令和3年度神奈川県高等学校情報部会研究大会

「メッセージを込めた情報教育」の提案

四天王寺大学 間辺広樹先生

情報処理学会第81回全国大会 シンポジウム より
情報処理学会第81回全国大会 シンポジウム より

今回は、文部科学省の「高等学校『情報』実践事例集」に書いた事例について、ご紹介します。詳しい内容は、この事例集を読んでいただければおわかりになると思いますので、今回はその背景や、こんな考え方で作ったということを中心にお話ししたいと思います。

 

https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/detail/mext_01342.html

 

現在私は、四天王寺大学の高等教育推進センターにおりますが、今年3月まで、神奈川県立高校の教員で、この情報部会でも活動しておりました。大学では、今年設立された高等教育推進センターに配属されて、大学全体の基礎教育やIC教育、数理データサイエンス教育の授業や、カリキュラム作成の仕事をしています。

 

 

意識や行動の変容のためには「メッセージ」が必要

きょうのキーワードは「メッセージ」です。この言葉は、単なる「知らせ」とかいう意味から「(ハート付きの)想い」まで幅広く使われていますが、今日お話しするのは、どちらかというと、この「想い」の部分です。「想い」というのは、単に言葉に限らず、行動や態度といったものでもあると思います。

 


 

教育の目標というのは、ただ単に知識や技術を習得させるだけでなく、生徒の意識や態度の変容を促すということがあると思います。この「意識や態度の変容」には、「メッセージ」が必要なのではないか、ということです。

 

皆さんは、高校生と情報との関わりの問題点をどのようにとらえていらっしゃるでしょうか。私自身、非常にたくさんあるように思います。ここに挙げたような問題は、知識というよりも、意識・態度の部分に関わるものです。ですので、私はこれまでいろいろなアプローチで、生徒のこういった考え方や態度を変えていく試みをしてきました。

 

 

背景としては、やはりこのコロナ禍のために一斉休校になったことで、教員として、というよりまずひとりの人間として、いろいろ考えさせられたことがありました。一体、我々はどう過ごすべきだったのか、未だにきちんと答えは出ていませんが、強烈なメッセージを発信し続けた2人のリーダーについてご紹介したいと思います。

 

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一人が川崎北高校の柴田先生です。毎日毎日、ホームページやtwitterで、生徒に対しても先生方に対しても、励ましや授業のノウハウなど、いろいろなことを発信して来られました。この強烈なメッセージは、川崎北高校の生徒や先生はもちろん、保護者や我々にも、非常に大きなものを与えてくれたと思っています。

 

そしてもう一人が、日比谷高校の校長先生だった武内彰先生です。現在は私立高校に移られましたが、一斉休校中の生徒の学びを保証するために、いち早く校内にプロジェクトチームを作ってオンラインで授業を行いました。結局、学校が再開してからも、オンライン授業には結構効果があるということで、しばらく継続されていました。結果的に、東大の現役合格者が48人と大幅に増加しましたが、オンライン授業を活用したことも、よい方向に影響したのだろう、とおっしゃっておられました。 

やはり、こういった緊急事態にこそ、このようなリーダーシップは非常に重要であることを感じました。

 

こういった事態で、自分にできることは何かと考えたとき、リアルタイムのZoomの授業もできないわけではありませんでしたが、むしろオンデマンドの授業を、動画を作って発信することにしました。とにかく学びを止めないこと、授業を保障することが大事だということで、今までやったことに挑戦してみようと思ったわけです。

 

 

先生からのメッセージを込めた動画を制作、生徒からは大きな反響

このとき、私は2学年全員、約630人に対して授業を行っていましたが、1年生・2年生の両方に、ここに挙げたような10分~20分程度の動画を配信しました。動画ではあえて自分の顔を出し、動画のキャラクターを設定しました。それを通して、「下手な動画だけど、先生も頑張っているんだよ。君たちも頑張ろうよ」ということを、言葉にはしなくても、メッセージとして伝わってくれたら、とを考えたのです。

 

内容自体にもメッセージを込めました。先ほど生徒の問題点を挙げましたが、生徒はパソコンで遊べない。クリエイトができないのです。先ほどの導入テストの報告にもありましたが、ICTの用語も全然知りません。ですので、ふだんこんなに使ってるのに知らなかったのかということを、意識させるような動画にしました。

 

こちらが、最初に作ったタイピングの動画です。キーボードを描いた紙を色分けするときに、妻に「色鉛筆を持っていない?」と聞いたら、持って来たのは、小学校のとき使っていたものでした。それを動画にネタとして入れたら、生徒からのコメントでそこが結構ウケまして、「奥さんすごいですね!物持ちがいいですね」みたいなことがたくさん返ってきました。

 

そこから私もちょっとはじけて、キャラクターを用意したり、それをアニメ化したりして登場させながら、でも内容は偏差値の計算をさせたりと、きっちりやりました。最後には、ドリトルで作ったプログラムで、生徒のスマホにも表示することもしました。

 

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結果的には、生徒が非常にいい反応をしてくれて、「わかりやすかった」とか「楽しかった」とか、中には「お母さんと一緒にやっています」とか言ってくれた人もいました。私が三十数年やってきた教員生活の中で、最も生徒とのコミュニケーションが取れた時間だったかな、と思います。と同時に、動画の効果というものをものすごく感じられるようになりました。

 

 

今は大学で教えるときに、事前に動画を配信して予習させておく反転授業を行っています。学生は1000人いますが、動画は私ともう一人の情報系専任教員で作り、授業のほとんどは外部講師にやってもらってます。動画を使うことで、そういった形の授業が可能になったということですね。

 

 

「スマートフォンの向こう側」の授業で伝えたかったこと

ここからは、事例の紹介をします。先ほどもお話ししましたが、生徒たちが仕組みを知らない・知ろうともしないとか、あるいは使っている用語の意味がわかっているということは、これから結構大きな問題になるような気がします。ですから、それをいかにして知らしめるのか、意識を高めさせるか、ということを目的とした授業です。

 

間辺先生の授業事例「スマートフォンの向こう側」

https://www.mext.go.jp/content/20210419-mxt_jogai01-000014055_006.pdf

 

 

事例集には、5時間分の授業を挙げましたが、こちらが1時間目で、全体のストーリーのスライドです。

 

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その後、学校が再開して、先ほどの続きから対面での授業ができるようになりましたが、情報通信ネットワーク用語の意味の理解で1時間取りました。用語は、私たち教員はすぐ教えたくなってしまうものですが、私はむしろ、それを使ってるのに知らないのはまずい、ということを生徒自身に意識させることの方が大事だと思います。

 

実際、ここに挙げたようなプリントを配って答えさせると、生徒は全然書けません。この生徒は「Local Area Network」だけ正解で、あとは全部間違っていました。これが2時間目にやることです。

 

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3時間目はネットワークの歴史と仕組みについてです。情報技術に興味を持ち、ネットワークの仕組みを知るきっかけとなるように、お絵描きをさせてみました。左上の絵は、この時期、ちょうどロシアが世界初の新型コロナワクチン作ったことが話題になっていて、それが「スプートニクV」という名前だったので、世界初の人工衛星の名前と関連付けてくれたらいいかな、ということで入れました。

 

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4時間目は、情報システムで使われるデータベースMSを意識させるための実習です。データベース実習支援ツールsAccess(※)を使って、サーバとクライアントの間のデータの流れを理解するための実習を行いました。

http://saccess.eplang.jp/

 

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5時間目は、モジュール分割とWeb APIの活用についてです。情報科の「教員研修用教材」には、Web APIを使うことまで載っていて、どうやって取り入れたらよいのか、と思います。

 

今回は知り合いのプログラマーに手伝ってもらって、Web APIのプログラムを提供してもらい、実際にプログラムを実行して、データがどのように共有され、流れていくかということを体験しました。

 

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「なぜこれを学ぶのか」を伝えられる授業を目指して

ここまでの話で、教員個人が授業でメッセージを発信する必要があるのか、と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、私はそのメッセージに妥当性があればよいと思います。これがないと、授業は単なる自己主張の押し付けになってしまいます。それではいけないと思うのです。

 

 

メッセージの有無は、受け手に伝わります。特に最近では、どこかの国の偉い人が、いつも下を向いて原稿を読んでいますが、あれではメッセージは伝わらないと思います。ですから、それぞれの先生方が、それぞれの内容についてメッセージを発信できることが大事です。

 

プログラミングが必修になったり、大学入試に入ってきたりして、先生方は本当にいろいろ大変だと思いますが、例えばプログラミングの授業であれば、それぞれの先生が「なぜプログラミングを学ぶのか」という熱いメッセージを発しながら、授業をされるようになることをお祈りしています。

 

 

[質疑応答]

Q1.言葉を知ることが仕組みを知ることにつながりますが、どのように意識させたらよいでしょうか。

 

A1.おっしゃる通りで、意味がわかることで理解も進みます。例えばBYODであれば、頭文字を取ってつないだものですから、元の意味がわかっていれば、内容もわかるわけです。生徒には、新しい言葉が出てきたら、必ず元の言葉が何かということを気にしなさい、ということは言っています。

 

 

Q2.一つの教材にどのくらい製作時間がかかっているのでしょうか。また、教材作成のコツなどあれば、お教えください。

 

A2.動画の教材について言えば、慣れだと思います。何本も作って、慣れることによって操作自体は早くなりましたが、そうなるとストーリーなどに凝るようになって、けっこうそこで時間がかかったりしました。でも、すごく面白かったです。これは生徒に受けるかなと思ってやったことに反応があったりすると、どんどん凝ったものにして。それでも、やはり楽しむことがとても大事で、動画にしてもアニメーションにしても、これで生徒たちが一生懸命、考えてくれるかなということを想像して、実際にそうなったときっていうのは本当に嬉しいです。

 

先ほどお見せした、用語を書かせる小テストは、実に単純な教材ですが、生徒はすごく一生懸命やります。あと、時事ネタを入れることもとても大切だと思っています。テストでも必ず時事ネタを入れます。「授業で説明していないけれども、時事問題を出題するから、ちゃんとニュースを見なさい、新聞を読みなさい」と予め言っておきます。最近であれば、ファスト映画などもテストに出すとおもしろいと思います。