事例76

ヒューマンピクトグラムと共に学ぶ情報の科学

神戸大学附属中等教育学校 米田 貴先生

コンピュータサイエンスを教える教具・教材の開発としてのヒューマンピクトグラム

今回お話しするのは、「ヒューマンピクトグラム(人型ピクトグラム:Human Pictogram)」を「情報の科学」の学習活動に活用した事例です。

 

活動は大きく二つに分けられます。一つは、「ヒューマンピクトグラムアンプラグド(HP Unplugged)」で、コンピュータサイエンスアンプラグドの活動を人型ピクトグラムを型どった教具でやってみよう、ということで、10数種類のアクティビティを開発しました。

 

 

もう一つは、「ピクトグラミング」(Pictogramming)というプログラミング学習環境を使った活動です。プログラミングは、今後学習指導要領の中でも位置づけが大きくなってくると思いますが、そこでこのピクトグラムを使った活動を考えてみました。

 

このプロジェクトは、青山学院大学社会情報学部の伊藤一成先生との共同研究で行っています。電気通信大学の中山泰一先生がご指摘されているように、現在高校の教科「情報」では「情報の科学」の採択率は2割しかありません。次期学習指導要領の内容を考えると、コンピュータサイエンスの部分をしっかり教えられるということは非常に重要になるのですが、先ほどの「情報の科学」の採択率から見ても、コンピュータサイエンス自体に抵抗があるという先生もかなりいらっしゃると思います。ですから、この分野を教えるための教具や教材がまだ開発されていないのであれば、何か一助になればと考えて行っています。

 

「コンピュータサイエンスアンプラグド」の活動を、より手軽に・わかり易く

例えば、コンピュータサイエンスアンプラグドの書籍やホームページ(※1)には23のアクティビティが提案されています。私自身、大好きなアクティビティですが、実際に授業でやろうとすると、いろいろ難しいのです。これについて伊藤先生とディスカッションして、コンピュータサイエンスアンプラグドを行うにあたっての課題を、五つにまとめました。

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例えば、天秤と重さの違うおもりを使った並べ替え(=ソート)のアクティビティがありますが、情報科で天秤とおもりを10セット持っている学校は、非常に少ないと思います。ここに挙げた課題で言えば、「教材準備に関する経済的・時間的負担」にあたります。やりたいけれど、モノがないからできない、ということを解消したいので、このピクトグラムがあればできるように開発しました。

ヒューマンピクトグラムアンプラグドのWebサイト(※2)も公開していますので、ぜひご覧になってください。

※1 http://csunplugged.jp/

※2 http://hpunplugged.org/

  

こちらではアクティビティの動画やデータを公開しています。現在、コンピュータサイエンスアンプラグドに準じたアクティビティを10個公開していますが、まだ可能性があると感じています。というのは、コンピュータサイエンスアンプラグドは、人間がコンピュータの役割を演じることで、コンピュータの仕組みを学ぶというものですが、そうするとどうしても一人称の視点になります。例えば、並べ替えの課題であれば、俯瞰的な視点も必要になりますが、このピクトグラムを使えば、理解できるまでシミュレーションを何回も繰り返したり、全体の役割について理解を深めたりすることが可能です。今はまだ「コンピュータサイエンスアンプラグド」のアクティビティの模倣っぽいものになっていますが、今後はコンピュータサイエンス分野に限定しない、もっとヒューマンピクトグラムアンプラグド独自の内容も出していけるのではないかと思っています。

 

人の動きを作るからこその面白さ=ピクトグラミング

もう一つがピクトグラミング(※3)で、これはピクトグラムとプログラミングの融合です。

例えば、プログラミングでVBAやJavaScriptを学んでからExcelを操作する時、生徒は操作するExcelが自由自在に動いたとしても、そこで何が起こっているかわかっているかというと、あやしいところです。

 

そもそも、Excelは既存の表計算ソフトであって、その使い方を教えても生徒は「そうですか」でおしまいで、あげくは「住所録を作って、何がおもろいねん」みたいなことを言うわけです。もっとプログラミングを自由に使えるようにしたいと、このピクトグラミングを活用しています。

※3 http://pictogramming.org/

 

ピクトグラミングでは、動かす対象がピクトグラム=人です。左側にピクトグラムが表示され、右側のブロックにプログラムを入力すれば、ピクトグラムのいろいろな関節が動くようになっています。順次・並列処理、繰り返し、条件分岐に始まり、手続き、関数なども使用できるようになっています。

 

生徒たちは、例えばバレーボール部の生徒であれば、スパイクを打つ動きを作っていくのですが、よりリアルな動きを作るために、自分で熱中しながら試行錯誤を重ねたり、先生や友達にどんどん質問したりする姿が見られます。生徒自身に、作りたい物が内発的に出てくるのです。「こうやれ」と言われて、その通り打って動いたというのとは違って、動かしたいものがあり、それが人の形をしているから、動いたらどうなるかが想像できるのです。  

 

ピクトグラミングの優れた点の一つが、ミスコードをした時です。ふつうプログラミングでミスコードをすると、生徒は「もうわからん、私プログラミング嫌い!」となるのですが、ピクトグラミングでは、こいつが変な動きをするのです。そうすると、生徒は笑います。つまり、クスクス笑いながら試行錯誤するという空間が生まれるという、非常に手応えを感じている次第です。 

 

ピクトグラミングは、ブラウザで動かすことができるので、別途インストールの必要がなく、学校での導入も容易であると思います。ホームページには、興味を持ってくださった方がすぐに使えるように、全8回分のテキストも公開しています。1コマ50分を想定した内容で、1回ごとにファイルして、全部重ねると1冊のテキストになるという形です。

 

私の授業で行った時も説明は15分ぐらいで、あとは生徒にやらせましたが、ちょっと繰り返しとアニメーションみたいなものを教えただけで、仮面ライダーみたいな面白いものを作る人が何人もいます。くじけていそうな生徒にはちょっと説明したりする一方で、面白いものを作った子を取り上げて全員に見せて共有しながら進めました。いい作品を見ると、クラス全体が「自分もあれがやりたい」という雰囲気になっていったことで、手応えを感じているところです。

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[質疑応答]

Q1.:ピクトグラミングを使うにあたって推奨のブラウザはありますか。

 

A1.:Google Chrome、Firefox、Safariが主な推奨ブラウザとなっています。教育機関ではまだInternet Explorer(IE)が多く使われていますので、IEでも動作するように実装しています。

 

Q2.:これは何年生で今使っているのですか。

 

A2.:今は高1と、中高一貫校なので、中3でもやりました。年齢を下げていけば、私自身は小学校からできるのではないかと思います。というのも、これは今英語入力がデフォルトとなっていて、例えば「回転する」だったら「Rotate」のRを入れてから、体の部位の頭文字、例えば「Left upper arm」「LUA」と入れて、「120(度)」と入れたら動くのですが、日本語入力やひらがな入力にも対応しているので、例えば「回転 左上腕 120」「かいてん ひだりじょうわん 120」と入れても動きます。そのため小学校でもキーボード入力ができる児童ならいけると思います。

 

ピクトグラミングは、小学校プログラムでよくあるタートルグラフィックスのように、動いたあとに線で軌跡を残すことができるので、LOGOなどと同じように使えるのではないかと思います。

 

Q3.:このヒューマンピクトグラムの教材セットは市販されているのですか。おいくらくらいなのでしょうか。

 

A3.教材セットは独自に制作しており市販はされていません。しかし安価に作ることができる方法をwebサイトで提示しています。名刺サイズのカードにピクトグラムを印刷して使用する紙ベースの教材のデータを公開しています。

 

実際に作る場合は、普通のインクジェットプリンターで名刺用紙に印刷して透明の梱包テープを表裏に貼れば、繰り返しの書き消しが可能になります。アクティビティによっては、お腹の部分に番号や自分の名前を書いて使うこともできますよね。そうすることで、生徒が教材として楽しく使えるように開発しています。現在では、ホワイトボード用のマーカーで書き消し可能な材質で作成したカードを大量に作成しましたので、共同で研究している先生にはそのカードを使ってもらっています。

 

青山学院大学 御家雄一さん(青山学院大学大学院社会情報学研究科修士2年 伊藤一成研究室所属):このヒューマンピクトグラムやピクトグラミングを、ぜひ学校等で使っていただきたいと考えております。こちらのアクティビティについては、われわれの研究室で開発しておりますので、授業等で使っていただいて、若干のデータをいただく形で、教具類を人数分提供させていただき活動を進めています。ご興味を持たれた方は、ぜひご連絡ください。

 

[ヒューマンピクトグラム・ピクトグラミングのお問い合わせはこちら]

ito.kazunari★gmail.com (★を@に変更)

 

神奈川県高等学校教科研究会情報部会 実践事例報告会発表より