事例314

「情報Ⅰ」の導入を工夫してみよう(生徒にとって身近で切実な題材で)

神奈川県立横浜国際高校 鎌田高徳先生

今回、一番お伝えしたいことは、生徒にとって身近で切実な題材で「情報Ⅰ」の各授業の最初の問いを作っていったらどうかということです。

 

私は、今年で横浜国際高校に異動してきて2年目になりました。本校は、学力重点エントリー校であると同時に、IB校であるため、国際バカロレアコースを設置している特色のある学校です。

 

私のこれまでの活動等は、こちらのWebサイトに載せています。教材も置いていますので、ぜひ参考にしてみてください。※1

 

※1 https://sites.google.com/site/johoeportfolio/home

 

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生徒が問題解決したくなる「発問」

 

2022年度の東京都高等学校情報教育研究会で、大学入試センター試験問題調査官の水野修治先生が、「情報Ⅰ」の授業展開について、実生活・実社会における課題と関連付けた考察や、グループでの協議、実習活動をしてください、と話されていました。

 

つまり、生徒たちにとって、実社会の中で、かつ、興味・関心を持てる題材を設定するということと、その過程で、生徒が試行錯誤したり、自分の考えを伝えたりする中で、情報の科学的な理解を働かせた「情報Ⅰ」の授業をしましょうということです。

 

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そういった授業を作るために大切なことの一つは「発問」だと思います。

 

生徒たちにも言っていますが、生まれて初めて自転車に乗ろう、という問題解決をするとき、最初に、親や兄弟に補助の支援をしてもらい、自転車が乗れるとこまで練習した後、今度は途中から手を離してもらったり、あるいは補助輪を外したりして、少しずつ手を放していきます。自転車で自由に行き来する目的のために一生懸命頑張りますよね。

 

それと同じように、生徒たちに良い発問をして、自分で自由に自転車をこいで行くように、自分たちで問題解決しよう、主体的に問題解決に取り組んでほしいと思っています。

 

 

「情報Ⅰ」の授業の工夫

 

そのために、本校に着任したタイミングで教室のレイアウトを変えるとともに、授業における最初の発問にこだわっています。

 

私は、生徒たちになぜそういった問題解決をしないといけないか、という問いを与えた後、なるべくグループワークをするようにしていますので、最近は①の説明で15分も話しておらず、10分程度です。

 

 

このように、私は「情報Ⅰ」の授業の問いをとても大切だと思っています。

 

昨年度、私と鹿野利春先生で、かんき出版から出版した『高校の情報Ⅰが1冊でしっかりわかる本』の中でも、全ての題材を問題解決にして、発問にこだわっています。ぜひ先生方も参考にしてみてください。

 

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また、昨年度、文科省から「情報Ⅰ」の授業動画制作の話をいただき、私は、生徒たちの実社会の生活に沿った題材の動画を制作させていただきました。

 

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ですので、プログラミングの授業動画で、for文、if文、while文やリストを覚えようという動画ではありません。全て、生徒たちにとって身近な題材を扱った授業動画になっていますので、ぜひ参考にしてみてください。※2

 

※2 文科省 情報Ⅰ 授業・研修用コンテンツ

 

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音のデジタル化~音の波を自分の目で見る~

 

今回、第2章コミュニケーションと情報デザインの情報のデジタル化の内容のところで、音と画像のデジタル化に関する問いを工夫しました。

 

 

音のデジタル化では、生徒にスマートフォンの音声のレコーディングアプリ、いわゆるボイスメモのような、波が出るアプリを生徒たちに使ってもらいました。

 

どうしたら波が高くなるか、低くなるか、一定の高さになるかを、最初に導入として操作してもらいます。そうしたら、音が波になることを可視化できますので、授業の導入の後に「では、この波をどうやって0と1にしましょうか」と話して授業の導入を終えたら、生徒の学習意欲や理解度が高まったように感じています。

 

なぜ音や文字や画像をデジタル化するかということに関しては、目の前でデジタル化しているものを可視化すれば効果的だと感じています。

 

 

画像のデジタル化~スマートフォンで画面を撮る~

 

画像のデジタル化のところでは、まず、生徒たちに、スマホを使ってパソコンのディスプレイを至近距離で撮影させ、その画像を拡大させます。

 

 

一部のスマホでは、拡大してみると、スライド右側のように光の三原色になります。

 

 

私のスマホはきれいな画像にならないのですけど、高画質なカメラのスマホですと、赤と青と緑のライトが見えます。これは、どういう仕組みなのだろうか、という流れで、導入に入っています。

 

このように、生徒たちの身近なもの、特にスマホ等を使って導入を行うと、情報のデジタル化のところは、生徒の理解度が高まるのではないかと考えています。

 

 

情報の構造化~ゲームのボタンを作る~

 

また、情報の抽象化、可視化、構造化については、いろいろな問いを考えながら授業をしています。

 

特に構造化のところは、ゲームのボタンをプログラミングで作らせている中で、ボタンの構造化についても取り組ませています。

 

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ゲームは生徒たちにとって、とても身近なものです。実際にどんなボタンのデザインにすればいいか、ワークシートに書かせて形を作らせていくことによって、構造化とは何かを考えさせる授業をしています。

 

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大切なのは、生徒たちに、ただ情報の構造化を教えるだけではなくて、身近な所に構造化はあるということに気づいて貰う、そして自分たちで実際に問題解決のために構造化をしてもらうことが大切なのではないか、と最近感じています。

 

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データの活用~10秒の感覚~

 

また、第4章データの活用の導入は「10秒の感覚」という題材で授業をしています。

 

まず、スマホなどのストップウオッチ機能を使って、10秒をみんなで計測させます。

 

 

ただ計測させるだけではなくて、横浜さんと国際さんという2人の10秒の感覚のデータを比較して、「どっちが正しい10秒の感覚の持ち主なの?」という発問した後、分析をさせています。

 

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こちらが2人の10秒の感覚のデータです。表の右側の国際さんのほうが、平均はぴったり10秒なのですが、標準偏差が高いです。

 

なので、中央値や平均値の考え方などを扱うときにも、身近な時間の概念から扱っていくこと、そして、生徒たちに自分たちでデータを集めさせることが重要なのです。

 

 

教員が用意したデータではなくて、生徒たちが自らデータを生成することの意味と大変さ、そこから見えてくるものを考えることが大切です。自分たちで作り出したデータだから、自分たちで説明できるはずです。

 

データの活用では、教員が用意したデータではなくて、生徒たちがデータを生成する授業設計が重要だと思っています。なので、先生方も、教員が用意したデータではなくて、生徒たちにデータを生成させて、データ活用の授業を設計してみてはいかがでしょうか。

 

 

プログラミング~身近な事象を再現する~

 

また、プログラミングのところでは、信号機や交通整理の問題を扱い、プログラミングで解決しようという導入を行いました。

 

 

こちらは、滋賀県にいらっしゃる長谷川先生から教えてもらった事例です。

 

身近な信号機をプログラミングで再現してみよう、という授業の導入を行いました。ただBluetoothで通信する、あるいはプログラム組む、ということだけではなくて、身近な事象を再現してみました。

 

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Bluetooth通信をうまく使って、送受信すれば、いろいろな仕組みが再現できます。さらにフェールセーフのように、障害が起こったときに、全て赤信号にすることもプログラムで再現可能です。

 

 

先生方も、ただプログラムを書くのではなく、生徒たちに身近な事象をプログラミングさせてみてはいかがでしょうか。

 

 

身近な事象のプログラミングですと、昨年の神奈川県情報部会実践事例報告会で紹介していただいた、神藤先生の事例が非常にお薦めです。私は、神藤先生の事例が本当に素晴らしかったので、去年の夏期講習で実際に行ってみました。※3

 

※3 事例249 身近な題材を例に繰り返し学ぶ プログラミング 神藤健朗先生

 

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普段使っているものの仕組みを考えさせる

 

最後に紹介するのは、第4章のネットワークの事例です。

 

最初に、生徒に2つのスマホのキャプチャー画面を見せて、この画面は時間以外に何が違うのか聞いてみます。

 

 

生徒に聞いてみると、彼らは「4GとWi-Fiが違う」と気づきます。そこから「4GとWi-Fiはみんな当たり前に使っているけど、それは何がどう違うの?」と、最初に考えさせる導入をしています。

 

生徒たちはみんな、Wi-FiやBluetoothや4Gを知っています。それらが、何がどんな仕組みで、どう違うかを考えさせるということは、導入で非常に効果的かと思います。

 

 

その他にも、本校の近くに基地局があるのですが、スライドの写真の中で、赤枠で囲っている部分は何だろうね、という話をしています。

 

 

あるいは、本校の第1コンピューター室の天井近くに設置されている、これは何だろうか?と、考えさせた後、全員で自分のスマホで4G、5Gの場合と、Wi-Fiのときの回線速度を計測して集計し、それがどう違うのか、なぜこう違うのかという話を、ネットワークの授業の導入で行っています。

 

 

ネットワークの授業では、それらを行った後、生徒たちに実際にネットワーク図を書かせています。

 

ぜひ先生方も、身近なスマホを使ってつながり方を見せた後、それは実際にどういう仕組みでつながっているのか、ネットワーク図を書かせてみてはいかがでしょうか。

 

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神奈川県情報部会実践事例報告会2023オンライン オンデマンド発表より