事例145

「教える」から「学ぶ」プログラミング

東京都立三鷹中等教育学校 能城茂雄先生

「きちんと丁寧に教える授業」から「生徒が自ら学ぶ授業」へ

今日発表するのは、「『教える』から『学ぶ』プログラミング」ということで、今まで「きちんと丁寧に」教えてきたプログラミングを、「生徒が自ら学ぶ」というスタイルに変えてみた、という実践です。

 

4年前に私があるセミナーで、「社会と情報」の中で、あるいはプログラミングがあまり得意でない先生のために、ということでお話ししたときは、「アルゴロジック(※1)」でゲームを1時間やって、「ドリトル(※2)」で『かめた』を1時間動かして、最後に教科書に載っているJavaScriptを1時間、合計3時間やってみましょう、というものでした(※3)。

 

※1 アルゴロジック

※2 ドリトル

※3 はじめようプログラミング

~「アルゴロジック」「1時間で学ぶソフトウエアの仕組み」を経て、Java Scriptへ

 

 

我々教員は、授業のコンセプトとして、できる生徒・普通の生徒・できない生徒のどこにターゲットを置くかをどうしても考えます。私は、これまで40人生徒がいたらなるべく全員が理解できるように、どちらかというと易しめの授業を行ってきました。きちんと資料を作って、ゆっくり丁寧に説明して、新しいことをするときは、1回手を止めさせて説明して、ということを何回も繰り返すというスタイルですね。

 

ところが、新しい学習指導要領では生徒が自ら学ぶ、ということが目標になっています。ある講演で、「我々教員は教える専門家なので、どうしても教えすぎてしまう。Society5.0を生きる生徒を育てるためには、生徒が自ら学ぶという形に少しずつシフトしなければならない」というお話を聞いて、プログラミングの授業の形を変えてみることにしました。具体的には、学びを深める方法としてよく言われる反転学習を使いました。

 


Progateを使ってプログラミングの基礎を自習→従来の授業を「なるべく教えない形」で実施

具体的な授業展開です。昨年のこの実践事例報告会では、本校のデジタル化総合実習の事例をご紹介しました(※4)。これは3人1組で2か月間の活動ですが、この後にプログラミングの授業を行うことにして、生徒達にはこの2か月間でProgate(※5)を使って、プログラミングの基本構造やJavaScriptの基礎を自習しておいてもらったのです。

 

※4 生徒の主体的な学びを促進するデジタル作品の制作

※5 Progate

 

ProgateのJavaScriptはレベル5まであって、レベル4と5はかなり難しいですが、レベル1~3で教科書に書かれていることがほぼカバーされています。デジタル化総合実習の授業が始まる時に、これを2か月間で自分でやっておきなさいね、と伝えておきました。

 

その上で行ったプログラミングの授業では、最初に従来のアルゴロジックのゲームと、ドリトルの『かめた』を動かす授業を1時間ずつ行いました。その際、「変数とは」とか「繰り返し命令とは」といった、今まで懇切丁寧に教えて来た基本的なことは、予習済みとして教えずに済ませました。

 


次にプログラミングの授業を4時間行いますが、私が教えるのはProgateや教科書とこの授業との違い、提出作品の提出の仕方、そしてトラブルが起きた時にどのように解決するかというデバックの方法という程度です。これだけ伝えるなら10分程度で済みます。

 

プログラミングの授業は4時間で、前半2時間では構文と総和の計算、九九のプログラムを行います。友達と相談してもよいこととして、「今日はここまで」というノルマを与える形で行います。九九のプログラムの二重ループで苦しむ生徒がいますが、ここまでが2時間です。

 

次の2時間は、教科書に出ているソートのプログラムや変数の入れ替えや配列を使って、探索プログラムや40人の席替えプログラムを作ります。この2時間に入る時には、やはり先週苦しんだところの確認はした方がよいかな、ということで「インテンドがきちんと作れていないと、ダブルループがうまくいかなかったね」ということは伝えました。生徒の感想でも、「スペースに意味があったことがよくわかった」というものがありましたが、これについても資料に落とし込んでおけば、教える必要はないと思います。

 

 

教科書に出ているプログラムはデータ量が多いので、これをそのまま打たせたら、それこそ写経になってしまいますので、データ構造の部分だけを抜き出したものにして、友達同士相談しながら作らせました。これはほぼ全員が自力で完成させることができ、中には放課後に自分から申し出て続きをやりに来る生徒もいました。

 

定期考査の結果は丁寧に教えていた時とほとんど変わらない

この活動の評価です。結論から言って、定期考査の成績は、昨年までとほとんど変わりませんでした。

 

具体的には、昨年とは文字列と数字を変えただけでほぼ同じ問題を使った試験で、平均点はほぼ同じ、誤差の範囲でした。教わったことをそのままやるのでなく、どうしたらよいかを考えて、興味・関心を持って取り組むことで成果が出たのだと思います。

 

生徒の感想にも、「もっと教えてほしかった」というものはなく、ほとんどが「自分のペースでできてよかった」「大事なことが何かよくわかった」という好意的なものがほとんどでした。

 


今後このような授業を行うために必要なのは、生徒が興味を持つ課題できちんとゴールを決めること。そして、そのための手引きとなる自作の教材をきちんと作ることだと思います。子どもが自分で次のポイントに進めるように、迷った時には教科書ではココ、ネットであればココを調べればよい、ということを示してあげればよいと。そうすることによって、私よりさらにできる生徒を育てて行ければと思っています。

 


※神奈川県高等学校教科研究会情報部会 情報科実践事例報告会2019 ポスター発表より