総務省における教育ICT政策

総務省 情報通信利用促進課長 御厩祐司氏

本日は、「教育ICTの意義」と「教育ICTの現状と課題」を踏まえた上で、「総務省における教育ICT政策」について、詳しくお話ししたいと思います。

 

最初に教育ICTの意義ですが、ICTというのはツールです。どういう点で教育に役立つツールなのか。大きく三点、「Active」「Adaptive」「Assistive」という三つのAで始まるキーワードで表わすことができます。

 

まず、「Active」は、学びを活性化する。紙と鉛筆、黒板とチョークに加え、ICTを活用することで、より主体的、協働的で深い学びが実現できます。「Adaptive」は、学びを最適化する。最近、AI(人工知能)を活用した教材も増えており、個に応じた最適な学びの実現に一役買っています。「Assistive」は、子どもたちの学びや、先生方の教育、学級・学校経営をアシストする。地理的制約や身体的制約、貧困等の社会的制約、時間的制約を乗り越える手段となるということです。このように、ICTは、「トリプルA」の意義を持つツールとして、活用が期待されるものなのです。

 

質・量ともに不十分なICT化の現状

このようにICTにはいろいろなメリットがありますが、残念ながら整備は遅れています。例えば、教育用PCですが、アメリカでは今から9年ほど前に、すでに今の日本の倍近く整備が進んでいました。さらに、数の問題もさることながら、質の問題もあります。日本では、教育用PCの約12%が、Windows XPやVistaなど、サポート切れのOSを搭載した端末です。グラフには、6.2人の子どもで1台の端末をシェアしている状況が示されていますが、これはサポート切れ端末も含めての数字なのです。

 

アメリカは、すでにクラウドの活用を前提にした端末構成に移行しています。95%の学校では、何らかの形でクラウドサービスを使っているというデータもあります。しかし日本の場合は、サポート切れでネットワークにつなぐことが不適切な端末も多く、また端末にソフトをインストールしたり、端末にデータを残したりしながら運用されているケースが多いのが現状です。

 

また、自治体間の整備格差も広がっています。都道府県単位で見ても、最も進んでいる県と最も進んでいない県との間の格差が、3年前には約2倍、2年前には約3倍、そして昨年は約4倍といったように、年々広がってきています。さらに市町村単位では、もっと大きな格差が生じているのが現状です。

 

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二極化も進んでおり、例えば普通教室への無線LAN整備率で見ると、約1800の市町村のうち、0%の市町村が555ある一方、100%の市町村も226あります。平均値は26.1%ですが、実態がそこにあるわけではありません。0か100か、二極化しているのです。

 

ICT環境整備には首長の理解が重要

なぜ整備が進まないのか。よく「財政が厳しいから」と言われますが、これには必ずしもエビデンスがありません。

 

現在、1800の自治体の中で、地方交付税という、いわば国からの仕送りを受け取らなくても済む「豊かな」自治体が76あります。このトップ76の自治体と、財政的に厳しいボトム58の自治体とを比べてみると、むしろ後者の整備が進んでいます。財政力よりも、自治体の首長の意識によるところが大きいのではないでしょうか。

 

では、ICT整備に熱心な首長は、何を考えてそうしているのでしょうか。最近いただいた首長からのコメントを三つご紹介します。まず、渋谷区長です。渋谷区は、現区長の就任まではICT化が進まず、Wi-Fiも未整備でした。この状態から一気に、1人1台のタブレット整備を、携帯電話回線とクラウド活用で実現されるに至りました。今の子どもたちが大人になる時のことを考え、「未来への投資」としてICT化を強力に進めておられるのです。

 

次に地方の例ですが、石川県の加賀市長は、「地元に優秀な人材がいないところには人も企業も集まらない。だから、地域の未来に責任を待つ首長として、ICT教育に力を入れ、高度な人材を育成していく」とのお考えです。産業振興や地域振興と合わせて、学校教育段階からの高度人材育成に戦略的に取り組んでおられるのです。

 

コスト面まで深く考えながらICT化を進められているのが、大阪府の箕面市長です。市への教育ICTに関する地方交付税配分額を1億3千万円くらいと試算し、市の児童生徒数1万3千人で割った1人1万円計算で回していけるような計画を練られています。健全な財政運営と未来の地域づくりを両立するために、知恵を絞られているのですね。

 

教育行政は、教育委員会において進めていくものですが、予算権限は首長が握っています。首長の理解を得ることは、教育のICT化にとって非常に重要です。一方、首長の意識が高くても、校長の理解がないために、せっかく整備された環境が活かされていない地域も見られます。その点は、教育委員会がしっかりと指導、助言、援助していく必要があるでしょう。

 

「天地人」の枠組みで教育ICTを推進

では、今後どのようにICTの整備・活用を進めていくのか。総務省では、教育ICT政策について、大きく三本の柱を立てています。「天地人」と言っていますが、「天」というのはクラウド。教育分野でのクラウド活用を普及しています。「地」というのはネットワーク。特にWi-Fiの整備を支援しています。「人」は、先生方をサポートする人。プログラミング教育等の支援人材を地域に確保しています。総務省では、このような「天地人」の三つの側面から政策を進めているのです。

 

一つずつ具体的に説明していきます。まず、クラウドの普及ですが、政府では、「クラウド活用を、全国の学校に普及」していくことを閣議決定しています。総務省としては、学校現場でのクラウド活用を進めるため、「教育クラウドプラットフォーム」というシステムを作って、それを活用していただくという実証実験を3年かけて行いました。

 

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最終的には世界112の学校、約1万3000人の児童生徒等に、このシステムをお試しいただきました。システムの特徴は主に四点あります。まず、ブラウザベースで使えるコンテンツを多数そろえたこと。二つ目に、1回ログインすれば様々なコンテンツをスムーズに切り替えながら使える(シングルサインオン)こと。三つ目に、校内LAN、携帯電話回線など固定系・移動系を問わずにいつでもどこでもアクセスできること。四つ目に、OSや端末を選ばずシームレスに利用できることです。

 

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教育クラウドプラットフォームには、7つのカテゴリーで、14社の21コンテンツをそろえました。これらを自由に使っていただきながら実証実験を行ったのですが、そこで一番使われたのは、授業支援システムの「school Takt(※1)」というコンテンツです。二番目がドリル学習用の「eライブラリ(※2)」、三番目がシミュレーション型教材の「ポケタッチ(※3)」でした。

 

※1  http://schooltakt.com/

※2  http://www.education.jp/education01/education01_1.html

※3  https://sip.dis-ex.jp/product_page4.html?id=1

 

クラウドのメリットは4つのS

この実証実験の主なテーマは、クラウドのメリットとしてよく挙げられる4つのS、すなわち「Secure、Seamless、Scalable、Savable」が、学校現場にも当てはまるのか、“4S”が“For School”と言えるのか、ということでした。

 

結果はどうだったのか。4つのSを一つひとつ見ていきましょう。

 

最初に「Secure」、安心・安全に使えるのかどうか。クラウドというと、危なっかしい印象を持つ人もいるでしょう。「学校にサーバーを置き、身近にデータを保存している方が安全だ」とおっしゃる方も、学校現場によくいらっしゃいます。しかし、それは銀行に預けるのが不安で、タンス預金をするようなものです。 

 

実際、このプラットフォームを3年間、112の学校でお使いいただき、36万件のアクセスがあった中で、セキュリティインシデントは1件も起きませんでした。災害などを考えても、やはり学校や教育委員会にサーバーを置くより、安全なデータセンターにデータを置く形でのクラウド活用をお勧めしたいと思います。

 

 

次に「Seamless」、切れ目なく使えるのかどうか。シームレスには、二通りあります。一つは場面のシームレス。一斉学習や個別学習、協働学習という形で、授業の中で学習シーンが切り替わる中、それぞれの場面に応じてコンテンツを円滑に切り替えて使っていける、ということです。もう一つは、場所のシームレス。子どもや先生が、どこにいても、どこからでも切れ目なく、続けて活用できる、ということです。実証実験では、二つのシームレスともに効果が確認されました。

 

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そして「Scalable」、迅速・柔軟に使えるのかどうか。実証実験では、ほぼゼロの状態から一気に環境整備を成し遂げた学校もありました。独自にサーバーを整備しシステムを構築すると非常に時間がかかりますが、クラウドの場合はサービスの利用を開始するだけですので、迅速なスタートアップができたわけです。また、利用者数が大きく変動した学校でも、特に何の作業もすることなく、そのまま柔軟に使い続けることもできました。

 

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最後に「Savable」、低コスト・低負担で使えるのかどうか。総務省では、この一代前の実証実験「フューチャースクール推進事業」で、1人1台環境での実証を4年間行いました。その際のコストを、その後の端末価格の下落分を補正した上で今回の実証実験のコストと比べると、1人当たり6割減となりました。一方、利用回数は3.3倍に達しましたので、コストパフォーマンスは大幅に上がったわけです。ソフトやデータを端末に入れるのではなく、クラウドを通じて利用することで、低価格・低スペックの端末でも十分対応可能になった点が、コスト削減に特に寄与したものと分析しています。

 

実証実験の知見を踏まえて教育クラウドの標準仕様等を策定

総務省では、これらの実証実験で得られた知見を踏まえ、教育クラウドに関する標準仕様やガイドブックなどの成果物をまとめました。総務省のホームページで公開していますので、ぜひご参照ください(※4)。

 

※4  http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/sendou.html

 

7つの成果物の関係は、下図のとおりです。特に教育委員会や学校の関係者には、クラウドサービスを導入・調達に際する際の仕様書の記載事項の例をまとめた「参考調達仕様」とクラウド活用の先進事例や導入手順をまとめた「教育ICTガイドブック」をご活用いただければと思います。

 

「参考調達仕様」には、具体的な数値も出しています。例えば、ネットワークについては、クラウド上のコンテンツを、動画を含むものも含めて円滑に使うため、1同時接続当たり1.4Mbの帯域が必要だとしています。40名同時接続であれば、この40倍の帯域を確保することが推奨されるということです。

 

そして、「教育ICTガイドブック」では、私立学校も含めた学校現場の約50の先進事例を、先ほどの「Active・Adaptive・Assistive」で整理して紹介しています。

 

クラウド活用の今後の展開としては、これまでは授業や学習で使うクラウドについて実証してきましたが、今年度からは、「スマートスクールプラットフォーム」の実証実験を3年かけて行います。このシステムは、授業や学習に使うクラウドと、教職員が成績処理や保健管理、生徒指導など校務に使うクラウドとのデータを連携させ、より高度なデータの活用や教職員の負担軽減、システムコストの削減等をめざすものです。

 

災害時も見据えて学校のWi-Fi環境の整備を

次にWi-Fiの整備支援です。Wi-Fiの特性を下図に四点挙げました。例えば、エリアの範囲は狭いが、高速大容量の通信が可能だとか、災害時に強い、などの特性があります。

 

よく「セルラーとWi-Fiはどちらが良いか」という質問をいただきますが、今後はどちらか一方というよりも、組み合わせて使うというケースが増えてくると思います。例えば、動画も含めてヘビーに使うスペースや、災害時の通信確保も想定して被災者に開放するスペースにはWi-Fiを入れておき、他ではセルラーを活用するというケースです。

 

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総務省としても、防災用Wi-Fiについては、下図のような補助金を設けて整備を支援しています。学校の体育館やグラウンドなどは、災害時の避難用に使う場合も多いため、この補助金もご活用いただき、Wi-Fi整備を進めていただければと思います。

 

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なお、Wi-Fiについては、「つながりにくい」などの苦情が多くありますが、Wi-Fi自体の問題というよりも、地域のネットワーク環境、インターネットに出ていく回線の問題が大きいと考えています。Wi-Fi自体に問題があるケースとしては、きちんと電波環境を調査せずに設計・導入しているケースなどが考えられます。教室の中でつながる子どもと、つながらない子どもが出てくることは非常に問題がありますから、学校に導入する際には、専門の事業者に相談して、電波環境をしっかり調査・確認し、きちんと設計した上で入れていただきたいと思います。

 

すべての児童生徒に質の高いプログラミング教育を

最後にプログラミング教育についてお話しします。小学校で2020年に必修化されるということで注目を集めていますが、指導者や教材、あるいはICT環境の整備遅れの問題をどうするのか。また、総務省では、民間のプログラミング教室の開設数を調査していますが、2年前のデータで言えば、そのほとんどが都市部に集中しているということで、地域格差も生じています。これらの課題を踏まえ、全国で質の高いプログラミング教育を実施できる環境を作っていこうということで、昨年度から「若年層に対するプログラミング教育の普及推進事業」を実施しています。

 

事業のポイントは二つあります。一つは、インターネット、クラウドを活用していくということ。もう一つは、地元の人材を、プログラミング教育の指導者として育成していくということ。全国どこでも持続的にプログラミング教育を実施していけるよう、この二点に留意しながら事業を進めています。

 

昨年度は、地図にありますように、全国11のブロック(総務省の総合通信局管内)ごとに1件ずつプロジェクトを行いました。

 

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アウトプットにゲーム製作を置くことで学びを活性化

5件ほど事例を紹介します。最初は「信越ブロック」の事例で、地域課題の解決をプログラミングで図っていこうという取り組みです。具体的には、新潟市をPRするゲームを作って、それをウェブで世界に発信するというものです。

 

下図が、実際に小学生たちがグループで作ったゲームの例です。左側はゲーム画面で、重要文化財の萬代橋を背景に、天から新潟市の企業で作っている「柿の種」や「ばかうけ」などのお菓子が降ってくるのを、キャッチしたりするゲームです。

 

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右側がブロックを並べて組んだコードです。遊んだ人に、新潟市に来てほしい、新潟市産の製品を買ってほしいという願いを込め、観光振興、物産振興という地域課題の解決をねらったゲームです。よく地域課題の解決を図るために、壁新聞やポスターを作ってみようという授業がありますが、子どもたちの関心の高いゲームを最後のアウトプットとして設定することにより、より熱中し、主体的、協働的で深い学びになったのではないかと思います。また、ゲーム製作に用いた画像やデータは、新潟市のオープンデータサイト上のものを活用するなど、ネット上の素材の適正な取扱いについても学びました。

 

なお、オープンデータの活用に関し、総務省では5月に「統計ダッシュボード(※5)」という、主要な統計データをグラフ等に加工して一覧表示し、視覚的にわかりやすく、簡単に利用できる形で提供するシステムをリリースしました。授業の素材としても、ぜひご活用いただければと思います。

 

※5  http://data.e-stat.go.jp/dashboard/

 

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ものづくりや伝統文化とプログラミングの融合で創造性を高める

次の事例は、「ファブラボ山口」が行った、手作りのロボットキットを子どもたちが組み立てて装飾し、プログラミングして動かすという、ものづくりとプログラミングを融合した取り組みです。

 

ファブラボ(fabrication laboratory)とは、3Dプリンターやレーザーカッターなどの各種工作機械を備えた、誰でも利用できる工房スペースで、現在全国に19あります。

 

左側の写真が、ファブラボに集った大人たちが自作したロボットキットを、児童が組み立てている様子です。キットのデータは、オープンソースとして公開されていますので、地元の木材などで「地産地消のロボット」を作ることができます。モーターなど他の部品も市販品を使っていますので、1体当たり数千円程度で製作可能です。児童がこのキットを組み立て、「1億年後の生き物」をイメージしてデザインしたロボットの例が右側の写真です。

 

次に、伝統文化とのプログラミングの融合ということで、徳島県神山町での事例です。地元に伝わる阿波人形浄瑠璃の人形を模したロボットを、サテライトオフィスで働く人たちが作り、それを子どもたちがプログラミングで動きをつけ、せりふを吹き込んでオリジナルの芝居を作り、上演するという取り組みです。地域の伝統文化に、プログラミングで新しい光を当てていくという取り組みです。

 

次は、児童による自己評価に関する取り組みで、沖縄県の琉球大学附属小学校で実証されたプログラムです。まず、子どもたちがScratchでプログラミング作品を作り、その後、シートを用いて自己評価を詳しく行うというものです。シートの左側は「わかったこと」、右側が「やれたこと」の欄になっており、37のステップに分かれています。子どもたちは、37について一つずつ「わかったか」「やれたか」、自己評価をして、該当する欄にシールを貼り付けます。シートは公開されていますので、Scratchを利用されている先生には、ぜひ使っていただきたいと思います(※6)。

 

※6  http://programming.ictconnect21.jp/gakujoken.html

 

学生メンターへの単位認定で協力を促進

下図は、大学生が児童生徒を指導する活動に対し、大学が単位を認定する取り組みで、九州工業大学が行ったものです。九州工業大学には、「理数教育体験」という教養系の共通科目があります。これはもともと小中学校等の理数教育に参画して、レポートを提出することにより、単位認定するという科目ですが、この枠組みをプログラミングの指導活動にも適用しました。学生にボランティアで協力してくれと言っても、授業やアルバイトで忙しいからと敬遠されがちですが、大学が単位としてしっかり認めてあげることで活動を促進することができます。学生が奉仕活動を通じて学びを深めることを「サービスラーニング」と言いますが、児童生徒に教えることで、学生自身が大きく成長する効果が実証されています。

 

総務省の事業では、初年度である平成28年度に、地元の大学生、社会人など248人を指導者(メンター)として直接育成しました。育成したメンターにアンケートやインタビュー調査を行っていますので、その結果をお話しします。まず、今回の取り組み終了後に、どのように考えるようになったのかということを聞いた結果です。

 

「今後プログラミングを指導していけると思うか」との質問に対する回答ですが、「ほとんど不安がないからメインで教えていける」という人は19.3%。「少し不安はあるけれども…」という人を合わせると、約65%は講座のメイン指導者としてやっていけると考えています。

 

次のグラフは、「ほとんど不安がない」と回答した人の属性を分析したものです。もともとプログラミングの経験があった方であれば20%ですが、なかった方は15.3%。もともと学校や塾で教えた経験がある方とない方とでは、15.2ポイントもの差があります。

 

下のグラフで詳しく分析していますが、もともと教育経験がなかった人は、子どもたちへの講座終了後にかえって自信を失うケースが多いのです。イメージしていた世界と、現実とのギャップを感じるからでしょう。教育経験を持っていない人をメンターとして育成する際には、丁寧にフォローし、腰を据えて取り組んでいかなければならないことがわかります。

 

指導に自信を持つためには4時間以上の講座担当経験が必要

そして、講座を何時間受け持ったかで見ると、4時間のところで最も大きな差が生じています。4時間くらいは講座を受け持ってみないと、自信を持って指導できるようにはならないという結果が出ています。

 

メンターとして小中学生を指導した高校生や大学生には、自由記述で感想も書いてもらいました。いくつか例を挙げますと、高校生からは、「学校では自分たちは教わる側なので気づけなかったことに気づけて、自分の成長にもつながった」「プログラミングに限らず、人にヒントや助言を出すのがうまくなった」「小学生の自由な発想に触れて正解はないんだなということを実感した」といった反応がありました。

 

次に、大学生、専門学校生等の感想ですが、多かったのは、「子どもたちにわかりやすく教えようとすることによって、教えることの難しさ、あるいは段取りの大切さに気がついた」という反応です。コンピューター専攻の学生からは、「子どもたちの自由なプログラムを見て、考え方の視野が広がった」との声も聞かれました。専門の学生にとっても、児童生徒にプログラミングを教えることで、非常に多くの気づきがあったのですね。

 

学生メンターの活躍の例を紹介しましょう。昨年、メンターとして育成した九州工業大学の大町君という学生は、今年2月に、プログラミング教育の普及を行うベンチャー企業を立ち上げました。北九州市と福岡市に教室を開設するとともに、九州の中でもあまりプログラミング教育が進んでない地方に出向いて、そこで指導者を育てていこうとしています。子どもたちに指導してみることで、プログラミング教育の可能性に気づき、若い力でさっそく行動を起こしたのですね。

 

メンターの学生自身も成長する

メンターを送り出した大学や専門学校等からも、非常に高い評価をいただいています。「今の学生は、マイナス10歳程度の世代の人たちとは交流がない。プラス10歳の世代であれば、アルバイト先の店長などと交流があるが、核家族化が進む中、小学生たちの世代とはなかなか交流がない。学生たちが社会に出て、マイナス10歳世代の先輩や上司になった時に、今回の経験は役に立つのではないか」という感想もいただきました。

 

論理思考だけでなくグループでの協働、社会貢献への意識も育む

次に、実際に授業を受けた子どもたちの反応を見ていきましょう。昨年11のプログラムを実施しましたが、そのうち6つはロボットを使ったもので、残りの5つはビジュアルな、画面上の教材を使いました。それぞれの結果の違いについては、後でお話しします。

 

まず、プログラミング講座の実施に当たっては、「楽しい」と感じてもらえることを「必要条件」としています。楽しくない、嫌いだと感じさせたのでは、何のためにやったのかわかりませんし、「楽しい」と感じないものを学び続けることはないでしょうから。

 

しかし、単に楽しいだけでは教育にはなりません。そこで、論理的思考力などスキルや知識を高めることを「十分条件」としています。結果はどうだったのか。まず、「プログラミングすることも、講座も楽しかった」という児童生徒が92%でした。

 

下図にあるとおり、最初は嫌だな、こんなことやりたくないな、と感じている子どももいます。しかし、1回目の講座の後に「次回は楽しみか」と聞くと、全員「楽しみだ」という回答に変わりました。どんなことをやるのか、不安が解消されたせいでもあるでしょう。

 

また、継続して学びたい、と思わせられるかどうかも、プログラミング教育成功の鍵になります。講座の終了後に聞いたところ、これからもプログラミングを続けたいという子が71%いました。

 

ロボットを使った場合と、使わなかった場合を比較してみると、ロボットを使ったほうが、続けたいと思う子どもが多くなるという結果が出ました。プログラミングを通してロボットという現物がリアルに動くことで、より学習意欲が喚起されたということでしょう。自分が考えてプログラミングした結果が、現物やキャラクターなどの動きですぐに確認できるということは、プログラミング教育の大きな利点の一つです。

 

「算数や数学でも、論理的思考は育めるから、プログラミング教育なんて必要ない」という意見もあります。確かに、算数や数学は、論理的思考力を高めてくれます。しかし、算数や数学は、各種の調査でも最も嫌いな教科として挙げられることが多い。抽象的概念操作などが苦手だからでしょう。そんな算数や数学が嫌いだという子どもにも、プログラミングは訴求できます。現物・キャラクターの動きなどを通じて、思考の結果を即時にハッキリと確認でき、試行錯誤しやすいからです。「論理的思考の結果をわかりやすく検証できる」「実装できる」「試行錯誤しやすい」のがプログラミング教育の大きな特長なのです。

 

次に、どのようなスキルや意識が高まったのかですが、子どもたちの自己評価では、1位が「ゲームやアプリの仕組みがわかった」、2位が「友達と協力して作業することができた」、3位が「自分なりのアイデアを取り入れることができた」という結果でした。これらは、メンター側の評価ともおおむね一致しています。

 

教材別に見ると、「創意工夫ができた」とか、「協働ができた」という点では、ロボットを使うほうが高く、「アプリやゲームの仕組みが理解できた」「粘り強く最後まで取り組むことができた」という点では、ロボットを使わないほうが高いという結果になりました。もちろん、ロボットを使わない教材というのは一つのアプリですので、そういうアプリを使う中で、それらの仕組みが理解できたという部分もあると思います。また、「粘り強く最後まで取り組むことができた」という点については、ロボットを使うよりも、より速く画面上だけでやり直しができるからかもしれません。

 

さらに、男子と女子ではどのような傾向の違いがあるかも分析しています。有意に違いが出た点が4つあります。「友達と協働できた」とか「課題解決に取り組むことができた」という点は女子のほうが多く、「自分なりのものを作ることができた」「今後自分でものを作りたいと思うようになった」といった「ものづくり」に関する点では男子の方が多い傾向が確認されました。男子はロボット系の教材をより好み、女子は例えばscratchなどを使ったデザイン系の教材をより好む、といった傾向も見られます。

 

下図は、講座前後の意識の変化を見たものです。目標実現に向けた方法の思考、グループでの協働、社会への貢献といった点が有意に高まったという傾向が把握できます。

 

次に、「論理的思考力」との関連を見るために、「プログラムが思うように動かなかった時に、あなたはどういう行動をとることが多かったですか」ということも聞きました。一番多かったのは、「プログラムを自分で見直して、命令の組み合わせ方を修正してみる」で39%。ロジカルな思考を働かせていると言えるでしょう。

 

「少しずつ命令や数字を変えてみた」として、試行錯誤しながら、微修正しながら正解にたどり着こうとする子どもも22%いました。試行錯誤できるという点は、プログラミングのいいところなのですが、注意も必要です。パソコンがうまく動かなくなったのでいろいろ試行錯誤しているうちに動くようになった、という経験がある方も多いでしょう。しかし、どうして解決できたのかわかってないと、同じことが起きた時に再現できません。再現できないものは科学とはいえませんから、なぜプログラムが動かなかったのか、なぜ動くようになったのか、振り返る機会が必要だろうと思います。一方で、他者を頼りがちな子どもが27%、そしてこれが一番困るのですが、「オールリセット型」の子どもが11%いました。これらの子どもの行動パターンを把握し、それぞれに応じて指導を工夫していく必要があります。

 

世界を見る目が変わった

最後に、子どもたちが自由記述でたくさん書いてくれた感想をいくつか紹介します。

 

まず、「新たな楽しみを発見した」という声で、例えば、「日常生活の中で、今後こういうものにプログラミングを入れると楽しくなると思うようになった」などの感想です。また、「ものの見方、考え方が変わった」という子も多くいました。「このゲームは、このアプリはどのように動くのか、考えるようになった」との声が代表例です。今の子どもたちは、平均して1日2~3時間はネットやゲームに触れていますが、それがどういう仕組みで動いているのかということを考えるようになったわけです。今まで当たり前のように接していた、ブラックボックスだったものの仕組みが一部なりともわかったということで、「世界を見る目が変わった」とも言えるでしょう。また、「製作者の大変さがわかるようになった」「ゲームやアプリをもっと大事にしないといけないと思うようになった」という声もありました。作り手への敬意も芽生えたのですね。これまでの単なるコンシューマーの立場だけでなく、クリエイターの立場に立ってみることもできるようになったわけです。

 

さらに、「未来への挑戦意欲」をかき立てられた子どもも多く見られました。「お母さんを楽にできるようなことをプログラミングでしてみたい」「教室のドアを開けっ放しにする子が多いから、10秒たったら自動で閉まるようにしてみたい」など、自分の身の回りの課題をプログラミングで解決してみたいという感想を、多くの子どもが寄せてくれています。

 

そして意外だったのは、「早寝早起き朝ごはんに心がけよう」「忘れ物をしないようにしよう」「自分自身をプログラミングしてみたい」といった感想が多かったことです。このようなことを講座で指導したわけではありませんから。そもそもプログラミング教育の目的が、プログラマーを育てるということならば、こういう感想はあまり歓迎されないでしょう。しかし、論理的思考や段取り力、課題解決力といった汎用的なスキルを育むという観点に立てば、このような感想は評価できると考えます。プログラミングを通じ、生活の中で一つひとつ段取りを組んで、合理的に、効率的に行動しようという気づきが生まれた結果なのでしょうから。

 

「プログラミングは続けさせたいが、経済的な問題が心配」との保護者の声も

保護者にもアンケートを行いました。まず、「プログラミングを続けさせたい」という回答割合は、子どもよりも保護者の方が高いという結果になりました。続ける形式としては、「学校の授業で」が61%でしたが、「課外活動やクラブ活動で」も38%もありました。詳しく伺ってみると、「授業でやるには先生の負担など制約が多そうだから、課外でしっかりとやらせたい」ということのようでした。

 

保護者の反応はおおむね好意的ですが、心配の声も寄せられており、大きく三点に分けられます。「プログラミングでいたずらや悪用をするのではないか」、「ゲームやパソコンに依存してしまうのではないか」、そして一番多かったのが「お金がかかるのではないか」。具体的には、「学校で使っているこのロボット買って、と言われたらどうしよう」とか、「家にパソコンがあるかないかで格差が生まれるんじゃないか」などという声です。パソコンはなくても、スマートフォンならあるという家庭も多いので、スマートフォンで無料利用できるツールの普及や、課外で学べる地域の受け皿づくりなどに力を入れていかなければならないと考えています。

 

さらに、視察に来られた校長先生や先生方、教育委員会の指導主事などにも感想をお伺いしました。まさに「百聞は一見にしかず」で、抵抗感や不安が減った、意義がわかった、子どもが普段の授業で見せない表情をしていたなど、非常に高い評価をいただきました。実証モデルを市内すべての小学校の授業に取り入れた自治体も出ています。先生方に直接見て、体験していただく機会をもっと増やしていかなければと考えています。

 

すべての子どもたちがプログラミングを学び続けられるように

最後に、今後の展開ですが、29年度は、障害のある子どもたち向けのモデルや、上級者向けのモデルを作ります。また、30年度からは、スポーツの世界のスポーツ少年団のように、ICTの世界にも、授業で関心・意欲を高めた子どもたちの受け皿となる地域クラブを全国に作っていきたいと考えています。

 

なお、先ほどご紹介した全国の事例等については、総務省のホームページ(※7)に詳しい資料を掲載していますので、ぜひご参考にしていただければと思います。私どもも、いろいろな形でプログラミング教育の実施をサポートしていきたいと考えていますので、ご意見・ご要望等がありましたら、ぜひお寄せいただければと思います。

 

※7 http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/kyouiku_joho-ka/jakunensou.html

 

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※New Education Expo2017 東京会場講演 (2017年6月4日)