事例248

大学入学共通テストにおける「データ分析」の対策に向けた実践の検討

東京都立神代高校 稲垣俊介先生

ジョーシン2022秋
ジョーシン2022秋

本日は、『大学入学共通テストにおける「データ分析」の対策に向けた実践の検討』というタイトルで、私の思いをお伝えしたいと思います。

 

まず自己紹介です。私は東京都立高校の情報科の教員です。2007年に東京都立高校の情報科の教員として採用され、今に至っています。神奈川県立希望ヶ丘高校の校長先生である柴田先生の「情報科.net」(※1)を見て、情報科の教員となった世代です。情報科採用の先生方の多くは、柴田先生のサイトを見て学んだと思いますが、私もその1人です。

※1 http://www.johoka.net/

 

ちなみにその柴田先生と私は、11月23日に朝日新聞のオンラインセミナーで、『大学入試「情報I」の準備と対策』について共演させていただきまして、すごく嬉しかったです。アーカイブの動画(※2)もあると思いますので、よろしければぜひご覧ください。

 

※2 https://terakoya.asahi.com/article/14790991 (会員登録が必要です)

 


 

また、私は東京都立高等学校情報教育研究会の「情報I入試検討専門委員会」の委員長をしています。それが私の今の主軸の一つであり、情報入試について取り組みを検討することは、自分の役割だと考えています。

 

その他、教科書や問題集等の執筆を含めて問題の検討をしています。まず必要なものは教材であり。特に良質な問題が現場には何より必要ではないかと考えています。私の考えでは、良質な問題さえあれば授業を作ることができると思っています。だからこそ、共通テストに向けて良質な問題を少しでも多く世の中に出していくことが大切だと考えています。先生方も、ぜひとも一緒に問題を作っていきましょう。

 

情報科も入試対策は必要!

ここから本発表の概要を申し上げます。まずこの発表は、「情報入試が始まる。対策はどうしよう」という私の声から始まります。普段どおりの授業だけで、本当に入試対策となるのかということです。

 

正直に申し上げますと、普段どおりの授業だけでは入試対策としては厳しいです。他の教科も入試対策をしているのに、情報科だけは必要ない、ということにはならず、他の教科と同様に情報科も入試対策を行う必要があると思います。

 


私も含め、情報入試を意識せずにこれまで授業をされてきた情報科の先生方は、今後は入試を意識することが求められると考えています。

 

その対策をする上で、今一番参考となるのが、試作問題であると考えます。それもそのはずで、大学入学共通テストを出題する大学入試センターから出された公式の問題なのですから、一番参考になるのは当然です。

 


では、自分の授業が、その試作問題を解ける問題になっているのか、ということです。この部分を考察し、検討するということがこのプレゼンの内容です。ぜひとも一緒にお考えいただきたいと思います。

 


私が所属する都高情研では、『令和 7 年度大学入学共通テスト試作問題「情報」に関する本会の見解』を述べています。これは3点にまとめられており、1つ目は情報Iで育成を目指す、資質能力を問う問題であること。2つ目は学習指導要領の四つの領域が網羅されている問題であること。そして3つ目が、社会や身近な生活の中の題材を取り上げている問題であることです。

こちらは現場の教員からの視点で書き上げました。ぜひともご一読いただければと思います。

※3

http://www.tokojoken.jp/joxmujsij-98/#_98

 


1項目の『「情報I」で育成を目指す資質・能力を問う問題である』の項では、「情報I」の授業で体験的な学びを経験していれば、より早く正答を導き出せる問題となっている、と書かれていますが、特に注目をしたいのは、「情報Iで体験的な学びを経験」というところです。

 


つまり、生徒に「情報I」の授業で体験的な学びをさせた上で、さらに問題を解くこと慣れさせることができたとしたら、それは入試対策となると考えました。

 


 

次に、3項目目の『社会や身近な生活の中の題材を取り上げている問題である』の項です。『社会や身近な生活を題材として作問されている。このような題材は、問題の発見・解決に向けて考察する力を養う、情報Iでの学習が生かされる内容となっている』と書かれています。

 

特に注目したいのは、「社会や身近な生活を題材」というところです。つまり、生徒にとって「自分事」と思える題材で学習することが求められているのです。

 

この「体験的な学び」とは、生徒にとって「自分事」である学びなのです。それをもって、さらに問題を解くことに慣れさせる授業とすることがよいのではないかと考えました。

 


 

問題演習 vs. 体験的な実習 どちらが先がよいか? まず問題から入ってみる

11月9日に共通テストの試作問題「情報I」が大学入学センターから公表されました。問題は大きく4つ出題され、そのうちの第4問がデータ活用の部分の問題でした。

 

そして、ここで検討したいのが、体験的な実習によって、その力試しに試作問題などの問題演習をするのがよいのか、それとも問題演習を通じて学ぶ内容を理解し、その上で体験的な実習をさせるのがよいのか、ということです。今回、私は問題演習によって基礎的な力を身に付けさせ、そしてその後、思考を伴う体験的な実習をさせることにしました。

 

一般的には、上に書いたように、実習をさせてから問題を解くほうがよいとされるかもしれません。しかし今回は、体験的な実習を通じて、この問題が生徒たちにとって自分事であると思わせるもくろみもあります。最後にこの授業で行ったことが自分に大きく関わりがあることを認識させるためにも、この順番がよいと考えました。

 


 

まず、試作問題の第4問で問題演習を行いました。第4問はデータ活用の問題です。生徒と一緒に問題を読んで、特にこの下線部分を注目させました。

 

 

表1-Aは、スマートフォン・パソコンの使用時間が1時間未満の人、すなわち、あまり使ってない人の生活行動時間の県別のデータ、表1-Bはスマートフォン・パソコンの使用時間が3時間から6時間未満の人、すなわち比較的、利用時間が長い人の生活行動時間の県別データであることを生徒に確認させた上で、問題を解き始めます。

 

 

この問題は、仮説を検討して、分析ができない仮説はどれかを聞いています。

 

最初の選択肢は、『使用時間が長いグループは、使用時間が短いグループよりも食事の時間が短くなる傾向がある』とありますが、これは分析ができる仮説でしょうか。食事の時間の比較をすることで、使用時間が長いグループは、使用時間が短いグループよりも、食事の時間が短くなる傾向にあるかどうかを調べることができますよね。ということで、これは分析ができる仮説である、というわけです。生徒たちには、このように問題を解かせた後に解説をしていきます。

 

 

生徒にとって「自分事」のデータを使った「体験的な実習」

次に、体験的な実習です。先に述べたとおり、体験的実習には、必ず生徒の自分事にする必要がある、と考えています。生徒にとって自分事にするためには、試作問題のように自分自身と関わりのないデータで実習をさせてはいけません。生徒にとって面白いデータではないからです。

 


興味を持たせるためには、自分に関わるデータ、すなわち生徒にとって自分事のデータを使います。今回は、生徒のスマートフォンに関するデータをアンケートで集めて、その分析を行う実習を行いました。このデータは、自分を含めて同じ学校の仲間たちのデータであるからこそ、自分事として取り組みことができるはずです。

 


 

Googleフォームを使ってアンケートを取りました。スクリーンタイム等のスマホの機能を使ってデータを取ります。

 

アンケートの内容はこのような感じです。量が多いので全ては紹介できませんが、多くは利用時間、またはtwitterのツイートの数など、量的なデータが取れるアンケートとしました。このアンケートは、先日予行として行っており、3学期になったら、さらに項目を検討して本実施とする予定です。

 

 

生徒には個人情報等のデータは一切載せていない状態で全体のデータとして配布します。以前にも近い実習をしたことがありますが、生徒たちはこういったデータを見ると、かなり盛り上がります。

 

 

いったん盛り上がりが落ち着いたところで、「このデータから分析ができる仮説を立ててみよう」という実習をします。さらに「そこでは、本当に自分が調べてみたい、分析をしてみたいと思える仮説を考えてみよう。自分が調べてみたいと思わなければ、本気で分析することはできないでしょう?」と生徒たちに持ち掛けます。

 

そうすることで、生徒たちは、ただ課題の提出のために仮説を立てるのではなく、本当に自分が調べてみたい、と思えるような仮説を立ててきます。その後、その仮説を基に分析をしていきます。

 

「分析できない仮説を見つける」よりも、自分達で仮説を立てることの方が難しい

さて、もうお分かりのように、この実習は、先ほどお話しした問1に対応しています。問題にあったように、分析のできない仮説を見つけるよりも、実際に自分たちで仮説を立てるほうが難しいでしょう。しかし、自分たちのデータであり、自分事であるスマホのデータであるからこそ、熱心に取り組んでくれるはずです。

 

 

試作問題では、この問題に続いて箱ひげ図の問題や散布図の問題が続いていきます。これらも、先ほどの自分たちのデータを使って、グラフを作成していくということを行います。

 

 

例えば散布図であれば、相関を調べてみるわけです。そして、実際に問題を解いた後にこのような実習を行うことで、基礎知識を持った思考をしながら実習ができると考えます。

これらの実習は3学期に行う予定ですが、面白い実習になると期待しています。結果は別の機会でお知らせしたいと思います。

 

 

実は、私が昨年度提出した博士論文(※4)の第7章で、これに近い実践を行っています。この実習はインターネット利用を、心理・行動特性に踏み込んで分析をしています。皆さんの実践を考える上で、参考になる資料になると思われますので、もしよろしければ、こちらのQRコードからダウンロードして、ぜひともお読みいただき、ご感想もいただけると嬉しいです。

※4 

http://hdl.handle.net/10097/00135847

 

最後に、まとめと意見を申し上げます。

 

試作問題は良問ですので、実習にぜひとも利用したいと思っています。しかし、そのままでは生徒に興味を持ってもらうことはできません。

 

生徒に本気で取り組ませるためには、生徒にとって自分事にすることが必要なのです。

 

この実践では、生徒にとって絶対の関心事であるスマホのデータを使うことで、自分事として取り組んでくれると思います。

 


 

今回は、『大学入学共通テストにおける「データ分析」の対策に向けた実践の検討』というテーマでお話ししました。ぜひとも皆さんのご意見やご感想をお待ちしています。私のサイトにフォームがありますので、もしよろしければ、そちらにご感想やご意見等をご記入ください。そして、一緒により良い実習を検討していきましょう。

 

神奈川県情報部会実践事例報告会2022オンライン オンデマンド発表より