になることは続かないと思うのです。

 

それよりは、先ほどお見せしたような問題であればコンピュータ採点も可能ですし、1問5分くらいで解くことができます。今おっしゃったIRTも十分できます。今回の事業でそれがわかったのだから、これからは思考力を評価するために、あのような形の問題をコンピュータベースで何回も受けられて、そのスコアを持って大学入試とするという形にできるようになればよいと思っています。

 

私大の入試に導入するとすれば…

松永先生:私は今、専修大学のネットワーク情報学部の学部長をしています。この事業の途中で学部長になったのですが、そうすると単純に「情報入試をやれ! 」という威勢のいいことを言いにくい立場になります。やはり一般入試というとハードルが高くて、学内で非常に多くの関係者を巻き込まなければいけないし、実施の要件定義をきちんと行わなければいけない。実施にあたっては間違いがあってはいけない。また、ある程度以上の受験生を集められることを立証しないと、実現は難しいところがあるのですね。

 

一方、今の高校1年生からいわゆるAO入試や私大の推薦入試でもきちんと学力を測ること、という通達が出ています。そうなると、何らかの形で思考力・表現力・判断力を問わなければいけない。それで何かいい方法はないかということを、現在検討しています。

 

私大が実施している指定校や付属校を対象とする推薦入試というのは、よほどのことがない限り不合格とすることはないので、そうであれば、ちょっと冒険したテストをすることもできるのではないかと思います。受験生の方も数十人というレベルなので、私の学部はCBTで実施ということが、もしかしたら可能かもしれないと思っています。

 

もし導入するとすれば、推薦入試やAO入試といった形式の入試で、思考力・判断力等の能力を測る試験としてもよいのではないかと思います。久野先生が作られているTJEのマニュアルというのは、情報科の出題でなくても使えます。推薦入試では、教科の問題を出題してはいけないという場合もあるので、「これは総合問題です」という言い方もあり得ると思います。また、問題のすべてをCBTにするのが難しければ、ある一部をTJEマニュアルに即したペーパーの問題を出していくということも可能でしょう。

 

また、地方に住んでいても、高校からオンラインで受験できるということもあり得るのではないかと思います。そうなれば、実現可能性はかなり広がるのではないでしょうか。推薦入試がいろいろな手法でできるのであれば、本事業で提案している様々な道具立ては、かなり使い道があるのではないかと思っています。

 

そこで実績を積み重ねていって、大学の中で、「情報に関連する入試を出すと、いい学生が採れるようだ」となっていくと理想的です。入試時の点数と大学の中でのパフォーマンスとを比べて、入試時にこういった問題で、この程度の点数を取った人が、入学した後の成績がこうなるということがわかって初めて、周囲が納得してくれるのではないかと思うのです。そのためにも、本事業で提案している方法を何らかの入試で少しずつ導入できるように、進めていきたいと考えています。

 

西田先生:思考力を測るというところでは、CBT-V1の時は短文を書くという問題があって、それを手で採点するというフェーズがありました。1000人超の答案を数人で採点するというのは、正直なところかなり労力が必要です。V2は、各問題の担当者が採点プログラムを作成し、すべて自動採点するという形で対応したのですが、作題者がプログラムを作ることにより、考える過程を自動で評価する採点ができました。

 

例えば、私の担当はゲームブック形式の問題でしたが、単純に最後の解答がまぐれ当たりでも点がもらえるというのではなく、このポイントを通らないと、この項目はわからないはずというチェックポイントを設け、そこを通るかで点数を変えています。

 

プログラミングは、結果が正しいかで採点しましたが、ステップが想定よりもオーバーした場合は減点しました。さらに、もう少し突っ込めば、ブロックの組み立て方などを見て、考え方の過程を追うことによる思考力の評価ができると思います。

 

実はこのシステムは、データベースに操作過程を記録してあるので、他の問題に関しても、この記録を用いて解答の思考過程を追うことがある程度できるかもしれません。そういうことも含めて、何を評価するかをもう一歩深めて検討することで、CBTで人手をかけずにどこまで測れるかということを、もう少し突き詰めてやっていきたいと思っています。

 

大学教員Q2:CBT化することで、アクセシビリティが上がる(=多様な受験者に対応できる)ということもあると思いますが、いかがでしょうか。「CBTにするからこそアクセシビリティが上がる」というスタンスで行けば、採用する大学も増えるのではないかと思いますが。

 

辰己先生:私は放送大学の教員なので、まさにバーチャルな環境を得意とする組織にいます。日本中がそこまで行くのには、現状とはまだ相当なギャップがあると思います。もちろん、そこをゴールと思ってやっていかなければとは思いますが、この1,2年で動ける話ではないのではないかという気がしています。西田先生はいかがですか。

 

西田先生:確かに言われる通りだと思います。そういう時に、一律入試で全部が横並びというのではなく、入学者が持っておいて欲しい能力がちゃんとあるかどうかというのを、個別に測っていくような形がうまく取れればよいのではないでしょうか。そういうことができるということを、念頭に置いてアピールするという戦略は、確かにありますね。

 

思考力・判断力・表現力を問う問題をどのように分類・アレンジするか

大学教員Q3:思考力・判断力・表現力についてですが、判断力というのは思考力の一つではないかという気がします。今回、思考力のある人は判断力があるのかとか、判断力の分布はこんな感じになりましたという報告はあったのですが、一人ひとりに着目した場合に判断力のある人は思考力があるかとか、表現力と思考力は相関があるのかとか、その辺のところも分析をしてみると面白いと思います。

そこで、今回取ったデータを例えば、私たちが研究をするために入手するということは可能なのでしょうか。個人を特定する情報を公開することはできないと思いますが、そういうところは全部省いて、今回取ったデータを研究のために欲しいという人は、この中にもいらっしゃると思うのですが、ぜひ、公開していただきたいですが、いかがでしょうか。

 

萩原先生:この我々の実証実験では、大学生や高校生という人が対象なので、大阪大学・東京大学・情報処理学会の研究倫理委員会を通しました。そこの中で、このデータは本事業担当者内までオープンにするとしました。すなわち、外部には公表できません。高校生の成績データに関しても同様です。

 

久野先生:思考力と判断力は、本当におっしゃる通りで、この二つを区別する以前に、そもそも思考力自体を定義することが無茶な話です。私がお話ししたのは、あくまでも恣意的に定義したものです。思考力と判断力との区別も本来はないと思うのですが、何かを判断力と呼ぶようにする必要があるので、リストを定められた基準で並べ替えたり、その上位を選んだりする力を「判断力」と定義しました。思考力・判断力・表現力を問う方法を作りなさいというお題なので、一個くらいは判断力もないと困るというだけで、名前だけなのですよ。

 

辰己先生:思考力・判断力・表現力というのは我々が言い出したのではなく、この三つを観点とした情報入試を考えてほしいと依頼されたのです。そもそも、これを言っている人たちの思考力とは何だろう、判断力、表現力とは何だろうかと、それを読み取るところからやらなければいけませんでした。我々が読み取った後で、こういうものだと久野先生が情報学の分野での出題例などを全部解いていったのですよ。ですから、思考力と判断力は同じじゃないかと言われて、実は私もそう思っているところがあるのですが…。

 

高校教員Q4:思考力を問う問題ということで、一問一答の試験ばかりというわけにはいかないと思います。先日、3学期の期末試験に集計プログラミングの問題を出しました。授業中に行った内容はよくできていたのですが、ちょっと趣向を変えて、クレペリン検査のようなものを出したら、結果は散々でした。解答の書き方を付記したのですが、しっかり読んでいないのです。彼らには、まず問題を読もうよ、というところから始めなければならない。

 

さらに、プログラミングとして出せる問題を、我々がストックとしてまだ持っていないのです。一問一答のようなワークブック的なものはそろそろ出てきているのですが、本当に考える力を問うような大きい問題に関するものはありません。そのために、なかなか取り組めないのです。

 

実際、生徒から「長文の問題はないの?」と聞かれることもあります。もちろん現場の私たちから始めていかなければいけない気もしますが、「こんなふうにしてみたら」というハッパをかけていただけたらと思うのですが。

 

久野先生:まず、問題を読んでも内容がわかっていない、というのは本当にそうだと思いますが、先ほどの読解的思考力の問題で測ることは可能な気がします。

 

今回の研究の成果としては、思考力を個々の要素に分解して小さい問題で見ることが可能であるが示されたことではないかと思います。今までは、思考力を測るためには、何か大きな問題で全体を見なければいけないという、信仰のようなものがあったかもしれません。私も前はそう思っていましたが、研究をしてみたら、個々の領域に分けていって、「この生徒の場合はここが読めていない、読めた時は読めたとわかる」という判別は可能であるという手ごたえを感じました。

 

テクニックだけでなく実践力が必要に

辰己先生:今の話を聞いていて、気がついたことがありました。テストを受けるために皆が勉強してできるようになる、というのが学習でのテストの効果です。しかし一方で、大学入学者選抜というのは、できない人を落とすという意味もあります。つまり、誰ができて誰ができないかということをきちんと判別できる問題でないと、入学者選抜にはならないわけです。また、プレースメントテストのように、個人の中でできるところ・できないところを見極めて、入学してからこのように教育しようということを計画する、というものもあります。テストや試験にはそういう意図もあるのかなと思います。

 

さらに、入学試験という性格上、情報でいい点が取れなくても、英語や理科や数学で点が取れた受験生は当然入学してきますし、逆に情報でいい点が取れて他がダメで不合格になる受験生もいるでしょう。そう考えると、入学者選抜云々ということと大学でどう教育するかということとは、簡単に割り切ることができないものであることに気づきました。

 

まず一つは、先ほどのアクセシビリティの話です。現在の紙を利用した試験の受験者でも、「改行されると文章が読めなくなるので、定規を持ち込んで試験を受けたいけれど、定規の持ち込みができないために問題が読めない」という人もいます。

 

すべてのケースに対応することは難しくても、例えばCBTにすることで、文字の形がわかりやすいフォントを使い、ブラウザで文字サイズを大きく表示することができるようにすることで救われる人もいると思います。

 

もう一つ、例えば、中学校の教員が「小学校のうちにこういうことがちゃんとできるようにしておいてくれたら、中学校で教えなくてもいいのにね」と、若い学齢の学校に責任を負わせたがることは、高校でも大学でも見られます。

 

それで、情報科が大学入試に出ることで、高校の情報科の授業をきちんとやりましょうという話になります。今回、今までの選択必履修の2科目から、必履修の『情報Ⅰ』と、選択の『情報Ⅱ』に変わったのは、そういう目的もあると思います。

 

実際に、2024年度末には入試問題が示されることによって、「大学入学時にこういう力をつけておかないと、大学の学びについていけませんよ」となります。そうすることによって、高等学校のインセンティブも上がり、かつ実践力も上がります。つまり受験テクニックだけでなく、実践力というものが重要になってくるのです。大学側も、そういう学生が入ってくることに合わせて入試だけでなく授業のやり方も変えていかないと、現実のところでつながらないのではないか、と今回の議論を聞いていて特に思いました。

 

パネリストの皆さんは、この点いかがでしょうか。

 

久野先生:きちんと教育ができているかどうかということは、情報教育の参照規準と関係があるのではないでしょうか。情報教育の参照規準というのは、技術的なことだけでなく、例えば文章がきちんと読めるとか、読んだ内容が自分の希望通りでなくても意見として受け止めようなど、様々なことが含まれています。それらをすべて入試で問うことは考えられませんが、そういうものが明文化されることで、その上に立って何を・どこまでするかという目標ができれば、今おっしゃったようなことは、ある程度改善されていくのではないかと、個人的には考えています。

 

松永先生:久野先生が言及された情報教育の参照規準では、大学の学部・学科が、いわゆる理工系だけでなく、経済系、経営系、農学系など、大きく五つのグループに分けられ、各グループで必要な情報に関する具体的な能力が示されています。専修大学は文科系の総合大学ですが、例えば、経営学部のマーケティングの方々は相当な規模のデータ分析ができたりします。高校生が思っている学問分野の割り方とは違って、情報に関する様々な能力の必要性で見ると、学問分野ごとにこうなっていますよ、ということを示していくと、進路選択や勉強の仕方も変わってくるのではないでしょうか。情報に関する様々な能力は理数系だけが必要なのではなくて、人文系も社会科学系も、いろいろな分野で必要なのだということを理解させることが力になると思います。

 

大規模CBTの実現可能性は?

辰己先生:この事業の中で、大規模CBTの実施の現実的な可能性をいろいろな方々にヒアリングしてきました、大阪市立大学の松浦敏雄先生から簡単にご紹介していただきます。

 

松浦先生:今回の委託事業で扱った入試は、あくまで個別の大学が実施するものが対象ですが、これをもっと大規模にできるかということも、報告書に載せることになっています。

 

具体的には、現在の大学入試センターの受験者は50万人規模ですが、そのレベルで全員一斉の実施が可能かということを検討しました。ざっくり言うと、新しい学習指導要領で学んだ生徒が受験する2025年にはできなくもないとは思いますが、そのためにはかなり周到な準備が必要だと思います。何が問題かと言うと、一つは電源です。各試験会場に、かなりの台数分の電源を用意しなくてはいけない。もちろんノートパソコンのバッテリーも活用しますが、それも切れる可能性もあるので、電源確保というのが一番大きな問題です。

「情報」の入試だけを実施する場合は、さほど問題になりませんが、全科目でCBTを実施する場合には、8時間以上電源供給を持続する必要が出てきます。

 

 

もう一つがネットワークです。ネットワークは、インターネットに繋いでしまうと、どんな攻撃があるかわからないので、少なくとも試験中はインターネットに繋ぐことはできないだろうと思います。そうは言っても、パソコンがダウンした時にそれまでの解答を無駄にできないので、刻々とバックアップを取らなければならないということ。そして最後に試験が終わった時に、解答を回収するために何らかのネットワーク、あるいはそれに代わる仕組みが必要です。この辺りが結構悩ましいところになります。

今日の話の中で出てきた、複数回受験とかIRT(項目反応理論)といった方向に行けば、1回の受験者数が少しスケールダウンするので、そういう制約は多少緩和されるか、というのが現状です。

 

辰己先生:ありがとうございました。ということは、CBTの実現のためには、相当な準備が必要ですが、言い換えれば実現の可能性はあるのですね。

 

松浦先生:無線LANのこれからの新機能などを考えていくと、微妙な状況だと思います。無線LANは、今後相当改善されると思いますし、こういうニーズがあるということを業者にしっかり伝えれば、間に合うか間に合わないかというレベルだと思います。

 

電源に関してはかなりバッテリーが長持ちするようになり、消費電力の少ないパソコンも出てきているので、それも微妙かなというところです。ただそのためには、2022年頃には実施の可否を決定しないといけないので、そうなると現実的にはやはり難しいかなと思います。

 

辰己先生:最後に先生方から一言ずつお願いいたします。

 

久野先生:この事業で思考力・判断力・表現力等ということを考えさせていただいたことは、自分にとって非常に勉強になりました。これから様々なことに役に立つのではないかという期待はしているのですが、事業自体はこれで終わってしまったので、ぜひこれからみなさんにも関心を持っていただいて、一緒に続けていきたいと思っています。

 

松永先生:情報入試については、受験生の立場からすると併願可能な大学のラインナップが揃っていないと受験しないので、専修大学で実施するとなると、併願可能な大学の方とアライアンスを組めるとよいと思います。この10大学くらいで、関東圏で何年からやるぞ、という形で取り組みをしていかない限り、一つの大学がトライしていたのでは厳しいと思うので、輪を広げていきたいなと思います。

 

西田先生:最初の方で「公開できたら」という話をしましたが、公開できることを期待して、ぜひみなさんのご協力をいただきながら、もっと新しいこと、面白いことをしていきたいと思います。今回は事業の性格上いろいろな制約がありましたが、公開が可能になったら、そういう部分を外して皆さんと協力してできればと思います。ぜひよろしくお願いします。

 

萩原先生:先ほど申し上げたように、現在の一発勝負・1点刻みの入試から脱却して、ランキングの成績にし、複数回受験を可能にするためには、CBTは相性がよいことが示されました。ペーパーベースの入試が確立している英語や数学、国語、社会、理科の入試の方法を今から変えるのは難しいかもしれませんが、情報科はまだ入試がなくて、これから導入するという段階なので、思い切ってCBTで実施できるかもしれないという希望はあります。

 

そのためには今から2年間が勝負のしどころです。つまり複数回受験やIRTを使って実際に入試ができるかということを示していく必要がある。その場合、もしCBTが無理ならペーパーベースでも情報を入れるという意見もあるのですが、一度ペーパーで始めてしまうと、次にCBTに切り替えるというのは難しいのではないかと思っているので、まず情報からCBTの突破口を作ることだと思います。そうすると他の科目も、1点刻みではなくある種のランキングの成績を取っていくという方向に行くかもしれないと考えています。