事例103

次期学習指導要領「情報I」に向けたピクトグラミング構想の提案

青山学院大学 伊藤一成先生

高校では、2022年度から年次進行で始まる学習指導要領で、「情報の科学的理解」を基軸とする「情報I」が必履修となります。情報Iでは、「(1)情報社会の問題解決」「(2)コミュニケーションと情報デザイン」「(3)コンピュータとプログラミング」「(4)情報通信ネットワークとデータの活用」が4本柱となります。プログラミングに注目が集まっていますが、他のいずれも非常に充実した、盛りだくさんの内容です。

 

これらを限られた時限数の中でいかに授業設計するか、というのは大きな課題になってくると思います。そこで、アプリケーション「ピクトグラミング」(※1)を使って、情報Iの4本柱を網羅的に学ぶことができる学習環境作りを提案します。

 ※1  http://pictogramming.org

 

ビクトグラミングは「なりきる」ことでプログラミングの理解を深める

ピクトグラム(絵記号・図記号)は、意味するものの抽象的な形状を使って、その意味概念を理解させるデザイン記号です。特に人型ピクトグラムは、抽象度が高いため、それを見た人が、自分自身や本人に関わる人物を想起する効果があると言われています。またピクトグラムは人間の日常的活動や社会的活動社会の諸問題を映し出す、一種の凝縮された写し絵であるため、「(1)情報社会の問題解決」で、情報技術が人や社会に果たす役割や影響、情報モラルなどを考えるための切り口となります。

 

 

私たちは、人型ピクトグラムに関するコンテンツ生成環境「ピクトグラミング」をリリースしています。

 

ピクトグラミングは、ピクトグラムとプログラミングを合わせた造語で、プログラミングの学習環境として使うことができますので、「(2)コミュニケーションと情報デザイン」「(3)コンピュータとプログラミング」と非常に親和性が高いツールとなっています。

 

ピクトグラミングの特徴は、パパートが重要視する「同調的学習」(※2)を設計指針の一つとしていることです。人型の対象を動かすために自分の体の動きの感覚や知識、経験を動員して考えることになり、プログラミングの手順の理解がより深められます。

※2  自分自身の体を使ってタートルになったふりをすることで、LOGO の命令を実行することができるという特徴に大きな重要性を見いだし、これを同調的学習と呼んだ

 

下図は具体的なピクトグラミングの作品例です。(a)と(b)は「走る」「手を上げる」といった自分の体の動きを表すもの、(c)は「キューピット」、(d)は「人気アニメキャラクターのポーズ」で意図や目的、好き嫌いといった自分の意識を反映するもの、(e)と(f)は「歩きスマホ禁止」「ドアはノックしましょう」など、社会的に望ましい行動を表現するものです。

 

ピクトグラミングを授業内で使う際には、まずは(a)(b)のように日常的な身体の動きからはじまり、デザイン志向の授業を設計したならば、(e)(f)のように、デザイン指針に応じて、社会・文化と深く結びついている行動をアイコンやマークなどの作品が作製されます。また、プログラミング志向の授業を設計すれば、(c)や(d)のように世界観やアイデアなどを盛り込むことによって、自由に表現や創造する作品が作製されます。いずれの場合も、生徒が作品を自分と同一視したり、自分の姿を投影したりという、より幅広い表現活動が可能になります。

 

さらに、ピクトグラミングのプログラムコードは、細粒度で、動きや表示と関連づいているため、加工容易なメタコンテンツに相当するデータとみなすことができます。「(4)情報通信ネットワークとデータ活用」では、仕組みや構成要素、プロトコルに関する技術を理解することがうたわれていますが、この部分は、擬人化技術を使って現実世界の日常的振る舞いに落とし込んで理解するのに人型ピクトグラムは役立ちそうです。またデータの蓄積、管理、整理、分析についても同様です。つまり、「(2)コミュニケーションと情報デザイン」「(3)コンピュータとプログラミング」の視点の授業で蓄積されたコンテンツを「(4)情報通信ネットワークとデータ活用」の領域でも、先に述べた特徴を生かした授業設計が実現できると考えています。

 

情報Iを網羅的に学ぶための素材として

ここまでが、いわば「狭義のピクトグラミング」としての使い方であるとすれば、ここで生成される人型ピクトグラムを擬人化エージェントとみなして、このエージェントと影響し合う人間を含めた認知空間を想定し、この空間の中での様々な相互作用を総合したものを「広義のピクトグラミング」と定義します。

 

ツールとしてのピクトグラミングで人型ピクトグラムを生成する過程で、「どのように表現したらよいか」と考えることで、作る人に内省を促します。それによって、従来のサインとしてのピクトグラムだけでなく、先ほど述べたような同調的学習に根ざしたピクトグラムの創作・表現活動まで広げることができます。そうすることで、人型ピクトグラムを「同一視」だけでなく「共感」の対象としてとらえることになり、二重の認知モードが促進されると考えています。この二重の認知モードの確立は、システム-ユーザ間のコミュニケーションを円滑にするとも言われ、「(2)コミュニケーションと情報デザイン」の中のより高度な「コミュニケーション」につながります。これは既存の一斉教授型の授業からの転換を促すでしょう。ここまでにお話しした活動との関係を表した全体像がこちらの図になります。

 

 

高等学校学習指導要領解説も公開されましたが、このようにピクトグラミングは「情報I」の中に散在するように見える学習単元を網羅的に学習することが可能なモデルを提案できると考えています。まだ構想部分も多いのですが、2020年ぐらいには実装を完了したいと思います。これからも多くの賛同者の方とともに、研究や開発を進めていきます。

 

第11回全国高校情報教育研究会全国大会事例発表より