事例289

一人一台端末導入後の授業設計の変化

大阪府立夕陽丘高校     勝山衿佳先生

本校では、令和3年9月から一人一台端末の導入が始まりました。教科「情報」でも、一人一台端末とクラウド型グループウェア(大阪府ではGoogle Workspaceを採用。以下:GWS)を活用することで、体験的な学習活動を充実させることが可能になりました。今日の私の発表では、一人一台端末の導入前後で、授業の授業設計・展開について比較・分析した結果をお話しします。

 

一人一台端末の導入前後による変化のポイントは、大きく下記の3つであると考えます。

 ・個別支援の充実

 ・授業外の粘り強い取り組みを誘起

  ・一人一台端末ならではの新しい活動

これらを順にご説明します。

 

1. 個別支援の充実~欠席者対応だけでなく、全ての生徒の復習コンテンツとしても効果大

 

※クリックすると拡大します。

 

一人一台端末の導入によって、まず個別支援を充実させやすくなったと思います。これは主に、欠席者への対応に関する場面です。

 

操作の方法や課題の説明などは、欠席して聞き逃してしまうとかなり痛手となり、欠席した生徒は、特に前回の授業を踏まえた制作を行ったりする場合は、ついていけなくなることが多いのです。

 

そこで、これまでは欠席者については授業の前に「補習」という形で個別に呼び出して説明するようにしていたのですが、クラスによって授業進度がばらばらなので、一斉にやることは大変難しかったです。

 

そこで、一人一台端末導入後は、YouTubeで操作方法の説明動画を作って、授業プリントのデータとともに全ての生徒に配信する、という方法に変えました。説明動画の配信は、欠席生徒への説明はもちろんのこと、結果として出席していた生徒も復習コンテンツとして活用できるようになりました。

 

また、欠席の生徒もオンライン授業に出席していれば、GWSを使って、対面出席の生徒とのグループワークへの参加が可能になりました。

 

2. 授業外の粘り強い取り組みを誘起~「できていないから」でなく、「100%を120%にするために」

 

※クリックすると拡大します。

 

2点目が、授業外の粘り強い取り組みを誘起することができたということです。

 

これは何かというと、「情報」の授業は、作品制作や、課題で何か作らせることが多いと思いますが、どうしても時間の関係で授業中には作業が終われない、納得のいくところまでできずに終わってしまうということがよくありますよね。

 

そういう生徒に対して、これまでは「昼休みや放課後にコンピュータ室を開けておくから、その時間に来て自由にやっていいよ」ということにしていました。ただ、それでは学校にいる時間でしか作業できません。また、放課後に用事のある生徒は参加できないということもあって、どうしても生徒間で格差が生まれてしまうということがありました。それが、一人一台端末導入後は、どの生徒も、自宅で制作課題の続きができるようになりました。

 

一人一台端末導入前は、どちらかというと「作業が終わっていないから、コンピュータ室で続きをやりに来る」という感じでしたが、導入後は「だいたいできているけど、周りのみんなも一生懸命やってるいるから」「もっと完成度を高めたいから」という思いで課題の続きに取り組んでくれているように感じます。

 

朝のショートホームルームが終わった後に、生徒たちが教室で自分の端末を開けて少しの時間でも作業の続きをやっているのを見かけることも多いです。100%の出来を120%の出来にするために、課題の続きをやってくれる生徒が増えたなと思います。

 

意外だったのが、生徒が家で課題の続きをやっていると、保護者やきょうだいが「何やってるの」と見てこられるのですね。そこでプレゼンテーションの練習をして家の人に聞いてもらったり、大学で情報系の勉強をしているきょうだいからプログラミングを教えてもらったり、ということもできるようになったようです。このように、ご家庭からの支援をうけられるようになったという点も、変化だと思います。

 

 

3. 一人一台端末ならではの新しい活動~カメラ機能で活動の幅が大きく広がる

 

※クリックすると拡大します。

 

一人一台端末ならではの新しい活動については、主に2つあると思います。

 

まずカメラ機能の存在が大きいと思います。学校指定の端末にカメラ機能が付いてるので、映像コンテンツを用いた授業が気軽にできるようになりました。

 

これまでは、動画を使った授業をやりたいときは、個人のスマホを使えばできないことはなかったですが、生徒が手こずっているのをサポートしたいときに、生徒のプライベートのスマホを覗くのは気が引けるということがありました。それがなくなったのはありがたいですね。「情報」だけでなく、体育や音楽など他の教科でも、録画して確認する、という活動を取り入れてくださっているようで、カメラ機能の活用幅は大きいと思います。

 

次に、生徒が見ることができる画面が2台に増えたということです。具体的には、コンピュータ室のデスクトップPCの大画面と、生徒の手元の一人一台の端末が両方使えるということです。ここに挙げているように、2つの端末に同時にログインして別々の作業を行ったり、自分の端末で動画を見ながら、コンピュータ室の端末で資料の共同編集を行ったり、ということもできます。

 

また、本校のコンピュータ室は、教室正面のホワイトボードに向かってコンピュータ端末が横向きに並んでいる配置なので、例えば他の人のプレゼンテーションを聞いて、相互評価コメントファイルに入力させたい場合などは、一人一台端末を使って正面を向かせるようにしています。

 

※クリックすると拡大します。

 

最後にまとめ・課題と展望です。今までお話ししたように、授業の設計や展開で、大きな変化がありましたが、一方で課題も見えてきました。

 

1つは、個別支援は確かに充実しましたが、どこまでやったらよいのか悩んでいるということです。例えばアプリの操作説明に関する動画教材を作ることについては、喋りながら内容を画面録画するだけなのでそれほど大きな負担ではありません。しかし、例えば基数変換の座学授業を欠席した生徒から、休んでいた分の解説動画の作成をリクエストされたことがあり、すべてに対応していくことは難しいと考えています。

 

2点目が、授業外の取り組みとして、家で課題をやってきて完成度を上げてくるのは、こちらとしても嬉しいですし、生徒も一生懸命頑張っているのはとてもよいのですが、家で長いことやったからそれでよいのかと言えば、そういうわけではないという点です。

 

教員としては、なるべく授業時間内で政策課題を終わらせることができるような授業設計をするべきですし、100%の完成度合いを120%にしたいという気持ちは歓迎するとしても、家で課題の続きをやってきてくれることを頼りにして授業計画を組むというのは本末転倒だと思っています。この線引きが難しいですね。

 

今後の展望ですが、一人一台端末ならではの新しい活動として、カメラ機能およびGoogleアカウントと連携したサービスの活用幅を広げていきたいと思っています。

 

第16回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会) ポスター発表より