事例107

気付きを導くインタラクティブ教材の活用

神奈川県立柏陽高校 間辺広樹先生

情報教育に関わることで教員として身に付けられること

私は、25年ほど情報教育に携わっていまして、過去にはこの情報部会の活動を、かなりしっかりとやっていました。

 

 

そのときに、いろいろな人に会う機会があり、ホームページを持っていた方がいいかなと思ってホームページを作りました。そこに掲載した教材について、後ほどお話していきたいと思います。

 

さて、その後は、大学院に行って博士号を取り、今は柏陽高校で情報と探究学習の指導をしています。様々な経験をしてきた中で、情報でやっていたことが今の仕事に生かされているということを感じます。情報に接するうちに「問題解決をする視点」を身に付け、それを探究活動に生かすことができているのです。

 

次の学習指導要領で、「総合的な学習の時間」は「総合的な探究の時間」へと、名称が変わろうとしています。このことからも、情報でやっていることは、結果的に「探究」につながるのではないかと思っているところです。

 

実際、私はいろいろな方々と研究活動を共にしています。先日、つくばで情報オリンピックの世界大会があったのですが、そこでは大学の先生と一緒に発表をしました。また、同僚の音楽の先生と「ドリトル」というプログラミング言語を使ってリズム感を鍛えるという取り組みをしたり、プログラミング言語を自分で作ってしまうような東海大の優秀な学生と共同研究を行ったりしています。柏陽高校の総合学習では、生徒と共に高校生のスマホ依存に対して、なぜ先生は生徒たちを注意しないのか、といったことを研究し、大学で発表することになっています。

 

高校生については、今までこの3グループの研究を学会等で発表しており、生徒たちは、それぞれに賞を取ってくれています。実際こういった実績があると、いわゆる難関大学といわれている所に、推薦やAO入試で合格できたりするのです。そういう意味でも、総合的な学習の時間、あるいは情報科の役割というものがあるのではないかと感じます。

 

 

インタラクティブ教材を使って「情報のデジタル化」を学ぶ

気付きを導くインタラクティブ教材について、具体的にお話していきます。

先ほど、情報のホームページを作ったという話をしましたが、それがこちらになります。今から15年ぐらい前に作ったものです。

「海の近くの情報教室」

http://www.info-study.net/

 

私は基本的に「教える」ということが好きではなくて、授業の中ではなるべく「教えない」 ということを目標にしています。

 

そういう授業をすることによって、生徒自身で考える力や情報科学、情報技術を理解する力を身に付けていってくれればと思いながら、多くの教材を作っています。

 

今日はデジタル化に関する4つの教材を見ていただこうと思います。たまにアクセス解析を見ると、今でも一定の時間に一定のドメインからアクセスがあるので、授業で使ってくださっているところもあるようです。15年たった今でも、少しは意味があるのかなと思っています。

 

最初に2進数の教材を紹介します。非常に単純なものですが、工夫点は初級モードから中級、上級にするとだんだん速くなることです。期待が高まりますね。超上級モードにすると、この早さです。またもう一つの工夫点として、超上級だけちょっと「タメ」があります。このように生徒が楽しみながら取り組める仕掛けを入れています。

 

「指で数える2進数」

http://www.info-study.net/math/binary-fingers.htm

 

二つ目の教材は、Up・Downのボタンをすと8つの電球のON/OFFとそれに対応した2進数・10進数が表示されるというものです。なかなか理解が難しい生徒にも、感覚的にわかる仕組みになっています。

 

「2進法学習ボード」

http://www.info-study.net/math/binaryboard.htm

 

16進数というのは、なかなか理解がしづらく、教える方にとっても難しいものです。いろいろ考えた末、結論としてたどり着いたのがこの教材です。

矢印の部分をクリックしていくと、16進数が右上に、真ん中に10進数がでてきます。生徒は訳がわからないものの、取りあえず矢印を押しまくります。

 

これは一つのかたまりが16個入りのまんじゅう1箱ということをイメージしています。まんじゅうの箱が3つで、バラが5個だったら全体で幾つになるかという計算をすることで、16進数を10進数に変換して理解できるのではと期待したわけです。

 

「16進法学習ボード」

http://www.info-study.net/math/hexaboard.htm

 

16進法でもう一つ。これは歯車の要領で、片方を回すと歯車の要領でもう一方も左も回転することで、16進数と10進数、2進数との関係がわかるという教材です。先ほどのものに比べると、もう少しわかりやすいかな、というレベルの教材です。

 

「16進数(2進数/10進数)アニメーション」

http://www.info-study.net/math/hex2binary.html

 

いずれも15年ほど前に作った教材ですが、久しぶりにこれを使って授業をやってみました。四つの教材を体験し、その後、「これをやって何かわかったことがあるか」と質問して、生徒たちにはプリントに書いてもらいました。

 

また、補助的に、コンピューターを使わずにコンピューターの仕組みを考えるアンプラグドも併用しました。

 

※外部サイト[CS Unplugged]の「2進数」へのリンクはこちら

https://classic.csunplugged.org/binary-numbers/

 

 

こちらはクリスマスツリーを5本並べてメッセージを作るというもので、右側はコンピューターを使って「こんにちは」と入力したのをメモ帳に保存したら、ファイルサイズがどのくらいになるか、というもので、こういったものを挟みながら、インタラクティブ教材の授業を行いました。

 

※[CS Unplugged]の当該プリント(PDF)へのリンクはこちら

https://classic.csunplugged.org/wp-content/uploads/2014/12/unplugged-01-binary_numbers.pdf

 

 

生徒たちの感想で理解できていない部分をつかみ、次の授業に活かす

生徒は予想以上に様々なことを書いてくれました。「ここまで気付いてくれるといいな」と期待するところまではなかなかいきませんが、いろいろな気付きがあります。

※クリックすると拡大します

 

 

「これを使ってメールの暗号化ができるのかなと思った」「0、1のみでアルファベットを表すこともでき、メッセージを伝えられる」「前の時間に実習したことと何か関係があるのではないか」等など、いろいろあります。

 

これらをグループの中で共有することで、こちらが教えなくても何となく0、1の考え方ができるようになったり、デジタル化というものを意識したりするようになるのではないか、と期待しながら授業を進めています。

 

 

授業の目標としては、ビットを理解する、日常的に使っている情報技術を理解する、といったところにありますが、これらをなるべく教えないで、生徒の気付きを促すような流れを作ったり、問い掛けしたりすることで学ばせることを心がけています。

 

学習の目標については、授業の最後や次の時間に教えますが、それ以前に、生徒がどのようなことに気付いたかということをチェックしておくと、何がわかっていて何が理解できていないか、ということを承知した上で授業が進められます。

 

生徒の理解度を把握して、目標に向かって生徒の力を引き出すような働きかけをする

そして、生徒が理解できないところにスポットを当てて教えると、彼らも「なるほどな」と思うようです。教材作りでは、授業で補助的に利用するもの、繰り返し動かしながら考えるもので、動かして何だか楽しいな、と思うようなものであることを目指しています。

 

そして授業作りは「教えないで、とにかく考えさせる」ということ。生徒同士で議論させること。先生の立場として、生徒の発話からアイデアをもらったり、最後に強化したりする、ということを心がけています。

 

そもそも授業には目標がありますが、当然生徒が持っている力というものもあります。それを引き出すのが教材だったり、生徒同士の議論だったりするわけです。ただ目標に届かない部分は、教師が補足すればよい、というイメージです。 

 

アルゴリズムについては、アンプラグドを題材にしたものを、幾つか行いました。

 

図の右側は、ソーティングのアルゴリズムを扱う教材です。実際は、本物のてんびんを使いますが、これは書籍を参考に作ったもので、画面上で考えます。

 

コンピューターは同時に二つのものしか比較することができないという制約があるため、下のてんびんを使い、二つを選んでどちらが重いか比べることを繰り返し、答えを探していきます。

 

「仮装天秤」

http://www.info-study.net/BalanceScale8.html

 

 

ソートの方法というと、教科書ではバブルソートや選択ソートについて説明されていますが、生徒がそれらを使うことはほとんどなく、圧倒的にクイックソートということになります。クイックソートというのは、再帰アルゴリズムを使うので、ちょっと難しいタイプの方法ですが、生徒にしてみればすごく自然に出てくる考え方のようで、いちいち教えなくても生徒自身で発見することができるということがわかってきました。

 

今日は私が15年前に作った教材と、それを使った授業について紹介をしました。客観的なデータはありませんが、生徒たちが自分で考える力や、情報を理解する力が向上してくれたらいいなと思っています。

 

それから最初に言ったように、情報科で得たノウハウや知識、また、人的なネットワークというのは、今後、総合的な探究の時間にも活用できるのではないかと思っているところです。

 

[質疑応答]

Q1高校教員 : 本校でも情報科と家庭科を中心に総合的な探究を作っているところですが、先生の中で教材を作る際に気を付けていることや、ポイントとなることを教えていただけますでしょうか。

 

間辺先生A1 : まず、なかなか生徒が見付けられないところに着眼するということと、いざそれをテーマにして研究をやろうとしたときに、情報技術というのは、それなしには語 れないと思います。例えばグラフ一つ作るにして情報科の知識が必要です。

 

それから、最初に高校生の研究発表の話をしましたが、あれは全部プログラムで何かを作っています。そこがプログラミングの一つの意味、あるいは価値だと思っています。プログラミングができるようになると、世の中にないものを作り出すことができる、ということになります。そうするとそれは世界初のことになりますから、立派な研究になるのです。だから、学会に行って、認められるようにもなる、そういうところで、情報科と探究学習は非常に近いところにあるのではないかと認識しています。

 

Q2大学教員: 先ほど生徒を学会の発表に連れて行かれるということで、非常に興味深いと思ったのですが、そのときには、事前に発表練習を全員にさせるなど、気を付けていることがあれば教えてください。

 

間辺先生A2: 基本的に、私は生徒にあまり丁寧にものを教えませんが、いざ学会などに出ようということになったら、その子たちとは多くの時間を共有します。毎日放課後に呼んで、発表練習や考えていることをディスカッションして、何度も練習をして、実際の会場に連れて行きます。

 

連れて行って思ったのは、大学の先生たちだから、高校生が出てきたら少しは手加減すると思っていたのですが、全然しないのです。だからこそ、逆にきちんとやらせるということが大事で、それを通して子どもたちが成長していくところを見られたのだと思います。

 

神奈川県高等学校教科研究会情報部会実践事例報告会2018 講演より