事例92

タブレット型パソコンを購入させる情報教育15年の実践

~BYOD先進校の取り組み~

横須賀市立横須賀総合高校 石井徳人先生

横須賀市立横須賀総合高校は、2003年に創立された公立高校です。創立以来、情報分野と国際分野を教育の柱にしていることから、ノート型パソコンを全員に購入させて、情報教育を行ってきました。

 

下図は文部科学省の「普通教室のICT環境整備のステップ」の資料で、Stage3が環境整備の目標となる部分ということですが、本校は10年前からStage4の状況を満たした中で教育を行ってきました。その中でいろいろな問題点や、気を付けなければならない点が多々ありましたので、その辺りをお話ししたいと思います。

 

 

ノートパソコンを道具として使いこなす力を身に付けるための環境整備

横須賀総合高校は、横須賀市立の商業科・工業科・普通科の3校を統合して、総合学科として創立されました。校舎は商業高校の跡地、校庭等が工業高校の跡地となっています。創立に当たっては、横須賀市が市債を100億円発行して建てたということです。

 

コンピュータ関連の施設としては、コンピュータ教室が五つあります。それ以外にLL教室、総合実践室、CAD室等にコンピュータ類も豊富にあるような状況です。 

 

先ほど申しましたように、本校は情報教育と国際教育を柱としています。情報教育については、生徒負担で全員にノートパソコンを持たせ、それを道具として使いこなす力を付けさせて卒業することを目標にしています。さらに、情報教育に特別な興味を持つ生徒のために、専門科目を10科目ほど配置しています。国際教育の方は、全員が海外経験をするための海外修学旅行や、留学をしやすい環境整備と留学の支援・留学生の受け入れを行っています。

 

全員がコンピュータを道具として使いこなせるようになるための教育実践のために、重視している3点がこちらです。

一つ目の生徒負担によるノートパソコンの購入については、先ほどご説明しました。

 

二つ目の学校中どこでも利用できる環境整備ということで、光ファイバーを基幹とした有線ネットワークを引いています。また、教員用と生徒用をVLANでセグメント分けした上で、学校中どこでも接続できる無線LAN環境を整備しました。そして、先ほどお見せしたようなコンピュータ関連施設を備え、教員も1人1台コンピュータを貸与されて、校務から授業まで活用しています。

 

導入しているシステムの一覧がこちらです。

 

人的な対応としては、情報の授業では1クラスを半々に分けて別々の教室で教え、それぞれに2人の教員を付けました。本校は全校で960人の学校ですが、情報の専任の教員が5人、臨時教員が2人、助手が1人という編成になっています。

 

組織については、校務分掌としての情報国際グループとしました。また、保守員として、SEの方がNTT東日本から2名常駐で来られています。

 

情報関係にかかる費用ですが、年間で約1億円です。内訳が、コンピュータネットワーク等の借り上げが年間4000万円、SEさんの給料も含めた情報システムの保守管理費が年間5000万円、さらにその他諸々ということになります。

 

コンピュータ室のうち2部屋がノートパソコン用になっています。一応40人座れますが、先ほどお話ししたように、クラスを二つに分けて別々に授業を行っているので、この長い机を1人一つずつ使えています。

 

教育課程上の単位の変遷~学習指導要領の必履修科目と学校設定科目で構成

次に、教育課程上の単位の変遷についてお話しします。

 

1期生と2期生は、必履修で「情報A」を2単位で行っていました。さらに、コンピュータを使いこなせるようになるためのリテラシー教育が必要で、教科書の内容もきちんとやらなければならないため、2年生では「コンピュータ活用」という学校設定科目を2単位で行いました。

 

3期生のときに、他の教科との関係で情報科を少し圧縮するために、「情報A」を1年で3単位、「情報活用」を2年次に1単位という形にして、10期生まで行いました。しかし、これだと教科書の内容が終わらないので、11期生から14期生までは「社会と情報」を1年次で3単位、「情報活用」を2年で1単位としました。そして、15期生、今の2年生からは、1年生で「社会と情報」を2単位、2年生で「情報活用」を1単位、3年次で「情報活用+(プラス)」を1単位の計4単位という形になりました。「情報活用+」は、実際には来年初めて行うことになります。

 

1年目の生徒個人購入で明らかになった問題点

ノートパソコンの購入については、生徒負担ということにしました。当初から、とにかく道具として使いこなすということを重視していたので、毎日持って来て、持って帰ることができることが大前提だろうと考えました。そして実社会で使われているのはWord、Excelが主流なので、Microsoft Officeの環境であるということ、そして生徒に負担させるということで、価格面を重視しました。

1期生のときに導入したのが、富士通FMVの670MC3です。B5型のノートパソコンで、ドライブ類が一切付いておらず、非常に軽くて持ち運びには便利でした。このときは、5台の代替機を準備してスタートしました。

 

1年目でわかった課題の一つは、ローンが組めない家庭があったということです。当然、一括で買うこともできず、これには非常に困りました。結局、業者に頼んで、学校の保証で分割払いにさせてもらうという特例で購入しました。この場合は学校に月々5000~6000円ずつ3年間払ってもらって、卒業するときに業者に支払いを行いました。

 

次に問題になったのが、月に1台の割合でパソコンが壊れることでした。うっかり落として液晶が割れてしまうのです。当初私たちは、これほどパソコンが壊れるということは想定しておらず、保守しか考えていませんでした。

 

高い金額を出して購入したのに、壊してしまうと約7万円以上の修理費がかかります。それをまた、家庭に負担してもらうのは難しく、業者に頼み込んで直してもらうことになりました。代替機が5台では、やはり足りませんでした。

 

当初は生徒への連絡は、生徒用のグループウェアで行い、ホームルームは行わないはずだったのですが、予定が変わってホームルームを行うことになりました。というのは、生徒には、学校に来たらまずノートパソコンを開けて、連絡を見るように伝えましたが、パソコンのスペックが十分でないため、立ち上がるのに10分かかり、開いたけれども先生から何も連絡ないということになり、こんなことを繰り返していたら、生徒がパソコンを開かなくなってしまったからです。また、パソコン自体にドライブがないため、自分でリカバリーができないという難点もありました。リカバリー用の外付けのドライブは、学校に3台しか渡されなくて、それを使わないとリカバリーできないからです。

 

2年目からは譲渡条件付きのリース契約で

1年目にいろいろな問題がわかったので、2年目からはどうするかということになり、結局譲渡条件付きのリース契約ということにしました。

 

落下事故が起きて保険を効かせた場合、減価償却で価値が下がるため、2年生・3年生になると、保険も満額は下りません。また、保険を効かせてお金が戻ってきてもパソコンが手元にないということでは困ります。そのため、例え壊したとしても、卒業までは同じパソコンが戻ってくるという体制を整えるためにはどうするか検討し、リース会社の所有物にすれば、それが可能だということがわかったのです。そして、卒業時にはそのパソコンを引き取るという形にしました。学校保有の代替機は8台に増やし、さらにCDドライブ付きのA4ノートにしました。2年目以降はずっとこの形が続いています。

 

少し細かくて見づらいのですが、機種と購入金額等についてまとめました。最初は、ドライブなしから始まって、DVD-ROMが付いたり、マルチドライブが付いたりしていきました。9期生のときには「内蔵無線LAN」が付きました。12期生からはタブレットとしても使えるSurface Proを入れ、現在に至っています。

 

 

慢性的に残った問題点とその対応

少し古い資料ですが、2008年に卒業生300人にアンケートをとりました。このアンケートでは、300人中80人が、「情報関係のスキルが身に付いた」と答えています。

 

また、在校生のアンケートでは、80パーセントから90パーセントが、「満足」と答えていて、概ね評判はよいようです。

 

ただ課題は、機種をA4ノートにしたために、重さが約2kgと非常に重くなってしまったことです。また、破損を防ぐためにケースを大きなものにしたら、持ち帰りがたいへんだということで、みんなロッカーに置いて帰るようになってしまいました。当初の目的としては、携帯性を考えていたのですが、現実にはなかなかうまくいきませんでした。

 

また、必履修の情報以外の教科ではなかなか使わないこと、連絡ツールとしてのメールが校内でしか使えないことなども問題点として残りました。

 

さらに、もともとSEの方との契約は、ネットワークの管理ということだったのですが、現実には年間300件近い生徒のノートパソコンの修理対応をお願いすることになってしまいました。

 

打開策として、軽くて薄いUltrabookを考えましたが、値段が高くてとても手が届きません。iPadも検討しましたが、ドメイン認証ができない、キーボード操作ではない、OS環境で導入が難しいなどということで、あきらめざるを得ませんでした。

 

そして、結局、本校では12期生からSurface Proを入れました。重さは1キロ以下で、教室でも教科書と共存できることや、これまでと同様のアプリケーション環境で使えること、価格的に手が届く範囲だった、ということで決めました。

 

タブレット導入後の課題としては、せっかくタブレットにしたので、その特性を生かし、できるだけ有効活用したいということがあります。

 

また、譲渡条件付きリースということがあって、なかなか新たに参入してくれる業者さんがいないため、ずっと同じ業者さんに頼まざるを得ない状況が続いています。現在、1台につき15万円台で仕入れているのですが、新規参入がないため、値段が高止まりになっていることも、課題の一つです。

 

さらに、修理対応が遅いところも問題点として挙げられます。富士通のパソコンを使っていたときは、修理がわりに早くできたのですが、Surfaceの場合は、その場での部品交換ができないので、ほとんどのケースで持ち帰り修理となり、戻ってくるのに3か月後くらいかかってしまうのです。そうなると代替機が何台あっても足りないという状態になってしまうので、本当に困ってしまいました。

 

そこで今年度から、Microsoft Complete(拡張修理プラン)というのを入れました。これは、Microsoftが準備しているプランで、落下による液晶割れやその他の故障、保険関係も含めて、3年間延長保証をしてくれるというもので、シリアル番号を送ると2営業日ぐらいで先に代替機を送ってくれます。その箱に壊れたものを入れて送り返す、という便利なサービスです。

 

もう一つの利点は、この拡張修理プランに入ると、先ほどのリース契約をしなくてもよくなるため、他の業者も参入できるようになるということです。競争が生じれば、価格を若干低く抑えることもできるはずです。

 

各教科の活動でタブレットを使いこなす

各教科、科目での使用状況ですが、調べ学習での利用はほぼ全教科で行っています。レポートの作成、プレゼンテーション、発表活動についても同様です。このパソコンでノートを取ってもよいとしている教科もあります。課題の配布や、小テストの実施にも使われますし、定期考査の解答などは、PDF化して生徒にそのまま送るというような形で利用しています。

 

特に本校は総合学科なので、「産業社会と人間」「総合的な学習の時間」が重視されます。また、進路のための調べ活動や、2年生以降の選択科目の履修もコンピュータ上で行います。また、今年度からはレポートの提出も全部データ化して蓄積し、大学入試に活用することを目指しています。課題研究や、アンケート、発表活動などにも使っています。

 

映像も有効に使っています。外国語科では、自分が話しているところをビデオ撮影して提出することがよくあります。会話テストなど、今まで先生がマンツーマンでやっていましたが、生徒が自分でベストのものをビデオで撮って送り、先生はそれを見て評価するという方法も出てきました。

 

また保健体育科では、テニスや陸上競技、器械体操など、自分の運動している姿を友達に撮ってもらい、それを見直して分析し、修正を重ねて提出することが可能です。

 

美術ではモチーフを探したり、それを忘れないよう写真に撮ったりして、チェックをしながら絵を描いていくというように、使っているケースもあります。

 

さらに、「毎日パソコン入力コンクール」というタイピングの大会に、生徒全員が参加しています。学習面では、スタディサプリを使って自学自習としています。学校内でも自宅でも、どこで学習してもかまいません。

また、Skypeを使って、タイの学校と英語を使った交流も行っています。

 

G suite for Educationを活用して

G suite for Educationは、以前Google Appsと呼ばれていたもので、Classroom、カレンダー機能、アンケート機能(Google Form)などが使えます。特に本校ではGmailのアドレスを学校のドメインで取得し、それを生徒全員と保護者に二つずつ渡して、緊急連絡は全部そのGmailで送るというような形で活用しています。

 

今後は、共同活用でどのように使っていくかというところが一つの課題です

 

それから、ビデオ編集機能ですが、以前は、ムービーメーカーが無料で使えたのですが、Microsoftがムービーメーカーの提供をやめてしまったため、それに代わる無料のビデオ編集ソフトがないか、今探しているところです。

 

今後は自分のデバイスを学校で使えるというBYOD(Bring your own device)化も目指しています。機種が同じではないと、修理対応が難しいという面もありますが、今後は、生徒の持っているデバイスを使うようにしていければよいのではないかと考えています。

 

平成30年度神奈川県高等学校教科研究会情報部会研究大会講演より