文部科学省大学入学者選抜改革推進委託事業「情報学的アプローチによる「情報科」大学入学者選抜における評価手法の研究開発」  

第3回シンポジウム「2025年度 高校教科「情報」入試を考える -思考力・判断力・表現力を評価する試験問題の作問方法- 」講演

ルーブリック開発の概略説明

専修大学ネットワーク情報学部 松永賢次先生

新しい学習指導要領を受けてルーブリックの分野と記述を見直し

今回の内容は、昨年のシンポジウムでもお話ししたものを元に、さらに整理したものになります。昨年は、翌年3月に出る新しい学習指導要領に向けてまさに準備をしている時期でしたが、今年は新しい学習指導要領が出て、7月にはその解説が公表されましたので、対象としている分野を再整理し、併せてルーブリックの記述も見直したというのが変更の大きなポイントです。

 

 

この後9人の先生方に登壇いただいて、この各分野のルーブリックが、思考力・判断力・表現力を測定する問題を出題することに適しているかを調べるために、作成した問題の例をご紹介いたします。そして、それらの問題がどのような思考力・判断力・表現力を問うているかについても確認します。

 

ただし、過去に問題の例として「アルゴリズムとプログラミング」と「デジタル表現」については何回かご紹介していますので、今回はこの2分野については除きました。

 

思考力・判断力・表現力の詳細項目の定義

われわれが作問のために恣意的に思考力・判断力・表現力を定義したものがこちらです。こちらは先ほどの萩原先生のお話でも出てきたので、詳しい説明は省略します。

 

思考力・判断力・表現力をさらに細かく分類したものの、それぞれの詳細な定義が下図です。全部で19に分かれます。思考力のうち、読解的思考力(reading)がさらに四つ、関連的思考力(connection)が一つ、発見的思考力(discovery)が七つ、推論的思考力(inference)が三つに分かれます。

 

また判断力(judgment)は一つ、表現力(expression)は三つに分かれます。

 

このあと各分野の問題について先生方からお話ししていただくときに出てくる問題は、ここに挙げたどれに相当するということでご覧ください。

 

 

新しい学習指導要領の内容とルーブリックの分野の対応

新しい学習指導要領の「情報Ⅰ」の内容をざっと見ていきましょう。「情報I」は大きく四つの内容に分かれています。その中がそれぞれさらに(ア)(イ)(ウ)と三つに分かれているので、実際には12の単元があることになります。

 

最初の「情報社会の問題解決」は、「情報I」全体のイントロダクションとなる概論的な内容です。(ア)が問題解決の概論、(イ)が法制度や情報モラル、情報セキュリティ、(ウ)が情報技術が人や社会に及ぼす影響などを扱います。新しい学習指導要領では、知識・理解だけでなく、その単元でどのような思考力・判断力・表現力を育てるとかということに関しても具体的に書かれています。

 

 

二つ目が「コミュニケーションと情報デザイン」です。

 

(ア)ではメディアの特性やコミュニケーション手段の特徴について考えます。(イ)では情報デザインの役割、(ウ)では効果的なコミュニケーションという視点から情報デザインの考え方や方法を身に付けられるようにします。

 

 

三つ目の「コンピューターとプログラミング」の(ア)ではコンピューターのハードウエアの仕組みについて学びます。さらに、(イ)でアルゴリズムとプログラミングを理解することで情報通信ネットワークの活用方法を身に付け、(ウ)がモデル化とシミュレーションを通してモデルの評価・改善を行います。

 

 

四つ目が「情報通信ネットワークとデータの活用」です。ここでは(ア)が一般的なネットワークの仕組みやセキュリティの技術を学び、(イ)がデータベースの情報システム、(ウ)がデータの収集・整理・分析、という感じです。

 

 

ルーブリックは、先ほど申し上げたようにわれわれのプロジェクトの中で単元を分類して作ってきましたが、新しい学習指導要領に合わせて今年再度整理し直しました。

 

ルーブリックの分野と学習指導要領の単元は、おおむね1対1対応となっていますが、学習指導要領の「コミュニケーションと情報デザイン」は、われわれのルーブリックでは「メディアとコミュニケーション」となっていて、ここには学習指導要領の「情報社会の問題解決」と「コミュニケーションと情報デザイン」の二つからやってきています。

 

一方で、ルーブリックの「情報セキュリティ」は、われわれは単独で用意しましたが、学習指導要領では「情報セキュリティ」がいろいろなところに出て来ます。主には「情報通信ネットワークとデータの利用」の(ア)ですが、それ以外のところからも来ている、という形になっています。

 

 

一方、こちらは昨年提案した旧バージョンのルーブリック(右)と今年のもの(左)との比較です。

 

まず昨年のルーブリックでは、「アルゴリズム」と「プログラミング」を分けていましたが、一つにまとめてもよいかな、ということでまとめました。「メディアとコミュニケーション」に関しては、「メディアとコミュニケーション」と「情報デザインとコンテンツ」の二つに分けました。確か昨年のシンポジウムで「情報デザインを単元として用意してほしい」という意見をいただきましたが、実際に学習指導要領を見ると大きな単元になっているので、新たに設定しました。

 

 

ルーブリックの構造と使い方

具体的にルーブリックはどういうものかをご紹介します。これは「アルゴリズムとプログラミング」のルーブリックです。

 

左の番号はレベルで1から5までありますが、5は相当レベルが高いので、全ての分野にレベル5があるわけではなく、4までのものが大部分です。逆にレベル1や2は、1-1・1-2などと分かれている場合が多くなっています。レベル2が2-1、2-2、2-3とあるのは「アルゴリズムとプログラミング」だけで、他はたいてい2-1、2-2までです。このように、ルーブリックのレベルの内容を対象領域の言葉で記述することで、横並びの比較の理解が容易になります。

 

 

では、それぞれのレベルの違いはどこで見分けるか、というところにアンダーラインが引いてあります。「アルゴリズムとプログラミング」では、レベルが低い時は、「与えられた」、つまり先生が何かを与えているということで、それがより具体に近いほどレベルが低いということになります。レベル3になると、「目的に応じた機能」ということになり、与えられた目的を達成できるように知識を応用します。アウトプットの性質は問われているけれど、具体的な方法まではあまり明確ではなく、どのような方法を用いるのか、生徒に自由度がある、ということになります。

 

それがレベル4になると、自分で考えて設計していかなければならないということになり、レベル5になると、その過程を評価して自分で改善するという活動が必要となりますよ、ということです。他の分野も、おおむねこういった形になっています。

 

到達する評価の軸というのは、ここに示しただけではなく、多次元の様々な軸の一つであると考えていただいてよいと思います。例えばプログラミングであれば、どのくらいの文法事項を知っているか、ということも一つの軸になります。その次は他にも、ライブラリやAPIが使えるか、さらに対象の大きさ・複雑さとか、アルゴリズムの計算量といった軸も考えられます。それらを評価したければ、ここで示しているルーブリックとは別のものを用意することになってくるかと思います。

 

 

文法知識が小さいと思考力・判断力・表現力も小さいものになってしまうというわけではなく、文法の知識が多少足りなくても、こちらのルーブリックでは高いレベルの能力を発揮できることは当然あり得ます。それぞれの入試を実施する大学が、求める能力の中で、知識と思考力・判断力・表現力との期待レベル関係を決めればよいと思います。

 

全分野のルーブリックはこちらをご覧ください。

 

ルーブリック一覧.pdf
PDFファイル 124.8 KB

 

このあと9つの分野について問題を紹介していきます。問題の精緻度については、分野によってかなりばらつきがあります。まだ十分詰めきれていないところもありますので、あくまで作題例として考えていただけるとありがたいです。

 

また、今回の問題は大学の教員が考えているので、高校生にはちょっと難し過ぎるのではないか、というご意見も当然出てくるかもしれません。そこはこれからチューニングしていくとお考えください。

 

 

また、先ほどルーブリックのレベル段階を示しましたが、その全ての段階に問題が作れているわけではないことをご了承ください。一番低いレベル1-1になると、知識を問う問題にかなり近くなるので、そこは省略されているケースもあるかと思います。逆に高いレベルでは、大学入試という時間が限られている場面では現実的には厳しいものがあるので、今回は中程度のレベルの問題が中心になっています。

 

またこのあとの問題の紹介では、以下の内容を含めることとしています。

 

まず、各問題に対してはルーブリックのどのレベルなのか。その問題内容はルーブリックをどのように満たしているか。そして、その問題を解くためにどのような知識を必要としているのか、それを学習指導要領や解説書をピックアップしています。そして、先ほどご紹介した思考力・判断力・表現力の詳細分類のどれを想定しているのかということも提示しています。

 

このように作題したものが、実際に思考力・判断力・表現力を測る問題になっているのか、ということを確認するのが本事業の目標なので、各問題と思考力・判断力・表現力の19の詳細項目の対応表を作りました。それがこちらのスライドです。見ていただくと、19の詳細項目はほぼカバーできていることがわかります。

 

ルーブリックTJE対応.pdf
PDFファイル 96.1 KB

 

さらにそれらがルーブリックの段階でいうとどのあたりか、ということをまとめたのがこちらのスライドです。まだ問題数が十分ではないので、あくまでこれは途中段階の報告だと考えていただければと思います。

 

 

今後、このルーブリックの内容はさらにブラッシュアップしていく必要があると思いますが、今回いろいろな分野について、この問題であればどのレベル、ということが横並びで比較できるようになったということは一つの成果であると思います。