事例250

情報科をなぜ学ぶのか、自分の言葉で伝えよう

神奈川県立希望ケ丘高校 校長 柴田 功先生

ご本人提供
ご本人提供

いよいよ「情報I」がスタートしました。

 

情報の先生方は、生徒からこんな質問を投げ掛けられていませんか。

 

「先生、高校では情報科という教科がありますが、なんで情報科を学ぶのですか」なんて質問受けませんか。そんなとき、皆さんどんな言葉で返事をしていますでしょうか。

 


 

生徒は多様で、どんな言葉を掛けたら学ぶ意欲が高まるかは、それぞれだと思います。

 


 

ですから、どんな答えだったら正解というわけではないのですが、改めて聞かれると、なかなか難しいかなと思います。


 

例えば、「共通テストの科目になったから学ぶんだよ」。

 

こういった理由を説明するのは、私はちょっと残念だと思います。これで生徒がやる気になればいいですけれども、そのために教科があるのではないよ、というところですよね。

 


 

「情報科を学ぶといろいろ便利だからだよ」。

 

確かに、いろいろなスキルを身に付けることができて便利です。

ですが、何となくこれですと、街のパソコン教室が言っているような、「いろいろなものを学んだり、表計算とかも身に付けられたりして便利ですよ」といった返し方と同じだと思います。

 


 

例えば、「これからの時代に求められる能力を身に付けるためだよ」。

 

これもよくある答えだと思います。これで分かってくれる生徒がいたらいいですよね。でも、全員の生徒にこの言い方で伝わるのかは、ちょっと私は疑問です。

 


 

「これからの時代を創造するためだよ」。

 

多くの先生が「みんなの力でこれからの未来を作ろう」ということも話していると思いますが、「そこまでそんなふうに感じないよ」と生徒は思うかもしれないですね。もう少し生徒の日常に近い、しかも未来にもつながるような話ができるといいなと思っています。

 


 

「情報活用能力は国民的素養だ」。

 

これは文部科学省がよく使う言葉ですね。これもお役所がわれわれに説明する分にはいいのですが、先生方が生徒に説明する言葉ではないと思っています。

 


 

どれも正しいし、どれが間違っているというわけではないのですが、全ての生徒に情報科を学ぶ理由が伝わるのか、というと、ここまでの答え方ではちょっと疑問に感じます。

 


 

では、どうしたらよいか。

 

「情報の先生」は、漢字をよく見ると、「情報社会を『先』に『生』きている人」だということを表していると言えます。

 

ですから、これまでの情報社会を自分がどう生きてきたのか、そして、これからも大きく変わっていく社会をどう生きていこうとするのかを、自分の言葉で、自分の経験を踏まえて説明することが大事なのではないでしょうか

 


 

例えば、「じゃああなたはどう答えるのか」と言われたら、私の場合は、これからは大きく変わるとしても、少なくとも今までの情報社会を、自分としては上手に生きてきたと思っています。

 


 

例えば、今までは、新聞や本を出すといったことでしか、多くの人に考えを伝えることができなかった。それが、自分の考えを多くの人に伝えることができるような時代になり、多くの人と出会うこともできました。SNSも含めてインターネットでいろんな人と出会い、多くのチャンスをいただきました。

 

今、自分がこの校長という職になったのも、そういうチャンスをいただいた一つの結果だと思っています。そして、人生が実に豊かになったと思います。いろんな人と出会い、いろんな人と価値を作り、何かクリエイティブな仕事をしていて、本当に実に豊かです。

 

 

そして、そのことは自分の人生が豊かになるだけでなく、結果的に社会にも貢献している。そういうことを実感して、自分も幸せ。つまり、社会も貢献しているという多面的な幸せ、Well-beingにつながっていると感じます。

 

人それぞれ経験は違いますし、語ることも違うと思いますが、「こういう人生を送るために情報科を学ぶんだよ」と、自分の経験や自分が情報社会にどう関わってきたのかをベースに、生徒に伝えていってほしいなと思います。

 


 

教科書に載っていることや、学習指導要領に書いてあることで、情報科を学ぶ意欲を高められるのはもちろん大切です。

 

その上で、やはり生徒たちよりも先に生まれて、先に情報社会を生きているわれわれが、経験や実感していることを伝えていく。これが情報の先生の大きな役割なのだと思っています。

 

神奈川県情報部会実践事例報告会 2022 オンライン オンデマンド発表より