次期学習指導要領「情報Ⅰ」 年間指導計画とその具体案

東京都高等学校情報教育研究会 学習指導要領研究専門委員会

東京都立目黒高校 中山享司先生

 

新しい学習指導要領に向けて、年間指導計画のモデルケースを作る

最初に、われわれの専門委員会のことをお話しします。私は、東京都高等学校情報教育研究会(都高情研)の新カリキュラム研究委員会(新カリ研)から参りました。

 

われわれの研究会は、昨年の8月からスタートしました。今日は主に、この第1、2、3回で話した内容を発表させていただきます。この3回で、大体年間指導計画は完成をしました。

 

その後は、内容をブラッシュアップしたり、少しずつ実践したりしてみよう、といった内容が主です。

 

われわれがどのようなことを解決していきたいか、ということを、活動方針として初回に話し合って決めました。一つ目が新しい新カリの指導内容を明らかにしましょう。二つ目が、新カリの内容の年間授業計画のモデルケースを作りましょう。三つ目が、新カリに向けてどのような準備が必要なのかを提案しましょう、ということです。

 


具体的にどのようなことをするかというのがこちらです。

指導内容を明らかにするためには、まず、われわれが、学習指導要領(新カリ)を熟知するために読み込もうということにしました。

 


モデルケースを作るためには、まずはコアになる内容を凝縮した年間指導計画を作るということを考えました。さらに、現行の「社会と情報」情報の科学」から、どのような準備が必要かを提案することについては、年間指導計画との対応表を作ろうということで、話がスタートしました。これが第1回の会議で話した内容です。

 

ミニマムモデルを作ることで、それぞれが時間をかけたいところに余裕を残す

新学習指導要領を読み解くということで、学習指導要領の「情報I」を簡略化したのが、下図の左側です。それを、さらに簡略化すると右側になります。上から「問題解決」、「情報デザイン・コミュニケーション」、「プログラミング」、「データベース」の、この四つが新カリの中身であるということです。

 

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この中で、56時間のコアになる年間授業計画を作ろうということにしました。

 

なぜこのようなミニマムなものを作ろうということになったかと言いますと、情報は2単位の科目ですので、本来ならば年70時間を考えなければいけません。

 

しかし、そこを8割の56時間で作成することによって、例えば定期考査前の演習に時間をかけたいとか、自分は特にこの活動に時間をかけたいとか、うちの生徒はここに時間をかけたほうがいいだろう、といったように、それぞれ時間をかけたいに時間を多めに取ることが可能になります。そのために、無駄なものはそぎ落として、あえて56時間で設定しました。

 

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全単元を問題解決的に指導することで、思考力・判断力・表現力を身に付ける

新学習指導要領を読むと、新しい表現として「ア:次のような知識・技能を身に付けること」と「イ:次のような思考力、判断力、表現力を身に付けること」というものが出てきます。

 

これらについて、われわれはただ教えるのではなく、教えた知識を使って活動させ、その活動をもって、イの思考力・判断力・表現力を身に付けさせたらよいだろうということにしました。つまり、まずは知識を教えて、それを活用させるという流れを作ろうと考えました。

 

では、どうやって思考力・判断力・表現力を身に付けさせるかを考えた結果、全単元を問題解決的に指導することにしました。学習指導要領の解説には、「思考力・判断力・表現力を身に付けさせましょう」ということになっていますが、具体的には「設計、製作、実行、評価、改善」といった文言がよく出てきます。つまりこの一連の流れを体験させることによって、思考力・判断力・表現力を身に付けさせるのであれば、この流れはいわゆる問題解決だねということに気付き、それなら問題解決を年間の最初に行って、授業の流れを生徒につかませようということにしました。

 

(1)情報社会の問題解決~1年間のベースとなる問題発見・解決の流れをつかむ

ここからは、具体的な授業計画の中身に入ります。こちらは「(1)情報社会の問題解決」の中身の抜粋です。この内容を年間授業計画にしました。

 

先ほども話したように、まずはここで1年間のベースとなる問題の発見や解決の流れをつかませることを目指しています。

 

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こちらがミニマムモデルです。1時間目には、中学校からの接続を意識して、チェックテストを用意しました。(ア)の「問題を発見・解決する方法」については、まずは問題解決の流れ、問題解決のやり方を押さえましょうということで、4時間でさらっと進める形にしています。

 

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「(イ)法・情報セキュリティ・情報モラル」のあたりから、だんだん本格的になってきます。知的財産権や情報セキュリティですね。機密性、完全性、可用性といったところも含めて、まず身の回りのことについて教えて、その後よりよい社会を築くためにはどうしたらよいかを考えさせるような指導を考えています。

 

「(ウ)情報技術と情報社会」では、人工知能やロボットについても取り扱います。これについては、私自身もこれから勉強していかないといけないところですが、いつの時代にもある社会の光と影というものを教えた上で、われわれはこの状況の中で、どのように生きていくのがよいのかを考えさせる活動を考えています。

 

(2)コミュニケーションと情報デザイン~「改善」まで入れた実習を行う

次に「(2)コミュニケーションと情報デザイン」です。これを年間指導計画にまとめました。

 

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「情報デザイン」というのが、ちょっと新しい言葉ということで注目を浴びていますが、今まであったような内容もあります。例えば、「(ア)メディアとコミュニケーション」には2進数や文字コードといったあたりもここに含まれ、決して全てが新しいものではありません。

 

「データの圧縮」は、「社会の情報」からでは少し発展的な内容になりますが、「情報の科学」は今も入っています。

 

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「(イ)情報デザインの役割」では、ピクトグラムや情報デザインなどで、情報を図やグラフで表現して、情報の可視化を教えます。

 

その上で、これらを活かす実習があった方がよいだろうと、(ウ)として実習を6時間設定しています。ここでのポイントは、「改善」まできちんとやるのが一つのポイントです。実行して、相互評価をして、その評価を受けて改善するために6時間の設定をしております

 

(3) コンピュータとプログラミング~できるだけ平易な内容を、様々な言語で動かしてみる経験も

「(3)コンピュータとプログラミング」ですが、ここではソースコードの書き方を指導するという単元ではありません。では、何を教えるのかについては、学習指導要領の解説にいろいろ書いてあります。

簡単に言えば、「生活の中で使われているプログラムを見出して改善することなどを通じて、情報社会に主体的に参画しようとする態度を養う」というのが、この単元の目標になっています。ですから、あくまでも、身の回りのことと関係があるということを理解させるのが目標です。

 

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ということで、特に「(イ)アルゴリズムとプログラム」のところでは、できるだけ平易な内容を、様々な言語で動かしてみようという内容の授業を計画しました。ですので、上から、プログラムの技能を身に付けるということで、アルゴリズムを文章やフローチャート、アクティビティ図で表したあと、ドリトルやVBAなどでプログラミングの基礎を学び、その後JavaScriptや、Python、Rといった様々な言語を扱ってみましょう、それを全部、1時間で取りあえず計画をしました。ですから、これはあまり難しい内容に踏み込まず、軽易な対応で考えています。さらに、「API( Application Programming Interface)を使った、何かの実習」という時間も取ってあります。

 

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「(ウ)モデル化とシミュレーション」では、モデル化とシミュレーションをしっかり教えなければなりませんが、活動としてはあまり難しいことはやらないで、例えば平面図に部屋の間取り図を用意して、そこに家具を縮小したものを置いて、家具の配置をシミュレーションしてみる、といった形を考えています。その上で、数値とデータを使った活動を入れて、コンピュータの性能を生かすという指導を考えています。

 

(4) 情報通信ネットワークとデータの活用~実際にアンケートを取ってデータを処理する実習を

「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」について。これについては、私もびっくりしましたが、現行のカリキュラムでも、中学生はプロトコルを勉強しています。ですから、「プロトコル、意味わかんない、習ってない」というのはウソです(笑)。

 

ただ、既習事項が定着しきれていない部分もあるだろうということで、復習をします。さらにTCP/IPの話をして、暗号化の話も入れます。

 

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ネットワークに関して思考力云々というのは、やはり実習をしないといけないだろう、ということで、やはりネットワークの構築とトラブルシューティングのような障害の原因を調べる活動が、やはりネットワークの知識や思考力等を身に付けさせるのには一番よいだろうということを考えました。

 

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「(イ)データベースの仕組みと活用」では、やはりデータベースのデータの蓄積について話をしたら、やはり実際に作らせないと身に付かないだろうということで、データベースの構築と活用の実習を入れました。

 

「(ウ)データの収集と傾向の可視化」は、ちょっと真新しい感がありますが、ここではアンケートの作成と、それを使って実際に回収した結果の傾向を分析する、という実習を考えています。このときに、データの重複や欠損値の扱いについても学びます。

 

ここで、生徒の自由意見を入力すると傾向が出てくるソフトを使えば、テキストマイニングもできます。オープンデータによるマイニングは、今の活動を当てることで、3回を配当しています。ここについても、実際に生徒が取ったデータで分析させてみて、考えさせたらよいかなと思っています。

 

まとめです。われわれの考え方としては、まず知識を教えた上で、生徒を活動させて、思考力・判断力・表現力を身に付けさせましょうという流れをつくりました。その活動は、評価から改善までを通して、問題解決的に指導するのがよいだろうと考えました。

 

その考えを踏まえた新カリキュラムの内容のミニマムモデルを作成しました。

 


今後は、プログラミングの課題やAPIを使った、実習といった、授業で扱う具体的な内容の研究をしていきたいと思います。また、情報Ⅱについても今後取り組んでいきたいと思っています。

 

さらに、中学の「技術・家庭」との接続、定期考査の問題作成などについても考えていきたいと思っています。

 


新カリキュラムのミニマムモデル
joho1curriculum.pdf
PDFファイル 496.9 KB

[質疑応答]

Q1高校教員:プログラミングについてはいろいろと書かれていましたが、データベースを実際に作成するとおっしゃっていましたが、具体的には何を使って作成しようと思っていらっしゃいますか。

 

A1中山先生:これは、エクセルから入るのもアリだと思いますし、アクセスでやるのももよいかなと思います。SQLをどこまでやるのかということについては、やはり生徒の実態や、われわれの勉強もありますので、そこについては様子を見ながら変えてもよいかと思っています。とりあえず、まずはエクセルとアクセスを考えています。

 

 

Q2高校教員:2点質問です。まず、先ほどの発表の中で、ミニマムモデルでは「コミュニケーションと情報デザイン」の分野で2進法という記載がありましたが、これについて検討の中で「中学校での既習事項だから2進法を省いてはどうか」という意見が出たかどうかというのと、同じところに16進法が出ていなかったので、その取り扱いについてはどのようにお考えなのかというのが1点です。

 

2点目に、同様の内容で「情報通信ネットワークとデータの活用」で、プロトコル暗号化に触れられていましたが、ルーティングに関しては触れられておりません。これも確か、中学校での既習事項には入っていますが、ここでもどのような話し合いが行われたか、覚えておられる限りで構いませんので、お話しいただければと思います。

 

A2中山先生:まず「コミュニケーションと情報デザイン」からお答えします。確かに、2進法を教えて16進法を教えないのか、という話ですし、2進法がわかっていれば16進法はそんなに難しくない。変換も容易ですので、こちらは、入れることについては全く問題ないと思います。

 

「情報通信ネットワークとデータの活用」でのルーティングのお話ですが、中学校で一体どこまでやるのか、いうところによります。習熟の程度にもよるところではありますが、もちろん勉強が進んでいれば、そこを発展させた内容を取り扱ってもよいかと思っております。

 

 

Q3高校教員:情報Ⅰをどのように教えるかという指針が欲しかったので、ちょうどぴったりの内容で、たいへん助かりました。ただ、内容を見ていくと、この時間数でできるのか不安に思っています。ですから、場合によっては、例えば反転学習や、スマホなどを使って学校外で自分の課題を進めていくことも想定して、この年間計画を作られたのでしょうか。

 

A3中山先生:この年間計画を作った際には、反転学習や学校外で課題をするということは、あまり考えていませんでした。これについては、BYODがどんどん進んでいって、家でできる環境が整っていったら、年間計画も見直していった方がよいのではないかという話にはなると思いますが、この時点では特に、その話は出ていませんでした。

 

第12回全国高等学校情報教育研究会全国大会(和歌山大会) 分科会発表より