事例167

愛知県におけるオンライン学習支援の取り組みについて

愛知県立尾西高校 柴田謙一先生

情報通信機器端末が家庭にない生徒も

ご本人提供
ご本人提供

本校は、愛知県一宮市にある県立高校で、1学年4クラス(6クラス展開)という小規模な学校です。

 

今回、オンライン学習支援を進めるにあたり、情報通信機器端末等の調査を行いました。最初に調査したのは、情報通信機器端末等が各家庭にどの程度整備されているか、ということです。

 

こちらは未整備率です。回答数354名中、自分用のスマートフォンがないと答えた生徒が14名、自宅にWi-Fiがない生徒が13名、映像出力の機器が何もない生徒が2名ということでした。

 

 

県教育委員会のICT支援

 

次に、県の教育委員会による「オンライン学習支援」の支援についてご紹介します。

 

愛知県教育委員会では、県立高校全てに対して一括で、リクルート社の「スタディサプリ(※1)」とロイロ社の「ロイロノート(※2)」のアカウントを付与しました。

 

また、それらの導入に関するサポートとして、フジア社の「フジ子さんサービス(※3)」といわれるICT導入支援サービスが用いられることになりました。

 

  

ただし、これらの運用は6月からだったので、3月からの一斉休校では使うことができませんでした。今後の第2波、第3波、または、通常の授業でのオンラインを取り入れた授業の展開への活用が見込まれています。

 

(※1) https://studysapuri.jp/

(※2) https://n.loilo.tv/ja/

(※3) https://fujiko-san.com/

 

 

機器整備については、夏休み明け頃に配備される予定ですが、生徒用のタブレット端末とモバイルルータが各校に40台ずつ入ります(その後80台に増台)。これについては、自分のスマホやパソコンなど、端末を持っていない生徒に貸し出しをするものになります。

 

 

教員用モバイルルータはクラス数分付与される予定です。これは、担任の先生が各1台持ち、休校等になった際、こちらを利用して朝のSTなどを行うために使うものです。それから、動画撮影用のマイクやプロジェクタの追加配備、普通教室の無線APの配備等々は、ギガスクール構想との兼ね合いもあるようです。

 

また、インターネットの回線については、4月5月に各学校がYouTubeやZoomを使おうとしたとき、1ギガbpsでは全然足りなかったため4ギガbpsに変更されました。さらに、Zoom接続用端末に関しては、それぞれの先生が勝手に始めると、回線がいっぱいになってしまうので、各学校4台までということで専用端末が4台配備されました。

 

本校が行った一斉休校時の取り組み

 

(1) 密を避けるための工夫

 

次に、本校の一斉休校時の取り組みについて紹介したいと思います。まず、出校日についてです。3月に休校になり、その後4月に入学式があって、翌日が始業式でしたが、この始業式からが休校延長という形になりました。

 

県からは「週に2回程度の範囲でなら出校日の設定をしてもよい」という通知が来ていたので、本校では月に2回程度の出校日を設定しました。愛知県の他校の状況を私のわかる範囲で聞いてみたところ、始業式に出校してから、緊急事態宣言が解除されるまで、出校日は設定していないという学校もたくさんありました。

 

本校が出校日を設定できたのは、総生徒数380人の小規模校であること、1クラス平均20人の少人数教育を行っていたこと、最寄り駅の公共交通機関はローカル線・バスは時間によっては2時間に1本と乗降客が少ないこと、自転車通学が多いことなど、いわゆる「3密」が回避しやすい環境にあったためです。

 

ただし、登下校時の昇降口などは生徒たちが集中しやすいため、登校時間や登校日を学年ごとに設定するといった対応をしました。

 

登校することに不安を訴える保護者や生徒に対しては、要望に応じて柔軟な対応を心掛け、生徒には非一斉登校日以外の日に登校をしてもらい、提出物を出してもらったり、こちらからの連絡事項を伝えたりしました。

 

 

(2) 利用機器について

 

情報通信機器端末については、ほぼ全員がスマートフォンを利用しています。パソコンの所有率は低く、一部のクラスで調査をしたところ、パソコンを持っているのは、全体の2~3割程度でした。

 

情報通信端末がない生徒に関しては、YouTubeの動画をDVD等に録画したものを配布するという形で対応しました。

 

何も機器がない2名の生徒には、ポータブルのDVDプレーヤーを貸し出して対応しました。

 

 

(3) 学習の進め方

 

4月上旬までは春休みという扱いだったので、春休みの課題が出されている状態でした。

 

4月7日が始業式で、ここからが新学期スタートのはずでしたが、休校が延長されたため、実際には出校日に、オフライン課題やいわゆる通常のプリントなどの課題を配布・回収して、対応しました。

 

4月の7日、20日、24日の3回、出校日が設定されていたので、まず、7日から20日は休校課題1、20日から27日は休校課題2という形で、オフライン課題を出しています。

 

そして、5月の中旬(ゴールデンウイーク明け)から5月の下旬の休校解除までの期間で、オンライン課題に取り組みました。5月の11日から13日の3日間で、学年別出校日を設けたので、ここでオンライン課題に関する説明文と、それに伴う課題の配布を行い、それまでのオフライン課題を回収しました。

  

 

 

当初は、5月いっぱい休校という予定だったので、この3週間は、オンライン課題を予定していましたが、愛知県では、5月25日から学校再開準備期間となり、分散登校が開始されました。そのため、実際にYouTubeを使ったオンライン課題に取り組んだのは、実質2週間程度ということになりました。延べ100本の動画を各教科で作成し、YouTubeで限定公開という形で配信しました。

 

 

YouTubeを使った本校独自の取り組み

 

(1) 学校全体で行った取り組み

 

動画撮影時の注意点については、いろいろな先生方がネットで情報を公開されています。それらを参考にしながら検討し、生徒たちの集中力を考えて長さは5分から10分程度、とにかく長くしすぎないということを意識しました。ただ、数学の問題解説などは、どうしても長くなりがちなので、数学の先生には「1問で1本の動画を撮る」ぐらいのつもりでいてほしいと、配慮をお願いしました。

 

撮影機材ですが、現在愛知県の教員には、1人1台Microsoft社の Surface Go(※4)が貸与されています。カメラも内蔵されているので、基本的にはその端末を使って撮影し、専門的な機材は使用しないことにしました。また、こだわり始めると時間がかかってしまうので、撮影は原則一発撮りでリテイクしないこと、まずはある程度の本数を出さないと生徒が学べないので、とにかくたくさんの授業動画を作ることをお願いしました。

 

(※4) https://www.microsoft.com/ja-jp/surface/business/remote-work-solutions

 

動画の編集も、同様の理由で「あまり細々としないように」ということにしました。ただ、むしろ動画の編集をしたことがないという先生の方が多く、失敗したら最初から全部撮り直すという事態が多々あったため、「もし失敗したら、数秒間空白の時間をとって、そこからもう一回何食わぬ顔で続けてください、そこの空白のところだけカットすればいいですから」というお願いをすることもありました。

 

それから、著作権に関してですが、教科書についてはある程度利用可能なことが報道されていたので、ご存知の先生も多かったのですが、問題集は教科書とは違うということは意外と知られていなかったので、問題集の利用については、十分に注意を払ってもらうようにしました。

 

動画のアップロードはYouTubeを使って各自で行ってもらい、起案書に限定公開のURLを明記して、教科主任→教務主任→教頭→校長の順で、決済を取ることにしました。決済を取る中で、教科主任は、教科の専門的な観点で動画の中身を確認し、教務主任及び教頭は、外部の人に公開する観点から確認を行ってもらいました。ふだんの授業でも、言葉遣い等には気を付けなければいけないものですが、それ以上に、「外に出すもの」ということで、しっかりと見てもらうようにお願いしました。

 

各学年にサイト公開の担当者を付け、これらの決済が取れたところでホームページの更新作業をしてもらい、公開という形をとりました。

 

(2) 「Zoom」を利用したオンライン授業

 

学校全体での取り組みとは別に、私だけが先行してZoomを用いたリアルタイムのオンライン授業を行いました。これは、今後コロナウィルス感染拡大の第2波、第3波が来たときに、Zoomを使ったオンライン授業が必要になる可能性もあると考え、管理職の許可を得て先行実施したものです。

 

また、コロナ禍によるインターハイ中止で、その機会を失ってしまった3年生の引退試合として、地区の学校でオンラインの弓道大会を行ったので、オンラインの部活動への転用、流用という観点からご紹介したいと思います。

 

その主な目的は、先述の通り第2波、第3波が来たとき、あるいは本校関係者が感染したときの長期休校に対応するため、Zoomを使ってどのように学習を進めていけばいいのかを検証することです。

 

もし、本校関係者に感染者が出たら、先生方はZoomを使ってオンライン授業をすることになるでしょう。しかし、そもそもZoomでどのように授業をしたらよいのかということが、誰もわかっていないのです。そのノウハウの蓄積に加え、今後学校教育へビデオ会議システムを活用することを考えたとき、その研究のための基礎資料を蓄積したいという思いもありました。

 

Zoomによるオンラインリアルタイム授業は、2グループに分けて実施しました。一つは、教科情報の課題研究で、国家試験のITパスポート取得を目指している6名を対象にしたA班。もう一つが、クラス全員20名を対象とした専門教科「情報テクノロジー」を行うB班です。少人数で授業の進め方を確認したかったので、A班で先行実施し、その後B班でも実施しました。

 

 

まず、必要だと思ったのが連絡網の確立です。管理職の許可のもと、このクラスのみSlack(※5)を使って相互の連絡網を作りました。4月7日の時点で、コロナ禍による休校は恐らく長引くだろうという予想は立っていました。そこで、Slackを導入して試験的に2週間ほど使ったあと、4月20日に該当のクラス全員に導入して、連絡に活用しました。

 

そして、「いずれZoomを使った授業をするよ」と生徒たちには伝えておきました。

 

(※5) https://slack.com/intl/ja-jp/

 

 

生徒たちには、事前にZoomをインストールするように指示し、準備を進めました。4月の下旬から5月上旬にかけて、Zoom を使って4回ほど授業を実施した中でいろいろな問題点がわかり、それを改善した上で、5月に入ってからB班でも実施という形にしました。

 

(3) Zoom利用のオンライン授業でわかったこと

 

生徒のアンケート回答数は19名と少ないですが、Zoomを使った授業に関しては、89%がわかりやすかったと答えています。肯定的な意見としては「ホワイトボードがわかりやすい」という回答が多く、普段の授業にできるだけ近い形の方がわかりやすかったと言えそうです。

 

 

また、Zoomを使った授業とYouTubeを使った授業を比較してどうだったか、ということも合わせて聞いてみたところ、79パーセントの生徒がZoomの方がわかりやすかったと答えています。その場ですぐに質問できるというところがよかったようです。ただし、21パーセントは、YouTubeのほうがわかりやすかったと答えています。これは、やはり繰り返し見直すことができるという、オンデマンド形式の利点と考えられます。

 

 

(4) ライブ授業で工夫すべきこと

 

今後、Zoomを使った授業をする上で特に重要になるのは、「ライブ感」を出すというところかと思います。例えば、今私はスライドを使って、オンラインでしゃべっているわけですが、生徒たちはこれではすぐ飽きてしまいます。ホワイトボードを使うなど、普段の授業に極力近い形のほうが、生徒にとってはわかりやすいのではないかと思いました。

 

それから、生徒の顔出しは「基本的にはなしでいい」と言ってしまったため、全員がビデオをオフにしてしまい、わかっているのかわかっていないのかが、こちらからは全然わからないという状況になってしまいました。ここは、大きな課題だと感じています。できるだけ生徒を指名しながら当てていくと、緊張感が出て、生徒たちの集中力も向上するのではないかと思います。

 

 

(5) オンライン弓道大会の開催

 

もう一つの試みとして、ZoomとYouTube Liveを連動させた「オンライン弓道大会」を開きました。今後、例えば、公式戦でも無観客試合の場合や、文化祭・体育祭に保護者は入れないといったような場合も、うまく使うといいのではないかと思い、実際に試してみました。

 

 

当日の様子がこちらです。左上の画面が本部で、指示を出しているところです。これは、中日新聞でも取り上げられましたので、ご覧になった方もあるかもしれません。3年生が24名回答してくれましたが、参加してよかったかと聞くと、100%が「よかった」と答えてくれました。

 

 

また、今後の進路に向けて、切り替えのきっかけになったかどうかを聞くと、96%の生徒が、切り替えになったと言ってくれました。この回答を見て、個人的には取り組んでみて、本当によかったと思いました。

 

保護者からは、「中途半端な形で部活動が終わってしまい、子どもがかわいそうだと思っていた中、オンラインで大会が実現できたのは非常にありがたい」という声をいただきました。また、「普段は遠くにいる祖父母は大会の様子を見ることができないけれど、オンラインなら見ることができて、非常によかった」という意見もいただいています。

 

あとは、できるだけ手元にあるもので行う、ということです。アンケートを見ると、もっといい音にした方がいい、画質を上げた方がいいなどの意見もありましたが、こういった課題をすべてクリアしようとすると、参加する学校が、うちの学校ではそこまでできないからといって、参加できなくなってしまうリスクがあります。とにかく、「今あるもので取り組む」ということが大事だと思います。

 

 

経験を生かしオンライン授業を継続

 

オンライン授業については、コロナ禍の中で、先生方も様々に工夫されていると思います。ただ、学校が再開したあと「もうオンライン授業はやらない」という学校と、「再開しても継続している」という学校に分かれていることが気がかりです。

 

この原稿を作ったのは7月でしたが、すでに他の学校では感染者が出て、休校が始まったりしています。せっかくこの2カ月、3カ月でいろいろなノウハウや知見を得られたのに、やめてしまうのはもったいないこと。オンライン授業を、今後もきちんと継続できるようにしていくことが、とても大事なのではないかと思います。

 

[質疑応答]

 

Q1:アカウントの作り方について、先生はどのような形で動かれましたか。

 

柴田先生A1 : Slackに関しては、メールアドレスがあれば登録できるということでしたので、生徒それぞれが自分のメールアドレスを使って、登録しました。ただ、そのとき問題になったのが、生徒のほとんどはLINEばかり使っているので、携帯電話のメールアドレスを忘れてしまっているということでした。休校になる前に、アカウントを作っておいた方がよかったと思いました。

 

ロイロノートとスタディサプリは県から人数分の権限を与えられているので、その人数分のアカウントを私が作成して生徒それぞれに渡し、それを見ながら生徒自身で登録するという形にしました。

 

Q2 : 先生方が公開された動画に対して、取り決めなどはありましたか。

 

柴田先生A2 : 必ずこうしてくださいという形にはしていません。

 

まず、私の方で「動画作成の手順」の動画を作りました。オンライン授業では、一般的にパワーポイントのスライドを使ったものと、ホワイトボードの前に立って通常の授業形式で行うものがあると思いますが、その両方の説明動画を作りました。

 

特に、指定はしませんでしたが、割合としては、スライドを使ったものが圧倒的に多かったです。ただ、数学などでは、やはりホワイトボードを使った方がやりやすいということで、ホワイトボードを使った形で作っている先生もいらっしゃいました。

 

第13回全国高等学校情報教育研究会全国大会(オンライン大会) 講演より