事例93

ルーブリック評価と学校教育の情報化を学んで

神奈川県立鶴見高校 井本絵里先生

本校は、神奈川県から「新たな学習評価に係る研究」の指定を受けていますので、その関係で情報科のルーブリック作りを行っています。そちらについてお話ししたいと思います。また、昨年の学校教育の情報化指導者養成研修についてもお話しします。本日は、若手からベテランまでたくさんの先生方に集まっていただいているので、皆さんからのご意見をいただければとも思っています。

 

 

また昨年までは、本校にはもう一人、情報科のベテランの先生が教頭先生としていらっしゃったので、授業についてもネットワーク管理についてもいろいろご相談できたのですが、今年はその方が教育委員会に異動されたので、私一人になってしまって、孤独と戦いながら過ごしている感じです(笑)。その辺りもお話しできればと思っています。

 

本題に入る前に、少しだけ本校のコンピュータ室につきまして。昨年、コンピュータ室の配置を変更して、4人で一つの島になるようにしましたら、パソコンを使うときも、使わないでグループワークをするときも、授業がとてもやりやすくなりました。レイアウトのご参考に、ぜひ知っていただければと思います。

 

 

情報科の評価基準となるルーブリックを作ってみた

ルーブリックとは何か、ざっくり言うと、生徒の学習評価をする際の評価の観点と、その基準をマトリックスに書いた評価基準表のことです。これを使って、誰が評価しても同じ評価になるような基準とするために作ります。

 

特に情報科は、TeamTeaching(TT)で授業を行っているので、TTの先生と同じ評価ができないと、どうしても頼めることが少なくなってしまうということを、これまで課題に感じていました。ルーブリックは、その問題の解決にとても役立っていると感じます。

 

また、ペーパーテストで知識・技能は測れますが、関心、意欲、態度、思考、判断、表現というのは、なかなかテストでは測りにくい部分ですが、ルーブリックはその辺りの評価にも役に立っています。

 

こちらがルーブリックの作り方です。本校では、縦軸に評価項目、横軸にS・A・B・Cの4段階を書いています。そして、Bのところにその単元の目標、つまり生徒全員が達成してほしいところを書き、それに加えて、よりできたのがA評価としました。S評価は生徒の伸びしろということで、生徒の多様性や自由なアイデアを、もっと伸ばせるようにということにしています。

 

ルーブリックを使って、授業や生徒にどのような変化があったのかが、下図です。本校の研究の中でアンケートを行っていますが、その中でルーブリックを活用した学習評価は有効だったと答えたのは6割程度でした。これは去年のデータなので、今年取るとまた変わるかもしれません。また、使いやすい場面とそうでない場面があったので、使いやすい場面についてはかなり有効ではないかという話が聞かれました。

 

こちらは生徒による授業評価の結果です。平成26年以降、ルーブリックを導入したり、机の配置を変えたりして、生徒が取り組みやすい環境を作り、生徒主体の授業の工夫を続けてきたことの成果が出ているのかなと思います。

 

ルーブリックを取り入れた効果と課題

ルーブリックを取り入れて良かったことは、まず、評価がとても楽になりました。下図は、昨年「問題解決」の単元で使ったルーブリックです。

 

最初の授業で、今回評価する項目は企画内容、発表内容、伝えた方、デザインの4項目だよと生徒にこのルーブリックを示しました。

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これを全部読むのはたいへんなので、1時間ずつ「今日の授業では、この中の『企画内容』に注目して企画つくりをします。そして、今日はプレゼンのリハーサルをするので、『伝え方』のルーブリックを確認してね」というように、この中のいくつかを示すようにしました。生徒はこの表に従って、相互評価を行ったり、作品の作成を行ったりしました。

ルーブリックを使うようになってからは、生徒同士がお互いに「あなたはここを変えれば評価が上がると思うよ」「あなたの評価はAだと思うよ」とか、「この点がB止まりの原因じゃない?」のようなことをお互いに話し合っている姿が見られるようになり、こんなところはルーブリックのすごいところだなと思っています。

 

また、私に質問に来るときも、「どうやれば成績が上がるんですか」というざっくりした聞き方をする生徒は前よりは減ってきて、「先生、ここが原因なんですか」っていうように、具体的なところを自分で何となくわかった上で聞きに来るようになったという変化を感じています。

 

また、TTの先生と連携しやすくなったということも感じています。以前は、出席をチェックしていただいたり、コンピュータのトラブルが起きたら対応していただいたりくらいで、申し訳ないと思っていましたが、今はルーブリックを見せて「今日はこういうところを見てほしいです」とお伝えして、個々の生徒の関心・意欲・態度の評価付けていただいています。その際の基準も明確になったのも、とてもよいと思います。 

逆に今、難しさを感じているのは、ルーブリックを最初に示すことで基準が変えられないことです。そのために、ぶれない基準を作るにはどうしたらよいか、今でも悩んでいるところです。

 

例えば、こちらは発表のスライドの評価のために作ったルーブリックなのですが、昨年の公開研究授業で、先生方に「文章だけのスライドはC評価になっちゃうんですか」とご指摘をいただきました。

「きちんと意味があって、イラストを使わずに文章だけで構成する生徒もいるのではないか」ということです。言われてみれば確かにそうだなと、私の中でまだまだ見落としている部分がいろいろあることに気づきました。その辺りを満遍なく見ていくということが、未だにうまくいっていないと感じています。 

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生徒と一緒にルーブリックを作ってみると

また、「生徒と一緒にルーブリックを作るということも、ぜひやってみてください」というご意見もいただいたので、今回チャレンジしてみたのがこちらです。1時間使って発表を行ったときに、生徒には私が示したルーブリックで相互評価をやってもらったので、それを受けて、今度のポスター発表では自分はどこを見てほしいのか、一つ項目を選んで、ルーブリックを作ってきてね、いう宿題を出しました。

ご覧いただくとわかるように、「キャッチコピー」という評価項目だけでも、本当にいろいろなアイデアが出てきて、これをどのようにうまくまとめたらよいか、苦戦しているところです。ただ、生徒は自分が書いた内容が、そのまま先生が使ったり、お互いに評価したりする基準になるということで、目に見えてやる気を出してくれました。その意味で、これを今後はもっと簡単に、かつしっかりとした基準を生徒と一緒に作れる体制を作っていきたいと思っています。

 

ご参考までに、Rubric Bankというサイト(※)にいろいろな先生方が作られたルーブリックが載っていて、とても参考になります。ぜひ見ていただければと思います。

 

https://mmt4.cs.tohoku-gakuin.ac.jp/

 

[学校教育の情報化指導者研修報告]

ICTを気張らずに使ってみることから、シンキングツールとしての可能性が見えてくる

続いて、「学校教育の情報化指導者養成研修」についてお話しします。これは、今年1月に5日間の研修に行ってきたものです。全国の小・中・高・養護学校の先生方や指導主事の方、若手の先生も管理職の先生もいるという、本当に幅広い先生たちと一緒に学んできました。とても内容が濃く幅広くて、これを一つひとつ話しているときりがないので、今日は三つだけご紹介します。

 

一つ目が東京学芸大学の高橋純先生のお話で、「わかりやすい授業づくりのために、ICTを日常的に気張らずに使おう」というお話です。ICTは、従来のアナログの教科書やノートに代わるものとして取り入れるのではなく、それらと一緒に使っていき、その中で無駄が削れるのはどこか、授業の質を上げるにはどうすればいいのかということを考えていきましょう、というお話でした。

 

教える方としては、どうしてもICTならではの使い方を考えがちですが、写真を1枚みせるだけでもいい、どんな使い方でもいいから授業の中で5分間だけで使ってみる。そして、ちょっと違ったな、これは別にやらなくていいなと思ったらやめる、という気軽な気持ちで取り入れていけばいいですよ、というお話でした。

 

また、学力を向上させるためには、授業力はもちろんとして、いろいろな要素があります。ICTの活用は、その中の一つと考えましょう、ということでした。簡単なことですが、例えば参考資料となる絵が1枚あったとき、「ここに注目してね」と言うだけでは、生徒にはなかなか伝わりません。でも、注目してほしいところをぐいっと拡大して見せることで、生徒の視線を集中させることができ、それだけでも十分効果はあります。このように本当に小さなことからやってきましょう、ということでした。

 

また、ICTの利点として、画像や画像、音を簡単に見せることができます。例えば、「この『ジャコと大根のシャキシャキサラダ』の特徴を10個言ってください」と言われたら、皆さん何個言えるでしょうか。

 

これが例えば家庭科であれば、「ジャコは何キロカロリーで、大根が何キロカロリーで…」という観点になりますし、国語科であれば「シャキシャキという食感を表す言葉が、このサラダのイメージを膨らませている」というように、教科によっていろいろな視点がある、ということを教えていくのも、授業の中で大事なポイントであると思いました。

 

これが情報科であれば、例えば二つのグラフを示して、これらを比較してみよう、と問い掛けをするとき、比較するということは、どこが同じでどこが違うのかを明らかにしなければなりません。そのために有効なシンキングツールとはどんなものなのか、という話を生徒にするだけでも、生徒の発想力をどんどん広げていくことができる、ということでした。

 

そのためには、まず学校内のICTの環境整備が必要です。この表にあるように、教室に実物投影機が常設されていて、ぱっと映すだけで使えるのであれば、使用率は8割を超えますが、これが授業のときに職員室からわざわざ教室に運んでいくということになると、使用率ががくっと下がってしまいます。確かに、たった1枚の写真を映すために教室までプロジェクターを運んでいくのはなかなか大変なので、使いたいときにすぐ使えるようなICTの環境整備を進めていくことの必要性を感じています。

このため、私も自分の学校でICT機器の管理をしっかりやろうと思ったのですが、実際にやってみようとすると、これがなかなかたいへんでした。うまい管理方法ものアイデアがあれば、ぜひ教えていただきたいと思います。

 

フラッシュカードのように使うことで、基礎知識の定着を図ることも

ICTの効果的な使い方として、もう一つご紹介しようと思います。例えば、フラッシュカードは、各教科で繰り返しの定着が必要なことを覚えるために使えます。情報科であれば、例えば「光の三原色は何と何と何?」というものでもいいですよね。これもきわめて有効なICTの活用法の一つで、これなら簡単なので、いろいろな教科の先生方に使っていただけるのではないかと思います。

 

東北学院大学の稲垣忠先生からは、「情報活用能力の重要性」についてお話がありました。生徒が深い学びをするためには、探究の質を上げていかなければなりません。そのためには情報活用能力の育成が必要である、ということで、情報活用型プロジェクト学習という提案がありました。 

 

こちらが、「情報活用型プロジェクト単元・デザインシート」です。 

このシートは、プロジェクト型の課題を考えたとき、一連の活動の中で、情報の収集・編集・発信という各段階で、どのような情報活用能力を育成できるのかを、下図の下の写真に貼ってあるようなカードを並べることで、見通しを持って単元の設定ができるというものです。

 

このシートは、単元の活動計画を作るときにとても便利なので、ぜひ先生がたにも利用していただければと思います。もちろん、全ての単元で使えるわけではありませんが、問題解決のような単元であれは、見通しを持った単元作りに、とても有効だと思います。

 

 

単元のミッション(下図で言うと「ヒトの臓器・機能と病気の関係を調べ、お年寄りに伝えよう」)を決め、そのミッションを達成するまでに必要な作業をカードを使って構成立てします。何を使って情報を収集するのか、制作過程でどんな活動をし、どんな成果物にするかなど。そしてカードの記載に沿って学習活動を具体化するためのアイデアを考えたり、それぞれの過程(収集・編集・発信)で指導する情報活用能力を考えたり、評価の場面を考えたり・・・と生徒の探究過程を簡易にシミュレーションしながら活動設計をすることができます。 

※稲垣忠先生のサイトはこちら。

 カードやルーブリックバンク等、こちらのサイトでご紹介しています。

 http://ina-lab.net/special/joker/

 

 

カリキュラム・マネジメントによる全校体制の情報モラル教育

最後に、長谷川元洋先生(金城学院大学)の情報モラルのカリキュラム・マネジメントのお話です。情報モラル教育には、予防、未然防止、事後指導・再発防止の三つが必要です。

何よりも、情報の授業だけでなく、ホームルームや他の教科などを通して、いろいろな場面でいろいろな先生たちが協力していかなければ身に付かないということで、全校体制で情報モラル教育をするための、カリキュラム・マネジメントによる仕組み作りを実習しました。

具体的には、縦軸に学年を、横軸に各教科の指導、総合学習・学活、保護者に向けての指導、道徳科での指導を置き、それぞれで何をすべきかを考えて付箋を貼っていきます。そして、ここの学年は情報モラル教育がちょっと弱いね、とか、同じような内容をいろいろな学年でやっているので統一できないかな、というように、情報モラル教育全体の在り方を可視化して、ポイントを押さえていきました。

その中で大事なのは、ダメだダメだと言うだけでなく、例えば出会い系サイトというものが全てが悪いわけではなく、そこで出会っていい人と悪い人を見分けられるようになるというのが、情報モラル教育の目標である、ということです。こういうことをいろいろな場面で少しずつ繰り返して話していく体制を作るために、この表はとても有効であることがわかりました。

 

情報モラル教育の優れた先進事例として、札幌市立平岡中学校の研究紀要がとても参考になります。ホームページ(※2)にも掲載されていますので、ぜひご覧ください。

※2

http://www16.sapporo-c.ed.jp/hiraoka-j/attach/get/650/677/6/0

 

学校教育の情報化については、学校内の先生方の共通理解を進めたり、ICTの整備をしたり、とやらなければならないことが多く、まだできていない部分も多いのですが、情報科の教員だからこそ率先して進めていかないといけないところもありますので、今後も頑張っていきたいと思います。

 

[質疑応答]

Q1:二点、お聞きしたいと思います。一つは、ルーブリックはとても効果があることはわかりますが、逆に評価地獄になってしまう可能性もありますよね。私もルーブリックを使っていますが、1単元に1回と決めています。ですから、4月に新学期が始まってから、まだ3回しか使っていません。井本先生はどのくらいの頻度で使っていらっしゃるでしょうか。

 

二つ目が、私はルーブリックを何のために導入するかと言ったら、一番大事なのは生徒のやる気を引き出すためで、先生が評価を付けやすいというのは、実は二の次ではないか思います。自信がない生徒に対して、情報科の授業ではこれをやったらいい評価がもらえるんだよ、というのを見せることで、「俺、できるじゃん。頑張ったからSじゃん!」と実感することができる。先生はこういった点はどう感じていらっしゃるか、教えてください。

 

井本先生:私が生徒の評価に使ったのは、4月からまだ1回だけです。最初の単元の最後に生徒が発表したときのものを評価に使いました。またリハーサル時にもルーブリックは使いましたが生徒同士の練習用としてで、評価には用いていません。

 

ルーブリックの導入については、最初はTTとの連携が楽だなとか、評価を先に示しておくと楽だなっていうところはありました。ただ、効果としてはやはり生徒の学習意欲が目に見えて違うことを実感しています。今は、ルーブリックを作る際に、どのように示したら生徒は意欲的になるかということを考えながら作っています。

 

Q2:質問ではなく感想です。まず、今日の発表は本当に参考になることがたくさんあり、またこんなサイトもあるんだと勉強になりました。自分も今日の話を参考にして、ぜひやってみたいなと思います。

 

情報機器の管理は、私も毎年泣かされています。ちょっとした小さい物がリース物品だったりすることが多いですよね。本校でも、去年はビデオカメラはちゃんとチェックしたのですが、中のSDカード(これもレンタル)がないと大騒ぎになりました。

 

そこで覚えたことは、協力してくれる仲間を増やすことです。本校には、校内のサーバーに掲示板があるので、そこに逐一、「今週はこれがありません。持ちだしている人はすぐに返却してください」と毎週載せていると、自然にこっそり返してくれるようになったり、優しい先生が「〇〇先生の机の下にあるわよ」と教えてくれたりするようになりました。一人で抱え込むのでなく、そういう仲間作りも効果があると思います。

 

平成30年度神奈川県高等学校教科研究会情報部会研究大会講演より