高校教科「情報」シンポジウム2018秋(ジョーシン2018)講演

新しい高等学校学習指導要領における「情報科」について

鹿野利春先生

国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官

文部科学省初等中等教育局情報教育・外国語教育課情報科振興室

文部科学省初等中等教育局参事官(高等等学校教育)付産業教育振興室教科調査官

 

まず、このたび私の文部科学省の組織再編により所属が変わりまして、初等中等教育局情報教育・外国語教育課情報教育振興室ということになりました。今まで情報教育だけ生涯学習政策局に出ていたのですが、共通教科としての情報は初等中等教育局でやっていくという形になりました。ですから、教科間の連携について、より動きやすくなりました。難点は、今までよりも肩書が長くなってしまったことですが、そのくらいは我慢しようということです(笑)。

 

まず今後の学習指導要領改訂に関するスケジュールです。

 

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高等学校についても、すでに学習指導要領も解説も全部出ています。

 

小学校については、現在は移行期間の真っただ中にあります。小学校は教え方も変わり、英語科もでき、プログラミングも始まるということで、先生方も準備で大変だと思います。そういった先生方の支援も進めなければいけないということで、文部科学省でもコンソーシアムを作り、元マイクロソフトの方や、未踏ソフトウエア創造事業で天才プログラマーと言われた方にもご協力をいただきながら、支援事業を進めていいます。中学校も小学校から1年遅れで移行期間、高等学校は、2022年から年次進行の実施を目指して、学習指導要領と解説書が出て周知・徹底が始まったところです。

 

児童・生徒の現状~学力はそこそこ高いが自己肯定感が低い

ここで児童・生徒の現状について見て見ましょう。国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の2015年の結果です。日本の成績はご覧の通りです。

 

実は日本の成績は、OECDの中ではトップなのですが、アジアの中では日本より上にシンガポール、韓国、台湾、香港がいます。どの教科も1位というのがシンガポールで、このシンガポールに勝つためにはどうしたらよいか、今いろいろなことを開拓しようとしている状態です。

 

こちらはOECD生徒の学習到達度調査(PISA)の結果です。科学的リテラシー、数学的リテラシーはOECDの中では1位ですが、読解力は5位となっています。これは、複数のWebページから関連する情報を取り出してくるという問題、いわばIT機器を使った読解力の問題ができていなかったのであって、いわゆるペーパーの読解力ということではありません。こういった結果を踏まえて、学校のICT環境整備もしていかなければなりません。

 

こちらは生徒の自己肯定感です。左側の「自分には人並みの能力がある」という問いに対して、日本の生徒は低いことがわかります。さらに、右側の「自分はダメな人間だと思っている」という人については、70パーセントを超えています。ですから、児童・生徒に関わる仕事をしている方は、ぜひ子どもたちを褒めてあげてください。たとえ失敗しても何かしら褒める。そういう形でなければいけないと思います。そして、先生方を指導している立場の方は、先生方を褒めてあげてください。先生方の自己肯定感も日本は低いのです。まず先生方に自己肯定感を持たせてあげてください。

 

高校生の社会参画に対する意識を見ると、「自分が社会を変えられる」と思っている人は、日本は30パーセントぐらいしかいません。他の国は70パーセントぐらいが「変えられる」と思っています。これは、先ほど言いましたように、褒められてないということもありますし、子どもが社会とあまり関わらずに過ごしてきているといこともあるかもしれません。これについては、自分が何かをしたら周りが変わるという経験が、あまりないということが大きいと思います。ですから、そういった場面も、これから教育の中に入れてかなければなりません。

 

勉強を全くしないという人が4割近くいます。1時間未満という人まで入れれば、約半分です。自己肯定感や社会参画に関する意識を改善すれば、勉強しようという気持ちも改善されるはずです。

 

 

一方で、学習時間の経年変化を見ると、勉強ができる子の勉強時間は最近改善していますが、そうではない子は低いままです。やはり、この層の意識を上げていくことが必要です。

 

先生方も優秀ではあるが、忙しくて授業の工夫の余裕がない

こちらが教師の指導環境の現状調査です。日本の先生方は忙しいと言われますが、それもそのはずで、1週間の勤務時間の国際平均は38.3時間ですけど、日本は53.9時間です。何が忙しいのかと見ると、いろいろありますが、特に課外活動と事務業務が忙しい。

 

文部科学省としては、統合型校務支援システムを入れて、先生方の時間を作り出そうとか、課外活動に対してもいろいろな指導員とか支援しようとかいうことは検討していますが、世の中の仕組み自体を変えて、学校に多くを求めすぎないようにならないと、これは変わらないという考え方もあります。

 

日本のいいところは、授業見学の実施率が高いことですね。日本の教師の能力は、世界から見てもトップクラスだと言われています。

 

しかし、忙しくて業務スケジュールが合わないから研修に参加できない。あちこちで講習会を行っても、先生方がなかなか集まらないのはこういう状況があるわけで、それなら集まらなくても済むような情報提供をしていただければ、先生方は非常に助かるということはあります。

 

同じ教育指導環境調査で、「主体的な学びの引き出しに自信を持つ教員の割合」がこちらです。先生方が、このようなところが足りないと思っておられるということは認識すべきです。これを上げてかなければいけないので、授業改善を進めようということになるのです。

 

こちらは、指導の工夫として頻繁に行っているものです。日本では、やはりここに挙げられているような形の工夫が少ないのですが、特に一番下のICTの活用は9.9パーセントしかありません。この調査が2013年ですから、今はもう少し上がっていると思います。環境整備と教員研修を両方やっていかなければいけません。

 

 

コンピュータやAIの進化でこれから起きること

これから起きることについては、皆さんも大体こんなところだろうなと思っていらっしゃると思います。すでに、経理業務を外に出す会社が出てきて、会社の経理部門がどんどん消えていると言います。次は人事部門も外に出している。それらを代行する会社がどんどん伸びて、それを在宅でコンピュータに教えるアルバイトの主婦の方がどんどん増えていると言います。アルバイトの増加は一時的なものかもしれませんが、状況はすでに動き出しています。

 

図の最後の、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」とありますが、これは私の大好きな言葉です。そういう気概で仕事をしてらっしゃる方が多いと思います。

 

これから起きることを具体的に挙げたのが下図です。先ほど申しましたところで、AIの進化と浸透によって、人の仕事の質が変わり、AIと共存するのが当たり前、という社会になります。そして、AIに判断ができれば定型業務の代行を、AIに手足が入れば、車やブルドーザー、農機具のようなものを自動運転し、力仕事の代行ができるようになります。そしてAIに目ができれば環境に応じた行動ができるようになります。こうなってくると、これからはAIの進化を前提とした資質・能力の育成が必要になります。

 

次の「データが価値を持つ」というのは、「Society5.0に向けた人材育成」ということで、国の方でもどんどん出しておりますから、皆さんもご存知かと思います。

 

「クラウド型社会」というのは、皆さんもご存知のように、全ての資源がネットワーク上に置かれる状態です。会社にサーバーを置くのは、もう主流ではないような状況になってきています。自治体や教育委員会では、まだクラウドを使っているところは少なく、サーバーを教育センターに抱えているところが多いようですが、これからセキュリティも含めて変わっていくのかなと思います。

 

 

新学習指導要領改訂の方針~学びに向かう力では態度だけでなく自己調整も必要

次に学習指導要領の改訂に関するお話です。

こちらの図はすでに皆さんは何度もご覧になっていらっしゃると思いますが、育成すべき資質・能力の三つの柱です。知識・技能だけでなく、思考力・判断力・表現力等や、人間性・学びに向かう力も見ていきましょう、ということです。ただし、やりっぱなしではなく、これらの評価をしなければいけません。では、どう評価するか、というのが小・中・高でこれから問題になるところです。その流れを受けて、大学もこういうところを見ていかなければならなくなるでしょう。

 

中教審の評価のワーキンググループで今言われているのは、これまで「学びに向かう力」は態度で判断していたのですが、自己調整、つまり自分の勉強のやり方を自分で見直して、それを変えていくようなこともここに含めていくべきではないか、ということです。

 

具体的には、態度だけよくても、知識・技能や、思考力・判断力・表現力はついていかない可能性もあるので、態度だけでなく、今申し上げた自己調整もセットで見ていきましょう、ということです。すでに議事録も公開されています。今後、学校現場でも、教育委員会でも、こういった自己調整とはどんなものか、どのように育てていくかということについて考えていかれた方がよいと思います。

 

それでは、次期学習指導要領において、各学校種で具体的にどこが・どのように変わったのか。一つずつ詳しくお話しすると、今日一日かかりますので、ざっくりご説明します。

まず、小学校は教科としては英語が増えただけで、他は全然変わっていません。ただし、時間数はプラスアルファになりますから、どのように時間を確保しようかということで、先生方が苦労されているという状態です。

 

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中学校は今回全の改訂では変わっていません。ただ、この次の改訂ではどうなるかというところです。

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高等学校の改訂の目玉「論理」「総合」「探究」には教科間の連携が不可欠

高等学校がこちらです。現行から大きく変わります。例えば、国語にも英語にも「論理」が付いた科目が入っています。理科は、科目そのものはあまり変わっていませんが、「理数探究」が新しくできました。数学は「数学活用」が「数学C」になったくらいです。ベクトルは現行学習指導要領では「数学B」に入っていましたが、新学習指導要領では「数学C」に入りました。そして、ご存知のように情報は大きく変わっています。

 

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教科・科目構成の変更をまとめたものがこちらです。先ほど申し上げたように、国語と外国語で「論理」と付いた科目が多くなっていて、この部分を伸ばしていくためには、情報科も含めた教科間連携などでいろいろなことができると思いますが、その点をどれだけ先生方に伝えることができるのか、というのが問題です。

 

また、地歴公民のところでは「歴史総合」や「地理総合」といった科目もできました。

 

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そして、科目間の連携で、情報Iで学んだことを他教科で応用・発展させるために、できれば早い段階で「情報I」を履修するようにしていただきたいと思います。18才成人ということがあるため、「公共」や「家庭科」は1年生あるいは2年生で実施ということで、1年生の教育課程が非常に盛りだくさんになっていますが、教科間の連携をうまく進めるためにも、教務担当の先生方にぜひご検討いただきたいと思います。

 

 

観点別学習状況の評価については、現行の4観点から3観点に整理するということです。先ほどお話ししたように、中教審の評価ワーキンググループの議論の結果として、「主体的に学習に取り組む態度」に加えて「自己調整」が入ってくる可能性があるということを繰り返しておきます。

 

 

「情報I」は国民全体が持つべきリテラシー

さて、いよいよ情報科の改訂内容です。「情報A」「情報B」「情報C」から始まって現行の「社会と情報」「情報の科学」になり、今度は「情報Ⅰ」「情報II」になる、というのが大きな流れです。

 

この背景には、情報活用能力の高まりや、世の中の変化といったいろいろなことがあります。今回の改訂では,全ての人が学ぶべき内容をまとめて一つの科目にしよう、ということでできたのが「情報Ⅰ」です。そして、もちろんそれだけでは足りないので、「情報II」で、より高度なものを入れていきましょうということです。

 

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大学入試としても、二つとか三つの科目のどれかを選択しているということでは、入試科目として入れるのは難しいですが、「情報Ⅰ」という一つの科目であれば導入しやすいだろうということで、現在センター試験の後継の「大学入学共通テスト」に入れる方向で検討が進められているという状況です。「情報II」については、検討という形では出て来ていませんが、ぜひ各大学の個別試験で「情報Ⅰ」と「情報II」を入れていただきたいと思います。

 

理系の大学では、皆さまのお力をいただければ可能ではないかと思います。しかし、現状では文系と理系の比率が7対3くらいですので、理系で実施するだけでは情報IIは3割くらいしか取らないことになります。しかし、文系の大学入試で情報IIを導入すれば、ほぼ全員が情報IIまで学ぶことになりますから、ぜひ文系の大学でも導入していただきたいというのが、私の思いです。

 

情報科の新科目のイメージがこちらです。 今年3月に学習指導要領を、7月に解説を出しました。今は「情報Ⅰ」の研修資料を作って、年度末には出すという状況です。具体的にどのくらいのことを扱うのか、各項目のポイントをご説明します。

 

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まず情報I「(1)情報社会の問題解決」では、問題解決のサイクル、これは当然学びますが、このサイクルのあちこちに統計を用いて思考・判断・表現等を行っていきます。

 

 

「(2)コミュニケーションと情報デザイン」とありますが、「コミュニケーション『のための』情報デザイン」ではありません。コミュニケーションには、情報デザインは当然使いますが、それだけではなくて、ここに三つ挙げてある中でも、特に「アルゴリズム、プログラミング、ネットワーク、データの扱いにも情報デザインの考え方は重要」にご注目ください。このように論理的なデザイン、機能的なデザイン、そして表現としてのデザインの全てをしっかりやっておかなければいけない、ということを打ち出しています。

 

 

「(3)コンピュータとプログラミング」では、研修資料には具体的に幾つかの言語で書いたコードも載せて出す予定ですが、文部科学省としては、どの言語を使いなさい、ということは出していません。テキスト型の言語か、ビジュアル型かということにもこだわってはいませんし、そもそも、そういうことにこだわるのはおかしいのではないかと私は思っています。

 

 

この項目で学ぶべきこととしては、ここに挙げてあるように、当然コンピュータの仕組みや特徴はやりますし、コンピュータの内部表現等も入れなければいけません。計算の限界や誤差についても必要になってきます。モデル化とシミュレーション、アルゴリズムなどいろいろなことはありますが、例えば左の下にある並べ替え(ソート)のように、今までもプログラミングとしてやってきたようなことは当然やらなければいけませんし、右側にあるような図形を描くというところ、つまり「図形の表示というのはプログラミングでこんな形になるんだよ」ということや、プログラムで表示して図形を学んだりコンピュータの仕組みを知ったりすることも必要です。上から2番目の物理で出てくる斜方投射をシミュレーションしてみたり、3番目のフィボナッチ数列のようなものを書いてみたり、ということも数学や理科との教科の連携でやっていただくと良いと思います。

 

さらに、今はスマートスピーカーも家庭に入ってきていますが、例えば生徒が「スマートスピーカーとしりとりがしたい」と言ったとしたら、無下に却下するのでなく、「できるかどうか、まずやってみよう」と仕向けるとか、大学の先生にお願いして指導していただくとか、いろいろなことができると思います。先生方自身が作ったことがなくても、子どもたちができるように状況を整えてあげればよいのです。

 

さらに、中学校で計測・制御やネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングといったことは学んでくることになっているので、そういうものは高等学校ではより発展させなければいけません。それに対する機材なども含めた準備も必要です。

 

「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」の「ネットワーク」は、この左の下の図に書かれている程度を想定しています。また、「統計的処理」については、例えば、単回帰直線を描いて、それを延長すれば予測が可能、ということや、コインを投げて裏と表の出た回数の割合について検定する、というようなことは数Ⅰで出てきますので、この処理の仕方を数Ⅰと協力をしてやっていくことを考えています。

 

 

情報II~来るべきAIと共存する社会に備えて

続いて情報IIです。まず「(1)情報社会の進展と情報技術」について。

 

先ほどお話ししたようなロボティクス・プロセス・オートメーションによって世の中が変われば、自分が将来どの仕事に就くかという方向性も当然変わっていきます。

 

高等学校で進路指導をしておられる方は、この方向性を間違うと生徒の一生を台無しにすることになるので、気をつけていかなければいけません。資質や能力が足りなければ、先ほど申し上げた自己調整をして自分の力を練り直していかなければ、社会の変化には対応できません。そういう形の勉強の仕方や態度も身につけなければならないのです。

 

 

図中右の方に自動運転の車がありますが、車を呼んだら自宅まで来てくれて、用事が終わったら自動で車庫に帰っていくのであれば、自分で車を買わなくてもいい、という話もあります。そうなると産業構造自体が変わりますから、その辺りのところも考えていかなければなりません。また、機械と人間の関係について言えば、いずれスマホに代わるデバイスが出て来たら、今のスマホ以上に依存してしまう人が出てくる可能性もあります。そういったことについても考えていくことが必要になると思います。

 

「(2)コミュニケーションとコンテンツ」につきましては、図にあるような内容になります。情報デザインを「情報I」でしっかりやりますから、これを生かしていきましょう、ということです。

 

 

「(3)情報とデータサイエンス」で、どのぐらいのことをするのかですが、情報Ⅰでは、「こんなデータはこう扱う、データベースの基本的な考え方はこうで、リレーショナルはこんな感じ…」といった「データの扱い」を学びます。

 

情報IIで一番ポイントとなるのは、データに基づく現象のモデル化や予測です。

 

例えば、クラスタリングであるとか、迷惑メールの振り分けはどういう仕組みなのかというのがこれに当たります。迷惑メールの振り分けに使われるベイズ統計は、数学では出てきませんが、情報では扱わざるを得ないでしょう。ただし、情報IIでは公式を覚えるということではなくて、「こういう手順で処理しているよ」という仕組みを見せるくらいになるかと思います。

 

 

つまり、情報Ⅰでデータの扱い方を学んで、情報IIでは実際に様々なものについてそれを当てはめて、機械学習の入り口までは持っていこうということです。そして、人工知能につなげていく部分、主に理論的な部分については大学にお任せするということになります。

 

言い換えれば、高等学校では情報処理的にも統計的にも基本となる部分をしっかりやって、応用となる部分や高度な部分、あるいは高等学校で手の及ばない部分については、無理にそこまで手を伸ばさず、大学にお任せするところがあるだろうということです。ただ、どんどん伸びていく子に対しては、何らかの場を与えたい。それは授業以外の部分と思っております。

 

「(4)情報システムとプログラミング」については、ここにあるようにシステムを構想して、設計して、分割して、組み上げたらテストして、統合して…というような、システム構築の考え方を学びます。ただ、企業で行っていることを縮小して全部やろうとしても時間的に無理ですので、ここではそのプロセスを体験できるようなことをやろうということです。

 

例えば、お年寄りの見守りシステムであれば、家の中のお年寄りの動きを検出して、判断して、送信したものをインターネットを介して家族のスマホに送り、それを家族が受信したら表示する、というように、いろいろなサブプロセスがあります。その一つひとつの部分ごとに設計して、一連の動きになるように統合するということが考えられます。

 

 

 

「(5)情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探求」です。「総合的な探求」では、各教科で学んだことを総合します。「理数探求」では、主に理科と数学で学んだこと使います。情報については、「情報Ⅰ」と「情報II」学んだことを使って何かを作り出すような活動を作らなければいけないということで、情報IIの(5)として置きました。

 

 

具体的に何をするかと言いますと、今考えられるのはここに挙げたようなことです。右上にスマートグラスの写真があります。外の景色とコンピュータの映像を合わせて表示できるコンピュータで、仮想現実や拡張現実も他県できます。今は値段も高いですが、「情報Ⅰ」、「情報II」が始まって2、3年も経つ頃には価格も下がって、学校教育でも使えるようになるかもしれないと思います。

 

ここにはバーチャルリアリティやプロジェクションマッピング、ロボットなどいろいろなものが挙げてありますが、これをするためには、プログラミングとかもの作りとか、いろいろなことを統合することになります。要は、子どもたちの興味・関心に応じて発展させていく場を作ることです。新たな価値を生み出すためには強い意欲がないとできませんので、それを発揮しつつ、子どもたちが学んでいく場を作るのが、この(5)であるということになります。

 

 

普通教室のICT環境整備については、こちらのようなステップを示しているのですが、最近高等学校では、私立だけでなく公立でも、個人のPCを家庭で購入するところが出てきました。そうすると、今までステージ1とか2だったところが、一気にステージ3を飛び越してステージ4に到達してしまう、ということになります。

 

そうなったとき、教育委員会の方、あるいは学校関係の方も、生徒が全員使ったときに学校のインターネット接続の帯域は大丈夫か、今のうちにぜひ確認なさってください。この部分がしっかりしていないと、全員がインターネットを使おうとしたとたんに授業が止まります。そうなってからでは遅いのです。ぜひこの点は十分注意なさってください。

 

 

情報入試に向けた動き~政府全体でこれまでにないスピード感で動いている

情報科については入試に向けても、大きい動きがありました。

 

ニュース等でご存じかもしれませんが、まず2017年の3月の高大接続システム改革会議で、「数理探求」や「情報」についての出題について言及されました。 

 

5月17日には、未来投資会議の総理発言で、「国語、数学、英語のような基礎的な科目として情報を入れる、文系、理系を問わず理数の学習を促す」という話が出ました。5月25日には、文部科学省からは「情報科」の入試について検討を開始する、という発表がされました。

さらに6月4日には未来投資会議の素案として大学入学共通テストに情報Iを追加することが文書化され、6月15日には素案の内容が案として記載され、閣議決定されています。これは内閣府から出されたことですので、政府全体として取り組んでいくことになります。当然、文部科学省も取り組みを始め、大学入試センターとも協力しています。

 

 

 

6月15日にこの未来投資会議の案が閣議決定されて約1か月後に学習指導要領の解説を出したときに、大学入試センターから全国の都道府県の指導主事に「情報科の大学入試の問題を作ってください」ということをお願いしました。このくらいのスピード感で進んでいます。これは情報処理学会にもお願いしていますし、大阪大学には大学入学者選抜改革推進事業の情報分野をお願いしています。2019年2月には試行テストを2校で実施します。その結果を検討し、問題を練り直して、2020年2月には10校程度に拡大して再度試行テストを行います。共通テストが始まるのは2023年ですから、2021年には大学入試センターは実施大綱ということで、情報入試をやる・やらない、やるとしたらどのくらいのことをどうするか、ということを出すと想定しています。

 

今後のスケジュールがこちらです。「情報Ⅰ」については、今年、教員研修の資料を作って、来年の4月には皆さんのお手元に渡るようにします。実のところ、各県における研修は、予算がないとできませんが、どのくらいのことをやるかというイメージが各県ばらばらでは、どうしようもないわけです。

 

 

ですから、文部科学省から研修の資料を出すというのは、その資料の内容を見て各県の財政担当部局に予算請求をしていただき、ある程度レベルや内容が揃った研修をしていただきたいということです。そして2019年に予算請求をしていただけば、2020年・2021年の2年間研修が実施できます。早いところでは、来年2019年から始めるところもあるでしょう。

 

教科書につきましては、2020年に検定、2021年採択、2022年使用開始ということになりますが、研修資料は2018年度の末に出しますから、教科書作成の最後の修正の際には、参考にしていただけると思いますし、さらに教科書の解説書作成の際にも参考にしていただけるものと考えています。同じことは「情報II」でも言えます。こういったペースで2022年度の実施に向けて進んでいます。

 

各大学の個別テストについてもまだ検討中ですが、先ほどもお話ししたように、2021年には大学入試センターから実施大綱を出すと想定しています。CBT(Computer Based Testing)で実施という話もありますが、それをどうするかということも含めて、2021年の時点では全部公にしなければなりません。となれば、システム開発も含めて、相当前の段階から取り組んでかないと間に合わないということです。

 

教員の資質の向上を目指して

情報科の教員の状況はあまり変わっていません。専任が20パーセントというのは、東京と大阪くらいで、地方では兼任の方と免許外の方が半々ぐらい、県によっては免許外の方が多いところがあるという感触で、この状況を改善してくということになります。

 

ただ、改善していくと言ってもすぐにはできる話ではありません。入試で検討しているとか、内容が高度になるので今までの教員研修では難しいということを総合して、今後は専門性の高い教員研修を行うとともに、情報科の教員採用を進めていただくよう各都道府県の教育委員会等にご理解いただいていくという地道な努力が必要です。

 

現職教員の研修は、先ほどお話ししたように研修資料を作成して、各都道府県で実施していくように働きかけていきます。県で講師を確保できない時は、大学などにお願いすることがあるかもしれません。大学の皆様には、その節はぜひよろしくお願いいたします。

 

 

教員採用の実施については、すでに各教育委員会宛てに通知を出しています。直接話を聞いていただいた教育委員会の担当者の方は、今までの状態では無理であることをご理解いただけているので、継続して働きかけてまいります。

 

指導事例の蓄積につきましては、文部科学省としても調査・研究を続けており、小学校についてはすでにポータルサイトで公開しています。中学校についても、研究指定校で取り組みを続けています。高等学校につきましても、文部科学省の方で進めているところですが、学会や研究会でも、成果を積極的にWebに出していただいて、多くの先生が利用できるようにしていただきたいと思います。

 

これは、先生方個人についても同様です。できれば、個人のページと学会・研究会の大会のページなどをリンクしていただければ、それがインデックスになり、より広く深く活用されていくことになります。一つのところにデータを集めて、そこにみんな来てくださいというやり方も悪くはないとは思いますが、いろいろなサイトが緩くつながって、個人のサイトを閲覧・俯瞰できるような形で情報提供をするというのも、これからのやり方ではないかと思います。

 

高等学校の専門学科の指導事例につきましては、情報科教材サーバー(仮称)を立てようとしています。そして情報入試につきましては、先ほどお話ししたような形で進んでいます。大学等の課題につきましては、高等学校がこのように変わっていくので、大学もやり方を変えていただかなければいけないことになると思いますので、その部分の準備を進めてくということが必要です。

 

それから、大学の情報科の教員養成課程については、文部科学省で作っている指導資料をpdfで公開します。データもリストも全部出しますので、それを見ていただいて、カリキュラムを変えていただく必要があるかと思っております。

 

このように、今できることをやりつつ、小中高のプログラミング教育の体系というところも考え、研修については放送大学等の応援をいただくといったことも含めて概算要求を行っています。

 

お願いしたいことは、今後大学の入試で情報を採用するかどうかということが出てきたとき、大学入学共通テストの「情報Ⅰ」については、ぜひ全部の学部・学科で採用していただきたい。「情報II」については、ここにおいでの大学の皆様にはぜひお願いしたいですし、できれば文系でも実施していただきたいと思っています。

 

長い将来を見れば全ての学部・学科で採用していただけるかもしれませんが、ぜひ早い段階で入れていただければと思います。これからは、情報入試を行うことで、高等学校と大学をどのようにつないでいくか、どういう人材を出していくというところにシフトしていかなければいけません。大学では入試に情報を採用して、それをベースとしてカリキュラムをどのように作っていくかということ、高等学校についても、それに向けての体制をどのように整え、教員の力をつけていくということが課題になっていくかと思います。

 

 

 

[質疑応答]

 

Q1大学教員:大学入試に「情報Ⅰ」は必ず入れてほしい、「情報II」は今日ここにいる大学では入れてほしいということでしたが、「情報Ⅰ」と「情報II」の境界が、実はよくわからないというところがあります。鹿野先生がお考えになることで、例えば、こういう問題や内容は「情報Ⅰ」ではなくて「情報II」だ、というところがあれば、具体的に教えていただきたいと思います。

 

A1鹿野先生:大きく線引きがあるとすれば、プログラミング、データの部分です。例を挙げると、まず具体的にプログラミングで言えば、情報システムを考えたときに、それを分割したり統合したりということになると、それは「情報II」となります。もちろん、「情報Ⅰ」でもできますが、それをチームでやっていくということになると「情報II」の内容です。

また、データの扱い方など基礎的なことを学ぶのが「情報I」で、それを実際に扱って、データサイエンスの入り口までいくのが「情報II」です。数学との関係で言えば、「情報Ⅰ」は「数学Ⅰ」と連携。「情報II」は「数学B」と連携という線引きをしています。

 

情報デザインについて言えば、「情報Ⅰ」では基本的なことを学ぶことになっていますが、これについては、情報科全体で生かしてほしいということで、明快な線引きはありません。そして、「情報II」だけにあるのは、「情報Ⅱ」の「(5) 情報と情報技術を活用した問題発見・解決の探求」です。これをベースとした問題を作るとすれば、それは「情報II」ということになります。

 

 

Q2高等学校教員:今年9月に、来年から先行で「総合的な探求の時間」が始まるということが流れてきたので、他教科と情報科の連携の話が出てきていますが、総合的な探求と情報との関係はどのようになると考えたらよいのか、教えていただきたいと思います。

 

A2鹿野先生:来年から先行で「総合的な探求の時間」を行うことについては、学習指導要領を出す前からタイムテーブルとしては出しておりました。そこでは、当然ですが情報科で扱ったことを「総合的な探求の時間」で活用してほしいです。ただ、それについて、どのようにやってほしいかというのは全体の話ですので、情報科についてのみ申し上げることはできません。

 

ただ、先ほど「情報I」をぜひ早い段階で置いてください、という話をしましたが、「情報I」を2年生に置いたら、「総合的な探究の時間」で情報の力を発揮できないと思います。ですから、学校としてはまず「情報I」を早い段階で置くこと、そしてそこで学んだことを「総合的な探求の時間」で生かしてやっていたただきたい、ということです。新しい学習指導要領では、統計をしっかり入れていきますので、客観的なデータの扱いや結果の評価など、今までは何となく行ってきたことを、情報科や数学科との連携によって、統計的にしっかりやっていただきたいと思います。こういったことを、全ての先生方にご理解いただいて、どの教科でもデータの扱いをしっかりやっていただくようにすると、これまでの「総合的な学習」とは変わった形になると期待しております。

 

高校教科「情報」シンポジウム2018秋 講演より