事例108

問題解決への利用を目的とした統計の学習(Pythonを利用して)

二松學舍大学附属柏中学校高等学校 阿部百合先生

今回の授業実践に至った経緯

1つ目は、本校では統計は1年生の3学期に数学Ⅰの「データの分析」で学んでいます。私自身が数学を教えていて、ここはコンピュータ室で教えたほうが生徒にわかりやすいのではないかと感じたからです。

 

2つ目は、生徒たちが文章を読めないこと、習ったことを使えないこと、また日頃からニュースやwebサイトで様々なデータが示されているにも関わらず、それを読み解く能力がないことに危機感を感じていたことがあります。コンピュータを自由に使える情報の授業の中で学んだほうが、活用する力が身につくのではないかと思ったからです。

 

3つ目は統計を扱う情報の授業モデルを教員間で共有できたからです。本校には私のほかに情報科の主任教諭がおります。ずっと情報の授業で統計を扱いたいと考えていたのですが、なかなか足並みがそろわず涙を呑んできました。そのような中、今年の秋に神奈川県の三井先生の発表を主任教諭が拝聴したことがきっかけとなり、ついに2学期に実施することができました。

 

「知る・わかる・使える」の3段階でデータ分析を学ぶ

初めに授業の目的の設定についてお話しします。こちらのスライドは生徒にも示したものです。3ステップで説明しました。

 

まず統計がどういうものかを「知る」。次に、身の回りにある統計データを見つけ読み解くことができる、つまり「わかる」。そして、分析したデータを適切に活用することができる(=「使える」)という3段階です。最後に生徒がデータ分析を用いた提案をする実習を入れることで3段階目としました。

 

生徒の実態と実施環境については、本校の生徒は8割ほどが文系志望です。今年、私は3年生の担任ですが唯一の理系クラスで34名、他コースの文理融合クラスに20名ほど理系がおり、残り250名ほどは文系です。

 

今年度は1学年10クラスあり、そのうち4クラスを私が担当しています。1クラスが43人から44人で例年より5~8人多いので、一人で実習を見るのはかなり大変です。男女比は1対1で、数学Iで統計は未習でした。

 

クラウド環境、CUIをフル活用

私学ということもあり、実施環境は非常に恵まれています。本校ではタブレットを一人1台、3年間貸与しています。今年の1年生からはiPadを使っていますが、生徒の反応を見てもAndroidよりも断然使いやすいようです。インターネット環境が完備されており、全ての教室にWi‐Fiが飛んでいるため、授業時間外でもタブレットで作業を進められます。Googleアカウントを一人一つずつ配布しG Suiteを使っています。Google Classroomは日常的に授業で使っており、課題の配布もそこから行っています。私が部活の引率で不在の時はこのGoogle Classroomから課題を配布しておけば、その時間専門外の先生が監督に行っても授業が進められますし、欠席者もリアルタイムか後追いで課題に取り組むことができます。1学期からGoogleスライドも使っているため生徒は共有機能で一緒に編集することに慣れています。毎時間の小テストにはGoogleフォームを活用しました。

 

今回の授業の特徴はPythonを使用したことです。Pythonを使ったのは、「グラフを作るのはExcelでしかできない」と思っている生徒に対して他のアプリケーションでもグラフを作成できることを示す目的と、Pythonの方がExcelよりも計算が速いことを示すためです。

 

Pythonはアナコンダというパッケージを使用してコンピュータにインストールしました。Python自体を教える授業ではないのでWindowsのPowerShellからPythonだけをコマンドラインで起動して使用しました。

 

2学期のカリキュラムを終わらせての最後の6回で実施

実施期間は、この授業をやると決めてから、2学期のカリキュラムを終わらせて11月から12月の最後の5~6回の時間をあてました。最後の1回は生徒の提案の発表とアンケートであり、実質5時間の授業でした。

 

 

下図は最初に生徒に見せたスライドです。生徒に全体の流れ、目的を併せて示します。今年度はルーブリックに近いものとして評価基準も最初に伝えました。

 

 

1回目は、授業の目的と評価基準を話した後に、統計とは何かという講義と小テストを行いました。2回目、3回目は数学Ⅰの教科書をベースに、Pythonを使って具体的な数値を計算しつつ代表値と相関を扱いました。4回目は身の回りのニュースなどから統計データを持ってきて、分析のしかたが正しいか考えさせました。5回目は、宿題で班ごとに集めたアンケート等による収集データを分析し、最後の回で発表しました。

 

標準偏差の意味もここで説明。毎回Googleフォームの確認テストも

1時間の大まかな流れがこちらです。最初に用語等を説明し、次にその日のテーマに沿って考えさせる実践、そして最後に確認テストを行います。

 

 

こちらは用語解説の際に生徒に見せたスライドです。

 

 

データの読み取りや、計算を行った際のスライドが下図です。

 

 

また、標準偏差の計算も説明します。難度が上がってくると、数学で出てくるような抽象的な数式では、数学が苦手な生徒は苦手意識を持ってしまって最初から理解しようとしないため、具体的な数字を出しながら、どうしてルートを付けるのか、なぜ二乗するのかといったことを説明していきました。

 

このときのデータは、全員Pythonを起動して一緒に打ち込みながら解きました。

 

 

毎回の授業の最後にGoogleフォームを使った確認テストを行いました。Googleフォームを使用したのは、その場で採点されるため生徒自身が到達度をわかるからです。また、記述問題も生徒と一緒にその場で採点できるため、生徒にどのラインまでがOKで、どのラインからが不合格なのかを示すことができます。

 

 

評価基準は生徒に最初の授業で提示しているので、小テストで自分が何割くらい取れたのかがわかれば生徒本人が大体の成績を見込めることが利点です。

 

 

発表については基本的に相互評価を行います。提案が伝わったかどうか、その提案は数値によって説得力があったかどうかという点を主な判断基準としました。評価する側は、点数を付けるだけではなく理由も書くこととしました。

 

 

「グラフを鵜呑みにしてはいけない」ことを理解させることができた

こちらが成果です。

グラフをうのみにしてはいけないこと、平均だけでは判断できないことなどを理解させることができました。また、これまでは平均点だけを気にして、平均点よりも少しでも良かったら安心と考えていた生徒にも、皆が平均点に近かったら意味がない、ということを知らせることができたと思います。また、本校ではプログラミングを特段意識させていませんでしたが、プログラミングのハードルを少し下げることには成功したのではないかと思います。

 

課題は、急遽実施したためやりたかったことに比べて時間数が十分ではありませんでした。もっと時間をかけて取り組ませたかった部分があり、来年は内容を整理した上でもう少し時間を取ろうと考えています。

 

[質疑応答]

Q1高校教員:標準偏差になぜルートを付けるかというのは数学の領域だと思うので、私の学校ではそこは数学科に教えてもらうよう言っています。逆に、そこまで情報科で受け持ってしまうと、本来情報でやるべきことが疎かになってしまうことを危惧します。先生は、この統計を使って何を生徒に身につけさせたいのか、何を学ばせたいのかということを教えてください。

 

阿部先生A1:私自身数学も教えているので、よくわかります。目的としては、計算ができるとか、センターの問題が解けるということでなく、例えばニュースで「若者は選挙に全然行かない」という話題の根拠として示された円グラフが、よくよく見るとわざと極端に描いてあったといったことに気付いてほしいということです。授業で見せると、9割近くの生徒が気付くことができますが、もしそれをしなかったら、統計は数学でやるけど試験にはあまり出ないから、自分たちには関係ない、ということになってしまうと思います。私の授業では、「君たちはもう少し数値をよく見てほしい。それから統計を上手に使えば、自分の提案に説得力を持たせることができるよ」ということを伝えたいと思っています。

 

Q2高校教員:統計の授業をされていく中で、データベースの単元との連携をどのようにされているのか、教えてください。

 

阿部先生A2:生徒に最初にサンプルデータを渡すときに、本当はExcelにデータを入れてある状態、もしくは総務省統計局などではオープンデータがExcelに入っているものが結構あるので、本当はそこから使わせたかったのですが、まずデータベースを入れるところ、それからデータベースに入れたものをPythonで分析させることを、私一人でPythonを使ったことがない44名の生徒を相手にするのは、とても無理なので、さすがに今回は断念しましたが、いずれはやりたいと思っています。

 

Q3高校教員(Googleフォーム):統計の基本を、数学ではなく情報の授業で行うということですが、数学科の連携としては、数学を最初にやってから情報をやったほうがいいのではないでしょうか。

 

阿部先生A3:私はどちらでも良いと思っています。数学の先生が考える統計の基本というのは、数式や原理原則を使った数値的なアプローチになると思います。ただ実際の統計というのは、例えば降水確率100%と言っても必ず雨が降るわけではないことは皆知っているわけですが、そこをごっちゃにしてしまう。60%と言ったらちょっとよくできる気がするとか、平均点と言われたらそれでいいと思ってしまうとか。そういったところが誤解であることを、一つひとつ確認できればと考えています。

 

神奈川県高等学校教科研究会情報部会実践事例報告会2018 講演より