事例312

ネットワーク七転八倒:実習や体験を盛り込んで挑む「苦手な単元」の記録

相模女子大学中学部・高等部 堺和貴子先生

ご本人提供
ご本人提供

皆様にお聞きします。「ときめく単元」「ときめかない単元」はありますか?

 

私は「情報Ⅰ」では、「ネットワーク」と「セキュリティ」が一番ときめかない、苦手な単元です。今回の発表は、その苦手な「ネットワーク」の単元の実践の記録です。

 

 

苦手な単元とはいえ何とか克服しなければいけない、と思っていて、今年度は実習や体験を多く取り入れることを意識して授業を考えていきました。

 

この発表は、「苦手意識を持つ単元について、何とかこんなことをやってみたよ」というご報告となります。何かのヒントになれたらと思いますし、また皆さんがどのような授業の工夫をされているのかということも知りたくて、この発表をします。

 

お話の流れは、こちらのスライドのとおりです。

 

 

ネットワークが苦手な理由~身近に感じられるような授業の工夫が見つからない!

 

まず前置きとして、なぜネットワークが苦手なのか、そして今年の授業に至るまでに、もがいていたことをご紹介します。

 

ネットワークが苦手な理由は、簡単に言うと「身近に感じられるような授業の工夫が見つからない」という一言に尽きます。目に見えない世界の話なので、実感を込める工夫をしていきたいのですが、どうしたらよいかわからない。机上の話の授業になってしまって、生徒はみんな眠そうです。

 

そして、私の方は「ネットワークはやっぱり難しいな」と思うだけで何も残すことができず、その年度が終わってしまう。そして翌年度、また同じことを繰り返すという、負のループの状態に陥っていました。

 

 

ただ、この悪循環はまずいので、解決のヒントになるものを探し続けていました。その結果として、町田高校の小原格先生の授業事例(※1)や、横浜国際高校の鎌田高徳先生の書籍(※2)、ほか様々なサイトから「これ、使えるんじゃないかな」というものをいくつか見つけることができました。今年度は、そういった事例やツールを中心に、現実感を持たせる授業をしようと、ネットワークの授業に挑みました。

 

※1 「情報セキュリティ」授業実践報告

※2  「高校の情報Ⅰが1冊でしっかりわかる本」

 

 

単元計画と各時間の報告~各単元に、手や体を動かす実習を1つは入れる

 

単元計画はスライドのとおりです。

 

全4時間構成で、3コマ目までの授業は、実習を必ず1つは入れるという形で、授業を組んでいきました。この発表では、3コマ目までの授業内容のうち、実習でやってきたことについてご紹介します。

 

 

■ネットワークの構成:「LAN」「WAN」はシミュレータで実習を行う

 

1時間目は「ネットワークの構成」というお題です。ネットワークとは何か、という導入から、LANやWANの構造について、シミュレータを使って説明していきます。

 

 

LAN、WANの実習では、ネットワークシミュレータ(※3)を使いながら、そもそもコンピュータが有線でどうやってつながっているのかを確認して、さらに実際に教室の中ではどうなっているのかについて話題を広げていきます。

 

※3「ネットワークシミュレータ」(taidalab「情報I」学習サイト)

 

このシミュレータは、ブラウザで動くもので、IPアドレスが振られた端末を、ケーブルでハブとルータをつないで疎通確認をして、端末同士の通信ができたかどうかを調べることができます。

 

 

画像の左側のように、クライアントがつながっていない状態だと、「LANケーブルにつながっていません」というメッセージが返ってきます。ですので、まずはLANケーブルをつないだ上で疎通確認をしていきます。

 

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ケーブルさえあればつながるわけですが、例えば40台もの端末を全部、LANケーブルにつなぐのは非現実的です。そこでハブというものが必要になります。そして、今度はハブを接続して疎通確認をしていきます。

 

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ここまで実習を進めた後、本校のPCルームでは実際どうなっているかを確認します。

 

授業は基本的にPCルームで行っていて、PCルームの端末は有線でネットワーク接続されています。このパソコンにささっているケーブルの正体がLANケーブルだよ、という紹介をします。

 

また、プリンタにもLANケーブルがささっているので、パソコンとプリンタがつながっているから印刷できるんだよ、という話もします。

 

よく生徒から「自分が持っている1人1台端末から、PCルームのプリンタでは印刷ができない」という質問を受けることがありますが、ここで「個人の1人1台端末はプリンタがつながっていないから印刷できない。だからプリンタにつながっているPCルームのパソコンを使ってね」という話をすることもできます。そして、それぞれの端末から出てるLANケーブルが、教室の隅で集約されていることも紹介します。

 

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さらに、「では無線はどうなっているの?」ということにも話を広げます。

 

ここでは、「無線LANのアクセスポイントがあるから、無線でも通信ができる」と説明するのですが、一般教室にも無線LANのアクセスポイントが1台ずつ設置されているのに、その存在に気付かなかったという生徒や、あることは知っていたけれど、それにどんな意味があるのかということを知らなかったという生徒もいます。

 

 

そして最後に、LAN同士をつなぐルータというものがあって、これを使うと異なるネットワーク間でも通信ができること(=WAN)、これを積み重ねていくと、大きなネットワークができて、それがインターネットであることを説明して、1時間目の授業を終えます。

 

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■情報通信の取り決め:「プロトコル」「ルーティング」は体験で理解

 

 2時間目のテーマは「情報通信の取り決め」です。この時間は、プロトコルとTCP/IPで2つの体験を行っています。

 

 

ここでは、まずプロトコルの意味として、「異なる言語間でのコミュニケーションでは、文法や単語などがわかっていないと通じないから、取り決めが必要」であり、これはネットワーク通信も同じであることを、教科書に沿って説明をします。

 

 

ではなぜネットワークでもルールが必要なのか、とうということを、「大声カード渡し」の実習を通して考えていきます。

 

まず生徒にはトランプのカードを2枚渡します。カードにはそれぞれ「IPアドレス」と「パケット」と書かれていて、自分のIPアドレスカードと同じマークのパケットカードを持っている人を、一斉に大声で探し回ります。

 

これを1分半ほどやってみますが、どのクラスも労力のわりに、なかなか一致する人を見つけることができませんでした。

 

 

では、もっといい方法はないだろうかということで、校内放送のように、自分のIPカードと同じパケットカードを持っている人を呼び掛けて、反応した人と交換するということを繰り返していきます。このようにルールを決めることで、それほど疲れずに効率良く見つけていけそうだね、と話すと、プロトコルが必要であることに納得する様子がうかがえました。

 

 

次に、ルーティングの体験です。最初に、教科書に沿って、TCPとIPの説明をします。TCPは、時間の都合で説明だけにとどめました。IPは、教科書的には、「IPアドレスを使ってルーティングを行い、パケットをやりとりする」ということですが、これだけではよく分からないですよね。

 

そこで、実際にルーティングを体験して、どんなものなのかを理解していきます。

 

 

ルーティングの体験の前に、1つ質問をしています。

 

「手元に手紙があるとします。歌手のAdoさんに手渡しリレーだけで手紙を届けるとしたら、あなたは誰に手紙を託しますか。直接知っている人(友達、家族や親戚など)の範囲内で答えてください」というものです。

 

生徒の回答はスライドの通りですが、いろいろな反応が返ってきました。

 

 

その人を選んだ理由を聞いてみると、「この人に頼めば何とかなりそう」という人選です。この「誰に送れば届きそうか」を考えることをルーティングと言って、これをルータが考えてやってるんだよ、と投げ掛けた上で、ルーティングの体験に入りました。

 

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この実習は、先ほど紹介した小原先生の事例をアレンジしました。

 

「大声カード渡し」の実習の後なので、生徒はトランプを持っています。

 

同じ図柄でグループを作って、グループでルータ役を決めて、その人に封筒を渡します。

 

封筒には、スライドの例のように少し離れたグループの宛先が書かれていて、その宛先のグループに封筒を届けよう、というものです。

 

ただし、封筒を渡すことができるルータには制約があります。スライドの図のように、各グループのルータ役は、黄色の線でつながっているグループのルータ役にしか渡すことができません。

 

ルータ役は、自分の封筒を渡しながら、他のグループからも封筒をもらいます。そして、宛先に無事に届けられるように、つながっているルータ役に封筒を託していきます。

 

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この作業は、思ったよりも大変なようで、どのルータ役に手紙を託すかということを考えている間に新しい封筒が手元に来てしまったりして、なかなかスムーズにはいかない状態も発生しました。

 

一通り終わった後に、最初にどのグループに封筒を託したか、ということを振り返っていきます。

 

例えば「ハートの奇数」から「ダイヤの偶数」に受け渡す場合は、ハートの奇数班は、まずダイヤの奇数班に封筒を託します。「なぜ?」と聞くと、「近いから」という理由です。

 

そこで、「ルータもまさに同じで、『パケットを送り先に届けるために、どこに渡せばよいか』ということを考えています。先ほどの手紙渡しで皆が考えたことと一緒だよ」という話をしました。ルータ役は動かなければならない役回りで大変ですが、生徒たちは「大声カード渡し」と同様に、それも含めて腑に落ちた様子がうかがえました。

 

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■WEBページ・メールの仕組み:「クライアントサーバシステム」も実習で仕組みを理解

 

3時間目は、Webページの閲覧や、メールの送受信がどのような仕組みなのかを知ることを目標とします。

 

この過程では、サーバの存在が必要になります。そこで、いったんクライアントサーバシステムに触れてから、この話に入っていきます。今回は、クライアントサーバシステムの実習の部分のみご紹介します。2番目のドメイン名・DNSサーバ以降の授業内容は省略しますが、基本的には教科書に沿った内容を進めています。

 

 

クライアントサーバシステムは、教科書的には「サービスを要求するクライアントと、クライアントの要求に応じてサービスを提供するサーバから成る」わけなのですが、これだけではどういうことか、わかりにくいですよね。

 

そこで、ひとまずスライドに記載たとおり、実店舗での買い物とネットショップでの買い物を対比して、「コンピュータの世界でもサーバというものがあって、店員さんのような振る舞いをしてくれる。いろいろな質問に対して、答えを返してくれるような仕組みがあるんだよ」と関係性を説明します。

 

そして、「この仕組みのおかげでネットを使った活動ができている。SNSも、直接スマホ同士でメッセージのやりとりをしているわけではないんだよ」ということを説明して、実習に入っていきます。

 

 

ここで行った実習は、教育用プログラミング言語「ドリトル」の通信機能を使ったチャットを体験(※4)です。下記のドリトルのページと、先ほどご紹介した鎌田先生の本を参考にしました。

 

※4 https://dolittle.eplang.jp/ch_chat

 

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まず、グループに分かれて、その中でサーバ役を1人選びます。残りの生徒はクライアント役になり、クライアント役はさらに送信者(1人)と受信者に分かれます。

 

はじめに、送信者クライアント役が、何かメッセージを作成して送信します。この時点では、受信者側のクライアントの画面には、何もメッセージが表示されません。

 

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ここで、サーバ役の画面をのぞいてもらって、サーバ役の画面にはメッセージが表示されていることを確認します。この活動を通し、「メッセージ内容はサーバが蓄えていて、受信者が受信ボタンを押すことで初めてメッセージが受信者に送られて、表示ができる」という一連の体験をしていきます。

 

SNSも同じ仕組みで、スマホ同士が直接つながっているのではなく、間にサーバの存在があって、このサーバがいろいろなことをしてくれていることを伝えます。さらにこの流れで、IPアドレスを教えてくれるDNSサーバの存在や、Webサーバがページを見るのに必要なファイルを送ってくれていると説明しました。

 

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3.振り返りと今後へ向けて~実習や体験でネットワークが身近に。思考する活動に向けてさらに改善をはかりたい

 

最後に、生徒の振り返りを眺めて、私自身の振り返りをしたいと思います。

 

1つ反省点があって、今回は3時間分の振り返りを3時間目にまとめて行ったところ、自由記述の振り返りが3時間目の内容に引きずられてしまいました。毎回振り返りを取ればよかったなと反省しつつ、それでもいろいろな角度からのコメントがあったので、それを紹介したいと思います。

 

 

まず、授業を行った側としては、生徒の振り返りを見ると、体験や実習をやれてよかった、というのが、一番の感触です。体を使ってアナログで体験するのは生徒にとってわかりやすいのだなと思いました。

 

 

また、「ネットワークの仕組みが思ったよりも複雑」と感じた生徒と、「思ったよりも複雑でない」と感じた生徒が両方いることがわかりました。

 

Webサイトの閲覧の仕組みなどは、いったんDNSサーバを介するなど手数が多いために、複雑に見えるようです。一方、ネットワークの機器などは、それぞれに役割が決まっているので、理解すればそれほど難しくないと感じた生徒もいるんだなと思いました。

 

 

また、身近に感じられたかどうかという点では、前向きなコメントが多くて安心しました。今回の授業展開はアリなのかも、と少し自信が出てきました。

 

 

最後に、今後に向けての振り返りです。

 

まず、「情報通信ネットワーク」で何を扱うか、ということについて。1時間目に扱ったシミュレータには、サブネットマスクが表示をされていたり、また教科書には、ルーティングテーブルが記載されていますが、この辺りは今の授業時数では扱い切れないと判断しています。

 

ただ、今盛り込んでる内容に関してもスリム化できる部分があるのかもしれませんし、逆に、今回用語の説明でとどめた部分でも、「これは実習や体験を取り入れた方がよいのではないか」というものもあるかもしれません。皆さんはどうされていますでしょうか。

 

また、どのように扱うのかについても、まだまだ考えなければいけません。というのも、今回は知識メインの授業展開でした。これを思考する活動に持っていくには、どんな工夫ができるだろうか、それが私のこれからの課題になっていくかと思います。そして皆さんはどうされていますでしょうか。情報交換できましたら幸いです。

 

神奈川県情報部会実践事例報告会2023オンライン オンデマンド発表より