事例95

オンライン版ドリトルの統計処理機能と実践の報告

大阪電気通信大学工学研究科修士2年生 小林史弥さん

日本語プログラミング言語「ドリトル」に統計処理機能が搭載された!

ドリトルは、教育用に設計されたオブジェクト指向型のプログラミング言語です。このオンライン版に統計処理機能を実装し(※1)、高校の授業で実践しました。今回は、この統計機能の説明と、高校の授業で実際に使った時の様子について報告します。

 

※1ドリトルはフリーソフトです。インストールせずにブラウザから使えるオンライン版のほか、下記から最新のインストール版をダウンロードしてお使いください(統計機能は、「V3.22(開発版 2018/1/2)」以降で利用できます)。

https://dolittle.eplang.jp/download

 

次期学習指導要領では、小学校でのプログラミング教育や高校の共通科目「情報I」でプログラミングが必修となったことが注目されていますが、もう一つの注目すべき点として、小学校・中学校・高校を通して、統計・データサイエンスを体系的に学ぶことになったことがあります。小学校・中学校の算数・数学の4つの柱の中に「データの活用」が入り、必修の共通教科情報Iでは「(4)情報通信ネットワークとデータの利用」、選択科目の情報IIでは「(3)情報とデータサイエンス」がこれに当たります。

 

共通教科「情報」で統計やデータサイエンスを学ぶためには、一般的にエクセルのような表計算ソフトやツールがよく使われています。しかし、表計算ソフトは、個人で使う分には便利かもしれませんが、この使い方をクラスで一斉に教えるのはとてもたいへんです。そして、使い方を理解できていないと、「自分は今何のための操作をしているのか」をわからないまま進めることになってしまいます。

 

1行ごとの手順の内容を理解しながら統計処理のプログラムが書け、手順を覚える時間も短縮

ドリトルの統計機能は、「データの処理」「分析」などの動作ごとに、結果を表の形で確認しながら学習できることが特徴です。そして、ファイルから読み込んだ表形式のデータに対して、例えば文字の一部を置き換え、その結果に対してほかの文字を連携するといった感じで、処理を次々とつなげて書いていけるようにして、1行でデータの読み込み・書き出しができるようにしました。

 

 

もともとドリトルは日本語ベースであるので、どんな操作をしようとしているのかが明確にわかるという特徴があります。子ども達は、どのような手順を踏めばよいかを考えて1行ずつ処理手順を並べていくことで、細かい手順を踏まえた処理の構造化ができます(※2)。

 

※2 ドリトル 統計機能の説明はこちら

https://dolittle.eplang.jp/ch_stat

 

ドリトルのホームページには、「西宮市の高校に通う生徒の通学データ」という、授業で使えるサンプルデータかが準備されています。

 

子ども達は、下図にあるような命令を組み合わせることで、「1年生だけ集める」「通学30分以内の生徒だけ集める」といった処理を行うことができます。同じ活動をエクセルの操作を教えながら行うのに比べると、活動時間がかなり短縮されます。

 

 

さらに、上図の中に出てくるような円グラフをエクセルのような表計算ソフトで描こうとすると、表計算ソフトで作るグラフは面倒な並べ替えをしないとグラフは項目の順に出てきてしまいますが、このドリトルで作るグラフは、初めに命令で指定しておけば、大きい割合を占める順に並べ替えて表示されます。

短縮できた時間を分析結果の考察に使い、より深い理解へつなぐことが可能に

このように、ソフトの使い方の説明にかける時間を削減できることによって、授業では「グラフで可視化されたデータから読み取れることは何か」ということに時間をかけることができるようになります。

今後も高校生が興味を持てるようなサンプルデータを増やしていければと考えています。

 

この統計機能を使って、大阪府の私立高校1年生の授業で代表値、相関、可視化などのデータ活用に関する授業を50分×5回行いました。

 

第2回の授業では、学校から自宅までの距離に関する代表値を調べ、ヒスとグラムを描画する学習を行いました。

 

使用した命令と、作成した表・グラフは下記の通りです。

 

 

さらに第4回では、自宅までの距離と読書の冊数の相関を調べ、散布図を作成しました。一見直接関係のない二つのデータを組み合わせることにより、何らかの関係があるのか(あるいはないのか)を考える活動です。使用した命令と、可視化したグラフがこちらです。

 

 

この学校での実践から、ドリトルと一般的な表計算ソフトを比較すると、ドリトルの方が、授業の進行がスムーズであることがわかりました。これは、プログラムを直接書いて行くことで、処理の手順を明確に示すことができることが背景にあります。一方で、プログラムの入力に手間取る生徒もいました。次期学習指導要領でも言われているように、情報活用能力にはタイピング能力の向上が不可欠であることも示される結果となりました。

 

第11回全国高等学校情報教育研究会全国大会ポスター発表より