事例329

問いを立てる力を育てるロボットプログラミングの授業実践

静岡聖光学院中学校 秋本裕太先生

私は中高一貫校の教員3年目になります。「情報」に関わる授業を担当するために、今年情報科の免許を取りました。今回ご紹介するのは、私のように情報科に関する技術が乏しい教員が、どのようにして生徒にプログラミングに興味を持たせたり、プログラミング技術を向上させたりすることができるかということを、自分なりに考えたこととして、今日はそのための環境づくりを行った実践を発表します。

 

まず、本校についてご紹介します。本校は、静岡市にある中高一貫の男子校です。2020年度には経産省の「未来の教室」の実証授業に参加しており、ICTの教育活用に関心のある学校です。

 

オンラインで授業をすることがけっこう多いので、今年もインフルエンザが流行したときは学年閉鎖にして、オンライン授業に切り替えました。その辺りの対応はスムーズにできています。

 

 

特徴的なのは、高校1年生の1年間で、10000字の論文を書き上げる「個人研究」という授業があります。今から発表するのは、この「個人研究」の準備段階で、中学2年生の「ゼミ活動」という授業です。

 

今回ご紹介する「ゼミ活動」は、中学2年生の総合的な学習の時間を使って、ロボットに興味を持った18名の生徒に対して、「レゴ®マインドストーム®の実習を通して『問いを立てる力』を育てる」という教育目標で行いました。

 

 

レゴ®マインドストーム®は、外部情報を受け取るセンサーと、制御する機械と、モーターで構成された、レゴのプログラミング教材で、Scratchベースのブロック型プログラミングができるので、中学生に親しみやすく、詳しく説明しなくてもすぐに扱うことができます。

 

 

いきなり「問いを立てる」のでなく、そのために必要な経験と環境を与える

今回のテーマの「問いを立てる力を育てる」について、「総合的な学習の時間」の教育目標を見ると、「実社会や実生活の中から問いを見いだし、自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現することができるようにする」という一文があります。

 

これを読んで、私は「よくこんなに簡単に書いてくるな」と思いました。最初の「実社会や実生活の中から問いを見いだし」という部分、ハードルが高いですよね。正直、社会人でこれができたら、どこでも大活躍できるでしょう。

 

ですから、中学生でこれが達成できたら、この授業は成功だなと思って、「中学生が問いを立てることができるようになるにはどうしたらよいか」を考えて、授業を構成することにしました。

 

 

私は、生徒がロボットを組み立てるという状況で、仮説が立つための条件として、次の3つがあるのではないかと考えました。

 

 

1つは、ロボットの製作工程をある程度想像できること。例えば、生徒たちが「自動掃除機のルンバを作りたい」と思ったとしても、そもそもルンバをどうやって組み立てるかが全く想像できない状況では、具体的な活動に移すことができません。

 

ルンバは非常に便利な機械で、自分たちは何もしなくても掃除してくれる、いいロボットであることはわかっていますが、実際に作ることはできないというのはダメなので、まず製作工程が想像できるということ。

 

2つ目として、そもそもプログラミングを使って実際に何か動かす、問題を解くために工夫した経験が必要ではないか、ということです。ですから、後ほど紹介しますが、最初の半年は、経験値をためることを一番重視しています。いきなりこちらから問いを立てさせるのではなくて、まず必要な知識や技能を蓄えることが必要だと考えました。

 

3つ目、これが今回の実践の特徴と思っている部分なのですが、「問いを立てたくなる環境を与えること」です。私の率直な感想ですが、どんなに考えても、ふだんの教室の中で、「さあ、今から実生活・実社会の課題を考えて、解決してください」と言われても、問いを思い付く様が想像できませんでした。それなら、生徒たちが、問いを立てたくなる環境に放り込む必要があるのではないか。だったらそこをどうしたらよいか、というのが後半の課題になります。

 

 

競技ルールを利用したプログラミングで、経験値とモチベーションを高める

授業の流れです。まず、4月から5月にかけて基本的な知識を導入した後に、6月から10月には、競技ルールを利用したプログラミング大会を実施しました。

 

これは、WRO(World Robot Olympiad (※1))のコンテストのルールに準拠して行いました。このコンテストは、特定の場所に駐車したり、ブロックを指定した場所に運び入れたりといった動きを再現するプログラムを作り、ロボットに実装して、その正確性や、かかった時間を競うものです。

※1 https://www.wroj.org/action/wro

 

 

こちらがその様子です。前任の教員が、たまたまWROの競技マットを持っていたので、それを使って行いました。

 

 

この競技コンテストの成果としては、班同士で競い合うことで、機体の形やプログラミングを改善するモチベーションが生まれました。

 

こちらから何か「こういった課題を解決しなさい」という指示を与えるよりも、「このコンテストで優勝できるように、ロボットを組みなさい」というメッセージを与えた方が、彼ら自身が工夫する余地があって、自分たちで主体的にロボットやプログラムを改善していこうとするので、一定の成果はあったかなと思います。

 

 

経験値は積めたが、課題も残る…

ただ、課題もありました。

 

例えば「ブロックをつかむ位置がずれる」という問題に対しては、本当はセンサーを操作することで解決してほしいのですが、タイヤの回転数をいじるなど、いわゆる力技的な解決をしようとしてしまうのです。

 

しかも、タイヤの回転数をいじったのに、スタート位置はきちんと計測していないので、次に置き直した時には、先ほどとはスタートがずれてしまっていたりします。「なぜ気が付かないんだろう」ということで、こっそりメジャーと定規を置いておいたのですが、誰も使いませんでした。このように再現性が低い機体もあって、「こういったところはセンサーで解決してほしいな」と思いながら、生徒たちの様子を見守っていました。

 

2つ目が、この競技コンテストが、生徒たちにとって非常に魅力的な活動であったとしても、それはまだ「問いを与えられている」状態であって、自分たちで問いを立てることはできていません。

 

私が与えた競技ルールで高得点が取れるように、ということで、あくまで問い自体は私が与えているわけです。ですから、この状況では、まだ「問いを立てる」という活動にはなっていないのです。ただ、経験値は積めたかなと思っています。

 

3つ目の課題が、真面目な生徒1人に任せっぱなしになって、そうでない生徒が眺めているだけという場面が、けっこう多くみられました。

 

レゴは好きなだけブロック遊びができるので、本来のロボットに関係のないものがいろいろできてしまった、ということもある中で、最初の半年が終わりました。

 

 

前半の課題を洗い出して、後半の活動につなぐ

これらの課題をどのように解決したか、というのが後半の実践になります。

 

こちらが後半の実践の写真で、生徒がマインドストームに木登りをさせるにはどうしたらよいかを考えているところです。

 

 

競技コンテスト後の僕の悩みは、この3つになりました。

 

1つ目は、どうやったら生徒に問いが生まれるかということです。

 

本校で探究の授業を実施している教室は、テーブルが円卓で、グループ活動がとてもしやすいデザインなのですが、その教室でも、やはり問いが生まれない。教室の中にいる限りは無理だなということが、まず1つありました。

 

2つ目が、どうやったらセンサー類を多く使ってくれるかということです。

 

こちらからセンサー類を使った課題を与えれば、確かに使うようにはなると思いますが、それでは、生徒たちが自分で問いを立てて、センサーを使うという工夫をしよう、ということにはなりません。どうやったら、自発的にセンサーを使ってみようというモチベーションが生まれるのか、ということですね。

 

そして3つ目が、班の全員が主体的に活動に参加するには、どうしたらよいかということです。

 

 

学内庭園で実現したい動きをするロボットを作り、「再現性」と「芸術性」で評価する

この3つを解決するために行ったのが、この実践です。

 

一言でいうと、「外に出て、公園に行って問いを見つけて来なさい」という課題です。幸い本校には学内庭園、ビオトープがありますので、そこに連れて行って、実現したい動きを考えてそれを実現しなさい、ということにしました。

 

目標としては、「中学1年生や君たちの親御さんが見に来るから、その人たちに魅力的なロボットを披露する」ということです。

 

コンテストとするために、評価項目は次の2つとしました。

 

1つは「再現性があるかどうか」ということです。先ほどお話ししたように、力技で解決してしまうようなものではなく、センサーを使って、場所を変えたとしても同じ動きが再現でき、成功率が高いロボットを作りましょう、ということ。

 

2つ目が「芸術性」です。この部分は、前回競技コンテストのロボットを作ったとき、「先生、4足歩行のロボットを造っちゃダメですか」という、競技には全く有利にならない提案をしてきたのですね。

もちろんOKなのですが、それも面白いなと思いました。

 

もしかしたら、これを加味することで、生徒から問いが生まれる余地が生まれるのではないか、と思ったので、評価項目に「芸術性」を加えました。

 

そして、披露する相手(先生や、中学1年生)が「面白い」と思ったらその点は評価するので、好きなように工夫して作っていいよ、ということにしました。そして、「再現性」と「芸術性」は半々で評価することにしました。

 

 

この実践の狙いがこちらです。

 

まず、再現性を求めることで、センサー類を用いた自動化と、動きの精緻化を促します。

 

2つ目が、与えられた課題を解決するのでなく、自分たちがやりたい動きを実現するように考える、ということです。

 

私の考えでは、問いというものは外部環境により形作られるものであると思います。

 

生徒達は、自分から問いを立てるという状況にはまだ慣れていないので、外部環境により形作るという段階を入れるのです。教室と違って、学内庭園には木や草、土や岩などがいっぱいあるので、おのずとやりたいことが生まれてきます。

 

 

ということで、11月から3月で「アイデアロボットコンテスト」を行いました。

 

このように、学内庭園と教室を行き来しながら、ロボットを作りました。

 

左が木登りロボットで、ミノムシのように木に登るロボットを作っています。「せっかくだから外で作っちゃおう」ということで、庭でそのまま組み立ててしまうグループもあり、やっていて楽しかったのですが、唯一の欠点は、1月の屋外は寒かったことです (笑)。

 

 

経験値があるので、やりたいことはどんどん見つかる~ただし、自然相手は手ごわい

この成果としては、こちらが何か特別な活動をつくる必要はなくても、生徒達自身に経験値がある状態で庭園に連れて行けば、ロボットでやりたいことはいくらでも見つかる、ということです。

 

「落ち葉を拾う」「雑草を刈る」「石をどける」「木に登る」等など好きなようにしていいよ、ただし水没させるのと投げるのだけは勘弁してね、ということだけは言っておきました。

 

結構面白かったのが、そもそも教室では課題にならないようなこと、例えば車を安定させて走らせる、ということすら難しいので、前回のロボットコンテストで使っていた機体をそのまま持って行っても、土が絡まって全然走ってくれません。ですから、自然を相手にすることで、いくらでも工夫する必要が生まれてきます。これはやっていて気が付いたのですが、興味深いことでした。

 

 

グループメンバーの編成は、前期の課題で行動傾向が似ている人同士で→→大成功!

さらに、班員全員が参加するグループがかなり多くなりました。

 

こちらについては、中央大学の穂積先生の論文を参考にしました。この論文には、類似のコミュニケーション手段を好んだり、活用したりするメンバーの学生同士でグループを形成すればするほど、グループ活動を活性化する、という仮説が示されています。

 

これはそうだろうな、と思って、今回は競技コンテストの実践を見ていたときに、何人かさぼっていた生徒がいましたが、そのさぼり方を含めて行動傾向が似ている生徒同士をあえて組み合わせてグルーブを作りました。

 

すると、これがうまくいって、結果的に進め方で揉めることがなかったのですね。しかも面白かったのが、彼らに聞いてみると、自分たちの進め方に謎の自信を持って、「僕たちの班の進め方、最強です」と。ですから、これは大成功だったかなと思います。

 

 

まだ力技で解決しようとしながらも、技術的な向上は実感。次年度さらに経験を積みたい

それでも、課題は残っています。

 

まだ力技的な解決が多くて、制御技術の向上は十分ではありません。

 

自然に連れて行ったことのデメリットとして、彼らがセンサー類一切、信用しなくなった、ということがあります。というのも、自然に生えている草の緑色を、マインドストームのカラーセンサーでは全く認知してくれないので、精度を信用しない班も増えてしまいました。

 

ただ、アンケートで「この課題を解決する上でセンサー類を活用しようと思いますか」と聞くと、生徒の75%が、むしろ「技術は上がった」と答えているので、彼らが実感していることは確かだと思います。

 

また、まだ「実社会に存在する問い」のレベルにはなってないので、そこに到達するためには、さらに実践を重ねる必要があるかと思います。来年中学3年生でも引き続き活動を進め、自分たちで問いが立てられるようになればと思っています。

 

情報処理学会第86回全国大会 第5回初等中等教員研究発表セッション講演より