河合塾 進路情報誌「Guideline」特別企画

座談会「共通テスト試作問題から考える教科『情報』の指導」

 2022年11月9日、大学入試センターから、令和7年度大学入学共通テスト(以下、共通テスト)の試作問題等が公表されました。

 そこで、高校の先生方に試作問題の特徴、今後の授業のあり方などについて語り合っていただきました。

※河合塾では、他教科・科目を含めた分析をWEB上で掲載しています。こちらもご覧ください。https://www.kawai-juku.ac.jp/exam-info/research/trial/

 

登壇者 (五十音順)

 東京学芸大学附属高校 飯田秀延先生

 愛知県立小牧高校   井手広康先生

 東京都立神代高校   稲垣俊介先生

 司会:河合塾講師   加賀健司

 

point

 ◆各分野から万遍なく出題、社会や身近な生活の中での題材を取り上げている

 ◆プログラミングの問題は少ない行数ながらアルゴリズムの読み解きを問う良問

 ◆実習を中心とした授業で培う知識の活用力が共通テストを解く力につながる

 

構成 

 ●学校紹介

 ●試作問題「情報Ⅰ」概況

 ●試作問題「情報Ⅰ」の特徴

  ・第3問 プログラミングの問題

  ・第4問 データ活用の問題

 ●試作問題「旧情報(仮)」の特徴

 ●試作問題を踏まえた授業改善

 ●3年間を見越した指導

 

 

学校紹介

加賀先生

 本日はよろしくお願いします。始めに先生方の所属や「情報」の設置状況等についてお話しください。

 

飯田先生

 東京学芸大学附属高校の飯田と申します。今年度は「情報Ⅰ」を1年生で2単位置いています。「情報Ⅰ」の授業では、1学期は基本的な事項を学び、2学期はアルゴリズムやプログラミングが主です。言語はPythonです。3学期はインターネットや情報社会を扱う予定です。ほぼ教科書の順番で、すべて扱います。

 

井手先生

 愛知県立小牧高校の井手と申します。本校も1年生で「情報Ⅰ」を2単位で設置し、「情報Ⅱ」の設置はありません。私は、1年生7クラスの授業を全部担当しています。

 

 私もおおむね教科書通りに進めてきています。今年度は、micro:bit(マイクロビット)を使ってプログラミングの授業を8回行いました。micro:bitを手元で光らせたり、センサを使用して計測したり、生徒はこれまでにない反応で楽しそうでしたが、繰り返しや配列の要素がプログラムに入ってくると、わからなくなる生徒が出てきます。生徒たちは、中学校までにプログラミングを学んでいますので、中学校との接続を意識した授業を実施していきたいと感じています。

 

稲垣先生

 東京都立神代高校の稲垣と申します。東京都高等学校情報教育研究会の、情報Ⅰ大学入試検討専門委員会の委員長も務めています。そのため、情報入試をかなり意識しています。

 

 本校は、1年生に「情報Ⅰ」を2単位置いており、3年生に「情報Ⅱ」を選択科目で2単位置く予定です。私は教科書というより学習指導要領の順番で授業を進めており、「情報社会の問題解決」の部分を1学期にかなりじっくりと行いました。

 

  これは他の先生方よりかなり長く取り扱っていると思います。その後に情報デザインとネットワークを扱い、2学期は10時間を使ってプログラミングの授業を行いました。その後、コンピュータ分野の単元を授業で扱い、2学期期末考査になるという流れです。

 

 

教科書の広い範囲から万遍なく出題

難易度は共通テストとして見れば易~標準

加賀先生

 ありがとうございます。ここからは、試作問題全体を見た印象を各先生におうかがいします。問題の分量、形式あるいは難易度などについてお話をいただければと思います。

 

飯田先生

 教科書の広い範囲から万遍なく出題されているというのが第一印象です。特定の知識を問うような問題はあまりなく、むしろ問題文を注意深く読めば知識がなくても正解にたどり着ける問題です。ただ、知識があった方が素早く解けると思います。

 

 全体的な難易度はそれほど高いという印象はないですが、問題量が多いので素早く処理していく必要があります。そういう訓練をする必要はあると思いました。今後は教科書で学んだ知識を系統立てて全体的に整理した上で、さらに活用できるスキルを生徒に身につけさせる必要があると感じました。問題量は、期末試験などに比べれば多いですが、共通テストとして見れば、今回ぐらいの問題量は妥当ではないでしょうか。今回以上に問題数が少なくなると、受験者間での得点差がつかなくなると思います。

 

井手先生

 今回の試作問題ですが、2つの考え方があると思います。1つは、共通テストとして考えたときの判断です。もう1つは、これまで情報の授業を実践してきた情報科教員の立場としての判断です。どちらの立場で考えるかによって分量や難易度についての印象も異なってきます。

 

 まず、共通テストとして見た場合、他教科の共通テストの問題と比較して、分量は標準的で難易度としては易しめではないかという印象を持ちました。

 

 次に、情報教員の立場で問題を見た場合ですが、愛知県の情報教員25人にアンケートを行った結果では、難易度は普通と回答した先生とやや難しいと回答した先生が多いです。分量としては多いと回答した先生方が多くなっています。ただ、これは試験時間の関係もあると思います。私も実際に60分を計って試作問題を解いたのですが、最後の第4問に割ける時間があまりありませんでした。その分、第4問は難しいと感じたのかもしれません。問題配置も影響したのではないかと思います。

 

  また、プログラミングの問題ですが、問題文を読んだ上でアルゴリズムを自分で考え空欄を埋めるという作業は、授業の中だけでなく、授業外でも考えた経験がないと、なかなか難しいのではないかと感じました。

 

加賀先生

 確かに、最初の問題から丁寧に解いていく生徒は、最後の方は時間が厳しくなるという印象はありましたね。

 

稲垣先生

 「情報Ⅰ」で育成をめざす資質・能力を問う問題になっているとポジティブに捉えています。マニアックな難しい問題でもなく、ただ教科書の内容をなぞるような問題でもありませんでした。出題された分野も、学習指導要領の4つの領域が網羅されています。そして、一番良かったのは、社会や身近な生活の中での題材を取り上げていることです。

 

 難易度ですが、先生方とほとんど意見は一緒で、共通テストという視点で捉えれば標準、もしくは易しいというレベルにあります。問題の分量も標準レベルだと考えます。ただ、今後は段々と難しくなっていくかもしれません。

 

 私も解いてみましたが、生徒たちが何も知らない状態で受験すると時間が足りなくなってしまうという印象です。ただ、ある程度の前提知識がある状態で受けられれば、そんなに時間が足りないということはないだろうと思います。

 

加賀先生

 各分野から"万遍なく"出題されたことは1つのメッセージと受け取ることができるのでしょうか。

 

稲垣先生

 私はそう思います。高得点は全範囲を勉強していない限り取れないわけです。4領域から出題してくれたことがすごく嬉しかったですね。生徒たちにも説明がしやすかったです。

 

飯田先生

 万遍なく出題されたことは、すべてをきちんと授業で扱ってくださいという意味として受け取っています。

 

 

日常的に使われている情報技術が問題の題材に

加賀先生

 ここからは各先生が特徴的だとお感じになった問題について取り上げたいと思います。

 

飯田先生

 第1問 問2のパリティビットの問題です。この後に出てくる二次元コードもそうですが、身の回りで使われている重要な技術の1つです。こういう問題をきっかけにして、授業の中で社会システムを取り上げたり、バーコードのチェックデジットの計算をするような実習をしたりして、生徒に興味を持たせることができると思って注目しました。私も、授業ではチェックデジットの計算をする実習を行っています。

 

井手先生

 私もチェックデジットを扱った授業では、黒板に磁石を8×8に並べて、自分が目をつぶっている間に生徒に1つだけ磁石の裏表を変えさせて、それを当てるという演示を行っています。また、その後は種明かしとともに、パリティビットの重要性を説明して、最後に磁石を2つ変えたらどうなるかを考えさせているのですが、今回はまさしくそこが問われました。

 

稲垣先生

 私も、井手先生と同様に、パリティビットの授業では、磁石を用いた演示を行っています。第1問では問3の論理回路の問題にも注目しました。理由は、一部の教科書には論理回路が載っていないにも関わらず出題されていたからです。これはある程度、意図的だと思います。つまり、一部の教科書に載っていなくても、共通テストの問題はリード文さえ読めば解ける、というメッセージだと受け止めました。次の真理値表を選ばせる問題も、事前知識がある生徒は問題文だけを読んで解答が想像できるようになっていますが、そこで思いつかない生徒も手を動かして表を書きさえすれば解けます。

 

飯田先生

 第1問では、問4の情報デザインの問題にも注目しました。私も、定期試験などで情報デザインの問題をどう作るかは非常に悩むところです。この問題の作問者も、非常に苦労されたのではないかと思います。日常の場面で情報デザインがどのように生かされているかを意識させるのには、ちょうど良い問題なのではないかと思いました。

 

井手先生

 私も、情報デザインの問題は作問が難しいと感じています。情報デザインとは、自分の伝えたいことをどうやって的確に、正確に相手に伝えるかということですので、正解があるわけではなく、問題にしづらいというのが要因の1つにあると思います。どういう問題になるのか期待していましたが、もう少しデザイン寄りの問題を出してほしかったというのが正直なところです。

 

稲垣先生

 情報デザインは本当に出題しにくい分野であると思います。出題するとしたら、標本化・量子化・符号化の辺りが出題しやすいでしょうか。あとは、モデル化やアクセシビリティなどですが、単に知識を問う問題になってしまわないような工夫が必要ではないかと考えます。

 

 

井手先生

 私は、第2問Aの二次元コードの問題を取り上げたいと思います。今回の試作問題は、高校の先生に対して授業改善を促すだけではなく、模試や問題集を作る出版社や予備校、情報を学んだ高校生を受け入れるための入試を行う大学に対するメッセージとしての側面を強く持っています。また、社会や保護者に対して高校での学びを伝える重要な役割を担っています。

 

 その中で、身の回りの事象と情報との結びつきを示す題材として、二次元コードを取り上げたことは納得がいきました。今や二次元コードはよく使われている技術ですが、どのような仕組みで情報が記録されていたり、また情報を読み取っているのかというレベルまで考えられる人は少ないと思います。この問題は、身の回りや身近なところにも目を向け、問題を発見しようというメッセージになっていて、私にとっては衝撃的でした。

 

飯田先生

 私も本当にそう思います。技術的なことを知らずに使っている身の回りのものは多いと思います。情報をしっかり勉強すると、こんな面白いことがわかるという気づきにつながる問題です。

 

稲垣先生

 さらに、第2問A 問1の特許の設問は良いと思いました。二次元コードは、著作者がその特許権を行使しなかったため世の中に広まったという、日本の情報技術の学びになるような問題です。生活の中にあって、皆がよく知っている二次元コードをさまざまな視点から深く考える、ということ自体が面白いと感じています。解き終わったときに、生徒たちも納得感があるのはないでしょうか。

 

 

第2問 問2

 

 

第3問 プログラミングの問題

短い行数で洗練された問題

加賀先生

 第3問プログラミングの問題はいかがでしょうか。

 

井手先生

 プログラミングの問題は情報の先生方を始め、多くの方が注目していたと思いますが、私が一番驚いたのは、プログラミングの行数が8行と明らかに少ないことです。今回の試作問題は、プログラム自体の難しさではなく、与えられた問題文をしっかりと読解し、それをアルゴリズムに置き換える作業の難しさが特徴です。プログラムには一般的なパターンがあるとはいえ、6~8回程度の授業の中で、生徒にそれらのパターンを身につけさせることは難しいと思います。

 

 さらに、今回はプログラムの中で「増やしながら繰り返す」ではなく、「減らしながら繰り返す」が問われました。これは、私もこれまでに授業では扱ったことがなかったので、強く印象に残っています。

 

稲垣先生

 その場できちんと考えて、アルゴリズムを読み解くことができるかを問うタイプの問題になっています。また、どの言語を授業で扱っていても対応できる問題にもなっています。加えて、短いプログラムでこれほど深い問題となっている点でも、本当によくできていると思います。

 

飯田先生

 どんな言語でもいいのですが、1度は自分でプログラムを組んだ経験がないと解けない問題でしょう。ただ、授業ではプログラミングにかける時間は、多くても10時間ぐらいだと思いますので、その中で一定のスキルを身につけさせるには、どうしたものか悩ましいところです。

 

加賀先生

 授業時間という制約がどうしてもありますね。この問題はお釣りを題材としている点で、終始一貫して身の回りの事象へのこだわりが見受けられます。プログラムの短さ以外に特徴はありますか。

 

井手先生

 旧試作問題(2020年11月)とサンプル問題(2021年3月)は、2回とも、1つの大問の中で「問題の発見」「問題の解決」「評価と改善」という一連のプロセスが問われていましたが、今回は「評価と改善」にあたる設問がありませんでした。

 

稲垣先生

 短いプログラムでここまで膨らませた良問にしてあることと、お釣りが題材で生徒にとって身近に感じられる問題ということで、とても好ましい印象です。

 

第3問 図1、図2

 

 

第4問 データの活用の問題

データの読み取りを問う点が数学と異なる

稲垣先生

 私は、データの活用の授業で、全生徒のスマートフォンの利用時間を集めて、生徒自身に分析させるという取り組みを毎年やっています。この問題は、その授業に近い内容だと思いました。実際に、この試作問題を、生徒の活動につなげることもできると思います。

 

 問2、問3は、箱ひげ図から読み取れるものは何か、という問題が続いているのですが、私はこれが数学との差別化だと思っています。数学では、与えられたデータから計算で統計量を求めることになりますが、情報ではデータから読み取れるのは何かを問うわけです。問題の質としては数学の問題に似ているところはありますが、出題の仕方は全然違うものです。

 

井手先生

 データをグラフ化して、そこから何が言えるのかを分析し、現状を改善させていく方法を導き出すというところが、数学と差別化ができるところではないかと思います。その点でこの問題は数学ではなく情報だという印象を持ちました。

 

飯田先生

 おそらく、多くの情報の先生が見れば、この問題は数学という印象を持たれるのは自然だと思います。ただ、最近の生徒は、探究活動や他の教科などでこうした内容は結構取り組んでいます。私も授業で、過去30年間の新潟県の平均気温と一等米の割合の関係を、散布図にして回帰直線を書いたり、相関係数を取ったりするなどして分析する実習を行いましたので、それらを経験した生徒にとっては、この問題を見てもあまり戸惑いはないと思います。

 

第4問 問2

 

加賀先生

 第4問は、参考問題も出題されました。こちらの問題についてはいかがでしょうか。

 

稲垣先生

 参考問題は、グラフがあまり見慣れないものではありますが、難易度は高くはないと思います。しかし、初めて見た生徒は驚くかもしれません。初見でも思考力を使って解く問題というパターンで出題されたという印象です。

 

飯田先生

 似たようなグラフを授業で扱ったことがあれば、生徒はあまり違和感がないと思います。ただ、移動平均を授業で扱うことはあまりないですね。

 

井手先生

 まず移動平均法が出てきて驚きました。問3の図は相関係数の偏移を表した棒グラフですが、旧試作問題やサンプル問題にはなかった初めて見るタイプのグラフです。また、12カ月ごとに売り上げが変化するなど、問われていることは当たり前のことではありますが、考えさせられる問題でした。

 

 

「社会と情報」は「情報の科学」よりも易しい

既卒生は問題選択にも注意

加賀先生

 経過措置である『旧情報(仮)』(以下、『旧情報』)の試作問題についてはいかがでしょうか。

 

飯田先生

 「社会と情報」と「情報の科学」が選択問題として出題されましたが、「社会と情報」の方が易しめで、「情報の科学」を選択すると難しいのではないかという印象です。

 

井手先生

 私も「社会と情報」と「情報の科学」の問題の難易度が大きく乖離していると感じました。今回のような出題内容であれば、「情報の科学」よりも「社会と情報」を選択する方が、平均点は明らかに高くなるだろうと思います。

 

 また、今回の試作問題では、『情報Ⅰ』と比べると『旧情報』は易しいと思います。令和7年度のみ共通テスト「情報」には得点調整がありますが、選択科目によって平均点に大きな差が開きそうな気がしています。

 

稲垣先生

 私も、『旧情報』は『情報Ⅰ』より易しく感じました。既卒生への配慮もあるでしょう。『旧情報』の選択問題については、「情報の科学」を履修していた生徒も、当日の問題を見て「社会と情報」を選ぶことも選択肢になるかもしれません。

 

 また、「社会と情報」は、4分野すべてから出題されていますが、「情報の科学」はデータベースの分野から出題されていません。このあたりは本番でどうなるか気になります。

 

試作問題「旧情報(仮)」の選択方法と主たる範囲

 

 

活動を重視した授業づくりが重要

入試との接続も意識した指導を行いたい

加賀先生

 今回の試作問題を受けて、授業が変わっていく可能性はあるのでしょうか。

 

飯田先生

 アウトプットする活動を多めに取り入れることを意識しながら指導していくことになると思います。また、従来と変わらず教科書を全体的に万遍なく学習しながら、知識を系統立てて整理して、活用できる能力を身につけられるよう、意識しながら指導していこうと思います。

 

 単に知識を覚えるだけではなく、使えるようにならないといけませんので、身近な問題を題材に、学んだことが使える場を設定して、生徒が楽しみながら授業を受けられるよう心がけていきたいと思っています。

 

井手先生

 私は、生徒同士のディスカッションの時間や、生徒自身が試行錯誤しながらプログラムを改善する時間が必要だと思いますし、そういう授業づくりをしていかなければいけません。ただ、今回の試作問題を見て、授業だけでは時間が足りないので、自宅学習や長期休暇での課題などをうまく利用しなければいけないと感じました。

 

加賀先生

 生徒が学んだことを積極的に使いこなす場に加えて、主体性が求められるということですね。そのための教材づくり、授業づくりが難しいですね。

 

井手先生

 そこが教員の腕の見せどころだと感じます。どうやって情報の楽しさを伝えるか、いかに身の回りの事象に疑問を持たせるか、どうやって生徒が主体的に学習するように導くのか。難しい課題ですが、そうなるように授業改善を行っていかなければいけないのだと強く思います。

 

稲垣先生

 情報が共通テストで出題されることになり、情報の先生方の気持ちも生徒たちの目線も変わってくると思います。ただ、そこで気をつけたいのは、いかにも受験指導のような授業にならないようにすることです。やはり授業は実習を中心に行っていくべきだと思います。生徒たちが入試問題に向き合ったとき、実習を通じて学んだ内容が入試問題になるとこうなるのか、という気づきにつながることが一番大事なことだと思います。

 

 2単位という制約はありますが、私は自作の解説動画などで知識の習得をフォローする工夫をしています。また、宿題で実習をさせることもできますが、私はグループ学習にこだわっています。なぜなら、皆で議論しながら進める授業が生徒にとって楽しいと感じるであろうと考えるためです。ただ、これは高校1年生の「情報Ⅰ」の話です。高校3年生では受験教科として、考え方を変えていくことも必要でしょうね。

 

加賀先生

 身の回りの事象から、いかに生徒たち自身が課題を発見して取り組んでいくのか、学んだことを使いこなす場面の仕掛けは必要ですね。ただ、共通テストの出題教科となったことで、これまでとは異なる影響を受ける可能性はあるかもしれません。

 

飯田先生

 先日、ある生徒が「授業中にもっと問題演習をしてほしい」と言ってきました。今までにはなかったことです(笑)。予備校での講座や問題集も少ないため、生徒は授業でも入試対策をしてほしいと思っているようです。

 

井手先生

 入試科目となったことで、確かに情報の位置づけが重くなりましたが、その中でいかに楽しく教えていくかが、情報科の教員の責任ではないかと感じます。生徒たちが社会に出た時に、高校で学んだ身の回りの事象についての見方・考え方や問題解決の手順が生かされ、よりよい社会の実現のために還元される、これこそが楽しいところでもあると思います。

 

 

実習の内容を受験勉強時にも想起させる

授業の仕掛けが重要

加賀先生

 「情報」を苦手とする生徒に特徴はありますか。

 

稲垣先生

 まだ高校1年生ですので、あまり顕著な違いはないと思いつつも、やはり適性はありそうです。特にプログラミングはそうだと思います。だからこそ、苦手な生徒が嫌いにならないような仕掛けが、どの単元でも必要だと思っています。

 

 私は、理系の科目ではないと思わせる仕掛けとして、問題解決の単元を1学年の最初に扱い、時間もかけています。いろいろな問題解決の手法や考え方を示し、情報の授業は、「君たちがSociety5.0の担い手になるために必要で、文系理系は関係ない」と話して締めくくります。このように、「情報」はすべての生徒にとって重要な教科だと、強調して伝えることは大切です。ここには思い入れがあります。

 

飯田先生

 今回の試作問題では、直接的な理系的な問題は出ませんでしたので、情報は文理関係なく大切というのが今後の流れだろうと思います。ただ、出題の難易については、他教科の今までの傾向を見ても、年々難しくなっており、情報でも同じことが起きるかもしれません。そのときに、文系の生徒が取り組みやすいような題材や授業が必要になってくると思います。

 

井手先生

 プログラミングを指導していると、得意不得意の差は顕著に現れていると思いました。ただ、数学が得意だからプログラミングも得意というより、論理的に物事を考えられるかどうか、というところが違いのような気がしています。

 

 不得意な生徒はいますが、大切なのは、全員が同じレベルまで到達するということよりも、得意な生徒は発展問題を通して、どんどん進めて力を伸ばせばいいですし、わからない生徒には教員がサポートしたり、周りの得意な生徒が教えたりするなど、情報が苦手であっても嫌いにならないような楽しいと思わせる授業づくりが大事になります。

 

加賀先生

 1年生で「情報Ⅰ」を置く高校が多いと思いますが、3年間を通した指導スケジュールについては、どのようにお考えでしょうか。

 

稲垣先生

 一番難しいのは、2年次がまるまる空いてしまう問題かと思いますが、対応については模索中です。ただ、3年次にはやはり自由選択でもいいので、授業として行いたいと思います。その際は、1年生の内容を復習するような課題から始めることが、とにかく大事だと思っています。本校は、3年生で「情報Ⅱ」を置く予定ですが、そうではない高校も多いと思います。そういった学校では、受験で必要な生徒たちを集めて講習などを行うのが、入試に送り出す側の役割ではないかと思っています。

 

井手先生

 2年生は何もしないのではなく、1年生で身につけた力を伸ばす期間だと思います。情報を中心として学んだ情報活用能力を、2年生ではさまざまな場面で生かしていくのです。例えば、「総合的な探究の時間」は教科横断的に情報活用能力を生かすことができる場面の1つです。そうすれば空白の1年間は生まれません。

 とはいえ、これは理想であって、現実には難しいところがあります。夏休みなどに補習を行うなどの方法もあると思います。

 

飯田先生

 本校では、2、3年次にカリキュラムの中で情報の講座を置く予定は今のところありません。1年次に1年間しっかりと基本の修得に取り組み、3年次の夏の講習や直前期の講習で、それらを思い出しながら、問題演習などを行うことを検討しています。

 

加賀先生

 2年生で情報を取り扱わない期間は生じますが、3年生の時に、1年生の時の実習を想起させる授業をいかに行うか、そのためには、1年生の時の仕掛けが重要になってきますね。そういう意味で、授業では情報の面白さを追求していく必要もあると思いました。本日はお忙しいところありがとうございました。

 

  注: <表1><表2>は、大学入試センター「令和7年度大学入学共通テスト 試作問題『情報』の概要」をもとに

   河合塾が作成