事例296

大学入学共通テストを意識した情報Ⅰの授業実践

東京都立三鷹中等教育学校 能城茂雄先生

私はかつて「情報」の教員免許を取った後「情報科はこれから絶対輝くので専門性を身に付けるべきだ」と感じ、2年間休職して無給で大学院に通って情報の専修免許を取得しました。

 

その後、平成15年に情報科が始まりましたが、当時私は大学院にいたためスタートダッシュに出遅れましたので、新人のつもりでいろいろなことに全力で取り組んできて、今に至ります。

 

最近は、前教科調査官の鹿野利春先生と一緒に現在の教科「情報」の学習指導要領や教員研修用教材などを作成しました。また、Adobe Education Leaderや、Microsoftの認定教育イノベーターをしています。他にも検定教科書を書いたり、依頼があれば日本全国へ講演やセミナーに出向いたりと、情報科の発展のためのお手伝いをしています。

 

 

中高一貫で6年間を通した情報教育が可能

 

現在勤務する都立三鷹中等教育学校は、三鷹高校を母体する中高一貫校で、現在は14期生が入学しています。在職11年になります。

 

本校は高校からの入学がないため、中学1年生から高校3年生まで一貫した情報教育ができるのが大きなメリットだと感じています。1クラス40人、1学年4クラスで6学年960人規模の学校で、卒業生の約3分の1が現役で国公立大学に進学します。

 

現在は「情報Ⅰ」の授業と、中学校技術家庭科 技術分野の情報分野も教えています。来年からは、高校3年生で「情報Ⅰ」の受験対策なども始まるため、情報専科担当になると思います。

 

 

本校は、平成28年に東京都教育委員会から、ICTパイロット校の指定を受けました。都全体として一人1台端末を導入する前段階の実験校として選ばれた2校のうちの1校で、「GIGAスクール」という言葉が生まれる前のことです。

 

生徒には中学1年生の時にWindowsPCを渡しており、現在のGIGAスクールと呼ばれる現状と同じです。充電もメンテナンスも自宅で行い、教員の元に端末が戻ってくるのはトラブルが起きたときだけというやり方で、PCを日常ツールとして使ってもらうということを8年前から行ってきました。このことが、現在「情報Ⅰ」の授業をスムーズにできる基盤となりました。

 

また前述の通り、中学校技術家庭科 技術分野の「情報の技術」を私が担当しており、かなり前からWebページの制作として、Material Designのフレームワークを使ったサイト作成の実践もしています。資料はリンク(※1)でご確認ください。

 

あとは、Micro:bitを活用して、いま中学校で話題になっている「双方向性のあるプログラミング」などの経験を積ませることで、高校の「情報Ⅰ」につなげていくことの効果を実感しています。

 

※1 https://benesse.jp/programming/beneprog/2018/01/27/proglesson/

 

 

「情報I」の学習指導要領に込められた思いが情報入試につながる

 

さて、ここまでの情報科実践を振り返ってみます。私も「情報B」から始まって、「情報A」「情報C」、さらに「情報の科学」も教えました。

 

また、全高情研の事務局長を務めている関係で、全国から多くの悩みが寄せられますが、「キーボードが打てない」「中学校の技術科でパソコンを触ったことがない」という生徒がいる一方で、「プログラミングは難しい」「データベースの授業はどうやったらいいのか」という相談もたくさんいただきます。

 

 

情報科が始まってこれまでの20年、情報科の授業内容は、それぞれの学校の実態に応じて実施されてきました。

 

一方、学習指導要領の「情報Ⅰ」がこちらですが、実はここには「『情報I』を学ぶことによって、こういうことができるようになってほしい」という願いが入っています。

 

 

具体的には、コンピュータの仕組みを理解するときには、コンピュータには限界があることも知ってほしい。将来一人暮らしをしたり、家庭を持ったりしたとき、家の中のネットワークを自分で構築できて、トラブルがあったときは自分でメンテナンスできる。日本全国の高校生がそうなってほしいという思いが、学習指導要領の硬い文章の中に込められているのです。

 

 

その上で、国立大学協会による令和4年度の高校1年生たちが受験する入試制度の発表があったので、我々情報科教員は、学校ごとの状況に合わせた内容だけでなく、大学入学共通テスト(以下、共通テスト)を意識した授業改革を余儀なくされることになりました。

 

私も、生徒達に対して授業開きで入試制度が変わることを意識付けしています。

 

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共通テストを意識した「情報I」授業改革のポイントは

 

これまで、私は生徒たちに面白さ、楽しさ、学ぶメリットや役立ちを感じられる授業を心掛けてきましたが、そろそろ諦観の時が来たと感じています。

 

こちらが私の「情報Ⅰ」の授業改革のポイントです。

 

 

■授業の目標を明確にする

 

まず、授業の目標を明確にすること。これは、もちろんこれまでも行ってきたことであり、教科に関わらず重要なことですが、その単元で何の授業をするのかという目標を明確にすることで、生徒の学習意欲を引き出すことはとても重要です。

 

私は、授業のスライドの1枚目に、必ずその授業の目的や学ぶことを入れます。そうすることで、生徒は授業が始まったときから目的意識を持って学ぶことができる。そして、授業の終了時には、今日の目的が達成できたかどうかを振り返ることができます。スタートとゴールを明確にするということです。

 

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■複数教材の活用

 

次に、複数教材の活用です。

 

私たちは、当然学習指導要領に基づいて作られた教科書を使って授業していますが、本校のように国公立大学に進学する生徒が50人いるような学校であれば、私たち教員には、模試で全国平均プラス20点を取らせるような指導が求められます。

 

そのため、いかに教科書の内容を1年間かけてカリキュラム通りしっかり教えたとしても、入試問題が教科書以外から出たから解けなかった、というわけにはいきません。生徒の自らの学びにも期待したいので、ふだん使っている教科書の他に、他の教科書に準拠した問題集や副教材を選択することも必要であると考えます。

 

 

■授業の振り返りによる学び直し

 

また、授業をやりっぱなしで終わらせず、振り返りによる学び直しをするようにしています。全高情研の第10回東京大会で、振り返りの重要性について発表した際のPDF資料(※2)も併せてご覧ください。

 

※2 https://www.zenkojoken.jp/wp-content/uploads/2017/07/H201_noshiro.pdf

 

そして、授業の終わりの数分で、今日の授業で学んだことや興味を持ったことを、何か1つ書いてもらうことで、授業内容の定着を図っています。リフレクションというと、どうしてもたくさん書いてほしくなりがちですが、1つでよいから書くという形で行います。

 

このリフレクションはデジタルで集めているので、次の授業で「君たちの仲間はこんなことを書いたよ」と提示して、前の授業の振り返りや補足をした上でその日の授業につなげています。

 

書かれた内容によっては、次の授業でコメントや返事がもらえることがあるので、生徒は自分宛てのコメントを見るために遅刻せず授業に臨むようになり、授業規律を整える一環にもなっています。

 

 

■定期テストの活用

 

次に定期テストの活用です。考査は年5回行います。3学期の学年末考査は外部テストを使っていますが、これについては後ほどお話しします。

 

東京都では、「情報Ⅰ」に限らず学校全体としてデジタル採点システムを導入しているので、考査の結果を見ることで、生徒たちはどこができて、どこが理解できていないかという分析ができ、自分の指導の振り返りにつなぐことができます。

 

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■Microsoft Forms活用した理解度チェック

 

また、一方的に話して教える授業では生徒の理解が進まないため、手順を工夫しています。まず、その日の授業の目標を示した後、「今日はこれを学ぶよ」と伝え、問題集の問題を3分ほどかけて読ませます。

 

 

当然ですが、初見の内容や専門性が必要なところ、知識能力が問われるところは分かるはずがないので、ここでは問題が解けなくても構いません。

 

まずは、「これは何だろう」という意識を持ってから授業を行い、授業が終わったときに、最初に分からなかったこと、解けなかった問題にあらためて取り組んでもらうことにしています。

 

このときに大切なのは、正解か不正解かではなく、授業の前に分からなかったことが授業を受けたら分かるようになる、という経験をすることです。逆に、授業後に解けないときは、自分で授業資料に戻ってもう一度取り組んでみる、という形を取っています。

 

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■オンライン教材の活用

 

さらに、オンライン教材の活用です。

 

こちらは、以前に鹿野先生が講演で使われたスライドを拝借しています。私たち教員はとかく「教えたがり」ですが、今後の授業は「教える」から「生徒が自ら学ぶ」に変わらなくてはなりません。

 

 

「教える」要素が一番強いのがプログラミングです。私もさまざまな実践を発表してきましたが(※3)、これまではとにかく基礎を丁寧に学べるように、教える(手を止める)→試すの繰り返しで進めてきました。。

 

※3 はじめようプログラミング ~「アルゴロジック」「1時間で学ぶソフトウエアの仕組み」を経て、Java Scriptへ

 

これを、生徒がプログラミングのやり方を学ぶ部分では、オンライン教材を活用して、夏の宿題などに頼ることにしました。プログラミングの導入や応用部分の演習については、授業の中で扱います。

 

 

今どきの生徒は、動画やテキストを自分のペースで見て学びます。全て先生が教えるのでなく、自ら学ぶ授業設計にすること。特に効果が出るのが、プログラミングの授業で、疑問点を先生に聞くのではなく、自ら資料を見る、書いたプログラムを自動で採点する、学習内容の問に対する正解や誤りを自動で判定するという形の学習に、オンライン教材は非常に相性がよいと思います。

 

実は、プログラミングの単元については、従来通り懇切丁寧に教えた年と、オンライン教材を使って基礎を自分で学ぶことにした年で、全く同じ問題を使って定期テストを実施してみたら、オンライン教材を活用したほうが、成績が良かったということがありました。プログラミングは、先生が講義型で教えるだけでは、生徒にとっては意味の分からない呪文に聞こえてしまい、理解につながらないことを実感しました。

 

 

■外部アセスメントの活用

 

また、先ほど定期考査の話をしましたが、私の場合、1学期・2学期の定期考査は基本的に授業の進度に応じて行い、3学期末の学年末考査だけは外部テスト(※4)を利用することにしました。

 

※4 https://www.p-pras.com/basic/

 

 

外部テストを使うことについては、生徒達には4月当初に、「先生が作ったテストができるのは、授業を受けているのだから当然。でも、別の誰かが作ったテストで、きちんと点数が取れるっていうことが、1年間の学びとして必要だよね」と伝えています。

 

昨年はまだ共通テストがどうなるかも見えてない状況でしたが、生徒たちが、きちんと学びの成果を出してくれて、外部テストの全国平均より生徒たちが、きちんと学びの成果を出してくれて、外部テストの全国平均より15点程度高い結果を出すことができました。

 

ただ、意外に得点が伸びなかったところがあります。私はネットワーク分野が大好きなのですが、大好きすぎて雑談が多かったのか、全体の中で一番低くて得点率が40%でした。自分が授業を改善の必要があり、いかに雑談を減らすか、悩みどころではあります。このように、外部テストを使うことで教員自身の授業の振り返りにもなります。

 

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情報科に限らず、私たちは今、より良い授業や学びをどのような形に変えるのかということについて、感情論や気合ではなくて、データに基づいて考えていくことが必要です。

 

そのためには、定期考査の分析も、手で採点して何点ということではなく、デジタルの採点システムなどを使って、それぞれの問題の正答率や状況分析を行い、それを次の授業改善に活かしていくことが必要です。

 

 

これまでの経験+良い実践の吸収+教材研究がますます重要に

 

東京都では、将来的にAIによって生徒の学習行動、出欠席状況、保健室等の利用状況などを分析し、教育ダッシュボード(※5)を活用することを検討しています。

 

※5 教育ダッシュボードのご案内

 

教育ダッシュボードが実現すると、私たち教師の専門性にプラスαとして、AIによるサポートが実現します。さらに、ICTの活用、授業ノウハウの蓄積、教材研究を進めることで、より良い授業ができ、結果としてそれが情報入試への対策になるのではないかと考えています。これまでの経験に加えて、良い実践の吸収と教材研究が、これからますます重要になっていくでしょう。

 

新課程2年目の今年、来年令和5年度、共通テスト元年の計画も今まさに進めています。その先へに向けてもさらに改善を進めています。また機会があれば、ぜひ話を聞いていただきたいと思っています。

 

質疑応答

 

Q1-1.私立大学教員

先ほどお話のあった外部テストの結果で、生徒の成績が一番良かったところはどこですか。また、逆にここはできていなかったというところがあれば教えてください。

 

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A1.能城先生

この解説だけで1時間くらいは話せますが、例えば「コンピュータの仕組み」の論理回路の問題がありました。昨年11月の大学入試センター「試作問題」にも出題されていましたよね。あれは、リード文を読んで順を追って考えれば誰でも解ける問題ですが、本校では、私の自作の論理回路キットで、AND-OR-NOT回路ってそれぞれこうなっているよねということを、手を動かして実習をしていました。ここは全国でも飛び抜けて正答率が高かったと言われています。その点では、授業で扱った単元として得点が高かったなと思います。

 

逆に、先ほどもお話ししたように、ネットワークの歴史のところは私も大好きなので、「DNSのルートサーバーの場所というのは、誰に聞かれても教えられない」とか「WIDEプロジェクトのときにはこんなことがあって…」といった経験を生徒に楽しく伝えようとしたのですが、今一つでした。確かに平均点は悪くないのですが、私としてはもっと取れてほしかった、というところです。

 

 

Q1-2. 私立大学教員

中等教育学校ということで、普通の3年制の高校に比べて時間が取れるのは、やはり大きいと思われますか。

 

A1-2.能城先生

やはり大きいと思います。中学1年生段階から、ICTやクラウドに慣れていて、学校全体で道具として使っているので、ICTを使って何かをするということが、ごくごく当たり前になっているのですね。よく卒業生から、「私、三鷹ではコンピュータできない組だったのに、大学に行ったら神扱いされてるんですけど、この現実は何ですか(笑)」と言われます。

 

 

Q2.公立高校教員

私も大学入学共通テストを意識して、授業を改善していく必要があることは日々考えていますが、いろいろあり過ぎて手が付けられないところです。まずその中で、まずはこんなことやってみたらどうか、と推せるものがあれば、教えてください。

 

A2.能城先生

推せるものがあるとすれば、まず教科書を端から端まできちんと授業の中で扱うことですね。私も苦手な部分はありますが、生徒は授業で扱ったことから学んでくれますから、授業スライドの中に、「副教材のトピック集や問題集のココに教科書を超えた内容が書いてあるから見てごらん」と振るようにしています。詳しく扱う時間はありませんが、生徒が興味や関心を持ったときに、「これを調べてごらん、これを見るといいよ」というポイントを、授業スライドの中や話題の中に埋め込むようにしています。

 

第16回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会) 口頭発表より