神奈川県高等学校教科研究会情報部会実践事例報告会2018 講演

講演の指導講評 ~これからの情報教育について

国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官

文部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課情報教育振興室教科調査官

文部科学省初等中等教育局参事官(高等等学校教育)付産業教育振興室教科調査官

鹿野利春氏

 

中学・高校の教科書とシラバスを一緒にして職員室に置く

高校の先生方に二つお願いがあります。その一つ目は、中学校の教科書を手元に置いていただきたいということ。特に「情報」の場合は、中学の「技術・家庭科」の教科書を置いてほしいと思います。二つ目は、移行措置の資料が今後どんどん出てきますので、それも手に入れて、手元に置いていただきたい。また、高校の教科書は、職員室に全教科まとめてシラバスと一緒に置いてほしいと思います。そうすると、おのずとカリキュラムマネジメントができるようになるからです。

 

本日の講演の中で「自信がなくても自信があるようにふるまいたい」という言葉がありましたが、自信がない場合や本当にわからなかった場合は、生徒に「わからない」と正直に言ってもいいと思います。これからの学びの場では、先生も自然体で生徒と一緒に学んでいくという姿勢を見せてもいいのかなと思います。

 

それから、教育実習についてはぜひ受け入れてあげてください。教育実習ができないということは、意欲のある学生が教員になれないということになります。非常に大切なことなので、ぜひよろしくお願いします。

 

「情報デザイン」の考え方と、発達段階に応じた技術を身に付ける

新学習指導要領における「情報Ⅰ」は、基本的に「国民として必要な素養」ということになります。問題の発見・解決がベースにあって、人間にしかできない情報デザインの考え方や、様々な課題に対応する力などを養っていく上で、コンピュータの力を使うわけです。情報Ⅰはそのためにコンピュータやネットワークの仕組みやプログラミング、データの扱い方などの力を付けることを担っています。

 

そして「情報Ⅱ」は、社会の変化や求められる資質・能力の変化、情報デザインの活用や様々な課題に対応していくために、システムのプログラミングやデータサイエンス、機械学習・人工知能など、いろいろな知識を蓄えて、新たな価値の創造に対応できるようになろう、という科目です。機械の力を引き出して、より高度なことを目指すのであれば「情報Ⅱ」を学ぶ必要があるということです。

 

そのためには、発達段階に応じた情報教育をしっかり行っていかなければなりません。小学校・中学校・高校それぞれで、順を追って学習していきましょうということです。

 

 [小学校] 「文字入力」と「プログラミング体験」

小学校では、基本的な文字入力の力を付けることが必要です。現行の学習指導要領では、文字入力については総則にしか書かれていなかったため、教科書には載っていませんでした。そのため、文字入力の教育は地域や学校によって違いがあるのが実状です。

 

新学習指導要領では、3年生の「国語」に「総合的な学習の時間における、コンピュータで文字を入力するなどの学習との関連が図られるよう、指導する時期や内容を意図的、画的に位置付ける」と解説に記載されました。

 

それから、情報機器の操作能力を身に付けること、合わせてプログラミング体験についても学習指導要領に明記されています。

 

プログラミングに関する学習活動は、このスライドのように分類されています。Aは学習指導要領に例示されている単元など教科学習の中で実施します。Bは学習指導要領に例示されてはいませんが、教科の内容を指導する中で実施するものです。Cは教育課程内で教科活動とは別に実施するものです。Dは授業以外のクラブ活動など、E・Fは学校外の活動になります。

 

小学校のプログラミング教育は特定の学年や教科で集中して行うのでなく、1年生から6年生までバランスよく行っていくことが求められています。

 

 

[中学校]技術分野で情報の科学的な理解とプログラミング教育が充実

中学校のプログラミング教育は、主に技術・家庭科技術分野で指導することになります。中学校では、情報の科学的な理解として、2進数、コンピュータの仕組み、ネットワーク、プログラミングなども習います。つまり、今高校の教科書に書かれているものの多くは、中学校でやってしまうことになります。ただ、中学校の技術科の先生には高校と同じような免許外教科担任などの問題があって、今後改善が必要になるでしょう。

そして、今まで行っていた計測・制御のプログラミングに加えて、ネットワークを使った双方向性のあるコンテンツのプログラミングも行います。具体的には右図のような内容です。

 

 

ユーザインタフェースも含め、ネットワークを利用してコンテンツとユーザの間で情報を相互にやりとりする仕組みを作ります。これらを中学で学んだ生徒が高校に入ってくるということを、理解しておいていただきたいと思います。

 

 

[高校] 情報と数学との連携、情報技術の活用

 

高校で重要なのは情報科と数学科が統計教育について連携していきましょう、ということです。この図は今まで何回もお見せしています。新学習指導要領の解説書の印刷版はまだ出ていませんが、印刷版には情報科の解説の後ろに数学科の学習指導要領が、数学科の解説の後ろには情報科の学習指導要領が付くことになっております。

 

 

情報Ⅰと情報Ⅱの内容

~データの活用・情報デザイン・プログラミングがポイントに

 

ここからは、高校の共通教科情報の新しい学習指導要領の内容を見ていきましょう。

 

情報Ⅰ(1) 情報社会の問題解決

 

問題の発見・解決の過程を通じて、中学までの学習内容を振り返るとともに、情報Iの(2)~(4)で学ぶことの導入という位置付けになります。ただ問題を発見・解決するだけではなく、そこに統計を活用して客観的に判断して進めることを目指します。

 

 

(2) コミュニケーションと情報デザイン

 

「情報デザインというのはわかりにくい」という話をよく聞きますので、情報デザインで追及していくものとして「表現」「機能」「論理」の3つの言葉を挙げました。

 

ここで扱う情報デザインとは、効果的なコミュニケーションや問題解決のために、目的や意図を持った情報を、受け手に対してわかりやすく伝達したり、操作性を高めたりするためのデザインの基礎知識や表現方法や技術を意味します。

 

情報デザインというと、これまでは、ポスターやWebページなどの「表現」が多かったですが、インタフェースなどの「機能」も大切ですし、状態遷移図やアルゴリズムなども情報デザインと考えると、「論理」の比重が高くなります。つまり情報デザインというのは、単なるデザインではなく、プログラムやデータ処理にも大きく関係してくることになります。

 

 

(3) コンピュータとプログラミング

 

ここはコンピュータについて、仕組みや特徴、プログラミングについていろいろ学習しましょうというところです。ここについては、すでに何回も取り上げられているので、今回は詳しい説明は省略します。ただ、この部分の研修のためには、きちんとした資料が必要ですので、現在作成しています。言語については特に指定しない、ということを申し上げておきます。

 

 

(4)情報通信ネットワークとデータの活用

 

ここではデータを収集・蓄積するだけではなく整理・分析できるようになること、また小規模なネットワークの設計まではできるようになることを目標としてほしいと思います。

 

また、先ほど申し上げたように、数学で統計を学んだら情報で活用したり、集めた情報をどのように分析するかを数学で学んだりするということの、どちらが先になるかは学校によって異なるとは思いますが、統計的処理とそれに基づく解釈を情報科と数学の両方で担っていくことは決まっています。

 

 

情報II(1) 情報社会の進展と情報技術

 

情報II(1)は情報Iの内容を振り返るとともに、情報IIの(2)~(5)に向けたイントロダクションとなります。情報技術の進展に伴って、社会が変化し、人に求められる資質や能力は変わっていきます。これからは、情報技術を適切に、そして効果的に活用する力を付けるために学び続けることが重要です。

 

 

(2) コミュニケーションとコンテンツ

 

情報I(2)で情報デザインを学んだ内容を活用し、目的や情報に応じて適切なコミュニケーションの形態を考え、メディアの選択や組み合わせを考えるというステップに入ります。

 

さらに、コンテンツを制作し、評価を受け、改善するという活動も行います。

 

情報デザインの活用で適切な評価を受けることにより、「自己調整」、つまり自らの学習の仕方を変えていくことができるようになるでしょう。

 

 

 

[ユーザインターフェースの変遷]

・CLI(Command Line Interface):ユーザに対する情報の表示を文字によって行い、全ての操作はキーボードを用いて行う。

 

・GUI(Graphical User Interface) :コンピュータの操作の対象が絵で表現されるユーザインターフェース。マウスなどのポインティング・デバイスを使用して直感的にコンピュータを操作する。

 

・NUI(Natural User Interface ):ユーザインターフェース(UI)のうち、タッチ操作や自然言語入力など人間にとってより自然なかつ直感的な動作で操作可能な仕組みや方法のこと。

 

・OUI(Organic User Interface):物理的な入力によって変化する、平面ではない表示装置を持つユーザインターフェース

 

 (3) 情報とデータサイエンス

 

ここで言うデータサイエンスとは、データを分析し、モデル化し、そして予測することです。その上で機械学習などの基礎を学んで人工知能につなげていくというイメージです。

 

数学で学んだことをベースに、多様かつ大量なデータの扱い方を学びますが、一足飛びに最先端の人工知能の仕組みなどまで行こうとするのではなく、その基礎的なところをしっかり学んでいこうとするものです。

 

 

(4) 情報システムとプログラミング

 

情報IIで扱うプログラミングは、基本的にグループで取り組むことを想定しています。情報システムを十分に理解した上で、構想、分割、作成、統合を行えるようになるのが目的です。そこにはシステム構築のための技能やテクニック、さらにプロジェクト全体を見渡すプロジェクトマネジメントの視点も必要になります。

 

 

(5) 情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探究

 

探究活動にはいろいろなパターンが考えられますが、ここはぜひ大学や企業と連携して、高度なことに挑戦していただきたいと思います。あるいは、子どもたちが楽しめることをしていたただきたい。

 

学習を進めるにあたってお願いしたいのは、先生方が自分の知識や経験の中だけで生徒を指導しようとしないでいただきたいということです。できる限り学校内外を含めた連携を取って、授業計画を立てていただきたいと思います。これはぜひよろしくお願いいたします。生徒と共に学ぶということが必要です。

 

 

研修資料を作り、予算を取って研修、授業の実施へ~情報教育のこれから

 

情報I・情報IIの今後については、こちらの図のように段階的に進めていく予定です。情報Iは今年度中に研修資料を作り、自治体等は2019年度に研修のための予算請求をして、2年の研修期間を経た後、2022年度に実際の授業が始まるという流れになっています。情報Ⅱは、情報Ⅰより1年遅れで同様に進めていく予定です。

 

情報科の大学入試については、現在検討が進められており、2018年に問題募集があり、2019年2月に数校で試行テストが行われます。試験後に出て来た問題点や方向性を検証し、それを受けた試行テストを、来年度は対象校を10校程度に拡大して行う予定です。

 

情報科の入試が行われる場合、2021年の年度当初には、「実施大綱」が出ることになります。各学校は、実施大綱を受けて教育課程を組んでいきます。各大学は共通テストを利用するか、共通テストに加えて情報I・IIの個別テストを実施するかをさらに検討し、2024年度の入学試験を実施することになります。

 

 

専門教科「情報」の内容も、より高度化・専門化する

 

また、次の学習指導要領では、専門教科「情報」の内容もレベルアップしています。内容を見ていきましょう。

 

 

共通的分野の科目群には「情報セキュリティ」を入れました。社会との関わり、法規・対策ポリシー、リスク管理、事業継続など、今後ますます必要となる情報セキュリティのマネジメントについてしっかり学ぶことになります。

 

 

コンテンツ分野の科目群では、今まではコンテンツ制作が中心でしたが、「メディアとサービス」として、配信や管理まで含めて学ぶ科目を作りました。

 

 

さらに情報システム分野では、これまでは「アルゴリズムとプログラム」として基本的なことを学んでいましたが、新学習指導要領では、将来的に情報システムを作っていけるように、要求定義から始めて、設計、データ構造、アルゴリズム、プログラミング、運用という、情報システム構築の手順をきちんと学ぶことになっています。

 

ネットワークシステムについては、情来の設計・構築や運用・保守に加えて仮想化やサービスの提供も入ってきます。また、データベースについては情報社会を支えるものという視点を入れ、従来のリレーショナルデータベースだけでなく、ビッグデータなどに対応する技術にも触れます。

 

 

総合的科目(実習)については、従来は情報システムとコンテンツを別々に行っていましたが、すでに社会情勢として分けて行うのは適当ではないとの判断で、「情報実習」という形に一本化します。

 

専門教科「情報」では、全国の専門学科の先生方が共同でサーバを作って授業の事例やヒントなどの情報を集約して共有、提供していくというシステムがすでにできています。段階的に共通教科の方にも、見られるようにしていければと思っています。

 

 

これからの「情報科」を進めるために

 

最後に情報科のこれからについてまとめたのがこちらです。まず、情報科の教員採用を進めるためには、情報科の教育内容の高度化、大学入試の検討状況などを背景に、行政からも働きかけるといったことを総合的に行った上で、採用につなぐ必要があります。

 

 

 

また、教員研修の実施については、「研修を実施してください」と都道府県に呼びかけるだけでは実施できません。実施のためには、そのための研修資料を作って、それを基に予算申請を行い、会場や講師を確保するなど、実現までの様々なステップを踏まなければなりません。

 

授業等の事例の提供については、行政や研究会、学会等で様々な事例を集めて共有・提供できるようにしていただきたい。これらを円滑に実施していくことが必要ですね。

 

そして高等教育との接続、社会との接続のためには、教科情報の中身を知ってもらわなければなりません。教員研修の資料というのは、そのための大きな力になると思います。

 

研修資料は文部科学省のホームページに載るので、すべての人が見られることになります。研修機会の提供としては、放送大学等で小学校のプログラミングに向けて講座を作るという話が進んでいるようですので、次はぜひ中学・高校に向けて講座を作っていただきたい。放送大学は日本全国どこでも受講できますので、自治体の研修と合わせて、こういった研修を受けた方には、修了証を出したり認証を与えたりすることで、教員の能力向上を図るために役立てていただきたいと思います。そのためには、企業やNPO、学会等の協力も欠かせないものとなるでしょう。

 

 

[質疑応答]

 

私立高校教員Q1:私は小中学校でのプログラミングの指導も行っていますが、小中学校のプログラミングは、生活の中でプログラミングがどのようなことに役立っているのかっていうことを知ることが主目的で、例えばデバッグの能力といったものは、全然身に付かないわけです。そういった学びをしてきた生徒たちが高校に上がっていたときに、情報Iで求められるプログラミングとは、かなりギャップがあるのではないかというのが、自分自身でやっていてのジレンマになっています。情報Iではプログラミングをどのように扱っていくのが理想的なのか。今の感覚でいうと、プログラミング嫌いをいっぱい作ってしまうのではないかというのが悩みです。

 

鹿野先生A1:そうならないようにと、小学校向けのプログラミング教育の手引きを2018年3月に出して、現在第2版が出ています。やがて第3版も出ることになると思います。また、具体的な事例をポータルサイトで提供するとともに、都道府県での研修も進めています。

 

プログラミングを嫌いにならないでほしいという気持ちは私も同じです。新しいことを始めるので、当然いろいろ難しいことは出て来ますが、多分必要なことだということは、皆さんにもわかっていただけるかなと思います。

 

プログラミングを通して子どもたちがやりたいことがうまく実現できるということが大事ですから、言語については習得にあまり時間はかからないものを使ってください、というメッセージを出しています。できるだけ嫌いになる子を作らないように、様々な工夫をしつつ進めているという状態です。

 

小学校の先生方の研修につきましても、先ほど放送大学と言いましたが、都道府県でも市町村でも実施するということで進めています。これという決め手はありませんが、できる手段を全て使っていきたいと思います。これについては、高校の先生、あるいは高校生の皆さんもご協力いただける部分があるのではないかと思っていますので、お願いできれば幸いです。

 

公立高校教員Q2:自分自身、何回か研修を受けたりセミナーに出たりしていると、情報分野はものすごく幅広く、かつ一つの単元でもかなり専門性が高いと思います。やはり教科書の内容で、どの程度深く突っ込むか、あるいはある程度のところまでにするかという線引きをしていかざるを得ないのが、非常に悩ましいところです。

 

鹿野先生A2:それについて詳しくお話しすると、あと5時間ぐらいかかりますので(笑)、続きは研修資料でお読みください。プログラミングについてはリストも付けますし、データについてはデータ本体も付けることにしています。

 

公立高校教員Q3:今日は小学校の先生もいらっしゃっていて、私の発表でも質問をしてくださいましたが、中学校の先生は多分来られていないと思います。逆に私たちは、機会があれば大学や学会など見に行くことはできますが、小学校の発表となると、私も行った記憶がありません。中学校の技術も同様です。その辺りの縦のつながりがうまくいくかということを心配しています。うまく小中高のつながりや交流ができるようになって市町村の格差などももう少し減って、高校で情報Iがスタートできたらと思っていますが、いかがでしょうか。

 

鹿野先生A3:小中高の縦の連携はしっかりやっていきましょうと、文部科学省からも発信していますが、「誰かがやってくれる」というのではなくて、ある程度は自分でやらなければいけないと思います。具体的には、校長先生に「小学校は今移行期間に入っていますから、情報を集めないと駄目ですよね」と持ちかけていただいて、校長先生が、「そうだね。ぜひやってください」という形になることです。仕事が増えるかもしれませんが、必要なことなので提案してください。

 

具体的には、先ほども申し上げたように、職員室に中学校の教科書や移行措置に関する資料を全部揃えてください。それはどの学校でもできるはずです。お金としてはそんな多くはかかりません。そうして生徒が中学校で何を学んできたかをきちんと把握してください。

 

同時に、高校の教科書もシラバスとともに全部揃えてください。他の教科・科目が何をやっているかわからないままでは、連携もできません。その上でカリキュラムマネジメントを行っていくことが大切です。

 

そして、高校の校長先生は、ご近所の中学校の先生方、あるいは校長先生と交流があると思いますので、校長先生から先方の校長先生に「うちの先生に中学校の授業を見せたいと思うのですが,どのようにしたらよいですか」と相談しててもらうのが良いと思います。逆に中学校の先生方にも、高校の授業を見学しに来ていただく。そうやって足元のしっかりした連携を作って、それから次につなげていくことが必要であると思います。

 

神奈川県高等学校教科研究会情報部会実践事例報告会2018講評講演より