事例116

興味を持った題材を生徒自身が選ぶ「情報モラル教育」

神奈川県立座間総合高校 井川亜美先生

情報モラル教育は、どの学校でも必ず教えていることの一つですが、「こういうことがあったんだよ」「こういうことはしてはいけないよ」と話しても、生徒たちは「へえ」と言うだけで、何となく頭から抜けていってしまうものです。

 

そこで、生徒が自分で事例を探してきて発表するという形で授業を進めようと考えました。メリットとしては、自分で探して自分で考えてきたことであるため、積極的に授業に取り組む姿勢が見られることが一つ。もう一つは、同じ高校生が探してきた事例なので、発表内容が心に刺さるという点です。生徒が集めてきた事例を見ると、全く聞いたことのないものもあり、やはり高校生の視点で探してくる事例は面白いと感じています。

 

自分で探した事例をテンプレートにはめこみ、発表・評価・振り返りを行う

授業の流れがこちらです。始めに、「情報モラルとは何か」ということについて、学びます。

「情報モラル」というのは概念なので、ここを理解させるのが一番の難関と言えます。

 

私の場合は情報モラル啓発のポスターを利用して、「こういうことをしている人はいませんか」と聞いてみます。

 

映画館でスマホをかざして画面を録っている人、歩きスマホをしている人、本屋さんで本の中身を撮影している人など、さまざまなケースが描かれていて、こういうことをしてはいけないのが「情報モラル」であると、説明しています。

 

次に、情報モラルに関係のありそうな事例を調べます。プリントを配布して、事例の内容を調べ、5W1Hに沿って1時間くらいでまとめます。ここまでは個人で行い、調べ終わったら班編成を行います。

 

本校は、1クラスが30人なので、3人を1組として10班作りました。グループの中で個人が調べた事例を検討し、班として取り上げる題材を決めます。そして、左のテンプレートに沿って、事件について記入し、スライドを作っていきます。

 

昨年この活動を行った時に一番多かった題材は、「座間9遺体事件」でした。事件は本校の近くで起きたため、生徒も身近に感じて取り上げたのだと思います。

 

ここで注意したいのは、「この事件は情報モラルを考える上でどうなのかな? 」とは言わないことです。この事件の場合は「9人が亡くなった」ということが問題なのではなく、事件を引き起こすことにつながったtwitterの使われ方が問題と捉えることが大事だからです。

 

「見るべきところはどこか」というヒントを与えることで、生徒たちも目の付け所を理解して調べることができるようになります。生徒たちが持ってきた題材が少しズレていると思っても、頭ごなしに否定せず、方向性を示すことで、生徒も前向きに取り組めるようになります。

 

この事件について言えば、「ツイッターで殺しやすそうな人を探すのは問題がある」「自分の周りで連絡の取れない人がいたらどうすればいいのだろう」というところから、「こういった事件を未然に防ぐためにはどうしたらよいか」「周りに『死にたい』と思っている人はいないだろうか」というところまで踏み込んで多角的な視点から考え、発表を行っていました。

 

中には、神奈川県にはそういった人を助けるダイヤルが2つあって、日本語以外でも相談に乗ってくれるということまで調べた班もありました。そのクラスには、日本語が十分に話せない生徒が何人かいて、そういう生徒たちにまで気を配って調査をしてきたわけです。最後まで、自分たちで興味を持って調べられたというのが、とてもよかったと思います。

 

最後に、6枚のスライドを使って5分程度で発表をしました。他の班の人は観点ごとに相互評価し、最後に感想文を書きます。

 

こういった活動については、「グループ発表をどのように評価すればよいか」という質問を受けることがよくあります。ということです。今回の課題について言えば、スライドの内容ではなく、2つの観点で見ます。

 

一つは、資料を作ったり、プレゼンしているときに真剣に取り組んでいるかということ。

 

もう一つは、振り返りの内容です。振り返りの時には、「情報モラルとは何か」「なぜ情報モラルを守らないといけないのか」という2つのキーフレーズについて必ず触れるように伝えておきます。情報モラルとは「何か」はともかく、「なぜ守らないといけないのか」については、ここまでの授業でこちらからは触れていませんが、この活動を通して彼らはこれを書けるようになります。

 

 

上記は、ここ数年で一番よくできた生徒の振り返りです。緑色の線が引いてあるところに、「情報モラルを守るということは=『自分の身を守る』ということだと思った」「他人に対するマナーや自分自身を守るためにも、情報モラルを守ることは必要である」ということが、しっかり書けています。

 

先ほどもお話ししたように、この活動では私の方から「なぜ情報モラルを守らないといけないのか」ということについては一言も話していません。しかし、生徒たちは授業を通じてきちんと考えられるようになります。先生が上から言うよりも、自分たちの力で答えにたどり着くことの方が、ずっと生徒たちのためになると思っています。

 

ネットの情報に頼らず、自分の身の回りから題材を見つけるのが目標

ただ、今後に向けての課題もたくさんあります。

 

情報モラルというのは「概念」ですが、先ほどもお話ししたように、概念を教えるのはとても難しいことです。生徒たちに「情報モラルについてインターネットで調べてごらん」と言うと、検索窓に「情報」「モラル」「事例」で調べます。そうすると、だいたい同じページが出てきます。それを見ると、事例が微妙に古かったりします。

 

今回の活動では、彼らが既に知っていることを書き出してから、検索を始めるよう指導しました。

ただ、これもなかなかうまくいかないので、もし何かよい方法があったら、教えていただきたいと思っています。

 

神奈川県高等学校教科研究会情報部会実践事例報告会2018より