事例85

BYOD(Bring Your Own Device)で学びの場と可能性をさらに広げるために

関西学院千里国際高等部

生徒一人ひとりが自分の端末で、いつでもどこでもインターネットや必要なソフトを使うことができる1to1 Computingの環境は、ICT教育の理想的な環境と考えられています。実際に学校でこれを実現しようとする場合、学校が購入した同じ機種のタブレット型やラップトップ型のPCを全員に貸与するというのが一般的です。

 

これに対して、生徒が個人の端末を学校に持ち込み、学習に活用するのがBYOD(Bring Your Own Device)です。BYODは、生徒にとっては機器を自分に合わせて使い慣らすことができ、家に帰っても学校の学習の続きが途切れることなく続けられますし、学校側も貸与や機器の管理といった業務が削減され、何よりも機器購入の経費の削減ができます。

 

いわば「学習者中心のICT活用」とも言えるBYODですが、実際に導入や運用にあたってはどのような準備や注意が必要なのでしょうか。2012年度から全校生徒にiPadを貸与して優れた成果を上げ、2018年度からBYODの実施を決めた関西学院千里国際高等部で、ICT機器を使った授業の見学とともに、ICTの管理・運用を担当される先生方にお話を聞きました。(2018年1月31日)

 

[学校の概要]

関西学院千里国際中等部・高等部(SIS)は、同じ敷地内に同時設立された、幼稚園から高等部までの関西学院大阪インターナショナルスクール(OIS)があり、施設や授業(※)、生徒の活動を共有しています。OISは、国際バカロレア(IB)の認定校、SISも2013-15IB研究指定校となり、2013年度よりIBDP取得のできる体制になりました。

 

1学年が4クラスで約80名、中等部・高等部合わせた全校生徒は約500人で、帰国生徒・一般生徒・外国籍の生徒が一緒に学んでいます。そのため、多様性に触れる環境に恵まれており、「人は自由であり、違っていて当たり前である」という精神が根付いています。

 

※美術、音楽、体育は両校が合同で英語による授業を行っています。また、SISで英語がネイティブレベルの生徒はOISの英語クラスを、OISで日本語がネイティブレベルの生徒はSISの「国語」を取ることができます。

 

校長 井藤眞由美先生
校長 井藤眞由美先生

高等部は、自分の進路や興味に合わせて時間割を自分で組むシステムになっています。1年は春・秋・冬の3学期で構成され、その中で実施される多くの授業は1学期で教科内容が完結するプログラムです。そのため、同じ科目が複数の学期に配置されることもあります。

 

1クラスの授業は24人以下で行われ、10人以下のクラスも少なくありません。ほとんどの授業で学年の異なる生徒が一緒に学び、様々な形でディスカッションや実験・実習を取り入れたアクティブ・ラーニングが行われています。

 

現在の高等部の生徒は、入学した時からiPadの全員貸与が実施されており、様々な場面でインターネット環境やソフトを使いこなしてきています。校舎内はWiFi環境が整備され、各教室には単焦点のプロジェクタが設置されています。

 

授業の目的に応じて機器やソフトを使い分け、アクティブ・ラーニングの質を高める~日本史(近現代) 新学習指導要領 歴史総合・日本史探究を見通して

米田謙三先生

関西学院千里国際高等部の日本史の科目は、「古代」「中世」「近世」「近現代」に分け、各学期でそれぞれの「科目」を完結させる形になっています。

 

この日の米田先生の授業は「近現代」で、幕末から明治初期にかけての日本の政策や諸外国との関係がテーマでした。生徒たちは4~5人のグループに分かれ(全体で22人、高等部1年~3年の混成)、「もし北海道開拓使が設置されなかったら」「もし日清修好条規を結ばなかったら」「イギリスはなぜ不平等条約の改正交渉に応じたのか」などのテーマについて、それぞれ自分たちでまとめた意見を前に立って発表します。グループのメンバーも学年が混じっています。

 

この発表のもとになっているのが、キャンディ・チャートやピラミッド・チャートなど、様々なシンキングツールが描かれたワークシートです。例えば、キャンディ・チャートでは、「もし…だったら…。なぜなら…」という形で、事象の根拠を明らかにする考え方が必要になります。また、ピラミッド・チャートでは「事実やデータ→事実からわかること→わかったことからの意見」という意見の構造化が求められます。

 

グループで話し合ったワークシートは、iPadで撮影してホワイトボードに投影しますが、もととなるワークシートは手書きです。シートの記入にあたっては、まず個人で考え、次にグループで発表する内容をまとめます。ここでは、どんなデバイスを用いても構いません。さらに、発表の後に再び個人でここまでに考えたことを文章化し、100字以内でまとめるという作業を入れることで、定着を図ります。

 

過去の出来事を現代につないで考え、未来にどう生かすかを考えるために

日本史の中でも、特にこの時代はふつうの授業では「〇〇年に△△国と××条約を締結」、「△△国とは友好関係だが、▲▲国とは対立関係」など、事実関係の順番や内容を覚えることに重点が置かれがちですが、生徒たちは自分たちの言葉でいろいろな事件や背景について語っています。同じ出来事についても意見が分かれることがあり、他のグループの意見に興味深く聞き入っていました。中には、チャートを示さず、口頭発表だけで行うグループもありました。

 

解説もグループごとにオリジナリティに富み、「イギリスは目の前の利益より将来的に得になることを選んだと思う。今のビットコインなどに対する考え方と同じだ」「でも、条約改正に40年もかかったのは、イギリスもプライドがあったと思う」「当時の世界には、『中国は大きいけど使えない国だ』という見方があったのではないか」など、ユニークな意見も出てきました。

 

このように、ただ知識を並べて覚えるだけでなく、世界とその中における日本を広く相互的な視野から捉え近現代の歴史を考察する「歴史総合」また発展的に学習する「探究」も視野に入れた授業になっていました。

 

この授業で米田先生が使っていたのが、電子辞書の日本史・世界史小辞典や日本史・世界史用語集です。1グループに1つずつ電子辞書を貸与するとともに、グループの発表でポイントとなる点を電子辞書からホワイトボードに映し、補足説明をします。生徒の発表では足らなかった部分や、実際の映像などが提示されることで、より印象が深くなったことがうかがわれました。

 

電子辞書のコンテンツを使うのは、ネット上で調べるよりも内容が詳しく正確であり、また必要な事項にすぐにたどり着けるからです。全てをiPad上でまかなうのでなく、場面に応じて最適なソフトやデバイスを使うことが、授業の効果をさらに上げることがわかりました。この時間、生徒はノートテイクやワークシートは手書きで行い、タブレット等を使う人はいませんでした。

 

また、据え付けに加えて持ち込みの2台のプロジェクタを駆使して、板書の手間と時間を省く授業展開をされていました。先生が説明する時間は短いものの、その中で与えられる情報量を多くする工夫であることがわかりました。

 

米田先生はこの授業を始めるにあたり、最初の1時間を使ってシンキングツールとしての様々なチャートの使い方や特徴を説明することともに、歴史の授業の目的を「覚えることではない。それを考える材料にすること」、「過去の出来事を現代につないで、さらに未来にどう生かすかを考えること。自分の判断で歴史を考えること」として説明されたそうです。授業は2週間で1つのサイクルとして、そのうち4回は、先生が大きな流れや事項の説明をします。ただし、ここでも生徒が主体的に取り組むようにデジタル教材などを活用します。次の2回でワークシートを使って課題に取り組み、次の2回で発表となります。意見をまとめるために、自分たちが持ち込んで切るデバイス以外や教科書以外にも様々な参考書や資料が準備されており、疑問を持った部分は自分たちで調べて深めていくことができるようになっています。

 

STEAM(Science・Technology・Engeneering・Mathematics・Art)を具現化する「アニメーション作成」の授業

~情報 合志智子先生

合志智子先生の「アニメーションの作成」は、高校1年~3年生18名が履修する選択科目「Information Technology 01C」の中の活動です。授業の目標は10秒間の動画を作ることですが、1コマ1コマの作り方、使用する機器やアプリは自由です。パラパラ漫画の要領で、複数の静止画をつないで動きを作ります。

 

制作は6回の授業で行います。最初の時間に課題説明を受け、自分が作りたいものの企画書を提出します。企画書では制作の方法、使用するアプリや機材、ストーリー展開の主な部分の3コマのサムネイルを書き、先生に確認していただいてから制作に入ります。6回目に、コンピュータ教室のPC(Windows)で再生できるファイル形式で提出することになっています。

 

コンピュータ教室には約20台のラップトップPCが備え付けられています。作業はこのラップトップでもiPad(貸与またはBYOD)を使ってもよく、コマ静止画の撮影は自分のスマホを使うことも許されています。

 

アプリも、描画にはiPadのAnimation Desk Cloud(無償版)、Pixler、Photoshop、動画編集にはiMovie、ムービーメーカー、ストップモーションスタジオなど多彩なものが紹介されているので、生徒は自分が作りたい作品に合わせてデバイスやアプリを選んでいくことになります。

 

生徒たちの表現の方法は非常に多様です。比較的多かったのは、タブレット上にペイントツールで絵を描く過程をスクリーンショットで残していく方法ですが、紙やホワイトボードに手描きしたものをスマホで1コマずつ撮影したり、ぬいぐるみの手足の角度を少しずつ動かして連続撮影したり、色紙を切ったものを並べていったりと、それぞれに工夫を凝らしていました。手描きの絵で制作する場合は1秒当たり6~24コマ、写真からストップモーション・アニメーションで制作する場合は同じく24~30コマが必要ですが、生徒はまさに一心不乱に取り組んでいました。わからないところや、工夫が必要なところは近隣の人に相談しながら進めていきます。先生は、質問してきた生徒には丁寧に対応しますが、先生の方からあれこれと指示を出すことはありません。

 

教科書で学んだことを自分自身の作品制作の中で生かす

この授業で合志先生が重視しているのは、「知識や技術を実際に他の教科や日常生活で活用できること」です。ツールや媒体、素材を限定しないのは、実際に自分でゼロからアニメーションを作るためには、何を・どのように使えばよいか、逆にできないことは何なのかを作りながら知っていくためです。 

教科書ではさらっと1行書いてあるフレームレート(1秒間に切り替える画像の数)も、実際に作品を作るためには非常に重要なことであることも実感できます。作成した動画に効果音やBGMを入れる作業においても、方法ややりたいことはそれぞれが違うので、方法は異なります。この作業が初めての生徒にとっては簡単ではないので、試行錯誤が必要です。最終的には、作ったデータを決められた形式で提出し、WindowsのPCで再生できなければならないので、場合によってはファイル形式を変換する必要もあります。生徒はここでもまた悩むことになりますが、自分たちで考えて解決させるのだそうです。iPadに入っている便利なアプリを使って簡単に動画編集をするだけでなく、教科書で学んだ知識がどのような場面で・何のために必要になるかを考える機会となっていました。

 

◆生徒の作品

アニメーションの作成 課題説明.pdf
PDFファイル 226.6 KB

BYODを導入する背景と準備

関西学院千里国際中等部・高等部のICT戦略を担う教員チームETT(Educational Technology Team)のメンバーである合志先生にお話をうかがいました。

 

関西学院千里国際高等部は、iPadの利活用で大きな成果を収めて来られましたが、それをBYODに転換されることになった経緯を教えてください。

 

本校では2012年に、一人1台iPadを持たせる授業活動が始まりました。iPadを学校で購入して全員に貸与し、卒業時に返却するという形です。2018年度からは、全員貸与ではなく、BYODに変更することが決っています。

 

BYODを導入することになった大きな理由は、今まで貸与型で使っていたiPadがだんだん古くなって、活用しにくくなったということですが、もう一つ大きかったのが、2015年にSISがSGH(Super Global High School)の指定を受けたことです。本校のSGHは生徒全員で取り組ませるのですが、論文の執筆にはやはりキーボードがあるデバイスでないと書きにくい、ということで、iPadを貸与しているのに、特に高校2年生・3年生のたくさんの生徒が自分のMacBookを持ってくるようになりました。

 

MacBookは、ムービーなどがWindowsよりかっこよく作れるのと、電源の持続時間が非常によくて、満充電にしておけば一日中使えるという利点があります。そのため、実質的にBYODをしているのと同じ状態になっていました。さらに、本校ではiPadを使うようになってから、作品を保存したり共有したりするのに、G Suite for Educationを活用しているので、デバイスが何であっても、保存先は同じ、ということもあります。

 

 

デバイスの持ち込みにあたっては、どのような手続きを取られていますか。必要なスペックやセキュリティなどについてはどのようにされているのか、教えてください。

 

iPadでは論文を書くことは無理と言う以上、それより小さいスマホを許可してしまったら、そもそもその前提条件が崩れますので、BYODのデバイスはiPadより大きく、キーボードが付いたものであることを条件にしています。また、ネットワークへの接続は容量の関係で1人1台のみとしています。

 

持ち込みにあたっては、デバイスの使用にあたって守るべきことと必要なスペックをまとめた書類を渡し、自分と保護者のサイン、さらに担当教員のサインをもらった上で、テックサポート(※)に持ってWiFi登録をしてもらうという形にしています。ただし、BYODのネットワークは学内のイントラとはセグメントを分け、学内サーバーにはアクセスできないようにしています。ファイルのやりとりはGoogle Driveで行うので、問題はありません。

※端末やネットワーク環境自体の管理をする専門の事務職

 

インターネット接続のフィルタリングなども行っています。学校で貸与しているiPadも、もともとiPadにある年齢制限によって制限はかけていますが、一人の教員が全員を同時にコントロールするという機能は持たせていません。全員の作品を一覧で見るにしても1クラスの人数も少ないので、目も行き届きやすいし、意見を言うのであれば自分で手を挙げて言えばいいということで、集中管理するという概念がないのです。

 

iPadの方が使いやすい機能にはどのようなものがあるでしょうか。また、それに対しては学校としてどのように対応されていますか。

合志先生のアニメーション制作で。iPhoneで撮った写真を使ってぬいぐるみの動きを作る
合志先生のアニメーション制作で。iPhoneで撮った写真を使ってぬいぐるみの動きを作る

写真や動画の撮影は、やはりタブレットやiPhoneが便利です。自動で補正を入れてくれるので、普通のデジカメで撮るよりもきれいに撮れますし、撮ったものの上に注意書きを入れたりするのも、タブレットやiPhoneの方が便利です。ですので、各科に授業用のiPadを10台ずつぐらいレンタルしていますので、必要な時はそれを使ってもらいます。写真を撮るだけであれば、自分のiPhoneを使ってもよいことにしてあります。

 

iPadを使って学習成果を上げていただけに、生徒だけでなく先生方や保護者の中には当惑された方もいるのではないかと思います。そういった方々にどのように説明していかれたのでしょうか。

 

これについては、細かい説明を繰り返すことに尽きます。生徒は案外柔軟性があって、すんなり納得しました。教員に対しては、iPadではSGHの活動は限界があること、既に1学年で50人近くがMacBookを持ち込んでいる実態がある、ということを説明しました。その上で、BYODを進めるためのスケジュールをきちんと説明しましたら、特に大きな反対はありませんでした。

 

保護者に対しては、2016年の9月にBYOD化のプロジェクトについて文書を渡して説明をしました。そこでは、本校のデジタルシチズンシップを身に付けるための教育の流れ、iPadを使ったことの意義や、SGHが始まってからの実態などの流れなどについて、しっかり説明しました。

 

説明の後には、Q&Aできめ細かく対応しました。スペックは何が必要か、どういう機種を買ったらいいのか悩まれて、学校で斡旋してほしいという方もあったので、MacとWindowsとそこそこの値段のものを3種類ずつピックアップして専用のサイトを作りましたが、結局そこでは誰も買われませんでした。

 

ソフトについては、学校法人関西学院としてMicrosoftのライセンスを購入しているので、希望する生徒にはログイン用のIDを設定しています。3Dの動画やゲームをするわけではないので、CPUについては、中程度でよい、としています。画面の大きさは、11~12インチくらい、A4サイズの横幅があればベストですが、iPadの画面程度の大きさでも十分なので、Mac Bookの一番小さい軽いものでかまいません。自分でアンチウイルスソフトを入れて、学校に持ってきてください、もし入れるものがわからなかったら、またお知らせしますよ、ということをお話しておきましたら、特に反対や質問は出ませんでした。

 

 

このような一連の活動は、どのような体制で進められたのでしょうか。

 

本校とOISにETT(Educational Technology Team)という教員チームがあります。iPadの導入の時に井藤教頭(当時)と私ともう一人、数学教員でスタートしましたが、井藤先生が校長になったり、定年退職された先生がいたりしたので、新しく若い先生に2人と、今年度から米田先生も入った4人体制で、本校のICT教育にかかわる計画策定や環境整備などを行っています。

 

ETTでは、生徒のデバイス登録の世話や教員のサポートや研修、保護者との相談の窓口の役割をしています。また、どの学年も1学期に1回保護者会がありますが、そこでも私たちが必ず説明をして、疑問があったらいつでも一対一でお話しして、小さな疑問も解消するようにしています。毎年実施する学校アンケートで、保護者版でも生徒版でも不安や疑問に思っていることも書いてもらい、それに対しては個別に回答をするようにしています。

 

本校とOISのETTの間を取り持っているテックのマネージャーがおり、その人がリーダーシップをとって、両方の学校で必ず授業で使う、コアになるソフトを共通で入れています。ですので、このコンピュータのラボや図書館など共用で使うパソコンには全部同じソフトを入れるというのが基本になっています。こういったことの管理や計画をするのもETTの役割です。

 

iPadを貸与していた頃は、高校3年生が卒業する時に、全員からiPadを初期化させて回収して、ケーブルはきちんとつながるか、画面の割れはないかなどを全てチェックして、次の生徒が使えるように新品同様にキッティングするのもETTの仕事でした。時期的に短期間に集中することもあって、とてもたいへんだったのですが、BYODになるとその労力をかけなくてもよくなりました。端末やネットワーク環境自体の管理は、事務室に所属しているテックサポートという専門の派遣職員2名が行っています。

 

 

皆が別々の端末を使っていると、操作がわからなかったらどうするか、とか、ファイル形式がバラバラだったらどうするのか、などといったことが心配されるのですが、こういった点はどうされているのでしょうか。

 

操作については、周りの生徒同士で教え合うことで解決しています。私たちも最初は、先生に教えて、先生から生徒に教えるようにしようとしましたが、それでは時間がかかりすぎます。また、教えようとしても、忙しかったり、お好きでない方もいたりしましたので、私たちが生徒に教えて、生徒から広げてもらうようにしました。Google Formを使ったアンケートなどは、生徒の方が先に覚えて、いろいろなことに活用していますよ。

 

この学校では、授業や特別の活動をした後に必ず振り返りを行いますが、この振り返りもGoogle Formを使っています。先ほどお話しした学校アンケートも同様です。

 

ファイル形式で言えば、今まではレポートをWordで作らせる先生が多かったです。これは、学校がWindowパソコンなのでWordだということで使っていたのですが、BYODになると、Office365を入れている生徒ばかりでないということになります。GoogleドキュメントやGoogleスライドを使えば、デバイスの違いも気にせず、家でも学校でも同じファイルを使うことができ、グループ作業も楽にできます。どうしてもGoogle以外でという先生方には、テキストファイルを書けるものであれば、何で作ってもよいですが、提出はPDFにしてください、とお願いしています。これは、表ソフトのExcelでもNumbersでも同様です。

 

 

BYODの導入で一番期待される効果は何でしょうか。

 

先ほどお話ししたように、論文の執筆に加えて、SGH以外の課題も、今までは学校でやっていたものの続きが家でもできるということですね。Googleドライブに保存しておけば、まさにいつでもどこでも教室の続きになります。

 

子どもの側からすると、スマホやiPadはもう筆箱の中の一つのアイテムぐらいのレベルです。だから、本当は教員もちょっと考えを変えないといけないのですが、どうしてもスマホはよそ事に使われるのではないかと嫌う先生は多いですね。

 

一方で、手書きのアナログというのはすごく大事だと思います。私も、中学生ならプレゼンにPowerPointは使わなくてよいと思うので、手書きでポスター発表をさせたりします。何でもiPadやコンピュータを使えばよいというものではなく、段階や場面によって使い分けながら、両方使えるようになることが大事だと思っています。それが高校でSGHの活動をするときなどに生きてくることになります。

 

 

やはり最初に全員にiPad貸与を経験されているからこそ、BYODが可能なのではないでしょうか。初めからBYODという形は難しいということはないですか。

 

確かに、最初にiPad貸与を行ったことで、生徒も教員も、いつでもどこでも1to1コンピューティングというのはいいな、という感覚は広まったと思います。そうでなかったら、コンピュータはラボに行って使うものという感覚のままだったでしょう。今は、生徒が皆スマホを持っているので、自分のデバイスをいつも持っておきたいという思いが一層強いのかもしれません。それに加えて、論文やSGHの活動に便利である、ということを生徒も先生も共有できていることも大事であると思います。

 

[取材を終えて]

早くから全員貸与の形でiPadを導入し、優れた学習成果をあげていた関西学院千里国際高等部が、BYODに切り替えるという話を聞いた時、様々な機種やスペックのデバイスが混在する中で、今までのような授業活動はどうなるのだろうと感じました。しかし、ICT機器を使った授業を見学して、合志先生がおっしゃったように、生徒たち自身がまさに「筆箱の中のアイテム」と同じレベルで使いこなしているのを見ることができました。iPadは特別な機器ではなく、自分たちがやろうとする活動に役立つならば使う、しかし、他にもっと目的に合うものがあればそれを使う、というレベルです。

 

BYODの実施にあたっては、同校が重要な活動と位置付ける論文の執筆にはiPadが不向きであるという、明確な理由がありました。それをETT(Educational Technology Team)という、デジタルシチズンシップ教育の立場からICT機器の利用を考える教員チームが主体となり、保護者や他の教員にきめ細かく説明していったことがスムーズな移行につながっていることがよくわかりました。

 

さらに、学校の教育方針として「違っているのが当たり前」であり、わからないところは生徒同士で教え合うという姿勢がきちんとできていることも大きいと思います。

 

一方で合志先生のお話から、全員貸与型のiPadは、一斉に同じものが使える一方でスペックが古くなったり、次の学年に廻す際のメンテナンスの手間がかかったりするなど、教員の側にも労力がかかることもわかりました。今後学校現場で1to1コンピューティングが普及するのに備えて、環境整備とともに人や体制の準備も必要であることを改めて感じました。