第80回情報処理学会全国大会特別講演

小中高で育む情報活用能力

鹿野利春先生 国立教育政策研究所 教育課程研究センター研究開発部 教育課程調査官

講演日2018年3月13日

高校次期学習指導要領、いよいよ公示

現在、次期学習指導要領はパブコメ(※1)を募集しています。明後日(2018年)3月15日にこれが終了しましたら、それに対応して最終的に見直しを行い、3月末に官報に載せて正式に公示するというスケジュールです。

これと並行して、学習指導要領の解説も作っています。これは共通教科「情報」だけでなく専門教科「情報」についても同様に進めています。専門教科「情報」では、さらに高度なことを学びますが、こちらには今回「情報セキュリティ」という科目も入れて、情報産業に従事する人材の育成も目指しています。

 

※パブリックコメント制度: 政令や省令等を決めようとする際に、あらかじめその案を公表し、広く国民の皆様から意見、情報を募集する手続

http://www.e-gov.go.jp/help/public_comment/about_pb.html より

 

私が現職に就いて3年になります。次期学習指導要領では「情報I」は必履修として2単位、さらにその上に選択で発展的な内容の「情報II」を2単位という形になりました。

 

次期学習指導要領では、小学校も中学校も国語や算数(数学)など教科の時間数は、小学校の英語を除いてほとんど変わっておりません。高等学校も、いろいろな新しい科目が出ているようには見えますが、教科の時間数は、ほとんど変化しませんでした。その中で、共通教科「情報」の必修単位を増やすということは、残念ながらできませんでした。ですから、2003年に新たに「情報科」という教科を作ったのは、非常に大変なことだったと思います。

 

本日のお話の内容がこちらです。特に、小学校や中学校でどのようなことをしようとしているのか、そのためにどんな準備をしているかということを詳しくお話します。また、それらについてはここにおいでの大学や企業の皆様にもお手伝いいただきたいことがたくさんあります。

 

学校で学んだことが将来役に立つためには、どんな教育が必要か

こちらが、今回の学習指導要領を作ろうとしたときのバックグラウンドとなった話題の一部です。

 

「子どもたちの65%は、今存在していない職業に就く」とありますが、職業の変化はすでにもう始まっていますし、10年後には半分以上変わっているかもしれません。その変わった先の職業というのは情報関連、つまりコンピュータを使うものになっていくはずです。

 

そうすると、国民は情報の素養がなければ暮らしていけませんし、国全体としてもそれが必要なことは明らかです。こういったことも含めて、全ての国民がプログラミングを学ぶ機会を作るために、小学校にも「体験」という形でプログラミング教育を導入することになりました。

 

次に、「10年~20年程度で、半数近くの仕事が自動化される可能性が高い」とあります。自動化されるということは、その仕事に就いていた人は職がなくなることを意味します。総務の部門を全てアウトソーシングする会社も増えてきました。いずれ人事や経理までアウトソーシングするようになると、これからの時代は、仕事のやり方をきちんと書ける人は生き残るかもしれませんが、仕事の処理の速さだけでは、アドバンテージにはなりません。ですから、これからは学校における学び方も変えなければいけないということになってきます。

 

それでは、学校で習ったことは、将来も通用するでしょうか。ご自身の経験を振り返ってみてください。これからは、小学校のとき習ったこと、さらに中学校・高等学校のときに習ったことが、きちんとそれぞれの将来につながる学びの形を作っていきたいと思っております。そして、特にプログラミングやコンピュータに関しては、もし現状で、小学校でも中学校・高等学校でも、もしかしたら大学の初年次でも同じようなことをやっていることがあるとすれば、これはもう早急に変えなければなりません。小学校で経験すること、中学校で学ぶことをきちんと体系的に整理して、ステップアップしていかなければなりません。こういったことについても検討していかなければいけないと思っています。

 

未来の創り手となるためには、こんな力が必要だと言われているものがこちらです。知識はもちろん必要ですが、未来を創るということに関して言えば、必要なものは調べればよいので、知識自体はそれほど大きな要素ではありません。一方で、目的を設定したり、必要な情報を見出したりすることは人間しかできません。これからはそういう力を伸ばしていかなければいけない、というのが基本的な方向です。

 

さらに、相手にふさわしい表現を工夫したり、多様な他者と協働したりする力も必要です。子どもたちは将来、考え方が違う人と話し合ったり、言葉も文化も違うところで働いたり、さらに立場や背景が異なる人たちとチームを組んで成果を上げたりしなければなりません。学校の学びの中で、そういったことに備えるための経験をする必要があります。また、「目的に応じた納得解」というものがあります。学校の外では、正しい答えというのは、実はあまりなくて、皆が納得するかしないかということで話が決まっていくというところが多いのではないでしょうか。そこで求められる解の作り方を身に付けておく必要があります。

 

先生方は今まで自分が受けたことも見たこともない授業をしなければならない

下図が教育を通して育成すべき資質・能力の3つの柱です。今までの学習指導要領は左下の「知識・技能」が中心で、そのために「詰め込み」とも、逆に「ゆとり」とも言われたこともありました。

 

今は、知識・技能だけではなく、それを使うための力、つまり思考力、判断力、表現力も大事だ、ということになっています。

 

そうすると、授業の中でそういう力を育てる場面を作らなければいけないので、授業のあり方が全く変わってきます。今までは、先生が前に立って教えるというのが普通のスタイルでしたが、これからは先生の居場所は教室の後ろかもしれないし、もしかしたら教室にいない、ということもあるかもしれないのです。

 

これからの先生は、ここにあげられた資質・能力を育てるために、今まで自分が受けたことも見たこともない授業をしなければいけないということになるかもしれません。

 

 

 

では、学習指導要領は全体としてどのような方向に変わっていくかと申しますと、「何ができるようになるか」ということが重視されているのがポイントです。例えば、授業を受けて、三角関数の公式を覚えて、問題は解けるようになった。でもこれは何の役に立つのかしら、ということでは、学びのモチベーションも上がりませんし、応用もできません。これが実際の生活の中ではどんなことに結び付くのかということまで、押さえられていなければダメですよということです。小学校、中学校、高等学校で知識はしっかり身に付けたけれど、もう数学も理科も見るのはいやだという子どもたちを育ててはいけません。

 

 

そのためには、「主体的・対話的で深い学び(=アクティブ・ラーニング)」が大事ですよ、とされています。先生が教えるということも当然ありますが、子どもが自ら学んでいくような形の授業のやり方を取り入れましょう。こういう学び方は、一見効率が悪いように見えますが、学んだことの記憶や能力の保持、あるいはやる気というところが全然違ってきます。

 

高校の情報科でプログラミングが全員必修になることに向けて

下図は今後のスケジュールです。現在、2018年3月ですから、もうすぐ2017年度は終わりです。4月から小学校は移行期間に入るので、小学校ではプログラミングの体験がすでに始まります。移行期間は2年間ですので、2020年度には、小学校は1年生から6年生まで新しい学習指導要領のもとで授業が行われます。中学校の移行期間は、今年の4月から3年間で、完全実施は2021年度ということになります。

 

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高等学校の次期学習指導要領は2017年度末に公示されます。高等学校には移行期間はなく、「情報I」は2022年度から、「情報II」は2023年度からの実施ということになります。

 

喫緊の課題は、先生方の研修です。現在の情報の先生方が、そのまま情報I・IIを教えることは、難しいと思います。今の先生方の多くは14、15年前に情報の教員免許を取るための、正味15日間の研修を受けて情報の教員になった方が大半を占めます。その時、もちろんプログラミングについての研修も行いましたが、それ以来全く研修を受けていない先生もたくさんおられます。

 

そして現行の学習指導要領では、情報科は「社会と情報」「情報の科学」という2科目から選択できることになっていますが、80%の学校が選択している「社会と情報」にはプログラミングは入っておりません。プログラミングが入っている「情報の科学」を実施しているのは20%です。これを、3年後からは全員プログラミングを行うことに決定しましたので、これに向けてスムーズに移行できるように準備をしていくということになります。

 

18歳までに身に付けるべき情報の資質・能力の目標を決め、それぞれの発達段階に落とす

次期学習指導要領で、小学校でプログラミングを体験するとか、高等学校でプログラミングを全員必修にするというのは、情報ワーキンググループで、学習指導要領の細かいところを作る前に「小学校、中学校、高等学校の全部を見通して、発達段階に応じてこういうふうにしましょうね」ということを話し合って決めたものです。他の教科でも同様なことを行いました。ですから、例えば英語では、小学校での英語の体験活動は中学年に落とし、高学年では教科として実施しよう、といった話が出てきたわけです。

 

下図の左側が、情報にかかわる資質・能力で、18歳までにこのぐらいはできるようになろうね、というものです。そしてこれを小学校、中学校、高等学校にそれぞれ分けていったのが右側になります。

 

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プログラミングについては、高等学校で全員に学習させましょう、さらに発展的なところも選択科目としてやりましょうというゴールをまず決めました。そして、それに向けて、では中学校は今のままでは足りないから、もう少し増やそうということで、従来の計測・制御に加えて双方向性のあるコンテンツのプログラミングを入れました。そうすると、小学校ではプログラミングを体験としてやっておいた方がいいということで、発達段階に応じて体系的に組み上げていきました。そして、高等学校を卒業するときには、「情報I」だけ履修しても、全員がしっかりプログラミングは学んでいる、情報の科学的な理解も進んでいるという状態で送り出せることを目指しています。

 

大学に進学する人、あるいは将来高度な仕事に就かれる人は、当然のこととして情報IIも学んでほしいと思います。私個人としましては、ぜひ情報I・IIをセットで大学入試に入れてほしいと思っています。情報I・IIは理系・文系関係なく必要なものなのです。

 

ここで、小学校の学習指導要領を見てみましょう。中教審の答申で、小学校・中学校・高等学校では、教科にかかわらず言語能力・情報活用能力・問題発見解決能力の三つがベースとして大事だということが出されました。そして、全ての教科・科目でこれをしっかりやろうということが学習指導要領に書かれています。今までは、情報活用能力については総則で触れられる程度でしたが、今度は教科書にしっかり載ってきます。

 

具体的には、まず小学校では問題の発見・解決を経験して、そこに情報や情報手段が活用されており、それらにはよさや課題があることに気付づくこと、情報手段の基本的な操作ができるようにすることなどが挙げられています。

 

実際の学習指導要領では、情報機器の基本的な操作をできるようにしましょう、文字入力は小学3年生の総合的な学習と国語のところでやっていきましょう、などということが具体的に書かれています。これは教科書にも掲載され、授業の中でしっかり行われるということになります。

 

ただ、小学3年生でやったとしても、その後4年生・5年生・6年生で全くコンピュータにさわらなかったら、せっかく学んだことも忘れてしまいます。ですから、繰り返し定着をはかる必要があると思います。

 

中学校では、問題を発見・解決したり、自らの考えを形成したりする経験をすることになっています。小学校とは違って、問題そのものについて、これはどんな問題なのか、どこに課題があるのかということを考え、統計を含めた抽象的な分析も行っていこうということになっています。

 

そして高等学校は完成段階ですから、情報社会への主体的な参画であるとか、科学的な知として体系化するということができてほしいとされています。

 

ですから、この学習指導要領で学ぶ子どもたちは、先生のしっかりした指導や外部の支援があれば、かなりのレベルまでいけることが期待できます。そうなると、彼らを受け入れる大学の教育も、必然的に変わっていかざるを得ないでしょう。そのためには、情報科の大学入試の検討ということも避けては通れないかと思います。

 

「今までなかった授業」の実現のためのICT環境整備

下図は、先ほどお話しした「今までなかった授業」というのは具体的にどのようなものかということを図にしたものです。先生が前に立って教えるだけでなく、子どもたちが自分で問題解決をするために、いろいろなことをしながら学んでいきます。その中に、主体的・対話的で深い学びがありますということです。

 

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上図の中で、教育用コンピュータやインターネット、無線LANなどICT機器や環境などに関する部分を拡大したのが下図です。例えば、授業の最初には、この授業でどんなことをするかという目標を皆が知る必要があります。資料や目標を提示するために、どの教室にも1台は大型提示装置が必要です。

また、生徒どうしの交流は、クラスの中だけでなく他の学校や、時には外国の子どもたちとの交流も考えられます。このためには大型提示装置やカメラ、マイク、スピーカー、インターネットが必要になります。

 

インターネットにはつながっていても、回線の帯域がごくわずかしかない場合、授業で一斉に可動式PCを使おうとしたら止まってしまった、という例があります。ですから、インターネットの帯域を広げてくださいと各自治体にお願いしています。インターネットにつながらなければ、ここに書いてあるようなことは全く絵に描いた餅になってしまうので、これはもう喫緊の課題として、解決が必要です。

 

 

さらに、このような授業の中には、意見整理や協働製作、発表・話し合いなど、いろいろな学習の場面があります。そのために大型のプロジェクターと無線LAN、可動式PCを小学校に入れましょうということで、これらについては具体的に数字をあげた指針を出しています。例えば、可動式PCについては3クラスに対して1クラス分、40台程度は入れることになっています。

 

このための予算は、これまでは全体で年間約1600億円程度でしたが、今後新学習指導要領の実施に向けて、これが年間1800億円程度になります。ただし、これは地方交付税で出しているので、学校側から「欲しい」と言わなければ予算になりません。また、学校が欲しいといっても、議会が「No」と言えば、やはり予算になりません。ですから、学校のICT環境の整備をちゃんとやってください、ということを世論として形成しなければいけないし、議会もそれを反映しなければいけない。そうしないと、ICT環境整備の予算はついても、運動場を整備したり、子どもの医療費無償化に使ったりと、全く別のことに使われてしまうこともあるのです。

 

情報活用能力を育成するための環境を整え、これらを適切に活用した学習活動の充実を図りなさいということは、学習指導要領に明記されています。ですから、これをしっかりやらなかったら学習指導要領に違反していますよということになります。

 

小学校・中学校のICT環境整備は、各自治体が行います。高等学校は自治体が準備する分もありますが、自分で買って持って行くということも考えられます。実際、東京都では今年4月から10校程度を選んで、生徒の所有するスマホなどを使った授業実践を行う予定です。

 

また、これらとは全く別個に、1学年全員に可動式PCを買わせる予定のところもあると聞いています。ただし、事前に学校のインターネットに接続する回線の帯域を十分確保しておかないと、せっかく買っても動かないということになります。

 

下図は普通教室のICT環境整備のステップのイメージです。現在は、この図で言えばStage1、Stage2のところがほとんどです。そして、2020年の新学習指導要領の開始時には、小学校・中学校では、各教室に大型提示装置と無線LANがあって、可動式PCが3クラスに1クラス分ぐらいあるという、Stage3を目指そうとしています。自治体によっては、すでに可動式PCを1人1台確保しているところもあれば、逆に全く準備していないところもあります。先ほど申しましたように、必要なお金は地方交付税ですでに出ているので、それが機材や環境整備につながるかどうかは、それぞれの自治体の政治判断になってくると思います。

この図のStage4というのは、1人1台の可動式PCを持っている状態ですが、高等学校はStage3を飛び越えて、いきなりStage4にいくところが今後出てくると思われます。ですから、学校のICT環境は、皆さんが思っているよりも早く変わっていくと考えていただければと思います。

 

プログラミング教育をどのように位置付けるか

さて、小学校でプログラミング教育をすることが話題になっていますが、学習指導要領に書いてあるのがこちらです。「基本的な操作を習得する」「コンピュータに意図した処理を行わせるために必要な論理的思考力を身に付ける」ための学習活動です。

 

基本的な操作技能は、具体的にはこの図のような形で行っていただければと思っています。順調に伸びていけば、大学に入ってタイピングでまごつくような人は、今後はなくなるのではないかと期待しています。

 

また、いずれは大学入試もコンピュータベースで行われるようになりますし、資格試験はすでにコンピュータベースになっています。また国際学力調査も、例えばTIMSS(国際数学・理科教育調査)などはコンピュータベースで実施する準備を進めています。こういった背景がありますので、操作技能については割にスムーズにいくのかなと思っています。

 

それでは、プログラミングの位置付けはどうなるのか、私自身がこんなものかなと考えて書いたのがこちらです。

 

初等中等教育で、学校全体で身に付けるものが一番大きな円とすれば、教科横断的に必要であり、身に付けていく力がその中にあります。これは、例えば問題解決能力であったり、情報活用能力であったり、言語能力であったりするわけですが、その情報活用能力の中にプログラミングがあるという位置付けです。ですから、プログラミングが離れてあるわけではなくて、情報活用能力の一部として存在すると考えていただくとよいと思います。

 

小学校・中学校・高等学校の各段階で、具体的にどのくらいのことをするのかということを、知識・技能の点から見ていきます。これは有識者会議の話ですが、まず小学校では「問題の解決には必要な手順があることに気付く」。中学校では、「簡単なプログラムを作成できる」。これはすでに技術・家庭科の計測・制御で実施していますが、さらに双方向性のあるコンテンツのプログラミングが入ってきます。高等学校では、「実際の問題解決にコンピュータを活用できる」となります。つまり、問題解決のためにプログラミングを使っていくということ、単に使うではなくて、使いこなすことが求められるというレベルになるのです。

こちらが思考力・判断力・表現力という点からの「プログラミング的思考」の説明です。Computational Thinkingとどこが違うかということを考えてみますと、例えば「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組み合わせが必要であり」というところがありますが、これはComputational Thinkingで言うところの抽象化やモデル化といったところです。

 

次の「一つ一つの動きに対応した記号を」というのは符号化ですね。「どのように組み合わせたらいいのか」はアルゴリズムです。「記号の組み合わせをどのように改善していけばいいのか」は改善、ということで、Computational Thinkingとほとんど変わりません。ここにないのは「一般化」くらいのものですが、例えば算数で「プログラミングを使って四角形を描く」という課題を「n角形」という形に一般化することは当然出て来ますので、教科の活動に落としていく際に一般化についても実現できるかな、と考えています。

 

学びに向かう力・人間性等については、中教審の情報科のワーキンググループで作ったものでは、「発達の段階に即してコンピュータの働きを、よりよい人生や社会づくりに生かそうとする態度を涵養する」ということになります。技術がいくら身に付いても、心が伴っていなければ、それは危険な人を育ててしまうことになりますので、ここはしっかりやらなければいけないということになっています。

 

情報科のワーキンググループでは、小学校・中学校・高等学校で適切な接続・連携が行われるようにしてほしい、ということも出しています。例えば、小学校でコンピュータの体験をしたら、それを生かして中学校の授業をしてほしい。また、中学校で計測・制御や双方向性のあるコンテンツのプログラミングを学んだら、高等学校ではさらにそれを生かして問題解決をするというように、適切な接続や連携をしてくださいね、ということです。

 

もちろん、これは高校から大学に向けても同様ですが、残念ながら学習指導要領ではそこまで書けません。しかし、高大接続システム改革会議では、情報科の入試を検討するということが書かれています。

 

様々な場面でプログラミングに触れる機会を持つための指針作り

文部科学省では、現在小学校の子どもたちのプログラミング教育の指針を作っています。その中で、小学校のプログラミングをこのように分類していこうという話を進めています。

 

図中のAは学習指導要領に明記され、教科書にも載っているもので、絶対に行わなければならないものです。例えば算数で多角形の作図をするとか、理科で電気製品にプログラムが活用されていることを知るとか、総合的な学習でプログラミングを扱うといったことがこれにあたります。

 

次のBは、学習指導要領には例示されていませんが、教科の中で行うことによって学びがより深くなるものです。

 

Cは、どの教科にも属さないけれども、プログラミングの体験をしましょうとか、5年生・6年生でプログラミングをすることに向けて、下の学年でも少し準備的にやってみましょうか、という活動を学校の裁量で授業に取り入れてもいいですね、というものです。

 

そしてDは、授業ではなくクラブ活動で行うというものです。これはいわば、特に才能のある人のために、発展した内容に挑戦できる場を作ってあげるためで、このDを応援してくださる方がいると、全体のレベルが高くなると思います。

 

EとFは学校の教育課程以外の活動です。学校内で行うものも、学校以外で行うものもありますが、子どもたちがこういった機会を通してプログラミングに親しみ、力を伸ばしてほしいと思います。これらのそれぞれについて、よい事例やサポートが必要です。これらも含めた指針が3月末に出ますので、そちらをご覧いただきたいと思います。

 

※関連資料:文部科学省「小学校プログラミング教育の手引(第一版)

 

 

先ほどAのところでお話した、学習指導要領に書かれている小学校の算数の事例です。5年生の「図形」で正多角形の作図を行う学習の際に、三角形や四角形を書くということを、プログラミングを使って行えば、教科の学びにも役立ちますし、プログラミング的思考も深まります。

 

授業の中で具体的にどのように行うか、というのがこちらです。ここに出ているのはScratchですが、もちろんScratchでなくてもかまいません。実際の授業では、いきなりこれをやらせるのでなく、まず教室の中で子どもが実際に四角形を書くように歩き、その歩き方を日本語で書かせるというところから入るなどの方法も考えられます。これがアルゴリズムですね。次にそれをプログラミングで表現します。そして、同じことを何回もやっていたところを、「繰り返し」を使えば簡単になるね、ということもここで教えます。

 

小学校の理科の例がこちらです。これはStudino(※)を使った心拍センサーです。これをPCとつないで、心臓の動きを感知してLEDが光るという仕組みを作るものです。教材や方法も様々な可能性があります。

http://www.artec-kk.co.jp/studuino/ja/ 


「総合的な学習」ではこのように使ってほしいというのがこちらの図です。「総合的な学習」では探求的な活動が求められているので、プログラミングで体験することが、探究的な学習の過程に適切に位置付けられるようにということになります。

 

例えば、自動販売機について考えてみましょう。自動販売機の中では何が起きているか、「プログラムで動いている」とか「プログラムは機械に人間が考えたことをさせる命令だ」とか、いろいろ考えさせた上で、「じゃあ、自分たちでプログラムを作ってみようか」と、実際の自動販売機の動作のプログラムを作ります。さらに、「実はプログラムは身の回りのいろいろなところで使われているんだよ」と、水道やガス、電気などが皆プログラムで制御されている、ということにも気付づかせていきます。

 

今、Googleのスマートスピーカーが数千円で手に入ります。何万円かのオプションを付ければ、「電気を点けて」「風呂をわかして」と言ったら、全てやってくれるのでしょう。そのうちにこれを設計段階から組み込んだマンションが出てきて、全て声で操作できるにようになるかもしれない。そんな世の中ですね。

 

小学校の指導要領には、このようにコンピュータのおかげで生活が便利になる一方で、その光と影も知らなくてはいけません。人間らしさとは、人間にしかできないこととは何か、人間としてどのように暮らすのかといったことも考えさせましょう、いうことまで書いてあります。このように、小学校のプログラミング教育にはプログラミング以外にも様々な内容が盛り込まれており、その発展の方法も多様です。

 

プログラミング教育と言っても、コンピュータを使わなくてもいいのではないかという話もありますが、実際にコンピュータを使わないと、失敗したときには間違った動きをするということが子どもにはわかりません。これはとても危険なことだと思います。ですから、1年生から6年生までの間で、教科の特性や発達段階に応じて、コンピュータを使う場面があるし、使わない場面もあるということでよいと思います。全く使わないとか、逆に1年生から必ずプログラミングをさせるとかでなく、発達段階に応じてバランスの取れた形で進めていくのがよいと思います。

 

教師の役割は、教育全体を考えて単元や授業をしっかりデザインすること

それでは教師の役割は何かと言いますと、ただプログラミムの書き方を教えるだけでなくて、学校の教育目標をしっかり理解して、それを教科の目標に落とし込み、教科の中で教えていくことが必要になります。そして、その時は、プログラミング的思考を育むことと、各教科で学ぶ知識・技能をより確実に身に付けさせるという、ハードルの高いものを二つ両立させなければなりません。

 

そのためには、単元や授業をしっかりデザインすることが必要です。さらに、授業を実施したら、評価も行わなければいけませんが、この評価は教科・科目の評価ですから、プログラミングだけ取り出して評価するということではありません。

 

その意味で、「今日は○○大学の○○先生をお呼びしました、この先生にプログラミングを教えてもらいましょう」という形の授業は、あまりおすすめできません。小学校の先生は子どもの専門家で、大学の先生方はコンピュータ、あるいは情報処理の専門家です。それぞれが協力して、補い合う形で授業を進めていくことが子どものためになります。さらにそのあとも、小学校の先生が独り立ちして授業ができるような形にするのがベストであると思います。

 

下図は小学1~6年生を通したプログラミング教育のイメージ図です。横軸が低学年から高学年の発達段階、縦軸がコンピュータを使う学習・使わない学習となっています。高学年になっていけば、コンピュータを使う部分がだんだん増えて来ますが、高学年になって急に始めるのでなく、低学年から発達段階に応じてバランスよく取り入れて高学年につないでいってくださいね、ということです。この学校で学んだ子どもにはこんな力を付けてほしい、そのためには1年生から6年生までの全体を考えて、どの時期にどんなことをするのか、ということを考えていただきたいと思います。

 

子どものそれぞれの発達段階に合ったものはいろいろあるはずで、例えば幼稚園や小学1年生でしたら、文字に依存しないプログラミング言語であるViscuitが適しているかもしれません。文字が読めるようになれば、ブロック型の言語も使えるようになってきますし、さらに学年が進めばテキスト型の言語もできるようになるでしょう。ですから、使う言語はどんどん変わっていってよいと思います。

 

もう一つが、理解や習得にあたって児童・生徒の負担にならないもの。これは、高校生や大学生も同様です。コンピュータ言語はどんどん変わっていきますから、その時々の流行を追うのでなく、負担にならない基礎的な言語でアルゴリズムの基本を鍛えていただくのがよいかと思っております。

 

ただ、地域や学校の実情に応じた選択ということも必要です。例えば、近所にソフトウェアハウスがあって、そこではUnityで面白いものをどんどん作っているのでしたら、その地域の学校ではUnityを使っていいと思います。ですから、文部科学省の方から、「この言語でなければいけない、この言語を使いなさい」と指示を出すことは、小学校でも中学校でも高等学校でもありません。これは学校側、あるいは教科の裁量で定めていくということになります。また、一度決めたら5年、10年変えないというのではなく、毎年見直していただきたいと思います。必要であれば、複数の言語を使い分けてもいいし、同時に複数の言語を使ってもよいのでははないかと思っています。

 

授業活動の参考となる事例や外部協力機関のポータルサイトの整備

小学校のプログラミング授業の円滑な実施については、このようなことを確認しておきたいと思います。

最初に挙げた「ねらいを確認する」ということについては今までお話ししてきた通りです。

 

そして、小学校の先生には、とにかく一度プログラミングを体験していただき、プログラミングについての恐怖心をなくしてほしいと考えています。そういう機会を、ここにおいでの大学や企業の皆様のところでもどんどん作っていただきたいと思います。

 

その時、あまり先生方をいじめないでください。先生方が嫌いになったらやる気になりませんし、いやいや教えても子どもは嫌いになってしまうので、「楽しい」という気持ちだけ持たせて帰していただけば今後に今後につながると思います。知識や技能がいくら身に付いても、子どもが「もうやりたくない」と思ったらそれまでですから。

 

さらに授業のイメージを作る。これは先生方が実際にやってみてこんなことができるんだ、ということがわかれば、先生方は授業と子どもの専門家ですから、他にも活かせる場面はどんどん出てきます。これが良い方向に動いていってくれればと思っています。

 

今申し上げたようなことを実現するために、まず先生方が参考にできるような良い事例を作り、それを流通させるためのポータルサイトを今作っています。具体的には、プログラミングを使った事例を集めて、それを各教科の調査官が見て、これなら使えるというある程度の質保証をしたものを教科ごとに分類して使えるようにすることを計画しています。文部科学省、経済産業省、総務省、賛同団体・企業で作っている「未来の学びコンソーシアム」という団体で、ここが小学校のプログラミング教育の後押しをしています。

 

研修の実施については、各都道府県で行っていくことになると思います。そしてICT環境の整備も進めていかなければなりません。さらに研究授業の公開や外部機関の協力も欠かせません。

 

中学校の技術・家庭科では、ネットワークの基礎も身に付けられるように

中学校の「技術・家庭科」は、「技術」と「家庭」が半分ずつで、さらに技術は四つの分野に分かれていて、その一つが情報ですから、プログラミングにたくさんの時間を割くことはできません。また、プログラミングの経験はないけれど、今年は技術科の授業を持たなければいけない、という人もいます。ですから、中学校の先生にもよい事例を届けなければいけないし、しっかりした研修も必要です。

 

中学校の技術科で学習する内容が下図です。情報技術の基礎的なところを行い、ネットワークを利用した、双方向性のあるコンテンツのプログラミングもするということになっています。さらにIPアドレスやサーバーとクライアントという形でのメッセージのやりとりも中学校で学ぶことになっています。

 


計測・制御は前から行っていますが、当然これは継続します。先ほどお話ししたように、中学校の技術・家庭は時間がないので、「栽培」の分野と合わせて、植物の栽培において光や水、温度などをプログラミングでコントロールするという事例も発表されています。

 

さらに、これからの社会の発展と情報技術の在り方についても学ぶことになっています。

 

高校の共通教科情報では、統計のより進んだ内容を学ぶことに

高校の共通教科情報科については、ここでは目標についてだけご説明しておきます。

 

情報科の目標には、問題発見・解決する方法を学ぶということがあります。そして、情報社会と人との関わりについても学びます。

 

そして、「情報と情報技術について理解を深め技能を習得する」と書かれていますが、「プログラミング」という言葉は出しておりません。情報の科学的理解を深め、次にそれで問題を捉えて適切かつ効果的に活用し、しっかり解決できるようにしましょうということです。ここには、モデル化やシミュレーションも含まれます。さらに問題解決の手法として、データサイエンスも情報IIに入れていく予定です。

 

それから、情報と情報技術の「適切に活用」というところには、モラル的な要素が入っています。さらに情報社会に「主体的に参画する態度」というのが最終目標です。全ての人が技術者になるというわけではなく、それぞれの立場や技能で、情報社会に主体的に参画できるようになりましょうということです。

  

そして、高等学校では、情報科と数学科が協力して統計教育を充実させましょうということになっています。具体的には、数学で統計をやりますが、情報ではそれを活用しましょう。また、数学でやらない統計については、情報でさらに踏み込んでやっていきましょう、ということです。これはデータサイエンスにつながるもので、コンピュータで出てきたことをしっかり評価して活用できるようなことにしていきましょうというのが目標です。

 

数学で履修しないことを、情報でさらに発展させて学ぶことについては、すでに数学科には了解をいただいていますので、情報IIのデータサイエンスは、数学の統計を超えた内容になっていくことになります。

 

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