事例105

問題解決学習におけるグループワークを成功させる「小原メソッド」の秘密 ~情報社会の授業実践

東京都立町田高校 小原格先生

新学習指導要領で何が大きく変わるか

今年3月に、新しい学習指導要領が公示されました。新学習指導要領「情報Ⅰ」の特徴の1つとして、「(1)情報社会の問題解決」と、「(2)コミュニケーションと情報デザイン」、「(3)コンピュータとプログラミング」、「(4)情報通信ネットワークとデータ活用」との関連性が明記されていることが挙げられます。要は、思考力・判断力・表現力を育て、問題解決力を育成することが、すべての情報の単元に先立ち、情報の大きな目標になったと言えます。

 

また情報Ⅰの内容や、情報Ⅱとの接続性を考えると、「情報社会の問題解決」は高校に入学間もない生徒が学習することが想定されます。

 

このため本校では、今年度新学習指導要領への移行を意識して、現在行っている「情報の科学」の問題解決の部分に中学校との接続的な内容を盛り込むとともに、年度当初に問題発見・解決の手法を学ぶ内容を行うことにしました。

 

 

本校は自主・自立、文武両道、伝統と創造を掲げた地元の名門校と言われており、東京都教育委員会から進学指導特別推進校、アクティブ・ラーニング推進校などの指定を受けています。私はその中で、10数年前から問題解決能力やグループワークの能力を身につける実践を積み重ねてきました。これを「小原メソッド」と勝手に名前をつけ(笑)、今回は、この「小原メソッド」をベースにした実践の報告をしたいと思います。

 

「小原メソッド」の授業実践

1年生の情報科の授業では、第1回から第4回の途中まではオリエンテーションや中学段階までの基礎力テスト、PCの基本操作、レポートの書き方の指導などを行うため、事実上は第4回・第5回が「情報の科学」の初回の内容になります。このうち第4回の後半で「情報の特性」について話をした後、第5回で「情報社会の問題解決」について授業を行いました。

 

入学間もない時期であるため、中学までの知識を前提として「情報社会ではどのような問題が起きているのか」という、下図に挙げた4つのお題を生徒に与え、話し合わせることにしました。

 

クラスを4人グループ10班に分けて、1~3班は1番目、4~5班は2番目、6~8班は3番目、9~10班は4番目について話し合うというやり方で授業を進めました。

 

「小原メソッド」の授業の進め方の大きな特徴の一つに、時間をかなり細かく刻み、学習すべき内容を細分化し、具体的に明示していることが挙げられます。

 

最初に、個人で自分自身の知識を使ってグループに与えられたお題について2分間考えます。この時、必ずタイマーを使って、残り時間がわかるようにします。これも「小原メソッド」のポイントの一つです。何にもしないでいると生徒はボーっとしてしまいがちですが、タイマーを使うと、生徒は残り時間を意識します。そういうことが意外に大事なのです。

 

各自が考えたことは、ワークシートに記入させます。文字にすることは大事なことなので、簡単なことでも必ず記入させるようにします。

 

 

次の2分間で、グループで車座になって、一人30秒ずつ、残る3人の聞き手に説明させます。4人ですから計2分です。

 

その際に生徒に必ず守ってもらう点として、「発表者は聞き手の顔を見ながら説明してください。聞き手は発表者の顔を見て、笑顔でやさしくうなずいてね。批判的なコメントは言わずに、ひたすら聞いてあげてね」ということを説明しています。このように、自分の意見がしっかりと受け入れてもらえる、また、他人の意見をしっかりと受け入れる必要があるということを、意識させるようにしています。

 

その次に、グループのリーダーをこちらから指名し、3分間でみんなの意見をまとめる作業をします。ポイントは、リーダーの役割や他のメンバーの役割を明示して、それぞれが話し合いを進めやすくするということ、また、その過程で、誰か一人が意見をいうばかりでなく、みんなが納得できるような合意形成ができるようにすることです。このようにして、意見をまとめるということが、具体的にどのような作業なのかを体験させるようにしています。また、やや少なめの時間というのもポイントです。短い時間で行うので、皆が協力しなければならないように仕向けることができるからです。

 

最後に1班につき30秒でクラス全員に対して発表を行います。「発表者はグループの誰に当たるかわからないよ、なので、自分が発表するつもりで議論に参加しなさい」と予め伝えておきます。発表者以外は油断して参加しないこともあるため、それを防ぐため、自分に当たるかもしれない、というプレッシャーをかけ、議論への参加を促します。

 

ここまでの説明でお気づきになったと思いますが、「小原メソッド」では時間の刻み方がとても細かいです。また、作業の内容や人の役割を、かなり具体的に明示をし、必要に応じて例示をしておきます。なぜこのように細かく具体的にするのかというと、生徒の発達段階や人間関係を考慮すると、現段階では、自由な形でディスカッションをまとめるのはとても難しいことだと感じているからです。ですから、まず初めに、「この授業ではこのように進めるよ」という形で「型」を示し、生徒にスムーズで協力的な話し合い、グループワークに慣れてもらうことを目指しています。

 

ここで私が意識していることは、教員自身が問題解決を行う必要があるということです。問題とは、理想と現実とのギャップであるため、問題を明確化する際には、その理想と現実それぞれを明確にしなくてはいけません。

 

今回の場合、理想はもちろん、子どもたちが話し合いに熱心に参加して、効率よく、建設的な意見を言い、協力的に作業を行うことです。でも、現実としてなかなかそれが難しい。その原因の仮説が、高校に入ったばかりでまだ慣れていないこの時期の1年生には、話し合うというのはどういうことか、実はまだ良くわかってないのではないかという形に問題を整理することができます。

 

このように、問題解決を教える教員であるからこそ、問題解決を意識した取り組みを行う必要があると考えています。私の仮説は、「グループワークは勝手にやらせるのではなく、適切なやり方を示しトレーニングを行うことで、その効果が高まる」ということです。

 

相手の目を見て、ニコニコと傾聴する

ここで、「小原メソッド」について、まとめてみます。

「問題解決は自分で行うものだ」「教員が解決してしまったら勉強にならない」と、私は生徒にあまり「教えすぎない」ことを心がけていることもあるせいか、教員仲間からは小原メソッドでなく「お(に)はらメソッド」だ、といわれそうですね(笑)。しかし、初めてディスカッションを学ぶ者には有効な方法であると思っています。

 

まずは、人数です。初めはペアになって、自分と相手という最小単位で考えを表現し、またそれを受け取る方法を練習します。慣れてくると4人のグループを基本としますが、制作が入るような実習では3人組にもなります。制作班とは全く別の3人の発表班に分かれて、他の2人に作品を説明させる、ということを行うこともあるからです。

 

次に、作業や発表時間のコントロールです。時間のコントロールによって、生徒は時間を区切って、その中で主張をしたり、他の意見に耳を傾けたりすることを覚えます。

 

また、年度当初の段階では、まずは自分自身の考えをまとめる時間をあえてとることも多いです。いきなり話し合いを始めると、あまり考えずに他人の意見に同調してしまうことも考えられため、自分自身の意見を整理するとともに、今回のように、一人ずつ意見表明の時間をとったりもします。

 

そして、役割の明示です。リーダーの役割、他の班員の役割をあえて明示することで、自分が何をすべきなのかを明確に意識させます。その上で、最終的に、何をしてほしいのか、どこまで議論するのかをできるだけ具体的に明示します。慣れないうちは、発表用のセリフのひな形を明示し、そこに自分たちの結果を埋めこんで発表してもらうこともあります。

 

私が話し合いで一番大切だと思うのは「傾聴」ですね。人の話をしっかりと聞くというスタンスから、グループの協力関係や信頼関係が生まれると思っています。短い時間でも順番に、例えば1人30秒ずつ、残る3人の聞き手に説明させるというのもそのためです。相手の話を聞くという態度をちゃんとつけてあげると、ディスカッションはスムーズに進むようになります。生徒はそういうちょっとしたことで変わると考えています。

 

「スパイス」については、ちょっとした「コツ」や「遊び心」といってもいいかもしれません。これは人によりけりだと思いますが、私の場合は、例えば「抽選で発表者を決めるから、自分が発表するつもりで参加してね」とし、実際に「抽選ソフト」で発表者を決めたり、また、時間をキッチンタイマーのようなソフトで明示して残り時間を意識させ、タイマーが終了すると「コケコッコー」と鳴ったりといった感じでしょうか。

 

議論の行方

さて、議論の進め方について中心にお話してきましたが、この授業の最初に提示した「情報社会ではどのような問題が起きているのか」についてお題に対して、全体発表で出てきたグループの意見は次のとおりです。

 

「ア 身の回りで起きている自分が困っていること」というお題については、「情報が溢れすぎていて、どれが本当かわからない」という意見が多かったです。これは、高校受験を終えたばかりの生徒であるため、正解にたどり着けることが当然と彼らが考えていても不思議でないと思われます。彼らには、立場が変われば正解も変わる可能性があることとか、世の中には正解そのものがない場合もあること、また情報の特性としてその一部が切り取られて伝わることが多いため、主観の入る余地があることなどについての指導も必要かと思われます。

 

残る三つのお題のグループですが、ネット社会で起きているトラブルや事件について、私が「では、具体的にどのように事件を起きているのか」と生徒に問いかけたところ、いずれも「わからない」など曖昧な回答が多かったです。ニュースやネットの記事などで見たことがあり、何となくわかってはいるが、問題が起こるメカニズムに近いところまでは到達していないように見受けられました。やはり高校では、科学的な理解からの指導が求められているように思われます。今回の授業では、最終的に「自分たちはまだ知らないことがたくさんあるから、問題解決していくためには、情報デザインやデータ利用方法を学んでいくことが必要なのだ」というところに気づかせていくことが大きなポイントですので、一定の役割を果たせたと考えています。

 

「小原メソッド」は、授業の進行管理や生徒の役割、内容を、かなり具体的に型にはめますが、授業が進むにつれて、だんだんとゆるやかな形にしていきます。そして、最終的には、プロジェクト学習や探究活動で、自分たち自身で問題を発見し、分析し、ゴールを設定して具体的な行動がとれるようになっていきます。むしろ、それが最終的な狙いであったりもしています。

 

勝手に「小原メソッド」と名前をつけてしまいましたが、実際は、授業を進める上で基本的なことが多いのかな、などと思ったりもしています。それほどたいそうなことではないので、できそうな所や自分の学校で効果がありそうな所などから、気軽に実践していただければと思っています。

 

私が問題解決をやるときに一番大事にしているのは、ブレーンストーミングです。いろいろなアイディアを出すために自由に意見を述べ合う、集団思考といわれる方法です。そのブレーンストーミングのルールに「批判の禁止」というのがありますが、実は高校生にはそれが一番難しいのです。

何かすごい建設的な意見やアイディアが出てきても、批判はどうしても出てきます。だから批判はダメだよ、それを受け入れた上で、違うやり方がよければそれを採用しなければよいだけだからと、私は生徒に強く言っています。

 

問題解決と口先で言って生徒を放置するのは少し乱暴な話だと思っています。やはり問題解決力をつけるには、グループワークは絶対に必要ですし、そのトレーニングのやり方一つでより良い形で実現可能ということを実感しています。

 

■小原先生の情報科の授業のアイデアをまとめたサイト

「情報科準備室」

 

都高情研 平成30年度プログラミング授業実践事例集

 

 

第11回全国高校情報教育研究会全国大会事例発表より