事例102

「問題解決力」を試す問題の試行

~もし高校1年生が新しい大学入試で出題されそうな問題を解いたら?~

東京都東京都立小金井北高校 飯田秀延先生

中等教育学校の適性検査に出題される「問題解決力」

本校は1学年が6クラスの全日制普通科で、ほぼ全員が4年制大学に進学し、うち1割が国公立大学へ進みます。今回は、高校1年生に新しい大学入試で出題されそうな問題を解かせてみるという試みをしました。

 

2020年度から、センター試験に代わる大学入学共通テストでは、従来の知識・技能から、思考力・判断力・表現力などを重視した「問題解決力」を問う問題に変化すると言われています。そういう問題を先取りし、まさに2020年度の入試にぶつかる1年生に体験してもらおうと考えたのです。

 

参考になるのは、2017年に実施された共通テストの試行調査(プレテスト)です。この時の出題された問題にはこれまでと違った傾向が見られました。

 

例えば、複数の情報(文章・図・資料)を組み合わせて思考・判断させる問題や、高校での学習場面を想定した問題が出題されました。私はこの問題を見たとき、公立の中高一貫校の適性検査に似ていると思いました。公立の中高一貫校の入学時には、受験戦争の低年齢化を避けるため学力試験が行われず、「適性検査」が取り入れられています。ちなみに東京都は、附属中学校および中等教育学校の入試を始めた13年前からこのやり方で出題しています。適性検査は、暗記した知識を問うのでなく、複数の資料を読み取る力が問われており、問題解決力を問うたプレテストとほとんど同じ形式の出題です。

 

今回の試行では、現状で入手可能な入試問題から「問題解決力」を試すような出題内容で、かつ30分程度で解答できることを考慮し、次の4題を出題しました。なお今回は、このうち[問題4]と[問題3]の結果について報告します。

[問題1] 平成26年度 東京都立両国高等学校附属中学校適性検査問題 適性Ⅰ[問題1]

[問題2] 平成27年度 東京都立両国高等学校附属中学校適性検査問題 適性Ⅲ[問題2]

[問題3] 平成25年度 東京都立桜修館中等教育学校適性検査問題 [問題2]

 http://www.oshukanchuto-e.metro.tokyo.jp/site/zen/content/000028387.pdf

 

[問題4] 平成27年度 明治大学 情報コミュニケーション学部 情報総合問題[Ⅳ]

 http://www.wakuwaku-catch-mondai.net/question/detail/56

 

授業の最初に主旨と解答方法の説明をし、問題を実施、最後に感想と自己採点結果の回答という流れで実施しました。実施時期は1学期の期末試験の後です。

 

すごく頭を使った

感想は「とても難しい」「やや難しい」「やややさしい」「とてもやさしい」の4段階で、自己採点は、「90%以上解けた」~「10%未満しか解けなかった」まで6段階で、生徒の回答を集計しました。

200人中192人の回答結果です。

 

「知識・技能が必要と思うかという質問には約4割、「問題解決力は必要と思うか」という質問には、7割の生徒が「必要と思う」と回答しました。

 


「思考力・判断力・表現力を伸ばしてくれそうか」という質問には「そう思う」「ややそう思う」が大半を占めました。

個々の問題に対する感想です。明治大学の入試問題は、ほとんどの生徒が「とても難しい」「難しい」と答えています。感想でも、「頭が固いと解けない」「意味がわからない」「問題文が長い」と否定的な意見が肯定的な意見を圧倒しました。

 

適性検査問題のほうはどうだったでしょうか。桜修館中等教育学校の入試問題の結果を見ると、生徒の感想は「楽しかった」「適性検査でこれを解ける小学生ってすげえ!」「明治の問題よりやさしい」などがあり、肯定的な回答がやや上回っています。

 

全体的な感想は、「難しい」「すごく頭を使った」「試験日のコンディションによってかなり結果が変わってくると思う」などでした。ざっくり言うと、否定的な感想が肯定的なそれを上回ったという印象です。

 

訓練すれば、問題解決力を問う問題は解けるようになる

このように全体的に否定的な感想が多かったのは事実ですが、試験結果を見ると、意外なことに「難しい」という割には、解けているのです。

 

圧倒的に否定的な回答が多かった明治大学の入試問題でさえ、5~6割は解けています。

 

つまり生徒はあまりやったことのない問題をいきなり経験させられ戸惑ったけれど、実は問題解決力を問うテストは、訓練をすれば対応できるようになるのでないかと考えられます。

 

例えば桜修館中等教育学校の適性検査問題[問題2]は、図書館の貸し出しカードやバーコードなどによく利用されるチェックデジットを扱っています。チェックデジットは、貸し出しカードの数字に誤りがないかを判別するために付加される数字のことです。適性検査の問題では、「21」「42」「56」に[作業2]を行えばチェックデジットは0になることが記されており、共通するチェックデジットを探し出すことができれば、あとは簡単に解けるようになっています。

 

この作業は、「チェックデジット」でよくある作業の1つなので、「チェックデジット」に関する知識を持っている人はわかると思います。しかし知識を持っていなくても、「21」「42」「56」が7の倍数だなと気づけば、作業2は、2けたの数を「7」で割ったときのあまりの数をチェックデジットにするという作業だと理解できるでしょう。

 

また圧倒的に「難しかった」と答えた生徒が多かった明治大学の入試問題も、出題された文章がかなりの長文で、一見読み取るのがたいへんそうですが、文中にいろいろなヒントがあって、実はよく読めば比較的簡単に解けることがわかります。「難しい」と言った割によく解けているのは、そういう事情によると思われます。

 

明治大学の入試問題についての感想には「普段使わない脳の部分を使ったようだった」という感想もあって、生徒は慣れれば問題解決力を問うことは案外好きなのではないかとひそかに感じています。

 

教師の問題解決力を問われる

今回のテストに否定的な意見が多かったのは、期末試験後という実施時期も関係しているのではないかと思います。生徒たちも「試験が終わって、なんでまた試験なんだ」と愚痴っていましたから(笑)。やはり期末試験の中でこういう問題を入れていくのが一番いいのかなと、個人的には思っています。今の授業カリキュラムだとなかなか時間が取れないので、単独でこのような問題をやろうというのはなかなか難しいでしょう。

 

今後は、情報の授業の中で今回行ったような問題に対応できるように、問題解決力をつける指導をしていくことも必要と考えます。あるいは進路指導部などと連携しながら、総合的な学習の時間(総合的な探求の時間)でやってみるという方法も考えられます。どこに入れるのかは、今後の課題です。

 

なお、もっとも大きな課題は、この手の問題解決力を問うテストは、教師側の採点が大変だということです。適性検査の採点を行ったことのある先生に話を聞くと、採点は1000人の応募者に対して60人以上の教員が、まる3日かかってやっと終わるくらいだそうです。

 

また、作問に関しても、教員の資質が問われます。ご存知の方も多いかと思いますが、現在大学入試センターが情報のCBT(Computer Based Testing)の問題を公募しています(※)。これに応募された問題の中から、問題解決力についての優れた問題が出てくることが期待されます。このような動きの中で、我々の中からも今後の情報の問題を作っていかれるようになりたいと思っています。

 

せっかく大学入試に問題解決力を問う問題が導入されようとしているわけですから、教員みんなでよい問題を作って、情報教育がさらに盛り上がることを願っています。

 

 ※https://www.dnc.ac.jp/news/20180717-01.html

 (掲載時には〆切済み)

 

第11回全国高校情報教育研究会全国大会事例発表より