事例287

情報科らしい授業方法と授業改善

東京都立立川高校 佐藤義弘先生

立川高校の情報科の指導教諭をしております。情報科20年目ですから、一番古くからの先生ですね。また、津田塾大学の非常勤講師や、学習指導要領を作るお手伝いをしています。そのほかにも、いろいろなことに関わらせていただいており、大変勉強になっています。

 

はじめに、立川高校がどのような学校であるのかご説明いたします。

 

立川高校は、都立の学校の中でもけっこうな勢いの進学校で、優秀な生徒たちがいっぱいいます。普通科と創造理数科が併設されていて、創造理数科は昨年新設され、現在2年生まで在籍しています。そして、進学指導重点校であるため、生徒の75%が共通テスト・フル型(6教科7科目)受験、加えて、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)であるなど、いろいろな称号が付いている学校です。「情報Ⅰ」は1年生の必履修科目、「情報Ⅱ」は3年生の自由選択科目としています。

 

 

よく「情報Ⅰ」の課題として「教える内容が多くて終わらない」とおっしゃる方が多いですよね。それから、1人1台端末の利用指導を期待されるけれども、時間がなく、他教科の先生方とこちらの教科指導とのせめぎ合いもあります。また、探究活動や数学と連携したら良いと言われているけれども、なかなか連携できないといったケースや、大学入学共通テストで出題されることになり、知識だけじゃなく思考力も問われる、など、スライドにあるような話が課題として挙げられています。

 

 

「授業」を変える~体験を重視した授業に

 

平成になってから始まった「情報」という教科ですけれども、令和になりましたから、昭和の手法で授業してもしょうがない。ですので、授業を変えていこうと考えました。

 

どういうことかというと「予習で学ぶべきことを明らかにしておいで」としました。それから、極力講義を減らす。本当は説明するのが楽しくて学校の先生をしているのですけれど、話す時間を本当に減らしました。実習や体験を重視するとともに、授業の振り返りのフィードバックをかっちり行うようにしています。一部分は以前から行っていることの継続や広げたものですが、全体像としては、アクティブ・ラーニング型授業で、体験を重視した授業を行っています。

 

 

授業の基本的な構成としては、まず前の授業時に、次回予告として教科書の指定したページを読んでおくように伝えています。また、授業スライドも授業前に提示してしまいます。

 

では、授業始まったらどうするのかと言うと、最初に今日の授業の目標を提示します。この目標は、最後の振り返りの中で、達成できたかどうか自己評価をさせています。それから、隣の人とじゃんけんをしてもらい、勝った人が予習してきた内容を説明する、という栄誉にあずかり、予習内容を共有します。その後、生徒からの質問に私が回答し、簡単なまとめスライドで説明をしたら、学んだことを活用する実習を行っていきます。

 

そして、授業後に振り返りを行って全員から回収したら、私が振り返りのまとめを作り、また次回、という流れを繰り返しています。

 

 

 

学ぶべきことを「予習」のときに探す

 

では、具体的に説明していきましょう。

 

前の授業時に、次回予告として教科書のページを指定します。このためにはどうしたら良いかと言うと、授業計画を精密に立てておく必要があります。ずれてしまうと駄目なのです。今日の授業はここをやると決めたら、絶対にその部分を終わるんですね。

 

これは意外と大事なことです。私はもともと数学の教員を15年ぐらいやっていましたが、数学の場合だと途中で終了時間になって「じゃあ続きは次回ね」としていたのですけれど、それはできません。どうやったら絶対に終わらせられるかというと、生徒との関係性も含めて、うまく工夫しておくことが大事です。ちょっとずるいなと思っているのですが、授業の最後は、実習が課題なんですよね。そうすると生徒たちが、自分たちが遅かったから終わらなかったのかな、と思ってくれるようになっていきます。これが申し訳ないなと思いながらも、今すごくうまく回っています。実は、授業の途中で、私が説明を余計にし過ぎることがよくあるのですけども、生徒からは「終わらなくてすいません、先生」と言われています。

 

それから、学ぶべきことを予習のときに探すこと、分からないことを探しておくことが大事だと思います。生徒たちは、分からなかったら調べることは好きですから。

 

そして、授業スライドは精密に計画するからこそ授業前に提示できるわけです。授業前に内容が確定していて、絶対の覚悟でその内容を終わらせます。スライドは、PDFで配布しますが、今は1人1台端末がありますから、PDFにいきなりメモを書き込んでいる生徒がいっぱいいます。私は、スライドに書いてあることをノートにメモする生徒がいたら「もったいないな。だってスライドあるんでしょ、書けばいいじゃん」と言います。ときどき、スライドの写真を撮る生徒もいるので「もったいないな、5KBを5MBにするのか」といった話もしています。

 

授業スライドは、サポートサイト(※1)という外部にあるサイトに置いています。こちらから現在進行形で進んでいるものをご覧いただけます。

 

※1 サポートサイト(https://hs-joho.net/23j1/

 

※クリックすると拡大します。

 

ペアでの活動で「学ぶべき内容を明確化」する

 

授業始まったら、最初に目標を提示し、何ができるようになってほしいかを示します。ここは割とさらっと進めます。

 

次に、予習内容を隣の人と共有していきます。ペアは、番号順に座らせたり、場合によっては、頼りになる相方とペアを作って座らせたりしていて、自分たちの意思でペアを作るケースと、ランダムでペアを作るケースがあります。

 

ペアが確定したら、じゃんけんをして勝った人が予習をしてきた内容を説明します。説明をしている間に、2人とも分からないことは質問したほうがいいことなのかどうかを共有してもらいます。

 

ちなみに、なぜ「じゃんけん」を行うのかというと、どちらが話すかを決めるイベントを入れると非常に盛り上がるのです。授業の冒頭を盛り上げるときに、トークで盛り上げるのは難しいですよね。小話をしたところでうまく温まりませんが、じゃんけんを行うだけで彼らはテンションが上がるため、非常に効果が高いです。「やった!」と負けた方が言うのが特徴です。ときどき「よし俺が説明する」という生徒がいることもあります。

 

ここまでのところで、この時間に何を学ばなければいけないか、がお互い明確になりますよね。ペアで説明をしている時間は、全体的に最初はわーっと盛り上がりますが、ちょっと経つとだんだんトーンが下がってきます。このトーンが下がるタイミングによって、その単元を難しく感じているのか、簡単に感じているのかが分かるのです。

 

例えば、情報デザイン的な内容は、セオリーに至るところがいくつかあるけれども、人に説明しようと思ってもあまり説明できず、割と「感じてね」という部分があるので、早めにトーンが下がります。一方で、デジタル化などの内容でテクニカルな話が続いたりすると、生徒たちがずっと話しているケースがあることが、感覚的にですが分かってきています。

 

また、生徒が予習してきたことを説明している間は机間巡視をしているので、説明を受けている生徒、要するにじゃんけんに負けたほうの生徒に、私から質問をすることもあります。「何て説明していた?」と聞くと、勝ったほうがちゃんと説明していたかどうかがすぐ発覚します。説明していた内容について質問する場合も、聞き手側に質問をしています。

 

生徒の理解の度合いがどれくらいなのかをある程度つかんだら、私からの説明に入っていきますが、ここで生徒から質問をさせています。受け付けた質問は、その場で回答することが非常に多いですが、回答できなかったものは、授業外か、もしくは後日回答するようにしています。

 

スライドには載せていないですが、あらかじめ簡単な問題を作っておいて、「この問題、解答できる?」と尋ねるのも良いのかなと、この間の小原先生の話(※2)を聞きながら思いました。

 

※2 高等学校情報科オンライン学習会 【第 1 回】情報Iにおける指導と評価の一体化~2 年目の試み~

 

 

 

学んだことを「なんとなく」でも関連させる

 

次に、簡単なまとめスライドをぱっと見せています。

 

予習が前提ですので、重要語句だけ見て簡単に説明し、理解が難しいところだけは、簡単な例えで説明します。例えば、可逆圧縮と非可逆圧縮だったら、布団圧縮袋とオレンジジュース、といった話をしています。このように、分かりやすいイメージを作ることができるように例え話をしていますけれど、基本的に、教科書は高校生が読んでも分かるように作られているはずですから、教科書に書いてあることはあまり説明しないというコンセプトです。

 

そして、学んだことを活用する実習とは言っても、学んだことにきれいにリンクするかというと、そうはなかなかいかないですよね。ですので、こじつけでも良いので、なんとなく関連させます。「その技術は、こう使われているよね」と大分遠いところでも良いのです。

 

また、問題解決の姿勢で取り組ませるために、失敗させないようにするのではなく、失敗から学ぼう、といった授業のくくりにしています。だから生徒がうまくいかないことは、いっぱい授業中に出てきます。どうしても私たちは、生徒が失敗しないように先に「こうしちゃ駄目だよ、こうするとうまくいくよ、ああするとうまくいかないよ」と説明をしてしまうのですけれど、あまり説明せずに「まずはやってみよう」としています。

 

その流れで、1人1台端末をどんどん活用してもらうようにしておくと、自分の端末も同じように使えると気づきます。そうすると、「情報」の授業だけではなくて、家に帰っても「情報」の時間の続きをしてくれることになりますよね。

 

 

授業を「3つのキーワード」で考える

 

授業後は、授業の振り返りを行ってもらいます。

 

アンケートでは、学んだことを説明できるかということについて、「そう思う」「ややそう思う」「ややそう思わない」「そう思わない」の4段階で自己評価をします。

 

それから「じゃあ、今私がここまでお話した中で印象に残った3つの単語を考えてください」と、授業に対して3つのキーワードを考え、投稿してもらいます。これは、その授業中の時間を抽象化しないとできないのです。3つの大事なところはなんだろうなと考え、全体像を思い起こして抽象化することを狙っています。

 

感想と気づきについては、私は全部読んでいて、観点別評価の「学びに向かう力」の評価の対象にしています。それから振り返りの際に、質問も書いてもらいます。予習をしてきているので、授業の中でも説明に出てこなかった、または、やっぱり分からなかったというところが、授業のときにはっきりしているので、質問も出てきます。書いてきた質問に対して私が回答し、最初に提示した目標の達成度合いを自己評価していきます。

 

 

振り返りのまとめについては、3つのキーワードや感想をワードクラウドでまとめます。それから自己評価を集計し、質問への回答を書いていきます。

 

感想の紹介は、私にとって評価の高い感想を紹介しています。私が勉強させられるような感想と言ったら良いですか。「なるほど、そう気付きましたか」という感想です。どのような感想かと言うと、自分の経験や身の回りのものと学んだことを結びつけたことを、感想として書いていると非常に評価が高いです。このことを私は明示的に書けるのですけど、生徒にはわざと言っていません。良い感想を全部公開することによって「こういう感想を書けば良いんだよ。あとは考えて」としています。

 

 

1年生の「体験と考えることを重視した授業」で、2年生、3年生へとつなげる

 

ここまで、情報科らしい授業方法と授業改善というお話をしてきました。

 

正確な授業計画を行い、事前に資料やデータを提供して予習を活性化させ、振り返りアンケートも事前に送信することによって、何を学ぶのかが分かっている状態で授業を受けてもらいます。

 

また、生徒の様子を把握するために、感想を全部読みます。感想を読むと、この部分は早過ぎた、とか、よく分からなかった、説明足らなかった、などが分かります。それからフィードバックによって、優秀な感想の評価や、質問への丁寧な回答を行っています。

 

 

そして、3年間の学習プロセスとしては、1年生は、体験と考えることを重視し、学んだことを活用していく授業です。ですので、私は授業中にあまり説明しません。今の時点で、知識事項を学んだところで絶対忘れるんですね。それは3年生の1学期になってから問題集で埋め合わせれば、立川高校の生徒はおそらく大丈夫だと考えています。だから今は忘れて良いけれど、使ってもらうことを重視しています。そうすることによって、知識事項は忘れるけれども、体験が身に付きます。

 

体験もカリキュラムマネジメントを考えて、他教科と関連していることを伝えています。他教科の授業を受けているときに、「情報」で学んだことが出てきていると思ってもらえるようにして、「情報」を思い出させるフックを作っておくんですね。

 

それから、探究活動では「情報」で学んだことをそのまま直結して使えますので、そこで「情報」の学びを活用してもらいます。だから、2年生は「情報」の授業はないですけれど、他の教科や場面で「情報」がちょいちょい出てきます。あとは「情報オリンピック出てみない?」と呼びかけたり、共通テストの問題を1問だけ出して、「時間があるうちにどうやったら解けるか、調べてでも良いからやってみよう」と投げ掛けたり、思い出すためのリマインダーを投げています。

 

そして、3年生になってから知識事項を埋め直します。知識事項が埋まると、これを使うとこういうことができる、と体験をすぐ思い出せるんですよね。あと、とんがっている生徒は、選択科目に「情報Ⅱ」を設置しているので、その授業を受けることができるようになっています。

 

最後に、講習会や補習は、なにぶん1人で320人を相手にするので、恐らく対面形式で行うことはなくて、ライブ配信やアーカイブ配信など、オンデマンド形式の講習会を考えなければいけないなと思っています。

 

■質疑応答

 

Q1.高校教員

生徒にWEBを使ってフィードバックをされていますが、生徒がこのフィードバックをどのくらい見ているかは分かるのでしょうか。また、この一連の授業の効果の検証、もしくは感想をお聞かせください。

 

A1.佐藤先生

効果の検証は、もしかしたらあと2年くらい経ったときに、共通テストの点数などで検証されることになるかもしれません。

 

それから、生徒がフィードバックのページをどのくらい見ているのかについては、アクセスカウンターを入れたりしていません。ですが、生徒が授業の振り返りの中で、とてつもなく良い質問をしてくれるときがあります。ときどき、その質問を題材に、テストの問題を作って出題していますので、フィードバックを見ておかないとまずいな、という仕組みにしています。生徒が見ているか見ていないかをチェックする、というよりも「やらなければいけない羽目にしてあげる」ようにしています。

 

 

Q2.高校教員

自己評価の記入は、点数なのか、それとも「分かった」、「分からなかった」など、どういう基準なのでしょうか。そして、どのように生徒にフィードバックしているのでしょうか。また、例えば評価に入れるなど、その生徒の自己評価をどう扱われているのでしょうか。

 

A2.佐藤先生

自己評価は、S、A、B、Cで、Bが「理解できた」、Cが「理解できなかった」、Aは「よく理解できた」、Sは「よく理解できて、活用しようと思った」が原則的な形です。どれかを選択してもらいますが、盛り気味で良いとは言っています。大体S、A、Bが付いていて、それらを集計したものを公開しています。他者の理解の度合いがどれくらいなのかを、自分で見ることがどちらかというと目的です。

 

自己評価を集計することで、評価に生かすことができるのは分かっているのですけれど、あまりやると生徒が自己評価を盛るんですよ。そうしたら、あまり面白くないデータになってしまうので、盛らなくても良いように、「やらなければいけない」ようにだけしています。

 

 

Q3.高校教員

成績下位にあたる生徒たちに対してのご対応は、何かされていますか。

 

A3.佐藤先生

観点別評価ですと、指導票の3観点すべてがCにならない限り下位にならないと考えると、あまり成績の下位が出ないんですよね。100点満点のテストで、30点くらいしかとれないような生徒は、確かに存在するのは事実ですけれども、そこに対して私は、実はあまり温かくしておらず、そのままにしています。受験科目になったので、今後、対応を迫られるようになるのかなとは思うのですけれども、3年の選択科目で「情報」が苦手な人たち向けの講座はどうしようかという話をしたときに、あまり希望がないので、大丈夫なのではないかなと考えています。

 

第16回全国高等学校情報教育研究会全国大会(東京大会) 口頭発表より