事例99

ネットいじめの加害行動を目撃した人はどうすべき?~シミュレーション教材を用いたいじめ予防の授業実践

関西学院千里国際中等部・高等部 米田謙三先生

ネットいじめ予防の授業実践

関西学院千里国際中等部・高等部は、大阪国際インターナショナルスクールを併設し、キャンパスに35以上の国籍を持つ生徒・教員が集う学校です。1991年に開校し、2015年には文科省のSGH(Super Global High school)の指定を受けています。また本校は校則も制服もない、チャイムも鳴らない、生徒一人ひとりが時間割を作ることができる自由な校風が特徴になっています。自律・自立を大切にしています。

 

私は現在、社会科と総合探究科に所属します。免許は、英語と情報も所持しています。今回ご紹介するのはシミュレーション教材を使ったネットいじめの予防・教育プログラムづくりです。

 

シミュレーション教材とは?


 

インターネットやスマートフォンの普及が進み、ネット上のいじめなど深刻な問題が発生しています。ネットいじめは「手段としてインターネットを使用したいじめ」であり、従来からあった学校のいじめの一形態です。インターネットは、早く広く事態を悪化させるため、早期の対策や予防が求められています。そのための教材にはいろいろなものが出ていますが、どちらかというと個別体験型のものが少なく、解説するマニュアルも多くなく、そして自分の考えを議論・共有するものが少ないと思われます。

 

そのような状況の中で、加害行動を目撃した人の行動選択やその結果を描いたシミュレーション教材や、動画教材を用いた教育実践が行われるようになってきました。

 

このシミュレーション教材によって、ネットいじめの対応においていじめを目撃した「観衆」や「傍観者」の適切な行動への判断力を育成し、ネットいじめを抑止する意識を向上させる点で重要であると考えています。

 

そして、人間関係のトラブルを目撃した場合には早期の対応が必要であることや、様々な行動の選択肢があることを理解させることを目標としました。

 

BYOD環境を利用した実践の事前の手続き

本実践で用いたシミュレーション教材は、筑波大学ウエブサイトで公開されている「桜英学園物語」というものです。事前の準備として、事前に自分のデバイスに教材をダウンロードしておく方法、実践時に直接URLにアクセスするという2つの方法を取りました。ネットワークの環境としては、普通教室のWi-Fi環境を使って実施しました。

 

本校では昨年から完全BYOD(Bring Your Own Device:個人で所有しているPCやスマートデバイスを持ち込んで授業で使用する)を実施しています。BYODは近年のiPhoneやiPad、Surfaceなどのスマートデバイスの急速な普及によって注目を集めています。

 

今回の実践でも、大半の生徒は自分のデバイスを各自で持参し、自分のコンピュータでシミュレーション体験をすることができました。また、シミュレーション教材の音声が他の人に聞こえないように、各自で用意したイヤホンを利用しました。

 

シミュレーション教材「桜英学園物語」

今回のシミュレーション教材「桜英学園物語」のストーリーは、主人公の女子高生が、同級生(加害者)から、彼女の仲良しグループのメンバー(被害者)に対する不満を聞くところから始まります。

 

教材を体験するプレーヤーは、画面の登場人物の会話を読みながら、主人公の仲裁や傍観などの行動を選択しながらストーリーを進めていきます。

 

早期に適切に行動すると、事態の悪化を防ぐことができますが、行動のタイミングが遅れたり不適切な行動をとったりした場合には、事態を悪化させてしまう、という構成になっています。そして、ネットの安全利用に関する解説も行われます。

 

50分授業の場合は、次のような構成となります。

 

まず授業の導入(5分)で、スライド資料を用いて、クラスの対人トラブルに対する「当事者意識」の重要性や、学校での対人トラブルとネット上での対人トラブルとの関係性、特にネット上のトラブルは早く広く拡散し悪化させることなどを説明します。

 

次の20分で、生徒がシミュレーション教材を実際に体験します。早く終わった生徒は違うパターンを試してみること、時間が足りなかった生徒は後で体験し直すように指示します。

 

次の15分で、2~3人を1グループとして、このような場合にクラス全体で取るべき行動とその結果について話し合い、その結果をワークシートに記入します。

 

その後の5分でグループで授業のまとめを話し合い、最後に全体を通しての感想を記入します。

 

いじめを抑止する効果はあったか

今回の実践では2~3名のグループで話し合ったためか、いじめを抑止するために数名のグループで取る行動に関する記述が多く出ました。例えば数名でできる行動の例としては、被害者を仲間に誘うという回答が、複数のグループで見られました。また、状況がひどくなったら、先生など他の人に相談すべき、という回答が出ていました。そして、人間関係のトラブルを目撃した場合には早期の対応が重要であることを理解していましたが、その具体的な行動としては、大人への相談以外の選択肢を考えている生徒もいることが示されました。

 


 

生徒の感想には「個人や人間関係のトラブル・いじめの状況によって目撃者が取ることができる行動は異なることを実感した」とか「法律はいじめにも適用されうること、しかも中高生も対象になりうることを学んだのは驚き」「やはり大人に相談すべきだと思った」という声もありました。

 

今回の授業が、今後対人トラブルを目撃した際の参考になるかについて、「参考になった」から「参考にならなかった」までの5段階評価でアンケートをとったところ、約7割が「参考になった」と回答しました。

 

ただ「参考にならなかった」という回答には、「シミュレーションの教材がアニメっぽくて、ネットトラブルをリアルに伝えていない」という意見もありました。また今回の教材は女子生徒どうしの人間関係のトラブルを扱っています。今後男子生徒のトラブルを扱うことも含めて、教材の質の向上を課題としたいと思います。

 

ネットトラブル予防は継続が力

私は「高校生ICT Conference」(※)という活動をしています。これは高校生が自分たちでネットいじめなどモラルネットトラブルに気づき、考え行動するという発表の場になっています。今年も8月から全国18箇所で実施する予定です。

https://www.good-net.jp/ict-conference/2018/

 

その活動の中でもアンケートを取っていますが、今回の実践やアンケートから見えてくるのは、トラブルになりやすいのは、生徒が「これはいじめなどではなく当人同士がふざけているだけだ」ととらえているケース、つまり被害を受けている側は気にしていないだろうと見逃しているケースなのです。

 

今回の実践の報告のために、総務省のインターネットトラブル事例集をはじめ、大学の出している情報モラル診断サービスやインターネット業界の出しているものなど、様々な教材に目を通してみましたが、やはりシミュレーション型の教材は少ないようです。

中でも一般社団法人大学ICT推進協議会が作成された情報倫理デジタルビデオ商品集(※)は、ビデオクリック型で簡単に見ることができ、大変参考になりましたのでここでご紹介します。

https://axies.jp/ja/video

 

また改めてとなりますが、ネットモラルの予防というのは、一回限りの実践では効果がないことが多く、いかに継続していくかが大切になります。これからも全国のいろいろな方々とお互いに連携し、課題や問題点を共有しながら進めていきたいと考えています。

 

※教材のダウンロードや、一緒に実践をなさりたい方は、米田先生までご連絡ください。

  [米田先生のメールアドレス]→◎を@に変えて入力してください

     kenzoo◎cd5.so-net.ne.jp

 

第11回全国高校情報教育研究会全国大会事例発表より