事例156

教科「情報」における「主体的に学習に取り組む態度」を育てる学習活動の実践と分析

広島大学附属福山中・高等学校 平田篤史先生

次期学習指導要領では「主体的に学習に取り組む態度」を5段階評価することに

本人ご提供
本人ご提供

最初に自己紹介をいたします。私は最初の2年間、大阪の公立高校で情報科の専任教員として勤めました。昨年度から、今の広島大学附属福山高校に転勤して、情報科専任として勤めています。全国でも、情報科専任の教員はまだ数少ないので、こういった研究会でも頑張って発表していかなければならないと思っています。

 

本業の教員とは別に、Google Educator Groups(GEG(※))の広島でも活動しています。GEGは全国に多くのグループがあります。お聞きの方の中で、お近くにグループがあれば、ぜひ一度アクセスしていただければと思います。

 

まずこの研究の背景です。もうご覧になった方も多いと思いますが、次期学習指導要領においてどのように授業の評価を行うか、ということで、国立教育政策研究所から「学習評価の在り方ハンドブック」という手引きが出ています。

 

次期学習指導要領で、学習評価の観点が、これまでの4観点から3観点になったというのは、ご存じのとおりかと思います。特に、「主体的に学習に取り組む態度」は、これまでは「関心、意欲、態度」というところで評価をされていましたが、次期指導要領では、個人内評価ではなく、評定として5段階で評価していくことになりました。

 

※クリックすると拡大します。

 

ただ、いろいろな研究会や勉強会に参加してみても、他の観点に比べて、この観点はどのように評価したらよいのか、どうやって育んでいけばよいのか、という声をよく聞きます。

 

 

この「評価の在り方ハンドブック」には、具体的にノートやレポートの記述や授業中の発言などを材料として、このように見るとよいという例が書かれています。確かに、これで評定の数字を付けることは可能かもしれませんが、その単元を通して知識・技能を獲得したり、思考力・判断力・表現力を身に付けたりすることに向けた粘り強い取り組みの中で、自らの学習を調整しようとする資質・能力をどのように育んでいけばよいのかということは、ここに書かれている内容ではなかなか難しいという思いがありました。そういった中で、「主体的に学習に取り組む態度」をどのように育んでいくかというのが、私の現在の興味の主題です。

 

 

学習者同士の交流は主体的に学習に取り組む態度の育成のために機能するか

それに関して、先行研究を調べてみました。こちらは私の前任校の稲川先生、勝田先生と私が行った2019年の研究です。情報科において、学習した内容を蓄積したり、振り返らせたり、適切なフィードバックを形成的な評価として与えていくことで、子どもたちの内省を促し、自らの学びを客観視し、次の学習へ動機付けを行うことができる、というものです。

 

 

また、熊本大学の八幡(谷口)先生たちの中学校技術・家庭科(消費生活分野)にeラーニングシステムを導入する試み(2008年)では、eラーニングを導入して、クラスの生徒の意見を即座に集計し、スクリーン上で表示して教諭することで、生徒によるシステムの評価結果を観点別に分析すると、関心・意欲・態度で比較的高い評価を受けることができています。

 

 

また、尾崎誠先生と中村祐治先生の2006年の研究では、関心・意欲は、授業の最初とまとめにおける感想の記載内容の変容において、「量」「質」「情意」の3段階で読み取ることが有効であり、方向目標へ向かう情意面の学習状況を、客観的に把握することができた、ということが述べられています。

 

 

これらの先行研究における課題を見てみましょう。

 

一つ目は、教科「情報」における主体性評価の研究が、最初に挙げたもの以外、ほとんど見られないということ。

 

二つ目は、eラーニングシステムを活用することで、生徒から関心・意欲に関して高い評価を受けていますが、授業者が意図的に主体性の形成的評価活動に取り入れて、その有効性を検証した研究はほとんど見られません。

 

三つ目として、これまで主体性を育む学習活動は、学習者と授業者との個人のやりとりのみで実施されてきたのが多く、その有効性は確かに明らかになっていますが、学習者、つまり生徒同士の活動で主体性を育むことに効果があった、という研究はほとんど見当たりませんでした。

 

 

そこで、今回の研究目的は、eラーニングシステムを活用して、学習者間の相互交流を取り入れた学習活動が、教科「情報」において主体的に学習に取り組む態度の醸成に効果的に機能するか、ということを、実践結果の分析を通して検証することとしました。

 

 

授業後の振り返りに加えて全員による「前の授業の振り返り」を行う

今回提案する学習活動は、この二つになります。一つは、クラウド型LMS(Learning Management System)を活用して、ルーブリックを参考に授業の振り返りを実施します。

 

もう一つは、このクラウド型LMSを活用して、次の時間の最初に全員で前回の授業の振り返りを行うというものです。

 

 

この活動を図解したのが下図です。まず、生徒は授業の最後に振り返りを行い、その時間の授業内容について、自分が学んだことや考えたことを、アンケートフォームに入力し、送信します。

 

授業者は、送信された振り返りを、生徒にあらかじめ渡してあるのと同じルーブリックをもとに評価して、次の授業で、クラスの全員が、クラス全体の振り返りとその評価を閲覧できるようにしておきます。

 

生徒は、次の授業の冒頭で「再振り返り活動」ということで、前の時間の学習について、自分だけでなく他の人の振り返りやその評価を見て、もう一度振り返りを行います。これによって、自分の振り返りがどのような評価を受けているだけでなく、自分にはなかった気付きや疑問に触れることができるようにしました。

 

※クリックすると拡大します。

 

この活動のための環境として、クラウド型LMSには、G Suite for Educationを採用しました。G Suite for Educationは、新型コロナの状況下で全国各地で採用されているという話を聞きますが、無料で使えて、導入しやすいシステムであると思います。

 

振り返りに使うアンケートは、LMSの機能の一つであるGoogleFormsを使っています。クラス全体の振り返り一覧をボタン一つで呼び出すことができ、書き出しにはGoogleのスプレッドシートを活用しています。振り返りのアンケートと、これを一覧にして見るためには、Google Sitesという授業用ポータルサイトで設定しました。

 

 

図に起こすと、下図のような形です。生徒は、パソコンでGoogle Sitesの授業ポータルサイトにアクセスします。そこでルーブリックを見ながら、GoogleFormsを使って授業の振り返りを行います。

 

授業者は、集まった振り返りから氏名など個人を特定できる情報は切り離して、振り返りの内容と、それに対する評価だけを表形式で出力して、再度アップロードします。生徒は、次の時間の冒頭に、このサイトにアクセスして、自分と他の人の前の時間の振り返りを見ることができます。

 

※クリックすると拡大します。

 

「情報社会の問題解決」を題材に、情報科の学習の取り組み基盤を作る

 

本校では、高校2年生で情報の授業がありますので、この2年生4クラス、計185名を対象としました。実験群の2クラス79名には、今お話しししたような授業最後の振り返りと、次の時間の再振り返りを実施しました。統制群の2クラスに関しては、この再振り返り活動はせずに、授業最後の振り返りのみ行いました。

 

 

実践した単元は、本校が研究校として、学校設定科目として実施している「情報科学研究入門」で行いました。この中で、「情報Ⅰ」の「情報社会の問題解決」の内容で単元を組み、実践を行いました。

 

この単元を題材にしたのは、鹿野先生の講演のにもあったように、「情報社会の問題解決」は「情報Ⅰ」の中のイントロダクションの役割を持っていて、ここで情報の分野に関して主体性を育てることが、その後1年間の情報科の学習の取り組み基盤を作るために重要であると思ったからです。

 

 

単元の活動は全7回で設定し、全ての授業で振り返り活動を実施しました。実験群においては、初回を除いて、以降7回の授業で再振り返り活動をしました。単元の構成は下図のようになります。

 

※クリックすると拡大します。

 

各授業の振り返りでは、「学んだこと」と「考えたこと」を各二つ入力してもらいました。そして、「考えたこと」を再振り返りの対象として、ルーブリックをもとに評価し、フィードバックしました。

振り返り活動に関しては、5分間の記入時間設定をして、毎回行いました。

 

さらに、単元の学習前と学習後に同一のアンケートを行い、「情報社会の問題解決を聞いて、思い付くことは何ですか」という質問について、10分間で記入してもらいました。

 

※クリックすると拡大します。

 

生徒の振り返りから観点に沿って変化を抽出し、6つのカテゴリーに分類

 

ここからは、実践の結果の分析についてお話しします。分析の方法は二つです。

 

一つ目は、各授業の振り返りの記述内容を、ルーブリックに照らして評価し、評価結果の変化を分析していくこと。

 

二つ目として、事前・事後アンケートの記述内容の変容から、主体的に学習に取り組む態度の醸成を、先行研究の方法を用いて、3段階の量の変化・質の変化・情意的な変化で読み取ることを行いました。

 

 

一つ目の各授業の振り返りの評価分析です。こちらが実際に生徒から得られた実際の振り返りです。この生徒は、授業の内容が実生活ではSONYのVRゲームにつながったようで、それをもとに振り返りをしてました。これは、ルーブリックのS評価の「実生活やこれまでの体験と関連付けて」というところにリンクしてたので、これはS評価だな、と評価しました。

 

※クリックすると拡大します。

 

二つ目の、事前・事後アンケートの読み取りについては、先行研究を参考に設定をしました。先行研究では、学習前の状況から、学習後の狙いの方向までに、生徒の主体性がどのように変化していったかを「量の増減」「内容の質の向上」「情意的な内容の有無」の三つの段階で読み取っていきます。

 

※クリックすると拡大します。

 

具体的には、「量の増減」は記述量が減った・増えたということで見ます。「内容の質の向上」は、中身の仕組みであったり、学習内容との比較など授業における気付きがアンケートの文中に記載されせているかどうか。そして、「情意的な内容の有無」は、生活への広がりや結び付き、前向き・積極的といった態度的な向上、学習や授業活動への期待が見られるかどうか、といったことです。これらが事前・事後のアンケートの中にあるかどうかを見ていきました。

 

※クリックすると拡大します。

 

※クリックすると拡大します。 

 

先行研究では、この段階を見て読み取って、最終的にこの六つのパターンに分類されています。今回は、これを便宜上、下記の六つのカテゴリーに分類しました。

 

記述量が増え、内容の質も高まり、かつ情意的な記述が見られたというのをA1、その逆で、記述量が減り、内容の質の向上も見られず、情意的な記述も見られないものをC2として、このA1からC2までの六つのカテゴリーで分析を行いました。

 

各自の毎授業回の振り返りの評価では、初回の第1時に関しては、実験群と統制群で、どの評価項目・評定結果においても有意差は認められませんでした。

 

 

第2時からは、B評価と判定したものが、実験群は少なく、統制群は多くなり、割合に関して有意水準0.01の有意差が認められました。

 

 

第3時以降においても、いくつかの判定結果において、実験群と統制群で有意に差が見られることが見て取れます。

 

 

分析2の、事前・事後アンケートの読み取りでは、受講者全体の98.1%の回答を得ることができました。

 

3段階の評価の判定を行って、先ほどのA1~C2の六つのカテゴリーのそれぞれに当てはまる人数と割合を算出しました。

 

A1(記述が増えて、内容の質も深まり、かつ情意的な記載が見られる)と判定されたカテゴリーの人数だけが、優位水準0.05で実験群と統制群で有意な差が見らました。その他の項目に関しては有意差は認められない、という結果になりました。

 

 

さらに詳しく見るために、今回の学習活動が記述量の増減に影響したのかという点に注目すると、実験群・統制群で有意差は認められませんでした。同様に、質の向上にも有意差は認められませんでした。

 

 

情意的な内容の有無に関しては、実験群と統制群でχ2検定を行ったところ、優位水準0.05の有意差が認められました。

 

 

結果のまとめです。毎授業時振り返りにおいて、実験群・統制群の両群における各自の振り返り評価判定の割合をχ2検定しました。

 

第1時の振り返りでは、全ての評価判定の割合において、有意差は認められなかったのが、第2時以降に関しては、全ての時間でいずれかの評価判定に有意差が認められるようになりました。これは、実験群が高評価の割合が高く、統制群が高評価判定の割合が低くなったということを示します。

 

 

事前・事後アンケートの変化においては、3段階での主体性判定結果で、A1評価(記述量が増えて、内容の質も高まり、情意的な内容の記載もあった)が実験群は53.1%、統制群は36.0%で、有意差が認められましたが、その他においては、有意差は認められませんでした。

 

記述量の増減と内容の質においては、両群に有意差は認められませんでしたが、情意的な内容の有無に関しては、実験群・統制群で有意差が認められました。

 

※クリックすると拡大します。

 

前授業の再振り返りが主体的に取り組む態度の向上に有効に機能

 

この分析結果をもとに考察を行いました。

 

まず分析1の結果について。第1時、最初の時間の振り返りは、S、A、B、C、いずれの判定結果の割合にも有意差が認められなかったことから、本研究における実験群と統制群の両軍は、単元学習前の時点では主体的に学習に取り組む態度には差があったとは言えないと考えられます。

 

また、第1時以降の時間の全てに関して、S~Cのいずれかの判定結果の割合において有意差が認められたことから、本研究で提案する学習活動は、ルーブリックに示す評価基準に沿って、主体的に学習に取り組む態度の醸成に効果的に機能したものと考えられます。

 

 

次に分析2について。事前・事後アンケートの記述内容の変容、3段階で読み取った結果、A1評価(記述量が増え、内容の質も高まり、情意的な内容の記載もあった)と判定された割合は、実験群と統制群に有意差が認められたことから、本研究で提案する学習活動が、主体的な学習に取り組む態度の醸成に効果的に機能したと考えられます。

 

3段階の読み取りのうち、「情意的な内容の記述内容の有無」の判定結果の割合において有意差が認められたことから、本研究で提案する学習活動が、学習者を情意的な変化により効果的に機能しているんだというふうなことも考えられます。

 

 

今回の研究で得られた成果としては、クラウド型LMSを活用した学びの振り返り活動と再振り返り活動が、教科「情報」における、主体的に学習に取り組む態度の醸成に有効で、特に学習者の情意的な変化に効果的に機能するということが明らかになりました。

 

 

課題としては、本研究で提案した再振り返り活動では、形成的にフィードバックした項目として、他者の振り返りの内容と、各振り返りに対する評価の二つを学習者に提示しましたが、学習者の情意的な変化にどちらが効果的に機能したのか(あるいは両方ともなのか)までは、分析ができていません。

 

これを明らかにすることは、学習者の情意的な変化の要因を追求することにつながります。また、授業者が形成的評価を行う負担の軽減につながり、効率的な形成的評価の実施にもつながると考えられます。

 

[質疑応答]

 

Q1:今回、Classroomではなく、Suiteを採用された理由を教えていただけますか。学校全体の方針でしょうか。

 

A1平田先生:Google Classroomだと、課題や質問を投稿した時、最初のほうに投げた課題というのが、どんどん下に沈んでいってしまいますが、Google Sitesだと、そこにアクセスすれば、必ず同じページ(今回でいうと、振り返りの項目)があるので、Google Sitesを採用しました。

 

第13回全国高等学校情報教育研究会全国大会(オンライン大会)より