事例144

情報Ⅰやってみた〜悪戦苦闘の実践報告〜

東京都⽴⽴川⾼校 佐藤義弘先生

私は、東京都高等学校情報教育研究会で、新学習指導要領研究専門委員会を作り、実施に向けたミニマムプランを作りました。これを誰かが実証しなければいけないということで、今回は、情報Ⅰの授業を実際に行うとどうなるか、というお話をします。

 

「SS」の内容と「情報の科学」の内容を関連付けて学習

授業の柱としては、一つ目に『情報の科学』をベースにするということ。『情報の科学』にプラスして情報Iとは何だろう、 と考えていくと、ここに「情報デザイン」と「データサイエンス」を追加すればよいのではないか、ということになります。もともと『情報の科学』にあるプログラミングも当然必要です。

 


二つ目は、その情報Iを学習指導要領の順番に行うということ。そして、三つ目は課題研究です。

 

立川高校はSSH(Super Science High School:スーパーサイエンスハイスクール)校になって2年目になりますが、最初の年は、1年生で取り組まなければならない「SS課題研究」がうまく回りませんでした。そこで、SS課題研究に必要なスキルを、1年生の時に情報の中で指導することにしました。

 

学び方は、講義型を減らして生徒ができるだけ主体的に動けるものを心がけています。内容がうまくつながると、アクティブ・ラーニングになるのですが、そこまで制度設計はしていないので「アクティブ・ラーニング風授業」と言っておきます。今後の「探究」との絡みも考えて、主体的・多様的で深い学びを総合的に目指していこうということです。

 


週に2時間の設定のSS課題研究では、そこで使うパソコンのスキルを、情報の授業の中にうまく取り込んでおくことを目指しました。いざSS課題研究となったときに、「あれ、PCで絵を描くのって、情報でやったから簡単だぞ」「情報ってすごく有用な教科なんだな」というのを、生徒たちに刷り込んでおけるというメリットがあります。

 

そこまで考えて、授業内容を練りました。

 

情報Iの授業時間数とその内容

上記の計画のもと、まず授業時間数を56時間として考えてみました。

 

しかし、今年は台風で休校になったり、連休が長く続いたりで、授業数が一番少ないクラスは49時間しかありませんでした。

 


数学を担当していたときは、2回で予定していた内容を3回に分けてやったり、逆に3回の予定の授業を2回にしたりと調整できましたが、情報の場合は1回のパッケージをきっちり作らないとうまく回らないため、そういうわけにもいきません。

 

そこで、最小授業数のクラスに合わせてミニマムプランを少し減らした全体像を作りました。

 

(1)情報社会の問題解決

1学期は、「問題解決」「情報デザイン」について学習しました。

 

まずは、問題解決に必要な知識について、基本的なことを学びます。問題解決の流れ、発想法、情報セキュリティ、Society5.0などについて学習しました。そして、アイディア出しや調査、話し合い、発表、評価などのグループワークを行いました。

 


ログインのパスワード変更、アンケートやポートフォリオの書き方などは、探究の時間で提出物をアップロードする際などにも必要となるので、身につけておくことが必要です。

 


WordやPower Pointを始めとした、PCスキルも1年生のうちに身につけさせます。いきなり「Wordの実習をします」ではなく、例えば「簡単なレポートを作成するので、実習ではWordを使います」という、目的達成のためにツールを利用するという流れで進めました。

 


(2)情報デザイン・プログラミング

ここから2学期に入ります。情報デザインは、学習指導要領やその解説を見ても、何を教えたらよいかがわかりにくいという印象があります。

そこで、生徒に「情報デザイン」という視点を自ら持たせ、さらにそれを人に伝えようとする姿勢を育てられればよいではないかと考えました。

 

相手に伝えるにはどうするか。利用メディアを意識したり、相互評価をしたりすることを通して、「他者からどう見られるかを意識する」ということです。あとは経験を重ねることができればよいと思います。

 


授業では、「『3分クッキング』のフリップ作成」を行いました。

「3分クッキング」は、ご存知かと思いますが、料理を作る手順を流して、最後に材料や作り方のポイントをまとめて見せ、3分間で成立させる料理番組です。

 


番組のビデオを見ながらメモをとり、Power Pointを使って材料や作り方の説明を3枚のスライドにまとめる、という作業を行います。製作時間は約10分。生徒が作るのは、表紙とフリップ2枚だけです。

できあがったら、班の中で見せ合って、それぞれの作品にコメントを入れてもらう、という形で相互評価をしました。

 

相互評価で目についたのは、料理やお菓子作りの好きな生徒の評価が高かったということです。例えば、いろいろな調味料をいちいち書くようなことはせず、カッコAでくくっておいて、「Aの調味料を合わせ入れて、混ぜる」というように、とても上手にまとめて書くのです。説明には経験が大事だ、ということが非常によくわかりました。

 

私自身は、何らかの効果が出るとは特に期待せずに行った実践授業でしたが、一定の効果があるということがわかりました。

 

情報デザインの二つ目の実践授業では、「立高PRプロジェクト」をやってみました。生徒たちが毎日通う立川高校を、いかに、うまくPRするかを考えるという内容です。

 


まず、4人グループで一つのテーマにつき3つまで具体例をあげていきます。3人が一つずつ具体例をあげ、一人がまとめ役となり意見を整理するという形で、役割分担をしてもらいました。

 

全6回のうち、3回目にポスターセッションを行い、その時間内に相互評価をします。その後、評価の内容をグループ内で検証し、それを元に6回目の授業までにwebを作成します。Webで使うHTMLは、余計なタグは入れなくてもよいということにして、やりたい生徒はスタイルシートを使ってもよし、そうでない生徒は基本的なタグだけで書けばよい、ということにしました。

 

評価を見ると、見た目や内輪受けだはダメだということはきちんとわかっていました。また、技術がしっかりしていないといけない、ということもよく理解できていました。

 

(3)コンピュータとアルゴリズム

アルゴリズムとプログラミングでは、時間的な余裕がなく、最小限の授業数で進めました。アクティビティ図については、今年度は見送りとしました。

 


プログラミング言語については、今年からPythonに切り替えましたが、特に問題はなかったようです。

実は今年、各自Progate(※1)でPythonの学習を進めさせていたのですが、試しにサンプルなしにゼロスタートで書かせてみたら、全然できていませんでした。

 


そのことで、プログラミングを覚えるためには、一見効率が悪いように見えても、例題と同じものを入力して練習するのは大事な経験であると感じました。その意味で、プログラミングは集中授業よりも、分散して少しずつ時間をとる方がよいのかもしれません。

※1 https://prog-8.com/

 

(4)情報通信ネットワークとデータの活用

ネットワークの仕組みやデータ分析などは、3学期に行う予定です。3学期は時間を多めにとっているので、プログラミングなど、1、2学期で時間の足りなかった学習にあてようと考えています。

 


データ分析の授業では、武善先生の実践授業で出てきたjs-STAR(※2)というサイトを参考にしました。そして、統計なし・理論なしで統計の話をしました。

 

数学なら理論で説明できるけれども、あえてしない。集めたデータを元に分析することで、自分の考えではなく、数字に語らす方法として紹介するということをしました。

 

※2 http://www.kisnet.or.jp/nappa/software/star/index.htm

 

授業をやってみて感じたのは、指導例が少ないということと、準備が大変ということです。とにかくたくさん勉強しました。

 


それから、「アクティビティ」と呼んでいる形態の授業のネタにも苦労しました。

 

ただし、グループディスカッションは非常に有効でした。これは、中学校で経験してきた経験が影響しているようです。隣の生徒とちょっと話し合ってごらん、と言うと、意外と盛り上がってうまく回っていました。

 


また、授業設計がたいへんです。生徒が正しくわかるように進めたい。そうすると、ある程度エンドオープンでいいのですが、アクティビティが正しい方向に進むようにしなければなりません。

 

それから、講義とアクティビティの時間配分をどうするかということと、時間内で完結するように設計するのがとても大変でした。

 


『社会と情報』から『情報I』へは、かなりのギャップがあります。少なくとも『情報の科学』以上の準備が必要でしょう。さらに、情報Ⅰで増える領域についてどの程度時間を割り振るか、また、授業内容を練習したり、生徒たちの反応を予測したりしておかないと、始まってから大ピンチになる可能性もあります。それらを試してみて、皆で共有することも大切だと思います。

 


※神奈川県高等学校教科研究会情報部会 情報科実践事例報告会2019 口頭発表より