事例220

自作オンデマンド型動画教材を使った、本気(ガチ)の反転授業 ー単元 統計分析編ー

神奈川県立横浜翠嵐学校 三井栄慶先生

神奈川県情報部会 情報科実践事例報告会2019より
神奈川県情報部会 情報科実践事例報告会2019より

今回の実践報告をする前に、「三井、授業考えるってよ」ということで、3つのことを考えました。

 

初めに、こちらが今年の私の時間割です。月曜日の2時間目、3年5組で「情報」の授業をすると、黄色のアミのところで同じことを繰り返して話すことになります。また、火曜日1時間目の3年6組の授業をすると、こんどはピンクのアミのところで同じことを話すことになります。

 

ということは、最初の3年5組と3年6組の授業にあたるところを動画にすることで、他のクラスでも同じように授業ができないかな、と思った次第です。

 

2つ目が授業の時間配分です。本校は45分の授業ですが、冒頭の5分は授業の目的を伝えることに、最後の5分は授業の内容の振り返りに使います。

 


さらに、振り返りの前の10分は、生徒同士情報を共有したり、自分で考えを深めたり、小グループで共有したりという時間に使います。

 


また、冒頭の5分の次の15分は、例えばGoogleスプレッドシートの使い方や動画の作り方、デザインの仕方など技能的な説明にあてられます。

 


 

 

このように考えると、実際に個人で作業をする時間は、45分の中で10分程度ということになってしまいます。従って、冒頭の20分間を、動画教材をうまく使うことで、作業の時間を増やすことができるのではないかと思った次第です。

 

 

3つ目です。神奈川県では今年9月に、新型コロナ対応で分散登校を行いました。本校は、分散登校期間は基本的にオンデマンド教材で対応することになったので、情報科は9月は対面の授業を全く行いませんでした。

 

そのため本来4か月でやるべきことを、3か月でやらなければいけないことになり、時間が足りないということが危惧されました。こういったもろもろの事情を踏まえて、今回は「自作オンデマンド型動画教材を使った、本気(ガチ)の反転授業」を提案したいと思います。

 

 

今回のお話は、このような先生がたにおすすめです。

 

「何となく動画作ってみたい」という先生がた、私のように1人でたくさんのクラスを担当しているかた、また学校によっては、たくさんの先生で同一の科目を展開していることもありますが、こういった場合も有効だと思います。

 

表計算ソフトなどの技能系の時間を少しでも圧縮したいと考えていらっしゃるかたや、欠席者に対してどのようにアプローチするか、ということを苦慮されているかたにもお勧めです。さらに、より広い視野で、コロナ関係で休校になったときの対応に悩んでいる先生にも、1つのヒントになるのではないかなと思います。

 

 

表計算ソフトは動画教材で学び、授業では既習事項として扱う

 

こちらが今日のお話の目次です。まず授業の流れと動画作成のノウハウをお話しさせていただいた後、実際に生徒が授業をどのようにとらえたかを報告し、最後に今後の課題で結びとします。

 

 

まず授業の流れです。単元の「統計分析」については、ここに挙げた4つの単元で構成されていますが、先ほどお話ししたような事情のため、「0.表計算ソフトウェア」については全てオンデマンド動画教材配信し、対面授業再開の時には既習事項として扱いました。

 

それ以降の「1.相関分析」については、対面授業でも取り扱いましたが、オンデマンドで予習用の教材として動画も常に配信する、という形で授業を構成しています。

 

 

内容の詳細については、後でご紹介する特設サイト(※)をご覧いただければと思いますが、相関分析、乱数シミュレーション、そして最後推定検定を行いました。

 

 ※https://sites.google.com/view/gachi-hanten/

 

 

動画の作成には特殊な機材を使わず、手軽なもので十分できる

 

動画作成のノウハウについて、よくいろいろな質問をいただきますが、私は特殊な機材は一切使っていません。

 

 

例えばこちらの写真ですが、私はふだんWindows系で仕事をしているので、スプレッドシートの使い方の動画は、Windowsに標準でついているスクリーンショット機能をそのまま使って作っています。

 

 

録音も特殊なマイクではなく、量販店で2000円くらいで売っているような一体型のヘッドホンマイクを使っています。

 

 

また、自分自身を被写体として撮るために、量販店で4000~5000円で売っている脚立を買いました。

 

これは授業のためだけでなく、部活の動画撮影でも使っています。これはiPhoneをセットできるので、私の私物のiPhoneを取り付けて動画を撮っています。

 

 

実際の授業動画は、このようなスペースで撮影しています。

 

 

場面を1つ2つ差し替えたり、少し字幕を入れたいという場合はAdobeのPremiereRushで編集しています。これは割合使い勝手が良く、すぐに覚えられるので、自分にはちょうどよかったかな、と思います。

 

 

生徒は動画教材の授業で理解を実感

 

このような授業を受けて、生徒たちは実際どのように思ったか、ということについてお話しします。

 

神奈川県の県立高校の授業評価のフォーマットでは、質問がいくつかありますが、「単元のねらい等を示しているか」、「授業の中で身に付いたことは、できると実感できたか」、「授業でやったことをそれまでに学んだことと関連づけて理解できているか」ということを4点法で聞いています。

 

選択肢は1から4までありますが、実際は1・2と3・4にはかなり開きがあるので、3・4のところに入っていれば、おおむね好意的にとらえた、と判断できると思っています。

 

 

まず、「単元の初めにねらいを、単元の終わりに振り返りを行ったか」ということについては、ご覧のように、9割強の生徒が「当てはまる」と感じています。

 

 

「授業で『できる』と実感できたか」ということが、私は一番不安でしたが、動画教材で内容の一部を先に出しておいた割には、「当てはまる」と好意的にとらえた生徒が多かった、というのが正直な印象です。

 

 

また、「関連づけて理解できているか」ということについては、それぞれの内容が単発的になっていないか心配でしたが、動画と動画を組み合わせて見たりすることを行っているので、9割程度の生徒が、「できている」と答えています。

 

 

動画は作り込み過ぎず、POF資料をしっかり作る

 

これらを受けての今後の課題です。

 

実際に理解できたのはなぜか、というところについては、意外に生徒たちは動画を1回しか見ないのですね。1回見て、繰り返したり、見忘れがあったりした場合については、PDFを見るということの方が多かったです。

 

ですから、PDF資料はプリントを作りこむイメージでしっかりと作っておいて、動画そのものは、PDFの抜粋版というイメージで作ると、動画の量も増やせます。動画を作り込み過ぎないというところが、1つのポイントかなと思います。

 

また、教員側が予習をベースとした授業スタイルに転換できるか、というところも大きなポイントです。「予習を必須」としてしまえば、かなり進みやすいのですが、予習しきれなかった生徒にどう対応するか、というのは課題が残る部分になります。

 

そうした意味では、1人1台PCの動きが加速すると、もっとこの流れが推進できるのではないか、と個人的には考えています。

 

先ほどの「授業で学んだことが『できる』と実感できるか」という質問に対して、生徒は動画による反転授業でやればできるといういうことを感じ取っていることがわかりましたので、我々はもう少し力を注いで動画による反転授業を少し目指していってもよいのではないかと思います。

 

「情報I」の内容はかなりボリュームがあるので、少しでも予習することで、先に内容に触れさせておく、という姿勢を作っておくと、生徒に実際に議論させたり、試行錯誤させたりする時間が増えるのではないか、ということで今回提案させていただきました。

 

 

今回使った動画の教材とPDFについては、特設サイト(※)にあげておきますので、自由にお使いください。

 

どんどん使い倒して、改変していただいて構いませんので、これはと思ったらぜひ使っていただければ幸いです。

 

https://sites.google.com/view/gachi-hanten/

 

神奈川県高等学校教科研究会情報部会情報科実践事例報告会2021オンライン オンデマンド発表より